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就職みらい研究所とは
2024.03.26

学生の中長期的なキャリア自律を促す就労体験型のインターンシップに変化の可能性を見出している

識者に聞く「10年後の就職活動」 Vol.3

就職活動・新卒採用をめぐるさまざまな議論が行われています。そこで、若者が自分らしい意思決定の上、期待感を持って社会への一歩を踏み出すために、「10年後の就職活動・採用活動の在り方」というテーマで、各界を代表する識者の皆様にインタビュー。今回は、ソフトバンク株式会社 執行役員 コーポレート統括 人事本部 本部長・源田 泰之さんのお話をご紹介します。
 

ソフトバンク株式会社
執行役員 コーポレート統括 人事本部 本部長
兼 総務本部 本部長 兼 Well-being 推進室 室長
源田 泰之さん

 

【Profile】

1998年入社。営業を経験後、2008年より人事領域を担当。ソフトバンクのグループ会社であるSBアットワーク株式会社、SBイノベンチャー株式会社、SBエンジニアリング株式会社の取締役を務める他、公益財団法人 孫正義育英財団の事務局長。2019年に日本の人事部「HRアワード2019」企業人事部門 個人の部最優秀賞 受賞。

 

活動時期に縛られず自由に選択できる社会へ

 
人的資本の観点から新卒一括採用は変化していくべき
 
10年後には、現行の新卒一括採用の流れが変わっていることを期待します。
これほど長く新卒一括採用が続いている背景の一つには、採用・就職活動に関わるすべての人にとって、“都合のいい”システムになっていることがあるのでしょう。

 
新卒一括採用は、企業側にとっては、限られた採用期間で限られた採用ターゲットに向けて労力を集中し、効率よく採用ができます。ポテンシャル採用という名のもと、採用単価を抑えて労働力を安定的に確保でき、入社後に育成していけることは、企業にとって悪い話ではありません。
 
学生にとっても、実際に働いて実力を発揮することなく、学生時代の経験から自らの強みをアピールし、卒業前に就職先を決めることができる、効率的で、安心できる仕組みだと言えます。さらに、日本の若年層の高い就職率は一括採用の仕組みが支えているとも考えられ、行政の観点から見ても、利点が大きいのです。
 
ただ一方で、人的資本の考え方で言えば、決して都合のいい面ばかりではありません。大学受験の延長のように、「“みんなが知っているいい会社”に入ることがゴール」と就職活動を捉えがちな現状は、中長期的には弊害も多いでしょう。
学生にとって本来大切なのは、自身の自律的なキャリアに向き合い、どんな人生を歩んでいきたいのか、社会にどう貢献していきたいかを試行錯誤し、考えていくこと。しかし、新卒一括採用の仕組みがあることで、そうした視点で、じっくり将来を考えることが難しい環境になっているのではないでしょうか。

 
就労体験型インターンシップが就職活動の在り方を変える
 
そうした在り方、現状を変えていく可能性として、私たちが注力しているのが、「インターンシップ」です。ソフトバンクでは、短期コースは2週間、長期コースは4週間の「JOB-MATCHインターン」を実施し、“完全な就労体験型”の機会を提供しています。学生にパソコン、携帯電話、名刺、社員証を付与し、営業同行したり、社員と席を並べて仕事したりと、リアルに働く体験を重視。一定の就労期間を通じて、学生たちが自分のやりたいことに気づいたり、ソフトバンクで働くことが自分に合っているのかを感じとってもらったりすることが目的です。
 
2025年卒向けの夏のインターンシップでは、約480人という過去最大規模の学生を受け入れました。インターンシップに向けた特別プログラムを用意するのではなく、いつもの“職場”に交ざってもらうのが当社のこだわりであり、そこで得た気づきや改善点を発信してもらいます。当然、現場の社員の協力が欠かせません。通常は全社の在宅勤務率が7割ほどであるところを、出社日数を増やしてサポートしてもらうなど対応しています。
 
インターンシップを経て、現場の社員と参加学生双方が「この学生にぜひ入社してもらいたい」「この部署で(この業務内容で)働きたい」と希望がマッチした際には、入社後の配属を確約し、その後の本選考を経て採用しています。そのため現場社員も、いい学生に来てもらおうと、積極的に教育に関わるようになり、学生の受け入れが活発になっています。両者にとってWin-Winですし、実際の働く現場を見た上での希望という点で、入社後のミスマッチや、不幸な“配属ガチャ”の予防にもつながるのではないかと思っています。
 
既卒学生の受け入れもより柔軟に変えていく必要が
 
現在の採用の在り方では、働いたこともないのに限られた期間で選んだ企業に入り、“配属ガチャ”と言われるように、企業主導で業務内容を決められて働く人も少なくありません。入ってから、「自分が思っていた社会人生活と違う」「働いてみたら、やりたいことが見つかった」などと気づいたとしても、専門性のない中での転職は難しいだろうと、現状を受け入れざるを得ない。そんな個人が増えていってしまうことは、社会全体にとって大きな損失です。
 
“就職浪人”というネガティブな言葉が生まれてしまうのも、今の仕組みに起因するのでしょう。就職活動は、個人がより良いキャリアを築くためのもの。ファーストキャリアを、納得感を持って選ぶために、卒業後に就職活動するのも一つの選択肢としてあるべきです。それが今は、既卒というだけで、「就職活動に失敗したのかな?」という目で見られてしまうことも。企業側は、そうした画一的な捉え方を変え、学生が時期に縛られずに自由に選択できる環境を生み出していくべきだと考えています。自分が何をしたいのか、何にモチベーションを持てるのかを見極めた上で就職先を選べるというのが個人にとって大切だと思うのです。
 
