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2021.08.24

Vol.16 アクセンチュア株式会社 【新型コロナウイルス感染症に関する企業の取り組み】

新型コロナウイルス感染症の影響で、企業と学生のコミュニケーションのあり方が大きく変化した。対面で行われていた説明会や面接などがオンライン化し、オンライン上のコミュニケーションを学生が支持しているという調査結果もある一方、採用の全工程をオンライン化することで企業からは「企業文化、社風が伝わりにくいのでないか」、「入社意欲を喚起しづらく、内定辞退につながっているのではないか」という声も。

そこで、新型コロナウイルス感染症の流行前からオンラインでの面接を実施し、2020年3 月からは新卒採用活動の全面オンライン化を実施しているアクセンチュアのオンラインコミュニケーションの工夫や実践のポイントをうかがった。

さまざまな立場・役割の社員が採用活動に参加し、
細やかな採用コミュニケーションを実現

アクセンチュア株式会社
人事本部 リクルーティング(新卒採用統括)
内海 鮎さん

※記事は、2021年7月19日にオンライン取材した内容で掲載しております。

 

COMPANY PROFILE

デジタル、クラウドおよびセキュリティ領域において卓越した能力をグローバルに発揮するプロフェッショナルサービス企業。40を超える業界の知見、経験と専門スキルを組み合わせ、ストラテジー&コンサルティング、インタラクティブ、テクノロジー、オペレーションズサービスを、世界最大級の先端テクノロジーセンターとインテリジェントオペレーションセンターのネットワークを活用して提供している。顧客は世界120カ国以上におよび、全世界の社員は56万9,000人(2021年8月時点)。

 

新卒採用のオンライン化にあたっての課題&応募者の動向への影響は?

 

新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、アクセンチュアでは2020年3月に新卒採用の全面オンライン化を決定しました。当社では06年より在宅勤務制度を導入しており、コロナ禍前からすでに多くの部署でオンライン会議が定着。採用においても、海外や地方在住の応募者の面接は必要に応じてビデオ会議システムを活用して実施していました。社員がオンラインでのコミュニケーションにある程度慣れていたことから意思決定が早く、仕組みの構築もスムーズでした。
 
最大の課題だったのは、選考だけでなく、インターンシップや説明会など採用活動の全プロセスをオンラインで実施する中、「学生との関係をいかに深めていくか」。ほとんどの学生が会社を実際に見ることなく入社の意思決定をすることになり、多くの方が不安を感じるはずだと考えました。従来の採用活動に比べて当社への期待感の醸成が難しくなることも想定され、学生の皆さんの不安感を払拭し、志望度を高めるためにどのようなことができるのか、社内で何度も議論を交わしました。
 
21年卒の採用選考をスタートした当初は、学生から「対面よりも緊張しそう」といった戸惑いの声もありましたが、22年卒の採用選考では多くの学生が大学のオンライン授業などを通してオンラインでのコミュニケーションに慣れており、選考のオンライン化そのものに不安を抱く学生は少なくなっているように思います。
 
また、結果から申し上げますと、オンライン化前の20年卒採用と比較し、21年卒採用では応募数、内定承諾率が増加しました。採用のオンライン化がどの程度この結果に影響しているのか、厳密には判断できませんが、ネガティブな影響はあまりなく、応募者との相互理解を深める取り組みが一定の効果に結び付いたのでは考えています。

 

コミュニケーションの形式が変化する中、学生との相互理解を深めるために大切にされたことは?

