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2022.12.01

「学ぶ」と「働く」をつなげる。 2か月間の「実務訓練」(実践型インターンシップ)から見えた、社内の変化と産学連携の価値とは

これからの「働く」を考える Vol.14
 
豊橋技術科学大学(愛知県豊橋市)が開学以来行ってきた「実務訓練」(実践型インターンシップ)。その受け入れ企業として大学と長く関係を築いているのが、医療機器や眼鏡機器など光学機器メーカーとして50年以上の歴史を持つ株式会社ニデックです。どのようなプログラムを用意し、実務訓練を行うことで企業側にどんなメリットを感じているのか。研究開発本部 先端技術研究所 所長の足立宗之さんに話をうかがいました。

 

株式会社ニデック
研究開発本部 先端技術研究所 所長
足立宗之さま


※記事は、2022年11月16日にオンライン取材した内容で掲載しております。

1976年の開学以来、学部4年次の必修科目(6単位)として先駆的に推進してきた産学連携教育である「実務訓練」(実践型インターンシップ)。卒業研究を終えた1~2月の7週間、全国の200社近い受け入れ企業と約450名の4年生がマッチングを図り、各社で実務経験を積む。基礎と専門を繰り返して学ぶ技術科学教育システム「らせん型教育」の中核を担うプログラムである。

 

【Company Profile】
1971年の創業以来、「見えないものを見えるようにしたい」、「見えたものを認識できるようにしたい」、「眼に関する優れた機器を作りたい」という想いのもと、医療、眼鏡機器、コーティングの3つの分野に事業を展開してきた株式会社ニデック。
近年は、「目で培った技術をもとに、健康で快適な生活を提供したい」という想いを込め、疾病の予防や早期発見を目的とした診断機器、体に負担の少ない低侵襲な手術装置の開発、再生医療などの商品を手掛けています。

 

2か月後のゴールを自分で設計。自ら考え動く力を鍛える、学生に寄り添ったプログラム

 

―ニデック様は「実務訓練」の受け入れ企業としてどのようなプログラムを用意しているのでしょうか。取り組み内容を教えてください
 
学生の皆さんの興味関心に沿うように、2~3つのテーマを用意し、選んでもらうようにしています。
私が所長を務める研究開発本部には、光学機器に関する基礎研究から装置の設計、製品開発まで、さまざまな業務フェーズがあります。受け入れる学生の研究領域に合わせて、どこを一番やりたいかヒアリングし、できるだけ希望を叶える形でプログラムを再考することもあります。2021年度に受け入れた学生は、基礎研究から製品開発まで全て経験したいと話したため、3週間ずつに区切って全分野を学んでもらうプログラムを進めました。

 
また、豊橋技科大では、学生が「実務訓練」を通じて伸ばしたいスキルを記す「スキルチェックシート」を用意されています。それに基づいて、学生への接し方やチーム体制を考えることもあります。例えば、「リーダーシップ」を伸ばしたい学生ならチームワークを重視したプロジェクトに参加してもらったり、「論理的思考力」を身に着けたい学生なら、業務の進捗報告の回数を増やし、やってきたことを論理的に説明する力を伸ばそうと工夫したりしました。
 
―一人ひとりの学生に寄り添い、手作りでプログラムを用意されているんですね。その受け入れ姿勢は、どう作られてきたのでしょうか
 
学生の受け入れ自体は、豊橋技科大が「実務訓練」を始めた初期段階から続いています。私が新入社員だった年にも学生が来ていて、その2年後に入社した方もいました。受け入れ当初は、学生を一人の戦力として、アルバイト人材のようにとらえていた節があったようです。
 
ただ、「実務訓練」は就職活動におけるインターンシップとは意味合いが異なり、大学教育の一環です。教育目線でプログラムを組んでいかなければ、学生にとっての学びにならず、2か月という長い期間をモチベーション高く過ごせないのではないか。2010年頃から、そう改めて考え直し、学生にも、受け入れる社員にとっても学びになるようなプログラム設計に力を入れるようになりました。
 
―学生にとって学びになるプログラムとは、具体的にどのような取り組みでしょうか。また学生とのコミュニケーションではどのようなことを心がけていらっしゃるのですか
 
学びにはPDCAを回すことが大切です。そこで、学生には2か月間「日報」を提出してもらい、日々何を得て、次にどう活かしたいのかを言語化してもらいます。
 
コミュニケーションという点では、学生が自ら考える機会をできるだけたくさん作りたいと考えています。学生から「これってどうすればいいですか」と“回答”を求められたときには、「どうしたらいいと思う?」と投げ返します。開発の“進め方”や、分からないことの“調べ方”のアドバイスはするけれど、すぐに答えを渡しません。自分で主体的に考えるクセをつけてもらいたいと思うからです。
 
