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就職みらい研究所とは
2023.08.02

地域で働く選択肢の一つ「地域未来牽引企業」とは

これからの「働く」を考える Vol.17

「地元に戻りたいけれど、いい仕事がない」「都会じゃないと、やりたい仕事がない」といった言葉が、就職活動中の学生からよく聞かれます。大都市圏以外の地域において働きがいを持って働ける企業をどのように見つけていけばよいのでしょうか?
その糸口の一つとして、今回、地域経済の中心的な担い手となりうる企業を「地域未来牽引企業」として選定し、支援するという経済産業省の取り組みに注目しました。どのような企業が選定されているのか、取り組みの概要について経済産業省・大倉優里さんに伺いました。

 

経済産業省 経済産業政策局
地域経済産業グループ 地域企業高度化推進課
課長補佐(総括)
大倉優里さん


※記事は、2023年7月14日にオンライン取材した内容で掲載しております。

【地域未来牽引企業とは】

経済産業省により選定された、地域経済の中心的な担い手となって地域経済を牽引していくことが期待される事業者のこと。2017年、18年、20年の3回に分けて計約4700社が選定され、経済産業省による各種支援が利用可能になっている。2025年度に更新予定。

 

地域経済への波及効果が高い企業を選定・支援

 

―まずは、地域未来牽引企業の制度を作られた背景から教えてください

 
日本経済全体を発展させるにあたり、地域企業の「稼ぐ力」の向上や、地域経済の好循環を実現させるために、重要なのは地域経済の活性化であると考えたのが発端です。そのためのアプローチ方法として、地域経済の中核を担ってくださっている企業、すなわち、地域経済への波及効果が高い事業を実施している企業を地域の中核企業として明確化して支援することが大事であると考えました。
 
具体的な方策として、地域外への販売額が大きく、かつ、原材料をはじめ事業に必要なものの多くを地域の中から調達している、要は、外から仕事を取ってきて、中に発注している企業が重要になってくるのではないかと考えました。そうして、該当する企業を「地域未来牽引企業」として経済産業大臣名で選定をさせていただいたわけです。経済産業大臣名で選定することで、まずは企業の信用力を高めるとともに、我々から重点的に支援を行うことで、地域経済の活性化の実現を目指しています。
 
―どのような基準で地域未来牽引企業を選定されたのでしょうか
 
選定の基準は、大きく2つ設けました。定量的な基準と定性的な基準です。これらをもとに、地域経済への影響力の大きさや成長性、地域経済のバリューチェーンの中心的な担い手であるかどうかなどを判断し、選定させていただいております。
 
まず、定量的な基準とは、営業利益および従業員数の実数と伸び率、そして、地域外での販売額と地域内での仕入額などの指標です。これらの指標を総合的に評価し、選ばせていただいている企業群があります。
 
また、定性的な基準として、事業内容や経営の手法など地域経済への貢献期待度などをふまえながら、都道府県や市町村、商工団体や地域の金融機関など、地域におけるステークホルダーの皆さんからのご推薦という形で選ばせていただいた企業群もあります。

 

選定を経て、ブランド価値などが向上

 

―1回目の選定が行われた2017年から6年が経過しましたが、地域未来牽引企業において、選定の効果はどのように表れていますか
 
私たちが把握している範囲で、大きく3つあるかなと捉えています。
 
1つめは、企業のブランド価値の向上です。例えば、我々が用意した地域未来牽引企業のロゴマーク【図1】を名刺や採用活動に使用する企業パンフレットなどに掲載したことにより、学生の皆さんが「地域未来牽引企業なんだ」と認識し、結果として人材確保がしやすくなったといったお声を頂戴しております。他にも、「新しい取引先の拡大につながった」「金融機関からの融資が受けやすくなった」といったお声も頂戴しております。
 

【図1】「地域未来牽引企業」ロゴマーク例

 
2つめは、課題解決のための相談や情報を受けられることです。地域未来牽引企業の皆様に事業に対する課題を解決するためのサポート手段を持っていただき、実際に解決していただけています。
 
我々として、北海道から沖縄まで、各地の地域経済産業局をはじめとした合計10の地域拠点に、地域未来牽引企業のサポートを担当する職員を総勢32名、「地域未来コンシェルジュ」という名称で配置し、ご相談事項などがあれば気軽にご連絡いただける体制を整え、実際にご活用いただいております。
 
例えば、地域未来コンシェルジュから補助金の案内を差し上げ、実際にご活用いただいたり、抱えていらっしゃる課題をふまえて企業間マッチングを支援させていただいたりといったことが実現しており、これらも選定の効果ではないかと考えております。
 
―地域未来牽引企業の皆さんから地域未来コンシェルジュの方々が受ける相談には、どのような内容が多いのでしょうか
 
相談内容は本当にさまざまで、ボリュームゾーンを捉えるのは難しいのが正直なところです。一方で、地域未来コンシェルジュが地域未来牽引企業の皆様とのコミュニケーションツールとして一番有益だと感じているのは、補助事業の支援策に関する情報提供です。
 
例えば、地域未来牽引企業の皆様へのアンケートで「カーボンニュートラルに関心がある」とご回答いただいた企業に対して、まずはカーボンニュートラルに関する政策についてWebでご案内する機会をいただきました。コミュニケーションをとる中でエネルギーの活用状況の診断や見える化にも関心を持たれていることが分かったので、経済産業省が提供している「省エネ最適化診断」のサービスをご案内したり、地域の省エネ支援団体におつなぎしたりといった形で各種支援策をご案内し、課題解決につなげていただいたこともあります。
 
