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2021.02.16

【採用注力事例】質の高い行政サービスの実現に向けて、 多様な人材が必要不可欠

神戸市は、2022年卒(令和3年度)の新卒採用試験から通年募集枠を新設し、社会人採用試験も複数回実施すると発表。全国の自治体の中では珍しかった民間企業の採用試験に多い適性検査で受験できる特別枠を導入したり、「デザイン・クリエイティブ枠」を設けたりするなど、新たな職員採用の取り組みを積極的に実施しています。その意図や背景を伺いました。

【いま、新卒採用に注力する理由】
Vol.10 神戸市

神戸市人事委員会事務局任用課 採用試験担当係長 玉田芳崇さん

神戸市人事委員会事務局任用課 西川小百合さん

※記事は、2020年12月23日にオンライン取材した内容で掲載しております。

【Company Profile】

兵庫県の県庁所在地で、全国に20ある政令指定都市の一つ。人口152万人(2021年1月1日時点推計人口)。北は六甲山、南は瀬戸内海と、豊かな自然に恵まれる一方、貿易の拠点として発展してきた長い歴史を持ち、商業、工業など、多様な産業に恵まれる。「市区町村魅力度ランキング2020」(ブランド総合研究所調べ)では、全国1000の市区町村のなかで6位にランクされている。

 

自治体の採用で初めて*、通年募集を実施予定 

*…2020年10月神戸市調べ(大学卒)
 

玉田さん:神戸市では2021年度秋より、大学卒業・大学院修了の2022年卒新卒学生・既卒学生の採用において、「通年募集枠」を新設し、年間を通じていつでも応募を受け付ける予定です。留学や部活をはじめとするさまざまな有為な活動などにより、従来の選考期間では応募しにくかった方が、自身のタイミングで受験ができることになります。既卒・第2新卒の方も含め新たな多様な人材に門戸を広げられるのではないかと考えています。同時に、秋だけ実施していた社会人採用試験を春にも実施します。入庁時期についても、特別枠、通年募集枠、春の社会人枠は4月と10月の2回から選択できるようになります。
 
これらの新しい採用枠を設けた背景には、人口減少と申込者減少への危機意識がありました。日本全体がそうですが、神戸市の人口も2012(平成24)年から減少しています。その一方で、行政の課題は複雑化・増大化し、より質の高い行政や市民サービスが求められています。今後の市政運営には、多様な考え方を持った人、さまざまな経験・知識・技能を持った人が集まる集団であることが必要です。
 
このような状況下、神戸市の職員採用試験への申込者は、減少傾向にあります。若者人口の減少以外にも、要因があると考えています。そこで採用においても、「もっと新しい視点で」と考えました。
 
ただし、公務員の選考は、地方公務員法のもと、競争試験の原則に基づき公正・公平な試験を実施しなければいけません。民間企業のように、インターンシップ参加者の中から採用したり、リファラル採用を行ったりすることは、公正・公平の原則上、制約を受けます。制約もあるなかで、できることは何かを検討してきました。特に、2013(平成25)年に久元市長の就任後に、毎年のように採用試験制度を変革してきました。市政運営において、人材確保・育成の強化が重要なテーマの一つであるということです。2014(平成26)年から、多くの民間企業で導入されている適性検査と面接で選考を行う「特別枠」を実施し、民間企業との併願がしやすいようにしたのも、その一つです。
 
西川さん:2020(令和2)年4月から一期生が働いている「デザイン・クリエイティブ枠」も、多様な人材の確保が目的です。クリエイティブな視点やデザイン思考は、今後の行政に重要な要素です。そのため、芸術やデザインの素養を備えた人にも、我々の仲間になってほしいと考えました。実際、大学院で映画を研究した人や、大学でデザイン・美術系、音楽系を専攻していた人など、これまでの入庁者とは異なるバックグラウンドを持つ6名が入庁しました。現在、広報やイベントなどの部門を中心に、身に付けた専門性や持ち味を活かして、それぞれの部署で活躍しています。
 
玉田さん:さらに今回の取り組みでは、新型コロナウイルス感染症への対応も、もう一つの大きなキーワードです。
 
特別枠や通年募集枠、デザイン・クリエイティブ枠では、民間企業が実施する適性検査を導入しています。これまでは、指定した会場で一斉に試験を受けてもらっていましたが、大勢の人を1カ所に集めるのは避けるため、テストセンター方式を導入することになりました。受験者はある一定期間の間に、最寄りのテストセンターで受検すればよくなります。
 
