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就職みらい研究所とは
2023.12.22

学生が面接担当者を選ぶ「選べる面接官」で、より密度の高い理解とコミュニケーションを目指す

【個人と組織の新たなつながり方 ―採用・就職活動編―】Vol.9 ナイル株式会社

 
ホリゾンタルDX(※1)事業、自動車産業DX事業を展開するナイル株式会社では、2025年卒採用より、学生が1次面接の担当者を選ぶことができる「選べる面接官」制度を開始しています。その意図と効果、また、応募書類作成時の生成AIの使用容認や、ジェンダー比率や男女の賃金格差などの定量データを含めまとめられた「人と組織に関するレポート」の公表といった同社の採用関連施策の意図について、新卒採用を担当しているカルチャーデザイン室室長・宮野 衆さんに伺いました。
※1 インターネットを活用したさまざまな事業成長ソリューションを展開。全ての産業横断で、企業のDX・マーケティング推進を支援

 

ナイル株式会社
執行役員 人事本部 カルチャーデザイン室 室長 宮野 衆さん


※記事は、2023年11月29日に取材した内容で掲載しております。

 

【Company Profile】

2007年創業。「幸せを、後世に。」をミッションに掲げ、デジタルマーケティングのノウハウを強みに、時代の潮流を鑑みて事業を展開。現在は、企業のデジタルマーケティングを支援する「DX&マーケティング事業」、アプリ情報メディア「Appliv」を中心とした「メディア&ソリューション事業」、車のサブスクリプションサービス「おトクにマイカー定額カルモくん」を中心とした「自動車産業DX事業」を展開している。Great Place to Work® Institute Japan(GPTWジャパン)、「2023年版日本における『働きがいのある会社』ランキング」において、中規模部門第8位に選出。

 

「面接官ガチャ」を回避し、学生と企業が対等であるために

 

―2025年卒採用から始められた「選べる面接官」とは、どのような取り組みですか
 
1次面接に進むことになった学生に、面接官のリストから希望する社員を選んでもらって面接を実施するという取り組みです。2025年卒採用は、自己PR動画の提出→グループディスカッションとワークテスト→適性検査→面接(複数回)というフローで実施していますが、「選べる面接官」は、現場社員との個人面接となる1次面接で行います。
 
具体的には、約20名の面接官の情報をまとめたWebサイトを学生に見てもらって、希望する面接官を5名選んでもらいます。その中から、学生が希望する面接日程に都合がつく面接官をナイルで選び、面接官が誰になったかを事前共有し、面接を実施します。「会社に人選を任せる」という選択肢も設けています。
 

 
―面接担当者の方の情報は、どのような内容が開示されているのでしょうか
 
「入社前のキャリア」「入社後の担当業務」「仕事で最もやりがいを感じた瞬間」「学生時代に取り組んでいたこと」「趣味や休日の過ごし方」の5つと、採用オウンドメディアでのインタビュー記事などを掲載しています。「仕事で最もやりがいを感じた瞬間」と「趣味や休日の過ごし方」は、2023年夏のインターンシップに参加してくれた学生にヒアリングした際にリクエストをもらって入れた項目です。
 
―なぜ、この取り組みを始められたのでしょうか
 
まず、根本に持っている我々の考えとして、採用面接という場においても、学生と企業は極力対等でありたいというものがあります。
 
本来、企業と個人の関係は、企業は自社でパフォーマンスを発揮してくれる人を探し、学生は自己成長できる場を求めるという、対等なものです。だからこそ、どんな場面においてもフェアになると良いと思っているのですが、面接の場では、学生が「受かるだろうか?」という心境で臨むことになり、どうしても立場が弱くなってしまいます。
 
そこで、ナイルでは2024年卒採用から、役員面接の際に担当役員のインタビュー記事を事前に学生に共有することを始めました。我々はエントリーシートなどから学生のことを把握して面接に臨むにもかかわらず、学生は面接官について何も知らないまま臨むのはフェアじゃない。事前に知っておいてもらった方がより有意義な時間になるんじゃないかという仮説を持って取り組みました。
 
結果、学生は気持ちの準備ができたり、面接官の考えを多少把握できたりしたことから、自然体で話せていました。私も面接を担当しましたが、「聞きたいことがあれば質問してください」と投げかけたときに、「新卒社員に求めるものは何ですか?」といった当たり障りのない質問ではなく、「宮野さんの記事を読んだんですけど、あのときのこれってどういうことがあったんですか?」など、会社や仕事に対する理解がより深い状態の質問をしてくれるので、良い対話ができたんですね。
 