同じ思いから、学生には、実務訓練の2か月間で何を達成したいのか、自分の「ゴール」を自分で設定してもらいます。やってもらいたいことはある程度こちらから示しつつも、どんなプロセスでやるのか、どこまでの完成度を求めるのかは自分で決めてもらう。そして、最終的な成果と、自ら設定したゴールを照らし合わせて、自己評価もしてもらいます。
 

教育担当(写真左)が見守る中、光学機器の性能評価の実験を行っている。まだ世に出ていない新製品を扱う機会もある。

受け入れる社員にとって、マネジメント経験の実践の場になっている

 

―学生の段階で、そこまで求められて働く経験は価値がありますね。実務訓練を通じて、学生にはどのような変化が見られますか
 
実務訓練に対する意欲は、学生にとってまちまちです。中には、「授業の一環としてやらなくちゃいけないから」という消極的な考えの学生もいるでしょう。でも、「自分で答えを見つけ出しなさい」「まずは自分で考えなさい」というスタンスで接していくと、最初は受け身だった学生が少しずつ変化していくんです。必要な情報を自分で集め、最終的なゴールにたどり着くためのプランを立てて、工夫し始める。そんな変化に出合えることも、学生を受け入れる良さだなと感じています。
 
―学生に合わせて複数のテーマを用意し、2か月間受け入れるのは、大変なパワーがかかるのでは。受け入れ側のメリットや、取り組みを続けている理由はどこにありますか
 
受け入れをスタートした当初は、「優秀な学生を採用したい」という目的が大きかったと思います。実際に採用できたケースもありますが、数年に一度入社につながるほどで、採用に直結する活動という意味合いは弱いかなと思っています。
 
では当社にとっての価値は何があるかといえば、一つは産学連携です。実務訓練により、豊橋技科大の先生方と接点が生まれ、大学での研究動向を知るきっかけになっています。実務訓練では、受け入れ期間中に中間視察があり、我々社員側と学生、指導教員とがディスカッションする機会もあります。そうした交流を機に、これからも定期的な情報交換を続けていけば、一緒に研究開発ができるようになるかもしれません。ゆくゆくは、製品化につなげられる可能性もあります。産学連携が進むことで、学生の間で当社の認知度が広がり、結果的に採用力の強化にもつながっていけばいいなと思っています。
 
もう一つは、受け入れる社員の成長機会になっている点です。受け入れの際は、学生の教育担当を20~30代の若手社員から選定しています。中でも、マネジメント志向のあるメンバーや、リーダーとしての資質が高いメンバーを選び、早い段階で「部下を持つ疑似体験」をしてもらう。実務訓練は、社員にとっても実践的な学びの機会になっているんです。
 
―受け入れ側の社員に、どのような変化が見られますか
 
それまで、上からの指示を受けて仕事を進めることが多いメンバーが、実務訓練では学生に仕事を出し、アドバイスする側になります。渡したい業務内容を自分で決め、どう伝えれば動きやすいかを考え、学生が2か月を通じて成長できるように導いていかなければいけません。
 
とても頼もしくなりますし、マネジメント適性や課題も見えてきます。先ほどお話した、「学生に自ら考えてもらう」仕掛けも、社員がその意義をよく理解してコミュニケーションをとらなければ成り立ちません。実務訓練後に社員と1on1で話したところ、「指導側になってみたら、自分のこんな点がマネジメントに向いていると思いました」など、新たな自己発見につなげているメンバーもいました。マネジメント候補の発掘と育成という点で、組織にもたらす影響は大きいと感じています。
 
―今後、高等教育を含めた“学び”を活かした人材活用のために、企業が取り組むべきことは何だと思いますか
 
教育に短期的なメリットを見出すべきではないかもしれません。ただ、長期インターンシップを実施するのであれば、企業側にとって“やり続ける意味”をどこに持ってくるか、きちんと考えたほうがいいと思います。
 
我々のように研究開発をベースにしたメーカーであれば、産学連携の意義は大きいのではないでしょうか。事業にとっても社員にとっても、大学の研究室と接点を持ち情報交換できることは貴重なインプットになり、大学側とWin-Winの関係を構築できます。中長期的な視点で、自社にどんな価値をもたらしてくれるかを言語化することが大切だと思います。
 
―最後に、「大学での学びを活かした仕事をしたい」と考える学生の皆さんへ、進路選びの考え方、企業探しのアドバイスをいただけますか。
 
自分の“得意”なことは何かを、よく理解すること。そのうえで、人生を通してやりたいこと、毎日を豊かにしてくれるものを考えることが大切だと思います。
 
社会では、大学や大学院までの教育のフィールドと異なり、“成果につなげる”ことが必ず求められます。成果を出す上で、得意なことに取り組めるかどうかは大事な要素。自己分析を深め、どんな仕事が自分に向いているのか、その職種がある業界はどこで、どの企業がいいのかを、徐々に広げて考えていってほしいと思います。

 

取材・文/田中瑠子

 

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