 

一人ひとりの学生との「ハイタッチ(人による、細やかな対応のこと。「ハイテク」の反意語)」なコミュニケーションです。
 
以前から当社では「ハイタッチコミュニケーション」を新卒採用のキーワードとしており、その実現を可能にしているのは、組織が一体となって新卒の採用活動に取り組む仕組みです。人事本部の採用担当者だけでなく、インターンシップのサポーター、大学別リクルーター、内々定・内定から入社までを伴走するメンターなど、立場・役割の異なる社員が採用活動に参加。それぞれが1対1でコミュニケーションを取ることにより、学生の皆さんに多方面からアクセンチュアを理解していただけるようにしています。
 
学生の皆さんにとっては、選考前から内々定・内定後までサポートをする社員が常に誰かいる状態なので、オンラインであっても、比較的心強かったのではと思います。しかし、ただでさえ緊張する採用選考において、環境変化に学生が不安を感じるのは当然のこと。社員には学生へのコンタクトの回数を意識的に増やしてもらっています。また、オンラインでのコミュニケーションに慣れていない学生が本来の力をしっかりと発揮できるよう、リクルーターチームが面接前後にアドバイスをするなどフォローを強化しています。関連性を厳密には証明できませんが、こうしたコミュニケーションの積み重ねが、内定受託率にもつながっているのではと考えています。
 
アクセンチュアでは20年3月から全社員が基本的に在宅で勤務しており、学生と人事、リクルーターやメンターとのコミュニケーションもオンライン。採用にかかわる社員が自律的、かつ意欲的に学生と関わる土壌がコロナ禍前からすでにあったことは、当社にとって大きなアドバンテージでした。意思疎通の方法はそれぞれの社員に任せていますが、面接担当者を含め、学生と接した社員からオンライン化を理由に「相手の人物像が分かりにくい」、「会社の魅力が伝えづらい」といった声を聞いたことはありません。
 
なお、新卒入社の採用活動に現場の社員が本格的に携わるようになったのは、17年卒採用から。会社の成長に伴って新卒の採用に対する期待値が上がり、学生への個別対応がより重要になると考えましたが、人事本部単独で対応するには限界があります。そこで、経営陣はもちろん、現場の社員を巻き込み、それぞれが自律的に動く構造を構築する必要性が生じたという背景があります。
 
リクルーターは大学や職種等に応じて組織化されており、メンバーは「業務の一部」として大きな裁量権を持って採用活動を行っています。リクルーターの成果は一部評価にも反映できる仕組みを作ることで、現場の社員が採用活動にコミットしやすい体制にしています。また、アクセンチュアは「人材」が財産の会社なので、採用や人材育成に対する意識が組織全体に浸透しています。

 

オンライン化に伴い、情報発信について工夫されたことは?

 

「学生一人ひとりが必要とする情報やタイミングは異なる」という考えから、当社では以前からオンデマンドで閲覧できる企業情報や職種紹介などのコンテンツを用意していました。新卒採用のオンライン化に伴い、これらのコンテンツの数を増やし、質も高めています。
 
当社では、採用活動全般において学生からの反応をこまめに受け取り、柔軟に施策に反映させることを大切にしており、人事によるアンケートを選考開始時、内々定時など折に触れて実施。インターンのサポーター、リクルーター、メンターからも学生の声を集約・共有しています。オンライン化以降は、こうした声をコンテンツ企画にもより意識的に反映。職種ごとの仕事内容をより分かりやすく紹介した動画や、新卒社員の不安感を払拭するために社長からのメッセージビデオなど新たなコンテンツを作成しました。
 
当社の特徴として、コンテンツの企画・制作を含めデジタルによる情報発信をマーケティング部門の採用マーケティング専門チームが担当しています。採用活動のオンライン化にあたり、デジタルマーケティングの知識やノウハウを持ったチームと連携して採用活動を行える体制がすでに整っていたことは、非常に心強かったです。
 
マーケティングチームとの連携は採用コミュニケーションにおいて重要な役割を果たしていますが、それだけではありません。採用活動のオンライン化による企業側のメリットのひとつに、エントリーから、説明会やイベントへの参加、オンデマンドコンテンツの閲覧状況などあらゆる場面での応募者の状況をより可視化しやすくなったことが挙げられます。当社の場合、マーケティングチームによるデータ分析を活用してじん速な効果検証ができ、より効果的に採用活動を行えていると感じています。人事本部だけではマスの情報や傾向を把握するのは難しいですから、そうした情報をマーケティングチームとの連携によって採用活動に反映できるのも、当社の強み。新たな気づきが得られ、潜在層へのアプローチも活発になっています。
 
