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2024.02.16

現場で実務を経験する5日以上のインターンシップで学生に企業理解を促す―株式会社NTTデータ

【個人と組織の新たなつながり方 ―インターンシップ編―】Vol.10 株式会社NTTデータ

 
インターンシップをどのような場に設計するのか、事業の現場とどのように連携するのかに悩む企業は多く見られます。株式会社NTTデータでは、学生を現場に受け入れ、働く際と同じ環境で就業体験をしてもらうことで、学生に企業理解を深めてもらうインターンシップを行っています。そのねらいと具体的な内容について、人事統括部 採用担当 課長・村上 裕一さんにうかがいました。
 

株式会社NTTデータグループ
コーポレート統括本部 人事本部 人事統括部 採用担当 課長
村上 裕一さん


※記事は、2024年1月19日に取材した内容で掲載しております。

 

【Company Profile】

1988年設立。「情報技術で、新しい『しくみ』や『価値』を創造し、より豊かで調和のとれた社会の実現に貢献する」を企業理念に掲げ、ITに関するあらゆるサービスや最先端テクノロジーを組み合わせ、顧客にとって最適なサービス・ソリューションをグローバルに提供している。

 

約110の現場で300名強を受け入れ

 

―貴社では、どのようなねらいを持ってインターンシップを設計されていますか
 
まずは我々の仕事とその流れを知ってもらおうという目的で実施しています。というのは、我々が扱っているITは目に見えないものであるため、学生からすると仕事の内容や流れが分かりづらく、「何をやっている会社なのかよくわからない」という面があるからです。特に我々の場合、採用する学生の4割が文系、6割が理系で、理系も全員が情報系出身者というわけではないため、まずは仕事を知ってもらうことを重視しています。
 
―夏に「プロジェクト型」「ワークショップ型」の2種類のプログラムを実施されています。それぞれどのような学生を対象とされているのでしょうか
 
まずそれぞれの内容からご説明すると、プロジェクト型は実際の現場にチームの一員として入っていくもので、例えば、金融業のお客様に対する提案書を一緒に作っていくものや、最新技術の検証を一緒にやってもらうものなど、多岐にわたるプロジェクトを約110個、2023年は用意しました。日数は、プロジェクトによりますが、最低5日間、長いもので2〜3週間です。
 
ワークショップ型は、実際の案件を元にした、一般的なシステム開発の主に提案の部分を体験してもらう5日間のプログラムです。採用担当主体で実施し、現場の社員にもメンターとして入ってもらっています。
 
どちらに参加したいか、また、プロジェクト型の中でどのプロジェクトに参加したいかはエントリー時の学生の判断に任せているので、一部の技術的な知識を必要とするプロジェクトを除いて、我々から参加学生を限定しているものはありません。2023年は、プロジェクト型で300人強、ワークショップ型で500人強、合計800〜850人を受け入れました。

 

学生をお客様扱いせず、実際の仕事と同じ環境を提供

 

―プロジェクト型のプロジェクト数が110というのは、かなり多いのではないかと思います。受け入れ部署やテーマなどはどのように決めていらっしゃるのでしょうか
 
毎年、参加学生の募集を始めるひと月くらい前に、社内で受け入れ部署を募集しています。その際に「うちの部署ならこういう内容のインターンシップができる」という形で応募してもらっています。プロジェクト型には7〜8年前から取り組んでいますが、プロジェクト数は当時の3~4倍くらい に増えていますし、受け入れ人数も未だに少しずつ増え続けているので、我々採用担当としては本当にありがたいです。
 
―学生を職場に受け入れることに対して協力を得られないという企業の声も聞きますが、貴社の場合、現場の皆さんとどのようなコミュニケーションをとられて、受け入れ部署を増やしていかれたのでしょうか
 
