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2021.08.17

【採用注力事例】「地味だけど凄い」をうたう富山県の金属メーカーの新卒社員が辞めない理由

採用にかける思いや取り組みに、企業の「人への考え方」が見えてきます。今回は、「地味だけど凄い」をキャッチフレーズに国内最大の黄銅製品メーカー・サンエツ金属株式会社と、地球環境に配慮したオリジナル製品を開発している鉄管継手メーカー・シーケー金属株式会社を中核とする企業グループ「株式会社CKサンエツ」に新卒採用に注力する理由や、若手社員が力を発揮しやすい環境づくりについてうかがいました。

【いま、新卒採用に注力する理由】
Vol.18 株式会社CKサンエツ(金属製品製造業)

代表取締役社長 釣谷宏行さん


※記事は、2021年7月1日にオンライン取材した内容に一部修正(2023年1月10日時点)を加え掲載しております。

【Company Profile】

国内最大の黄銅製品メーカー・サンエツ金属株式会社と、鉄管継手(配管を接続する部品)を自社で完全一貫生産し、地球環境に配慮したオリジナル製品を開発しているシーケー金属株式会社を中核とし、事業会社11社を子会社とする純粋持株会社。富山県高岡市に本社を置き、従業員約1000名(内正社員約930名)の約9割が北陸地方出身者。新卒入社社員の比率は7割を超える。平均年齢38歳(2022年4月現在)。Great Place to Work® Institute Japan(GPTWジャパン)、「2022年版日本における『働きがいのある会社』ランキング」において、中規模部門第2位(選出は6年連続6度目)に選出されている。

 

好不況に関わらず、新卒採用を継続的に実施

 

−最初に、新卒採用に対する基本的なお考えについてお聞かせください
 
CKサンエツグループは金属・素材業界再編の嵐の中、「サンエツ金属」と「シーケー金属」を中核に事業譲受によって成長してきた企業グループです。私は1997年に「シーケー金属」、続いて2000年に「サンエツ金属」の社長に就任。新卒採用は、私が「シーケー金属」の工場長だった時に大学回りから開始し、社長に就任する前後の96年入社の社員が最初です。そのころ当グループは「第二創業期」にあり、組織の新陳代謝を促すことが新卒採用導入の最大の目的でした。
 
当時入社した新卒社員第一世代は現在、40代。組織の中核を担うとともに、後進に当社の文化を受け継ぐ「なくてはならない存在」として活躍しています。その姿から長期的な人材育成の大切さを実感しており、当社では新卒採用を非常に優先度の高い企業活動として位置づけています。
 
そして、定期採用は好不況に関わらず実施すると決めています。社員の年齢構成にひずみが生じないよう、リーマン・ショックの翌年(2009年卒)も前年を上回る人数を採用しました。コロナ禍にあってもその方針は変わらず、21年卒はグループ合計で前年度の19名を上回る31名が入社。22年卒も30名が入社し、23年卒は26名が入社予定です。景気低迷期は、他社が採用を控える傾向にあり、採用を続ける企業は優秀な人材と出合える確率が高まります。当社にとっては「チャンス」なのです。

 

「地元の人たちが胸を張って働ける企業」を目指し、組織改革を進めた

 

−釣谷さんはグループの経営トップとして人事制度の改革や、「夜勤レス(深夜勤務の廃止)」といった「働き方」の改善など数多くの新たな取り組みをされてきました。こうした取り組みと新卒採用導入に関連性はありますか
 
おおいにあります。新卒採用の導入にあたり、地元・富山県と石川県のいくつかの大学にリサーチをしたところ、地元の企業に就職を希望する学生が少なからずいると分かりました。そこで「地元志向」の学生をメインターゲットに採用活動を行うことを決め、大学の就職課を訪問するたびに痛感したのが、当グループの認知度の低さでした。
 
当時の「サンエツ金属」や「シーケー金属」は、現場に技術の蓄積こそあれ、同業他社と似たような製品を同じように販売する「特長のない企業」。社員の給与や福利厚生にも目立ったものがなく、大学の職員の方々にもなかなか企業名を覚えてもらえなかったのです。このままではいけないと考え、「富山県の企業として、地元の人たちが胸を張って働ける会社でありたい」と心に決めて、「特長ある企業」を目指して経営や組織の改革を進めていきました。
 