一部の採用区分では、Web面接も導入する予定です。多くの皆さんが安心・安全に試験を受けられるように、そして、多くの皆さんが神戸市の採用試験を受けやすくなるように、新しい生活様式に沿った採用選考を実施していきたいと考えています。

 
 

主体的に事業を創造し、新しいことに挑戦していくリーダーシップが求められる

 

西川さん:このように「もっと新しい視点で」と考え、他の自治体に先駆けて新しいことに挑戦する気風は、神戸市の特徴なのではないでしょうか。
 
神戸市ではいま、「スマートシティ」の実現に向けた取り組みを推進しています。市民にとって、企業にとって、魅力的な街はどのようなものか。ICT・データの活用によるデジタル化や効率化によって、人間中心の目線で社会的な課題を解決し、スマートシティの実現を図ります。例えば、六甲山の観光事業にLINE上で構築したAIチャットボットを活用し、周遊プランの推薦や施設情報・クーポン等をデジタル配信するなどの取り組みを進めています。観光客にとって便利なだけでなく、その活用からデータが蓄積され、次の観光事業に活かすことが考えられます。
 
玉田さん:また、神戸市ではこれまで、最先端の医療技術を研究・産業化するために大学、研究機関、病院、企業等の集積を図る「神戸医療産業都市」を推進してきました。さらに国内自治体初の取り組みとして、神戸市の課題に対して柔軟な発想や優れた技術力を持つスタートアップから解決策を公募し、行政職員と協働して最適な解決手法を見出し、サービスとして構築・実証までを目指す「アーバンイノベーション神戸」も開始しています。
 
これらの取り組みにより、都市の質を上げ、ブランド力を高めていくことは、日本社会全体が抱えている人口減少社会への対策としても重要な視点です。もちろん先進的な施策だけでなく、三宮再整備・駅周辺等リノベーションなどのまちづくりや、待機児童の解消をはじめとする子育て支援などの事業についても、基礎自治体として引き続き取り組んでいく必要があります。
 
政令指定都市は、国や県から権限が委任されているので、市が独自に大規模な業務から市民に身近な行政サービスまで行うことができます。そのため、学生の皆さんが抱きがちな、「縁の下の力持ち」「与えられたことをこなす」という一般的な公務員のイメージよりも、主体的に事業を創造していく、事業への積極的な関わりが、全職員に求められます。
 
しかも、神戸市は、3〜5年毎に異動があるので、退職するまでに10箇所以上の職場を経験し、様々な業種の仕事に携わります。仕事の幅が広いからこそ、異動するとまるで転職したかのような感覚での新しい仕事との出合いがあります。先進的な施策をはじめ新しいことに挑戦していく組織風土のなか、常に新鮮な気持ちで仕事に臨み続け、やりがいを感じられるのが、神戸市職員の仕事の特徴です。
 
そのため、神戸市が求める人材像も、「チャレンジ精神」「リーダーシップ」「デザイン力」の3つが大きなキーワードになります。社会を変えようという意欲を持ち、困難な仕事にもひるまずに最後までやり抜く「チャレンジ精神」、自ら考え、周囲に働きかけて、仕事を前に進めることができる「リーダーシップ」、自ら発想・工夫し、仕事をデザイン(創造)できる「デザイン力」。複雑化・高度化する行政の質を高めていくためには、これらの力が必要です。一つでもお持ちの方は是非神戸市の仲間になっていただきたいです。

 
 

「学生短時間雇用」などを通じて、職員の仕事の理解を深めてほしい

 

西川さん:「公務員の仕事」と一括りにできない、仕事の広がりや多様性を、ぜひ学生の皆さんには理解していただきたいと考えています。入ってから、こんなはずではなかったというミスマッチを極力避けたい。そのため、1週間程度のインターンシップと併せてだけでなく、もっと長期にわたる仕事体験の機会提供をしたいと考え、「学生短期間雇用」制度を設けました。パートやアルバイトのようなものではありますが、「学生」に絞って募集をすることは、自治体では初の試みだと思います。初回の募集には101名の応募があり、42名が合格して、現在、学業との並行もできるような窓口業務やアンケートの集計・分析などの事務的な仕事に就いてもらっています。
 
神戸市職員の仕事がどのようなものか、この機会を利用して理解を深めてもらい、一人でも多くの方が、神戸市の新しいまち街づくりに挑戦してもらえると嬉しいです。

「BE KOBE」を掲げる神戸市は、質の高い行政サービスの実現に向けて、多様なバックグラウンドを持つ仲間を求めている。

 
 

取材・文/清水 由佳

 

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