―ありがとうございます。3つめは、どのような効果でしょうか
 
3つめは、補助金の獲得機会の拡大です。ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金、通称「ものづくり補助金」など、応募倍率が比較的高い補助事業を含む20ほどの補助事業において、地域未来牽引企業に選定されている企業であれば、審査において加点させていただくなどの優遇措置を講じおります。応募の際には地域未来牽引企業によりチャンスがあるという状況になっていますので、これも選定の効果ではないかと思います。
 
また、これら3つの効果にとどまらず、一部の地域未来牽引企業からは、地域未来牽引企業に選ばれたことによって、既存の従業員の方々が「自分は地域の中核企業で働いているんだ」「外から見ても面白いと思われるような企業で働いているんだ」といった意識を持つようになり、より一層、自身の会社で働くことに意味を見出して従業員のモチベーションが向上したというようなお声も頂戴しております。
 
―お話しいただいた効果については、どのように測定されているのですか
 
我々から地域未来牽引企業の皆様に、折に触れてアンケートなどをさせていただいております。例えば、1つめにお話ししたブランド価値向上については、調査にご協力いただいた地域未来牽引企業の半分くらいが「人材を確保しやすくなった」「新たな取引の拡大に繋がった」「金融機関からの融資が受けやすくなった」など、対外的な影響があると回答しています。
 
あとは、2025年に予定している更新を見据えて、2022年に中間評価という形で売上高、利益率、従業員数など財務指標などの確認と、各企業のこれまでの取り組みや、今後関心を持っている取り組みなどについてアンケート調査を行い、政策効果の分析を行いました。
 
―政策効果の分析結果はどのようなものだったのでしょうか
 
1つ、明らかになったのは、2017年を100としたときの、2021年までの各年の売上高と従業員数の伸び率について、地域未来牽引企業の平均と全企業の平均を比較したところ、地域未来牽引企業の伸び率が、一貫して全企業を上回っていることです【図2】。
 

【図2】地域未来牽引企業の売上高・従業員数の推移

 
さらに、地域未来牽引企業の売上高における高い伸び率が、支援策の効果で生じたものかどうか、地域未来牽引企業と、地域未来牽引企業に類似した非選定企業群を比較し、その差分が統計的に有意かどうか分析したところ(政策効果分析)、地域未来牽引企業のおよそ9割を占める、我々が「中小企業」と分類している資本金1億円以下の企業群においては、明確に政策効果が確認できました。
 
これらの結果をふまえて、地域未来牽引企業の皆様にさらに効果を感じていただけるような施策をしっかりと考えていきたいと思っています。
 
―2025年度の更新を控え、今、地域未来牽引企業に期待されていることは何でしょうか
 
従業員の方々の働きやすさへの配慮ですね。
 
今、少子化対策が喫緊の課題です。また、東京一極集中がなかなか防げていないという課題もあります。これらの点で、地域に良質な雇用を創出してくださる企業が増えることが大事だと思っています。
 
良質な雇用とは何かというと、もちろん、十分な賃金が支払われることもですが、働きやすい企業であるということが非常に重要だと思います。したがって、「くるみん認定(※1)」や「えるぼし認定(※2)」、「健康経営優良法人(※3)」、またそれらに相当する取り組みをしっかりと進め、従業員の方々の働きやすさや働き方にも配慮するような経営スタイルを持っていただくことが大事なのではないかと思っております。
 

※1「子育てサポート企業」として、厚生労働大臣の認定を受けた証。詳細はこちら
 
※2 女性の活躍推進に関する状況などが優良な事業主の方への認定制度。詳細はこちら
 
※3 特に優良な健康経営を実践している法人を顕彰する制度。詳細はこちら

 

地域未来牽引企業は、地域での企業探しの軸の一つになり得る

 

―最後に地域で働くことを志向する学生の皆さんへ、どのように就職先を探すといいのか、アドバイスをお願いします
 
「いい企業」の定義自体が学生さんごとに異なるため、「こういうふうに探せばいい企業が見つかるよ」ということを一概に申し上げるのはなかなか難しいことです。
 
ただ、各地域において、首都圏に比べて知名度の高い企業が少ないために学生の皆さんが情報収集に苦労されていることを考えると、もし、地域経済の中心的な担い手である企業で働きたい、あるいは、そういった企業が「いい企業である」と考え、探したいと思っているような学生さんであれば、地域未来牽引企業であることが、企業選びの一つの軸になりうるのかなと思っています。
 
その場合、地域未来牽引企業の情報をまとめた経済産業省のWebサイトをご覧いただければ、各都道府県の地域未来牽引企業を検索することもできます。全国津々浦々の地域未来牽引企業の取り組み事例を掲載しておりますので、ご自分が働きたいと思っている地域での就職先候補の企業を探していただく際のツールの一つとして使っていただけるといいのではないかと思います【図3】。
 

【図3】地域未来牽引企業取り組み事例紹介ページ(METI Journal)詳細はこちら

 

 
また、地域未来牽引企業の中には、ホームページに地域未来牽引企業のロゴマークを貼ってくださっていたり、事業概要のページに「地域未来牽引企業選定」と書いてくださっていたりするケースもありますので、いろんな形で見つけやすくなっていると思います。
 
加えて、いくら面白そうな事業をやっている企業であっても、私生活を犠牲にしてまで働くものではないと思います。この点で、「くるみん認定」や「えるぼし認定」、「健康経営優良法人認定」など、各種働き方改革に取り組んでいることを客観的に示す認証制度をとっているかどうかも、一つの観点になると思います。
 
我々が把握できている範囲では、地域未来牽引企業のうち、のべ700社程度はいずれかの認証をとっていらっしゃるので、地域の企業で面白いこともしながら安心して働きたいといったお考えをお持ちであれば、就職先の候補の一つになるのではないかと思います。

 

取材・文/浅田夕香

 

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