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2020.04.09

なり方、やりがい…レアなおシゴト図鑑 | Vol.10 照明スタッフ

世の中にはさまざまなシゴトがあるけど、なかには就職情報サイトではなかなか見つけられないものも…。そんなちょっと意外なシゴトについている社会人を紹介します。

映像の情感を光で表現する
照明スタッフ

川里一幸さん
プロフィール●1973年生まれ、東京都出身。日本電子専門学校映像クリエイティブ科卒業。照明機材のレンタル会社を経て、95年、有限会社阿呍入社。照明を手がけたおもなテレビドラマに『グッドワイフ』、『義母と娘のブルース』、『アンナチュラル』など。2019年4月スタートのドラマ『集団左遷』の照明も担当している。

 

映像の質を追求する監督の思いに、できる限り応えたい

 

――どのようなお仕事をされているんですか?

テレビドラマやバラエティ番組、ミュージックビデオなどの映像制作やイベントで照明を手がける会社で働いています。僕の場合、最近はテレビドラマを担当することが多いですね。バラエティ番組の場合は照明によって人物や物をきれいに映すことが基本ですが、ドラマの場合は光で情感を表現したり、時間や季節を表したりといったことも求められます。

 

――仕事の流れを教えていただけますか?

監督やカメラマンと話して演出方針や撮影のアングルなどを確認して、機材や光の当て方などのプランを立てて照明を仕込んでいきます。照明チームの人数は撮影の規模にもよりますが、一般的な連続ドラマの場合、照明のプランニングを行う照明技師(プランナー)が1人、現場で機材を扱うオペレーターが3、4人ほどでしょうか。

撮影がある日は早朝から現場に入って、準備をすることが多いです。例えば、明日は連続ドラマのロケがあり、午前7時半から都内で撮影なので、午前6時半に会社に集合して機材を積み、午前7時には現地へ。その後、車で移動しながら都内3カ所で撮影し、午後7時から夜のシーンを撮影して解散の予定です。ロケでは、撮影場所を移動するたびに機材の積み下ろしをするので体力勝負。おまけに夜のシーンの撮影では機材がたくさん必要ですから、夜まで予定が入っている日のロケは大変です…。

 

――休む暇もない感じでしょうか。

体力が持たないので、順番に休憩を取り、食事も移動の車の中でしっかり食べます。スタジオでの撮影の場合も打ち合わせや機材チェックなどの合間に食事はきちんととりますよ。

 

――仕事で大変なこと、腕の見せどころだと感じることは?

監督の要求に、限られた条件の中で対応しなければいけないところでしょうか。監督は常により良い演出を考えているので、方針がいきなり変わったり、思いもよらないことを「やってほしい」と言われることも珍しくありません。例えば、ドラマ『SPEC〜警視庁公安部公安五課 未詳事件特別対策係事件簿〜』で堤 幸彦監督から、主人公を演じる戸田恵梨香さんの苦しんでいる表情にスポットライトを当ててほしいと言われたことがあります。スポットライトによる表現はドラマではあまり使わないので驚きましたし、用意もしていなかったのですが、その場にあった機材を工夫して撮影しました。また、ドラマ『アンナチュラル』ではオフィスが4階にあるという設定で、オフィスの蛍光灯に外光が差し込む様子をスタジオの中で表現するのに苦労しました。

監督のイメージに合った照明を実現するのは大変ですが、その分やりがいもあります。監督の思いになるべく応えたいので、「難しいな」と感じても最初から「できません」とは言わず、1回はやってみます。ただ、時間や機材に限りがあるので、やってみてできなかったということももちろんありますよ。堤監督から「俳優さんの顔に、カラスが横切る影を作ってほしい」と言われた時は、工夫してみましたが難しく、「監督、すみません」と謝りました。

 

映像制作の現場にはさまざまな職種の人が集まっているので、出会いが楽しい

 

――照明の仕事に就いた経緯は?

専門学校で映像を学び、卒業後は照明機材のレンタル会社に就職しました。特に照明に興味があったわけではなく、何となくというのが正直なところです。今の会社は当時の取引先で、機材を搬入したり、業務の一環で助手として撮影を手伝ったりするうちに、「うちに来ない?」と誘われたのをきっかけに照明の仕事を始めました。

 

――仕事に必要な知識や技術はどのように身につけたのでしょう?

