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2023.09.11

中小規模だからこそできるこだわりを持った食品開発(「地域未来牽引企業」で働く社員)

これからの「働く」を考える Vol.19

経済産業省が選定する、地域経済の中心的な担い手となりうる企業「地域未来牽引企業」で働く3人の社員の仕事ややりがいを紹介する本記事。2人目は、兵庫県神戸市に本社を置く食品メーカー エム・シーシー食品株式会社で働く松元遼平さんにお話を伺いました。

 

エム・シーシー食品株式会社
役員室
松元遼平さん


※記事は、2023年7月31日にオンライン取材した内容で掲載しております。

【Profile】

兵庫県出身。県内の大学を2018年に卒業し、同年、エム・シーシー食品株式会社に入社。同社のクラムチャウダーのおいしさが圧倒的であったこと、また、最終面接での社長とのやりとりを通じてありのままの自分で働けると感じたことなどが入社の決め手となった。大阪支店にて家庭用商品の営業を半年間、業務用商品の営業を4年間担当したのち、2023年4月より役員室にて、自社の事業活動に関する各種データの分析や、既存部署の役割範囲を超える案件の対応、経営会議資料作成、決算書類作成などを担当している。
 
エム・シーシー食品は、兵庫県神戸市に本社を置く、家庭用および業務用の調理缶詰、レトルト食品、冷凍食品の製造・販売を行っている企業。「調合ではなく調理をする」という姿勢を大切にし、原材料へのこだわりはもちろん、生産においてもホテルやレストランなどプロの厨房さながらの手順での調理を大切にし、安全・安心・高品質な商品の開発・製造を行っている。

 

こだわりのある、とんがった中小企業で働きたかった

 

―まずは、エム・シーシー食品さんに入社された経緯からお聞かせください。何を重視して就職活動をされましたか

 
元々食への関心が高く、食品メーカーへの就職を希望していました。実際に応募したのは、兵庫県に本社がある食品メーカーが多かったです。当時はとくに意識していませんでしたが、大学でフィールドワークをもとに兵庫県内のある地域の活性化策を検討しプレゼンするプログラムに参加していたこともあり、地元への思いが強く、無意識のうちに県内の企業に応募していました。
 
あとは、大企業よりは中小企業、しかも、何かこだわりのあるとんがった会社で働いてみたいという気持ちがあったので、「カレーならこの会社」といった特定の食品カテゴリーに強みがあったり、他社にはないこだわりを持っているような関西の食品メーカーを探して応募していました。
 
―エム・シーシー食品さんにはどのようなこだわりを感じたのでしょうか
 
他社ではなかなか見ない、商品へのこだわりです。社訓に「製品は我々の分身であるとの信念で一つ一つの作業をおろそかにせず魂を打ち込む。」という一文があるのですが、「魂を打ち込む」という表現をしている企業を見たことがなくて、そこに職人気質と言いますか、商品へのこだわりを感じました。僕自身も、そういったこだわりを大切にする人間なので、この言葉にひかれてエントリーしました。
 
―エム・シーシー食品さんとはどのようにして出合われたのですか
 
大学時代にアルバイトをしていたスーパーで、エム・シーシーの商品を陳列していたんです。知らないメーカーでしたが、よく売れていたので「どこの会社だろう?」と調べました。そして、大学が主催する合同企業説明会の参加企業に名前があったため、説明を受けに行ったところ、「魂を打ち込む」の言葉に出合いました。
 
―何が入社の決め手になりましたか
 
一つは、エム・シーシーの家庭用商品のクラムチャウダーのおいしさです。選考が進んである程度企業が絞られてきたときに、「自信を持って、家族や友人、パートナー、ユーザーにおすすめできる商品と関わりたい」という思いが強くなり、当時選考に残っていた企業の商品を購入して試食したところ、エム・シーシーのクラムチャウダーのおいしさが圧倒的で、決め手の一つになりました。
 
もう一つは、選考を通じて最も肌に合ったというか、偽りの自分をつくらずに働ける会社だと感じたことです。各選考段階で僕の考えをまっすぐに受け止めてもらえて、気取らずに働けるのではないかと感じました。特に、最終面接での社長との会話で、論理の立て方や、これからの日本の食や食品メーカーのあり方についての考え方が自分の考えに近いと感じたことが大きかったです。
 
―配属について、エム・シーシー食品さんとの間でどのようなコミュニケーションがなされましたか
 
当時も今も、基本的には本人の希望に沿って配属されます。僕の場合は、営業希望であることを伝えたところ、勤務地の希望についてもヒアリングを受け、大阪支社が希望だけれど全国転勤も大丈夫だと伝えました。ただ、同じ職種・勤務地を希望する同期がもう1人いたため、どちらかが大阪支社以外の営業拠点への配属になると言われ、結果としてもう1人の同期が東京支店勤務になりました。

 

地域の中小企業だからできる、地域に密着した商品開発

 

―御社は地域未来牽引企業に選定されていますが、お仕事をされていて地域に貢献していることを実感されることはありますか
 
業務用商品の営業を担当していたときに、かなり実感しました。例えば、弊社では「神戸長田 牛すじぼっかけ」という、牛すじとこんにゃくを甘く煮た神戸市長田区のB級グルメ「ぼっかけ」をレトルトにした業務用・家庭用商品を作っています。これが他になかなかない商品でして、例えば、兵庫県内のあるサービスエリアのメニュー「ぼっかけ丼」に使っていただいたりしています。高速道路を利用されている方々に地元のB級グルメをおいしいと食べていただくことで、確実に神戸に貢献していることを感じていました。
 
