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2021.01.20

Vol.15 株式会社静岡銀行 【新型コロナウイルス感染症に関する企業の取り組み】

新型コロナウイルス感染症の影響で、企業と学生のコミュニケーションの在り方が大きく変化している。対面で行われていた説明会や面接などがオンライン化し、時間的・金銭的な学生の負荷は軽減。一方、「話が伝わっていないのでは?」「面接の評価が低くなるのでは?」といった学生の不安の声も大きい。そこで、すでに学生とのコミュニケーション手法の改革を実践している企業に利点や課題、学生へのメッセージを伺った。

うそのない自社・仕事を見せる場を
オンラインでも実現

株式会社静岡銀行
経営管理部 人事開発グループ
神田輝和さん

※記事は、2020年12月にオンライン取材した内容で掲載しております。

 

COMPANY PROFILE

「地域とともに夢と豊かさを広げます」を企業理念とし、静岡県全域、さらには、首都圏、海外、インターネット上にも店舗を展開。「地域密着」とともに「健全経営」を旨とし、財務状況は複数の格付機関から高く評価されている。インターンシップは、10年以上前から、毎年、3〜5日間のプログラムを実施。

 

インターンシップのオンライン化の経緯は?

 

当行では、10年以上前から3〜5日間ほどのインターンシッププログラムを実施しており、2018年からは、学生の皆さんにギャップのない、リアルな当行を知っていただく機会と位置づけ、「うそのない静岡銀行を見せよう」をコンセプトに、営業店訪問やお取引先同行訪問など、当行のメイン業務を担う渉外の仕事を生で伝えることを重視した3日間のプログラムを複数回、実施していました。
 
新型コロナウイルス感染症の流行が拡大する中、2020年のインターンシップも、先述したねらいを達成するために、できるだけリアルで実施したいという思いがありました。しかし、各地から静岡に集った学生をお取引先に対面で訪問させることは、感染拡大防止の観点などから難しいと判断し、7月にオンラインでの実施を決めました。
 
オンラインでの取り組み自体は、2020年2〜3月に外部のスタジオを借りて会社説明会をYouTubeでライブ配信し、好評だったため、所属部内の理解は得られていました。一方で課題となったのは、行内の配信環境の整備と、「いかにしてリアルをオンラインに乗せるか」です。
 
 

オンライン化にあたっての課題をどのようにクリアした?

 

行内の配信環境の整備については、当行ではその業務の性質から、インターネットを介した外部とのやりとりが柔軟にできる環境になっていませんでした。そこで、本部内にある研修センターに外部とのやりとりに用途を限定した光回線を引くとともに、社内ネットワークに接続せずに単独で使用するパソコンを30台ほど購入し、オンライン実施が可能な環境を整えました。
 
リアルをどうオンラインに乗せるかについては、プログラム構成はほぼ変えずに、営業店訪問とお取引先同行訪問を人事担当者が行いGoPro(小型カメラ)を使ってリアルタイム配信する方法を採用しました。また、昨年まで実施していた行員との座談会や本部ツアーを人事担当者による本部訪問に代え、訪問時にさまざまな部署の行員に突撃インタビューし、リアルタイム配信する方法をとることにしました。
 
お取引先同行訪問は、お取引先に受け入れていただけるだろうかという不安がありましたが、各営業店の支店長とも相談しながら、私たちの挑戦に共感してくださるであろうお客さまに依頼したところ、快く引き受けていただき、実際のインターンシップにおいては、1日で2つのお取引先を訪問することができました。
 
 

実際のプログラム内容は?

 

営業店訪問とお取引先同行訪問、本部訪問のライブ配信に加え、例年行なっていた銀行業務全般の紹介、財務入門セミナー、融資案件検討グループワーク、そして新たに加えた2021年卒内定者5名による座談会、という内容で、3日間のオンラインインターンシップを9月に計2日程実施しました。
 
内定者座談会を新たに加えたのは、同じように当行のインターンシップに参加し、そこから関係を構築していった内定者たちの仲の良さや、今回参加する学生と同じような志・キャラクターを持った仲間が当行にいることを伝えられればという思いからです。また、コロナ禍の就活を乗り切った先輩の話が聞けることも、参加学生にとって有意義なことだと考えました。
 
1日程あたりの定員は、例年どおり100名程度としましたが、例年の倍以上の申し込みがあり、追加日程を設定するなどして300名以上に参加いただきました。
 
 

実施にあたり、工夫したことは?