インターンシップにおいても、学生にとって、4週間の就業体験で何社も参加するのは現実的ではありません。既卒学生のインターンシップ参加を受け入れていく形も、これからは必要になっていくと考えています。
 

成長できる環境を用意できるか企業の姿勢が問われている

 
ウェットな感情の共有が企業と個人のつながりを強化
 
企業と個人の関係は、これからよりフラットに、よりオープンになっていくでしょう。個人は、働く目的や、事業が社会課題の解決にどうつながっているのかをよく見るようになっており、企業には人的資本情報の開示が求められています。中でも重要なポイントは、「この会社で個人がいかに成長できるか」にあります。個人の自律的キャリアを応援するために、企業がいかに、成長を促す環境をつくっていけるのか、ソフトバンクでも、さまざまな人員配置制度を用意しています。
 
働くリアルを見せるために、組織が抱える課題感もオープンに伝えています。例えば、女性管理職比率はまだ胸を張って誇れるものではありませんが、「比率を上げるためにこのような推進施策を実施している」というように、改善意欲や具体的な取り組みと併せて伝えています。こうした情報開示の姿勢が、個人との信頼関係につながっていくと考えます。
 
フラットな関係というと、契約上のドライな関係をイメージする方もいるかもしれませんが、私は、社員同士のウェットな関係性も大事になってくると思っています。年収やポジションなどのスペック以外に、会社が目指すビジョンへの共感や、事業を一緒に成し遂げたい仲間、お互いの成長を喜び合える仲間がいるかどうか。表面的な契約以外の、感情の共有が、企業と個人のつながりを強くしていくのではないかと考えています。
 
働き方の多様化は広がってはいますが、まだまだ画一的なイメージが根強いのが現実です。働くことには、人生の大事な時間を切り売りして生活のためのお金を稼ぐ、どこか“つらい”イメージを抱く学生は少なくありません。お金を稼ぐことは働く目的の一つではありますが、働くとは、本来もっと面白いもの。自己実現につながり、一人では成しえないことをチームで実現でき、成長実感を得て、信頼関係を築くことができます。働く中での喜びは数限りなくあるはずなのに、まだまだ学生に伝え切れていないと感じています。
 
企業はこれから、“個人から選ばれる”対象となり、働き甲斐のない会社は選ばれなくなるでしょう。自分なりのチャレンジができて成長できる環境なのか、情報開示して伝わらなければ、その企業には人が入ってこない。そういう社会になれば、企業と個人はより対等な立場で、影響を与え合う関係になっていくのではないかと考えています。
 

ソフトバンクの取り組み

 
リアルな職場体験や地方創生をテーマにしたユニークなインターンシップ
 
インターンシップでは、リアルに働く体験を提供する「JOB-MATCHインターン」のほかに、地域課題に取り組む「TURE-TECHインターン」も開催しています。「情報革命で人々を幸せにする」というソフトバンクグループの経営理念に沿って、ICTを用いた課題解決の提案を地方自治体に行っていきます。“変革リーダー”を目指す学生のために、年次を問わず幅広く募集しています。
 
採用においては、「ユニバーサル採用」という通年採用を実施しているほか、希望業務のコースを選択して選考を受ける「JOB-MATCH選考」を行っています。選考過程の段階から、専門スキルや知識が業務とマッチするかどうかを双方で見極めていくため、内定の場合は、初期配属時の業務を確約しています。
 
採用における現場の社員の巻き込みにおいては、リクルーターを手挙げで募集しています。その際には、リクルーターとはどのような業務内容で、どれくらいの時間やパワーがかかるのか、どんな経験を積めるのか。さらには、これからのキャリアに向けてどのような成長実感を得られるのかを伝えています。評価や報酬には反映されるわけではありませんが、「未来のソフトバンクを担う人材と接する仕事」に対して、やりがいを感じてくれる若手社員が多く集まっています。圧倒的な活動量と熱量で動くリクルーターが増えたことも、ソフトバンクの採用力の底上げにつながっていると感じています。
 
採用活動ではAIをはじめとしたテクノロジーの活用も推進。業務効率化によって新たに創出した人的リソースを、学生と直接対話する時間や、学生からの相談に乗って不安を払しょくする機会に割くことを目的としています。
 

従業員のキャリア自律と事業成長を連携させていく
 
個人の成長を促す社内制度には、希望する部門やグループ会社に自ら手を挙げて異動できる「FA(フリーエージェント)制度」、新規事業や新会社立ち上げ時にメンバーを公募する「ジョブポスティング制度」、社外から新たな刺激を得てイノベーションを促す「社外副業」、本業以外の視点や経験を活かす「社内副業」などがあります。
 
グループ社員全体の人員配置を行う際は、各グループ人事の責任者同士が、「社員の成長につながるか」「会社にとって最適になるか」をフラットに話し合います。
 
根本思想にあるのは、自律的なキャリアと事業を連携させていくこと。従業員のキャリア形成をサポートする制度も整えており、上長との1on1でも、個人のキャリア志向を面談の記録として残すことで、社内のジョブマッチングがよりスムーズになるように情報共有が進んでいます。
 

取材・文/田中瑠子 撮影/刑部友康

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