例えば、地方や海外の学生への認知度が低かったことから、近年関西エリアを中心に母集団の形成に力を入れ、エントリー数も増加しています。海外の学生についても、施策を強化することでエントリー数が大きく増加しています。
 
さらに、マーケティングチームの知見を最大限に活かすことにより、これまでの当社のイメージを打破するような採用活動も機能的に行えています。アクセンチュアと言えば「経営コンサルタント」を真っ先に思い浮かべる人も多く、「左脳型」のイメージを持たれがちなのですが、顧客に新たなソリューションを提案するには多様な人材が必要であり、クリエイティブ人材の採用強化も課題のひとつでした。そこで、クリエイティブ採用の認知を「instagram」といったSNSのオンライン広告などを活用して広げることにより、美術・芸術系の大学の学生のクリエイティブ系インターンシップへの参加が増えました。また人事が接点を持ちにくい、低学年の学生を対象にした採用ブランディングも行っています。

 

21年卒の新入社員の育成・定着におけるオンライン化の影響は?

 

コロナ禍の影響で、2020年から新入社員研修もオンラインで実施しています。カリキュラムは19種類。ビジネスマナーや資料作成など社会人として働く上で必要なビジネスの基礎を学ぶ「共通トレーニング」のほか、プログラミングやシステム設計の基礎などを職種に応じてカスタマイズして受講する仕組みで、ほとんどが先輩社員によるLIVEプログラムです。雑談タイムを設けるなど同期や先輩社員とのコミュニケーションを図るための工夫もしています。
 
また、当社では従来から全社員を対象に「キャリアカウンセリング制度」を設けており、基本的にプロジェクトの上司とは異なる社員が「ピープルリード(旧称:キャリアカウンセラー)」としてキャリア構築のサポートを行います。自分で「ピープルリード」を選ぶこともでき、プライベートなことを含めさまざまなことを気軽に相談できます。現在はオンラインで実施していますが、当社の文化として定着している制度であり、とくに新入社員には心強いのではと思います。
 
20年卒、21年卒の新入社員は入社初日からリモートワークで勤務していますが、アクセンチュアでは以前から在宅勤務制度があり、リモートでチームワークを発揮する仕組みが構築されていることから、新入社員も比較的スムーズに業務を行っているように思います
 
ただし、採用や育成のオンライン化の影響を正しく検証するには、もう少し時間が必要でしょう。「オンラインでも問題ない」と短絡的に判断するのではなく、長期的視野で彼ら、彼女らのキャリアをサポートしていくことが大事だと思っています。また、当社では一人ひとりの社員に合ったキャリア支援を重視しており、「キャリアカウンセリング制度」もその一環です。オンラインか対面かといったコミュニケーションの形式に関わらず、社員が自らの思い描くキャリアを主体的に実現する力を培うためのさまざまな成長機会を提供していけたら、と考えています。

 

就職活動を行っている学生の皆さんへ

 

新卒採用においてオンラインを活用する企業が増え、リモートでの面接や選考に戸惑いを感じている学生さんもいらっしゃるのではないでしょうか。また、オンライン化でこれまで以上に情報過多になり、情報の取捨選択に悩むシーンも多いかもしれません。
 
ただ、選考に関して、根本的なことは対面での実施と変わらないと考えています。面接は企業と学生の対話の場ですから、大事なのは「自分の考えや想いを率直に伝えること」と「企業の考えや想いに共感できるかどうかをしっかり考えること」に尽きます。オンラインの選考では肌で雰囲気を感じることができないからこそ、この2点をしっかり心がけていただくことがより大切になると思います。
 
オンライン化により、自分の都合に合わせて説明会に参加できる、遠い地方の会社の選考を受けることができる、など学生の皆さんの選択肢はさらに広がり、「チャンスが増えた」とも言えます。ぜひ新たなる選択肢を活かし、納得のいく就職活動を実現していただけたらと願っています。
 

 

取材・文/泉 彩子

 

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