加えて、2024年卒採用を進めている最中に、SNSで「面接官ガチャ」という言葉を目にしました。確かに「配属ガチャ」や「上司ガチャ」同様に「面接官ガチャ」もあるかと思い、それならガチャ自体を回避するために、面接官を選べるようにしようと考えました。そうして2025年卒採用から始めたというのが経緯です。1次面接の後も、複数回面接は実施されますが、面接官の記事や情報を事前に伝える予定でいます。
 
―選考に参加した学生の反応はいかがですか
 
まず、面白がってくれますね。そして、やはり学生が社員に質問をする際に、本人が聞きたいことを聞けていると感じます。例えば、女性のロールモデルについて聞きたい学生が、女性社員を希望して質問をしたり、自分が面白いと思ったキャリアの社員を選んだ学生が「このときはどんなことがあったんですか?」「どのような考えでこのキャリアを選んだんですか?」と質問するなど、本人が本当に知りたいことを質問できているのが、すごく良い状況だと思っています。
 
―学生の皆さんの希望に傾向はありますか
 
明らかな傾向は見られませんが、印象としては、配属先として希望している部署の社員を選ぶ学生が多いと感じています。
 
―評価やマッチングの観点では、どのような良さを感じていますか
 
学生、面接官、会社の三方よしだと思っています。
 
まず、学生にとっては、先述したとおり、事前に質問を考えられるなど、気持ちの面で楽に臨むことができています。
 
次に、面接官にとっては、学生から選ばれるということが、面接業務に対するモチベーションを高めています。通常業務に加えての面接業務になるのでどうしても社員に負担感がある中、選ばれたこと自体が嬉しいですし、「選んでもらったからにはしっかりやらなきゃ」という気持ちにもなります。また、面接中に「記事を読んで…」といった話が学生からくると、嬉しさや感謝の気持ちが生まれて対話も弾みやすいようです。もちろん、「選んでくれたからこの学生はOK」とはならず、評価はシビアにできています。
 
そして、会社にとっては、学生がナイルで働くイメージの解像度が上がった状態で面接に臨んでくれているのがすごく良いことだと感じています。学生にとっては自分の選考にかかわることなので、面接官の情報を真剣に読んで、面接官への質問も準備します。ですから、ただ説明会で企業説明を聞かされるのとは事業や業務への理解度が全く異なります。面接を担当した社員からも、「今年の学生の方が、ナイルのことを分かってくれている気がする」というフィードバックをもらっています。
 
―手応えを感じていらっしゃる状況かと思いますが、今後も続けていきたいといった意向はおありですか
 
現状は良いことばかりなので、続けていきたいですね。それに、「選べる面接官」はナイルの特権だとは思っていなくて、他社にもぜひ真似してほしいと思っています。面接官を5人選んでもらえば、スケジュール調整もそう難しくはないですし、「会社に人選を任せる」という選択肢も設けていれば、「誰でも良い」という学生にも対応できます。ナイルでは、学生の希望に偏りがあって特定の面接官の面接回数がすごく増えるということもなく、割とバランスよくアサインできているので、そんなに真似できないことではないと思います。
 
新卒一括採用は、時代と共にさまざまな面で変わっていくべきで、「選べる面接官」はすごく小さな、半歩進むくらいの話ですが、より良い出会いを作っていくための1つの方法だと思います。

 

応募書類への生成AIの使用を容認し、新しい技術を活用できる人を歓迎

 

―また、2023年4月に、新卒・中途採用の応募者が、履歴書など応募・選考にかかわる書類を作成する際の生成AIの使用を容認するというリリースを出されました。その意図や狙いについて教えてください
 
ナイルでは2022年末から有志のメンバーが生成AIの業務への活用方法について可能性を模索してきました。そして、2023年春からは、社内での活用促進を目指し、ChatGPTの導入や専門プロジェクトチームをつくりました。その後、クライアントに対する生成AIの導入コンサルティングサービスを開始し、自社の業務においても生成AIを積極的に取り入れています。
 
会社としては今後も生成AIを使っていきますし、世の中でも活用は避けられないでしょうから、生成AIを使いこなせる人材の方が価値が高いというのがナイルの考えです。そういったことから、「生成AIは使ってもらって構いません。その代わり、生成AIを使ってでも、自分が自信を持って出せる良いものを提出してください。我々は、アウトプットされたものしか見ません」と打ち出しました。
 
なので、提出された履歴書やエントリーシート、ワークテストの回答などについて、生成AIを活用して作ったかどうかは聞きませんし、出てきたものだけを見て判断しています。
 