改革の基本方針は、社員がそれぞれの能力を発揮でき、努力が報われる「働きがい」のある環境を実現すること。そのうえで、「他社がやらないことをやる」です。例えば、かつては「年功序列」だった評価制度を、年4回の個人評価によって年齢・入社歴にかかわらず実績を評価する仕組みに変え、賞与額に反映しています。
 
さらに、給与は北陸地方トップクラス、賞与は国内トップクラスを目指して経営努力を重ねてきました。2020年度の社員平均年収は650万円。1999年度には年間平均60万円だった賞与は、2010年度から平均支給額を固定して減額は行わないことを経営方針とし、2023年度からは、年間平均280万円を予定しています。
 
また、製造業の現場は「安全」が第一。社員が疲弊するような環境では、ミスや事故も起きやすくなります。そこで、工場の環境を整えるのはもちろん、仕事上がりに疲れを癒せる大浴場を併設し、食堂や休憩室を整備。「働き方」の改善にも以前から継続的に力を入れており、2016年には、金属製品製造業の現場では一般的な夜勤を一部の工場で廃止。コスト面など多くの課題もあり、簡単ではありませんでしたが、M&A(合併・買収)によって他社が保有していた設備を活用し、夜勤工程を自動化するなど工夫をし、社員と力を合わせて実現しました。21年度末には国内全6工場を「夜勤レス」とすることを目指しています。
 
「働きがい」があると社員が感じれば、会社との間に信頼関係が築かれ、社員はより意欲的に仕事をします。その結果、世界に先がけた鉛やカドミウムを含まない黄銅棒の量産化など「オンリー・ワン」の製法・製品の開発やサービスの差別化が実現。現在、「サンエツ金属」は合金「黄銅」、「シーケー金属」は配管機器の分野で国内トップクラスのシェアを占める企業に成長しました。2011年に設立したグループの純粋持株会社「CKサンエツ」は18年に東京証券取引所第一部に上場を果たし、22年には東証プライム市場へ移行しました。なお、会社の成長とともに、企業認知度も高まり、近年は採用競争の厳しい好況期も安定した採用数を維持できるようになりました。

 

面接は「社長面接」のみ。うそのない情報を伝える

 

−御社では採用の比重を中途採用よりも新卒採用に置いているとうかがいました。一般に新卒採用は採用、育成ともにコストがかかると言われます。それでも新卒採用を積極的に実施する最大の理由は何でしょう
 
新卒採用では、学生さんがじっくりと時間をかけて企業研究をし、自分の価値観や考え方に合った企業を選ぶ傾向があり、ていねいな採用活動を行えば、当社が求める人物像に合致した人材をより採用しやすくなります。
 
−マッチングの精度を高めるために、採用コミュニケーションで大切にしていることは何でしょうか
 
まず、求められる情報をできる限り開示すること。他社としっかり比較していただけるよう、客観的な情報を提供することを心掛けています。業績や給与など数字で示せるものをグラフや表にするのはもちろん、コンテストやランキングなど第三者の評価を得られる機会は積極的に活用し、数ある企業の中での当社のポジションを把握していただく材料にしています。
 
リクルーター制度を実施しているのも、先輩社員による生の情報に触れていただくことが大きな目的です。1対1でじっくりコミュニケーションでき、「LINE」などSNSでのやり取りも活発で、学生にとって面接や説明会では聞きづらい、待遇や仕事の忙しさといったリアルな話もしているようです。
 
また、会社説明会の際に職場見学を実施しています。当社では技術職、営業職、事務職の職種別に採用をしていますが、見学会は応募する職種を問わず説明会参加者全員に実施し、工場やオフィスを1時間かけて見てもらっています。なお、技術職志望の学生には、希望者を対象に富山県内の全工場の視察会や全国6カ所の工場をめぐるツアーも実施しており、技術開発、品質管理といった各部署の職場にも案内するので、「希望部署の職場を見ることができ、関心が高まった」という学生からの声も多いです。
 
もうひとつ、採用活動において大切にしているのは、CKサンエツが求める人物像をしっかり伝えること。当社が求める人物像は「努力することができる人」、「ヤル気のある人」、「明るく積極的な人」、「何事にもぶつかって行く行動力のある人」、「素直な人」。これは募集要項にも明記していますが、経営者から直接聞けばインパクトがあるはずです。
 