 

やはり、こだわったのは当行のリアルを伝えること。その最たるものが、本部訪問での突撃インタビューです。本部への事前連絡は、各部署の部長にメールで行ったのみで、あとは当日、その場にいたさまざまな部署の行員に声をかけ、学生からの質問に答えてもらいました。学生には、Google Meetで配信しているので、行員への質問をコメント欄に書き込んでもらい、訪問している私たちがチョイスする形です。
 
3年前から本部ツアーに取り組んでいましたし、日ごろの採用活動においてもさまざまな協力を仰いでいるため、人事担当者と本部の行員の多くは顔見知りであることから、普段の雰囲気を出してやりとりをしてくれました。先輩と後輩や、上司と部下などのリアルな関係性を伝えることができたと感じています。
 
また、本部訪問と営業店訪問をライブ配信するにあたり、事前に予行演習を行い、改善点を洗い出しました。例えば、撮影はスマートフォンとGoProを併用、配信はGoogle Meetを用いることとしましたが、スマートフォン端末のLTE回線を使用したため移動に伴い通信基地局が移る、訪問した本店営業部が石造りのため1階から2階に移動する際に電波が切れるといった課題が判明し、本番では、1階と2階で撮影者を分けて切り替える、といった対応をとりました。
 
 

オンラインインターンシップの手ごたえと、改善点は?

 

学生からの評価としては、プログラム終了後にとった参加者アンケートの満足度に関する数値が昨年よりも高く、フリーコメントでも好意的なコメントが多く見られました。私たち自身も、ホームページを見るだけでは知ることのできない、行員同士の関係性・雰囲気や、地域のお取引先との距離の近さなどが伝わり、早い段階から当行に興味を持ってくださった学生の皆さんが、当行の実態とギャップのない状態になれたのではないかと手応えを感じています。
 
また、1つ、オンライン実施にしたことで生じた変化として挙げられるのが、必要な人手の減少です。昨年までであれば、営業店約20店舗に訪問の協力を依頼し、当日何かあったときに対応するために人事担当者が4〜5店ずつ分担してまわっていましたし、お取引先も約20社以上に協力を依頼し、営業店担当者が訪問・挨拶をする場合もありましたが、オンライン化によって、人事担当者2〜3名が訪問・撮影するのみとなりました。
 
また、行員座談会も、昨年までは学生5〜10人に対して1人の行員に話してもらうため、1日程で行員15人ほどを半日拘束していましたが、今回は営業店訪問時の渉外担当数名との座談会と、本部訪問での突撃インタビューに変えため、拘束する行員の数・時間が減りました。
 
一方、課題が残ったのは、融資案件検討グループワークの運営です。昨年までは、100人が一堂に会して20〜24グループに分かれて取り組み、人事担当2名と調査グループの行員4名の計6名が1人につき5〜6グループを見て回っていました。今回は、Google Meetでグループごとに会議室を分け、当行側は昨年同様6人で、20グループを分担して見て回りましたが、担当する複数のグループを画面上でタブを分けて見ていても、どのグループとやりとりをしたのかを把握しきれず、結果、1グープずつ順番に会議室を訪問して質疑応答するという方法をとることとしたため、学生とコミュニケーションをとる時間が減りました。
 
2021年2月にも同じ内容で3日間のプログラムを実施するので、そのときには、Zoomのウェビナー(セミナー)機能を使うことや、行員の人数を増やして1人あたりの担当グループ数を減らすことなども検討しています。
 
 

学生の皆さんへ

 