受け入れ部署を増やしていくにあたり、学生を受け入れるメリットを説明して理解を得ていく工夫はしました。あとは、最近増えているのが、すでに受け入れた部署からの口コミです。採用担当がメリットを伝えるよりも、隣の部署の社員から「こういうところが良かったよ」と聞いた方が、現場の社員もやってみようと思えるので、その良いサイクルが回ってきている面があります。
 
―現場の皆さんは、どのようなメリットを感じていらっしゃいますか
 
いろいろあります。「学生を受け入れることで、自分の仕事を改めて整理できた」とか、テーマによっては「エンドユーザーに近い意見を聞けて気づきを得られた」といったものなどでしょうか。
 
―各プロジェクトの質はどのように担保されていますか
 
受け入れ部署全体に向けて方針や注意点を伝える説明会を複数回行い、あとは、相談をもらえば個別にアドバイスしています。例えば、「初めて受け入れるので不安」といった相談を受ければ、他部署の取り組み事例やワークショップ型の例、最近の学生の傾向を伝えるなどしています。
 
あとは、採用担当から受け入れ部署全体に対して「学生扱いしないでほしい」ということも伝えています。新入社員扱いまでいくとさすがにハードルが高いので、学生扱いもお客様扱いもしない、でも新入社員扱いまではいかないプレ新入社員のような位置づけで学生と接してほしいということを伝え、あとは部署ごとにチューニングしてもらっています。
 
―となると、学生はしっかりとした就業体験ができそうですね
 
学生からすると、しんどいと思います。例えばワークショップ型だと、想定顧客への提案内容を検討するにあたり、進め方は一切提示せずに「すべて自分たちのチームで考えてください」と伝えて始めますし、途中で先輩社員役の社員に好きにアドバイスをもらっていい時間を設けてケアしつつも、中間報告などではあえて辛辣な指摘をしたりもします。そうやって、実際に働いたときと同じ環境をつくっています。
 
お客様扱いをして、実際の業務と異なる体験をした結果、学生が勘違いをしたまま入社し、入社後「なんか違う」とすぐに退職することになると誰も幸せにならないので、実際の働き方を知ってもらえるようにしています。

 

プログラムの質を追求し、学生の満足度を高める

 

―参加後の学生の感想にはどのようなものがありますか
 
プロジェクト型もワークショップ型も、多いのは「難しかった」です。ただ同時に、「だから成長できました」「だから自分も、入社後こういう環境にいると成長できるんじゃないかと思いました」という声も多いです。あとは、社員の人柄の良さについての声も聞きます。
 
また、2023年夏のプログラムに多かったのが、「社員が思っていたよりフランクでした」という声です。参加前は、「ものすごく縦割りな会社で、上司に物申せない環境なのでは」というイメージを持っている学生が多かったようですが、実際は風通しの良い会社だと私自身は思いますし、「それがよく分かって、ますます魅力度が上がりました」といった声も終了後には聞きました。
 
あとは、ここ数年増えているのが、参加理由として「先輩が『良い』と言っていたから参加しました」という声です。これは、数年前から、学生の先輩・後輩間の口コミを狙ってプログラムのクオリティを徹底的に上げていく、すなわち、先述したように学生をお客様扱いせず、実際に働いたときと同じ環境をつくることに力を入れてきた成果の現れだと思っています。
 
クオリティの高いプログラムで成長できれば、後輩から就職活動の相談を受けた際に「NTTデータのインターンシップが良かったよ」と言ってくれるのではないだろうかと予想していました。採用担当が100回「うちのインターンシップ良いよ」と言うよりも、先輩が1回「良いよ」と言ってくれる方が絶対に効きます。だからこそ、プログラムのクオリティを上げることに力を入れました。
 
―インターンシップに参加した学生とは、その後どのようなコミュニケーションを取られていますかい
 
採用担当主体で取り組んでいるのは、月1回程度、インターンシップ参加者向けのイベントを実施して招待することです。2023年は、10月〜12月の間、毎月1回イベントを実施しました。
 