だから、当社では面接は一回で、いきなり社長面接。「うちは努力が報われる『働きがい』のある会社だけど、『ラクをして儲かる会社』じゃないよ」と厳しいこともはっきりと話すので、「あまり言うと応募が減るから、やめてください」と社員に言われるくらいです(笑)。でも、当社の入社3年未満離職率が約10パーセントと低く、「定着率」が高いのは、採用活動においてうそのない情報を伝え、納得して入社している社員が多いことが大きな理由のひとつだと考えています。

 

若手の育成に会社全体が関わる風土づくり

 

−「新卒採用の社員が定着するには5年、10年かかる」という話もよく聞きます。御社ではいかがでしたか
 
新卒採用を始めて数年経ったころ、大学への広報活動が功を奏して応募者が増えました。「人材獲得のチャンス」と考え、相互理解を深めることなく積極的に採用してしまった結果、簡単に退職する社員があり、非常に反省して、以後採用基準を緩めないことや、採用人数を毎年できるだけ安定させることを徹底しました。
 
その時期以外は、新卒入社導入期の社員の定着率も低くはなく、20年以上前に入社した新卒入社第一期生は7人のうち5人が現在も勤続し、幹部として活躍している社員もいます。これは当時のシーケー金属の社員数が少なかったことや、「第二創業期」だったことが影響していると思っています。新卒社員であっても「戦力」として活躍することを期待され、のびのびと力を発揮できる環境だったから育ったのです。
 
また、経営幹部と社員の距離が今以上に近く、私も長い間、直接新入社員を指導し、全員の顔と名前を覚えていました。期待され、幹部の仕事ぶりを身近に見られて、同期の仲間もいれば、仕事は面白くなるもの。当時の新卒社員はみんな、「自分たちで会社を作っていく」という気概で仕事に取り組んでくれていました。
 
ですから、現在も年齢に関わらず意欲的な人材には仕事を任せ、入社2年目で係長、3年目で管理職として活躍している人もいます。また、自分の意思でキャリアを考えてもらうために入社2年目以降の希望配属先を申告する「人事申告制度」を設けており、申告書を出した社員のうち3人に2人の確率で希望が成就しています。
 
若手の育成に先輩社員が関わることも大切にしています。新入社員研修後はOJTとなりますが、新入社員1名ごとに担当トレーナーがつき、1年間マンツーマンで指導。技術職では仕事の手順やポイントを指導する映像を先輩社員が作成し、現在、600本のビデオライブラリー(アーカイブ)が揃っています。ポイントは若手の育成の内容や成果を先輩社員の人事評価に反映させていること。先輩社員のモチベーションが高まり、積極的に取り組んでくれています。
 
また、グループ各社の経営幹部による「寺子屋」を開催しています。幹部には全員に講師を担当してもらい、合宿を開催する幹部も。仕事への考え方や業務ノウハウを伝授するだけでなく、インフォーマルな情報の共有も行われており、当社らしい、血の通った学びの場になっているようです。
 
−最後に、「働く」ということについて、学生の皆さんにメッセージをお願いします
ぜひ「働きがい」を持って仕事をしていただけたらと思います。そのためのキーワードは「かけがえのなさ」。社会において、そして、組織や職場において、代わりのいない存在になることが大切です。技術や知識のことだけを言っているのではありません。仕事で困難なことにぶつかっても逃げず、「今こそ世の中のお役に立つチャンス」「これは自分にしかできない」と前向きにチャレンジしていく。そういう姿勢を持つ人こそが周囲から頼られ、「かけがえのなさ」を発揮していきます。
 
 


業界初となる「グッドデザイン賞」を受賞した、シーケー金属の管継手『つるぴか君』。継手はガス・水道管などの継目に用いられ、私たちのライフラインを支えている部品。
 
 
東京で行われた創業100周年記念祝賀会(2022年7月)の様子。また、コロナ禍を除き、全額会社負担で毎年社員旅行を実施しており、23年は北海道、24年はハワイを予定している。行き先は隔年で海外と国内。現地では全体パーティー以外、自由行動としている。

 

取材・文/泉 彩子

 

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