毎年、採用活動を通して出会う学生さんに対して伝えていることがあります。それは、「自分の目で見たことや、心で感じたことはウソをつかない」ということです。
 
だれしも好きなマンガや本など、何かしら「好きなもの」をお持ちだと思いますが、それが好きなのは、自分の心に何かしらヒットしたからではないでしょうか。職業に就く選択も同じで、自分の感覚に素直に従うことが自分にとっての正解だと私は思います。「周りがこうだから」とか「親がこう言うから」で判断するものではありません。
 
その、自分の感覚を知る・自覚するには、企業のホームページを見て情報収集するだけではダメで、自らたくさん行動して、目で見て、心で感じることが大事です。その機会として、インターンシップはとてもいい機会。ぜひたくさん行動して、自分で見て、感じるものをたくさんつくってほしいと思います。
 

 

取引先同行訪問は、渉外担当に人事が同行し、GoProでライブ配信した。「皆さん、見えてますか?コメントください」「気になるものありますか?」などを学生に声をかけながら、取引先の仕事について理解を深めてもらった。これは、マグロのマイナス60度の冷凍倉庫から出てきたときに、メガネが凍り付いているところ。

 

取引先訪問の途中で立ち寄った焼津港で、取引先の漁師の「マグロ見に行く?」との声かけを受け、水揚げの様子を配信。思いもよらず地域との繋がりの深さを伝える機会となった。

 

本部訪問の様子。撮影しながら人事担当者が行内を紹介し、打ち合わせなしで行員にインタビューすることで普段の雰囲気を感じてもらった。

 

融資案件検討グループワークでは、架空の企業に対し融資するかどうかを財務状況などから検討。その結果と根拠をプレゼンする。

 

内定者座談会では、「3年までのうちに絶対やっておいたほうがいいこと」「企業選びのポイント」「面接対策」など学生から積極的に質問が寄せられた。

 

1日程で約120名の学生が参加したオンランインターンシップ。最後には全員で記念撮影した。


 

 
*インターンシップ参加学生の声*
 
・働いている方々を見て、やるときはやる、楽しく会話するときはそちらに集中する。というように何でもかんでもまじめに取り組むことだけが静岡銀行ではないということを強く感じました。今回のインターンで私にとって大きな収穫は静岡銀行の人の魅力に気づくことができたことです。
 
・全体を通して、貴行が地域に根差した銀行だということがわかった。社員の方の熱も伝わり、参加してきたオンラインインターンの中でもトップレベルで面白かった。
 
・疲労感はあるものの、楽しい三日間であったと思う。他のインターンにはない、自由さやあけすけな感じが好印象だった。できる限りリアルに近づけようという人事担当者の方の努力が見えて、こちらのことを考えてくれていて、とてもうれしく思った。
 
・コロナウイルスによってインターンシップの開催を中止したり、オンライン座談会のみの開催となったりする企業が多い中、学生のためにこれだけのことをしていただけたことに感謝をしています。営業店見学や取引先訪問などしずぎん特有のプログラムもあり、オンラインという壁を越えて貴行の雰囲気を感じることができました。とても有意義なインターンシップでした。次の機会にもぜひ参加させていただきたいです。
 
・細部にまで緻密に練り上げられたプログラムによって、金融業界・静岡銀行への理解を深めることができました。また神田さんをはじめとする行員の方々の「嘘のないありのままの静岡銀行」を見て欲しいという気持ちがとても伝わり、自分としてもリアルな静岡銀行を知ることができ満足しています。神田さんや人事の方、そしてアポなしでの本部ツアーで応対してくださった行員さんの人柄からも静岡銀行の風通しの良さ、銀行全体としての雰囲気の良さを感じました。自分にとって静岡銀行は第一志望なのですが、今回のインターンシップ参加を通じてよりその気持ちが強くなった次第です。
 
・これまで銀行員のイメージはドラマしかり様々な媒体を通して、堅実で硬派なイメージを参加する前は抱いていました。しかし、この三日間を通してイメージは全く変わり、誠実にお客様と向き合うという根底は変えずに時代に柔軟に対応しながら、一人一人個性を尊重しながら明るく日々勤められているということを知り驚きました。
 

 

取材・文/浅田 夕香

 

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