また、役員室に来てから特に思っているのは、弊社は神戸に3つ工場を持っていますが、それ自体が珍しいということ。しかも2022年には、4つめの工場を新しく神戸に建てましたので、神戸に対する貢献性の高さを感じているところです。
 
―営業部門の方々が商品企画に携わることもあるのでしょうか
 
あります。商品開発は、基本的には商品開発部主導で行いますが、営業主導で商品を企画・開発するプロジェクトが立ち上がることや、営業が要望する商品を商品開発部がつくることもありますね。
 
最近だと、家庭用商品の「世界のスープ食堂」という、参鶏湯やトムヤンクンなど、世界各国のスープに雑穀を加えたオリジナルスープの開発プロジェクトのメンバーに営業の女性社員が入っていました。女性をターゲットにした商品で、「私たちが欲しい商品をリアルに伝えていこう」と企画・開発を進め、パッケージデザインも工夫しています。通常、弊社の商品がスーパーで販売される際はバイヤーさんによる試食を経て販売商品が決定されますが、この商品に限っては、バイヤーさんがパッケージを見た瞬間に「これを入れる」と「ジャケ買い」されました。これからの可能性を感じるような事例です。
 
業務用商品においても、営業と開発との連携強化を進めています。というのは、弊社の業務用商品の販売先が多種多様であることから、どのようなお客様にどういう商品を売っていくのか?という戦略面にまだまだ改善の余地がまだまだあるんですね。そこで、業務用商品の販売先を「外食」「学校給食」「事業所給食」「ヘルスケア」「デリカ(スーパー等の惣菜)」の5つのセグメントに分け、全国4つの支店を横断してセグメントごとにチームを作り、必要な商品を議論して開発部門に提案する動きが盛んになっています。
 
―約5年間営業を担当されて、現在は役員室に勤務されていますが、どのような業務を担当されているのでしょうか
 
部署全体で、原料調達から生産、販売に至る弊社の事業活動における各種データを分析し、問題視すべき傾向があれば資料を作成して関係部署に提言すること、また、設備投資案件などにおける補助金の活用検討や条件交渉、経営会議資料や決算書類の作成、役員の担当案件の推進、借入先金融機関との折衝や自社の状況報告、既存の部署の担当範囲を超える案件の対応などを担当しています。
 

関西国際大学が中心となり、世界5カ国の大学で実施する海外共同プロジェクト「産学官連携ベンチャー・エコシステムの創成」の一環で、日本を含めた5カ国37名の起業家を志向する大学生が神戸の企業が出す課題の解決に取り組む2週間のプログラムに社として参画。同社として初めての取り組みで、役員室異動直後に松元さん主導で課題設定やワークショップを実施した(写真後列中央の赤いエプロンとコック帽を身につけているのが松元さん)。

 
―営業とはまた異なるお仕事ですが、自社や食品業界の見え方などはどのように変化されましたか
 
視野が広がり、視座も高まりました。というのは、営業時代は自分の担当エリアの予算と売上だけを見ていましたが、今は、全社で何をどれだけ作っていて、原価率はどうなっていて、利益はどれくらい出ていて、今後どうなっていく予定かというデータを全て見ることができますし、僕自身はまだまだこれからですが、こうした方がより良くなるのではないかとう全社的な提言をする役割もあります。そのように、会社そのものを動かすことができるような場所に来ているのは、やりがいと同時に責任もありますし、より自分の能力を高める必要があることを痛感しています。
 
まだまだ提言できるところには行きつけていませんが、将来的にそれができれば、もっと楽しくなっていくかもしれませんし、自分の提言によってエム・シーシーがより良くなっていけば素晴らしいことだと思います。
 
―今後のありたい姿やキャリアプランなどはどのように考えていらっしゃいますか
 
役員室に来たことで営業以外の仕事の面白さも感じるようになって選択肢が広がり、正直なところこの先のキャリアははっきりとは見えていません。ただ、すぐに転職することはないでしょうし、どのようにしてこの会社に貢献していけるかを考えていかなければならないという考えでいます。
 
―すぐに転職することはないと考えていらっしゃる理由は何でしょうか
 
役員室に来て社長、常務、両名が描くビジョンを身近に聞き、これだけまっすぐにものを作っている会社や、広告を打たずにここまで生き残っている企業はそうそうないんじゃないかと感じています。それでいて、さまざまなメディアから取材依頼が来るだけの素晴らしい商品を作れている。また、エム・シーシーの商品は、生活必需品というよりは嗜好品に近い特性があり、その「もの」に惚れ込んでいる社員が多いんです。この惚れ込めるところが消えてしまわない限り、皆エム・シーシーで頑張っていくだろうし、僕もその一人なんだろうなと思いますね。

 

自分の中で譲れない点を決めて企業選びを

 

―これから社会に出る学生、とくに、地域で働くことを検討している学生の皆さんに対して、企業の探し方や入社後にやりがいを持って働くためのアドバイスをお願いします
 
偉そうなことを言ってしまうかもしれませんが、企業を選ぶ際に、何かしら「一番大切にしたい」という項目を持っておくことをおすすめします。給料、福利厚生、勤務時間、勤務地、その他もろもろの就職に際して思い描く条件の中でどれを一番大事にするのかは、正解のないことですが、全てを兼ね備えている企業は応募倍率がかなり高いと思うので、「ここは絶対に譲れない」という項目を1つ持っておくことで、絞り込みやすくなると思います。

 

取材・文/浅田夕香

 

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