あとは、受け入れ部署ごとの判断で、社員が定期的に近況を尋ねたり、受け入れ部署の社員経由で社員訪問に対応したりといったことをしている部署もあると聞いています。
 
インターンシップに参加した学生には採用選考にも応募してもらいたいとは思っていますが、当社のインターンシップは仕事の内容とその流れを伝える場ですし、学生の皆さんには自らの判断で職業を選ぶことをしてもらいたいので、参加してみて「なんか違うな」と思って離脱するのは仕方ないことだと思っています。
 
―入社予定者に占めるインターンシップ参加経験者の割合はどのくらいですか
 
年度により異なりますが、概ね3分の1くらいです。学生からは「インターンシップに参加しないと採用選考には受からないんでしょう?」「インターンシップの選考に落ちると採用選考にも落ちるんでしょう?」とよく言われますが、そんなことはないんですよ。

 

受け入れ枠を増やし、より多くの学生を受け入れていきたい

 

―2024年夏のインターンシップ実施に向けた課題や展望について教えてください
 
プロジェクト型の受け入れ人数をもう少し増やしたいと考えています。というのは、現状、応募いただいた方全員を受け入れられているわけではないため、1人でも多くの方にNTTデータがどのような仕事をしているのかしっかりと知ってもらう機会を提供したい。また、採用の観点でも、インターンシップに参加できなかった方がその後の本選考に応募してくれないケースも多いため、受け入れ枠を増やすことが、そこへの直接的な解決策になるのかなと考えています。
 
また、インターンシップには参加できなかったけれど採用選考では内定を得た人も実際にいるので、「インターンシップの選考に落ちても関係なくチャンスはあるんだ」ということも学生間の口コミなどで広まってくれるといいなと思います。
 
あとは、受け入れ部署に対して、学生への接し方や当社の魅力の伝え方などを伝えることを強化していきたいと考えています。採用担当は今の学生の特徴や傾向を踏まえた声の掛け方や言葉の選び方がわかりますが、現場の社員は皆、ほかの仕事で忙しいので、十分にできているわけではないと思っています。誤った接し方はうちの会社のマイナスにしかならないので、できるだけそういったことがないよう、インナーブランディングなどを行っていきたいと思っています。
 
―インターンシップの設計に悩む企業も多く見られます。学生との良いコミュニケーション機会とするためには、どのようなことに留意して設計するといいでしょうか
 
インターンシップの位置づけや戦略は各社さんによって異なるので、一概に言えることではありませんが、強いて言うならば、学生を過剰にお客様扱いしないことと、変に着飾らないことかなと思います。お客様扱いしたり、変に着飾ったりした結果、学生が実情と異なるイメージを持って入社してきたりする方が、お互いにとって辛いと私は思うので。「変に着飾らない、カッコつけない、ちゃんと知ってもらう」が大事ではないかと思います。

 
―なかなか現場の協力が得られない場合には、どのような工夫ができるでしょうか
 
現場がインターンシップを受け入れられない理由を把握して、何か手立てはないか考えることは、1つ、できる工夫だと思います。
 
現場からの受け入れ拒否を、「ああ、忙しいんだ」と受け止めるのと、「どんなふうに忙しいから受け入れられないんだろう?」と受け止めるのとでは、絶対に違うと思うんです。現場の事情に応じて、例えば、他部署から人を回す、入社1〜2年目社員の研修を兼ねるような立て付けにするなどの対処をすればできる余地があるかもしれない。できる手立てはいろいろとあるように思います。だからといって、我々が十分にできているかというと、そこまで手が回っていないのが正直なところで、もっとやらなきゃいけないなと思っています。
 
もう1つ挙げるとすると、受け入れ部署に対するインセンティブを設計することです。当社の場合、一緒に働きたい学生がいれば教えてほしい、もしその学生が採用選考に応募し入社が決まることがあれば配属時に考慮するということも伝えています。

取材・文/浅田夕香 撮影/刑部友康

 

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