前職で照明機材の基礎的な知識はありましたが、ほとんどは現場に入ってから身につけました。先輩たちのやり方を見よう見まねで覚えて、がむしゃらにやっているうちに何となく感覚をつかんでいったという感じですね。

とくに、ドラマの照明については手探りでした。入社当時は会社が担当していたドラマの仕事がまだ少なかったので、ノウハウを学ぶために隣のスタジオでやっている撮影を見に行ったり、他社の照明担当に話を聞きに行ったりしましたね。今もときどき担当作品以外の撮影をのぞきに行ったり、映画の照明を担当している知人に現場を見せてもらったりします。あと、照明の会社は小さいところも多いので、人手が足りない時はお互いに他社の現場を手伝ったりもします。自分のノウハウだけでは限界があるので、他社の仕事を見ると、すごく勉強になりますね。

 

――照明技師として独り立ちしたのはいつごろですか?

うちの会社は今も若手に仕事を任せる社風なのですが、当時はスタッフが少なかったこともあって、入社2年目くらいからは助手もしつつ、番組によってはメインで任されるような感じでした。最初に照明技師を担当したドラマは深夜ドラマの『少年サスペンス』(1998年)です。

 

――初めて照明技師として作品を担当されて、戸惑いは?

ほかにやる人がいなかったので、戸惑っている暇もなく「やらなきゃいけない」という状況で(笑)。照明チームは4人で、僕のほかに助手が3人で、みんなで相談しながらやる感じでした。

 

――照明の仕事に就いて良かったなと思うのはどんなことですか?

映像の制作現場には照明スタッフだけでなく、俳優さんや監督、カメラマンさん、美術さん、音響さんなどさまざまな職種の人が集まっていて、いろいろな人と出会えるのが楽しいです。みんなで一緒に頑張ってひとつの作品や番組を作り、信頼関係が築けた時はうれしいですね。

 

たくさんの現場を経験し、臨機応変に物事に対応する力を身につけることが大事

 

――照明の仕事に向いているのはどんな人だと思われますか?

チームで仕事をしますから、人とかかわるのが好きな人が向いていると思います。それから、臨機応変に物事に対応できるといいかもしれないですね。撮影現場では急に演出の方針が変更になって照明機材のセッティングを変えたり、新たに照明プランを考えたりするといったことも多いですから。

 

――臨機応変さを身につけるには?

とにかくたくさんの現場を経験することが大事だと思います。それから、映画やドラマを見た後で、「あのシーンの照明はどうやっているのかな」と考えてみたり、機材を組んで試したりする想像力や好奇心も照明の仕事には大切なのかなと思います。

 

――学生時代の経験で、仕事に役立っていることは?

うーん、僕は学生時代に遊んでばかりだったので、わからないです(笑)。ただ、いろいろなことに興味を持ち、いろいろなものを見たり、経験したりすることは大事かもしれません。何かちょっと興味を持ってやってみると、意外なものに触れることができたりもするじゃないですか。例えば、「バスケットの試合を見に行ったけれど、ハーフタイムショーで見たダンスもすごかったな」とか。そうやって興味の幅を広げていくことが、直接的にではなくても、仕事をする上での発想につながるのかもしれないなと思います。

 

――最後に、学生へのメッセージをお願いします!

興味のある仕事について情報収集するのも大事ですが、仕事にはやってみないとわからないことも多くて、特に映像制作の現場はそうかもしれません。だから、映像や照明に興味があったら、まずは現場に入って、さまざまな職種を知るのもいいかもしれないですね。僕は照明機材のレンタル会社から転職してこの道に入りましたが、周囲にはもともとは照明をやっていたけれど現場で働くうちに撮影に興味を持ってカメラマンさんになったとか、美術さんになったという人もいます。いきなり「一生の仕事を見つけなければ」とかたくなに考えず、まずは何となく興味のあることをやってみて、もっと自分に合いそう、面白そうな仕事があればそっちの道に行ってみるのもいいのではと思います。

 
※本文は2019年取材時の内容で掲載しております

取材・文/泉 彩子 撮影/鈴木慶子

 

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