―生成AIを活用して作った文章と、活用せずに作った文章に違いを感じていらっしゃらないということですね
 
生成AIを使っても、使わなくても、どのようなアウトプットを出せるかが勝負で、それが実力だと考えています。生成AIを使っても一般的なことしか書かれていなければ刺さらないでしょうし、逆に、ベースとなる文章を生成AIに作ってもらって、そこに自分の考えや体験を肉付けしてその人の良さや人となりが分かる文章になっていれば、良いなと思います。
 
それに、新しい技術に拒否反応があったり、元々の自分のやり方に固執したりしている人よりも、新しい技術をどんどん取り入れてパフォーマンスをより高めていこうという思考の人の方がナイルには合っていますから、活用を否定する理由はないですね。

 

良い情報も悪い情報も率直に開示し、よりマッチする人に来てもらいたい

 

―2023年8月には、「人と組織に関するレポート2023」を発表し、ジェンダー比率や男女の賃金格差、eNPS(※2)など定量的なデータを示しながら、御社の人と組織に関する考え方や、「情報の非対称性をクリアに」「カルチャーマッチを重視」といった採用方針、今後の主な取り組みと注力点などを開示されました。このレポートを発表された背景について教えてください
※2 eNPS(Employee Net Promoter Scoreの略称):職場の推奨度を数値化し、従業員のエンゲージメントを測定する指標

 
2023年に入って世の中で人的資本経営がキーワードとなり、今後のトレンドになることは明らかでした。そして、我々が掲げている3つのバリューの1つには、「OPEN THE MIND 心を開いて、世界を広げる」があります。これは、コミュニケーションの中で互いに心を開き、率直なフィードバックを行い、オープンに受け入れようという意味を込めたものですが、加えて、情報もできるだけオープンにしていこうという意味もあります。
 

 
このスタンスから、人的資本経営を上場企業だけの話(※3)と考えずに、ナイルでも、他社と比較した際に優れた点も逆に伸びしろがある点もできるだけ率直にオープンにして、よりマッチする人に来てもらいたいという考えから作成しました。出せる情報は極力出しながら、ナイルらしさも伝えたいという考えで、開示する情報を精査しました。
※3上場企業において2023年3月期決算より有価証券報告書等への人的資本に関する情報開示が義務化された

 
―応募者からの反響はいかがですか
 
新卒採用に応募してくる学生も見てくれていますし、中途採用の応募者からは、「1つのレポートにまとまっていることで、一気にキャッチアップしやすかった」「情報が開示されていて理解が深まったし、安心できた」といった声をもらっています。組織の現状が、課題も含めてちゃんと開示されていることに安心してもらえたようですし、こちらとしても、まだ組織として十分でない点も含めて理解してもらって「一緒につくっていきましょう」というスタンスで対応できることに意味があるかなと思っています。
 
―これからの個人と組織の関係のあり方についても、ご意見をうかがえますか
 
「会社の言うことを聞いて、会社の求めに従ってパフォーマンスを出しなさいよ」という時代はもうとっくに終わっていて、社員一人ひとりのやる気や能力を引き上げるために、その人がやりたいことや興味のあることと、会社が進んでいきたい方向とをいかにして合わせていくかということが、経営やマネージャーの役割としてすごく重要だと個人的に思っています。ここを常に考え、対話しながら、会社にとっては社員が会社の成長につながることをしてくれていて、社員は自己成長につながることができているという状態を、形を変えながらでも作り続けることが大切だと思います。
 
今の時代、起業をしたり、フリーランスで働くなど自分でビジネスを始めることは昔と比べて身近になっています。会社に所属する理由が以前に比べるとないんですよね。だからこそ、パーパスなどが重視されていると思いますし、ミッションやビジョンなどでしっかりと旗を立てて社員の共感を得られるようにしなければならない。そして、それらと異なることを経営がすれば社員の心は離れていく。すごくシビアな時代ですが、これらをちゃんとやっている会社こそが選ばれていくのではないかと思います。
 
―自社の新卒採用における課題については、どのようにお考えですか
 
今は、関係者の負荷などを考慮して、採用選考は最終面接以外すべてオンラインで、インターンシップもオンラインで行っているため、対面の場を活用して学生に「ナイルで働きたい」「ナイルで自己実現をしたい」と思ってもらえるような強い動機づけをすることが難しい状況にあります。
 
だからこそ、選べる面接官や情報開示の取り組みも含めて、選考プロセス全体でナイルについて知り、「この会社で働きたい」と思える体験をしてもらえるよう、設計していくことが今後の課題だと感じています。
 

取材・文/浅田夕香 撮影/刑部友康

 

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