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2022.10.27

「学ぶ」と「働く」をつなげる。 豊橋技術科学大学による、2カ月間の「実務訓練」(実践型インターンシップ)がもたらす変化
これからの「働く」を考える Vol.13

1976年に設置された国立大学法人豊橋技術科学大学(愛知県豊橋市)では、開学以来ずっと「実務訓練」を実施してきました。大学4年生の1~2月の約2カ月間、企業での実務経験を積むという本プログラム。「産学連携」の言葉もなかった時代から継続してきた取り組みについて、その意義、学生や企業への影響について、同大学実務訓練実施委員会 委員長の戸髙義一さんに話をうかがいました。

 

豊橋技術科学大学
実務訓練実施委員会 委員長/大学院工学研究科機械工学系 教授
戸髙 義一さん


※記事は、2022年10月7日にオンライン取材した内容で掲載しております。

【豊橋技術科学大学「実務訓練」とは】

1976年の開学以来、学部4年次の必修科目(6単位)として先駆的に推進してきた産学連携教育。12月に卒業研究を終えた1~2月の2カ月間、全国の200社近い受入企業(公的機関含む)と約450名の4年生とのマッチングを図り、各社で実務経験を積む。大学入学から大学院までの間に、2年ごとに基礎と専門を繰り返して学び高度化・専門化していく技術科学教育システム「らせん型教育」の中核を担うプログラムである。

高等専門学校生(5年)の卒業後の進路として開学した豊橋技術科学大学は、学生の8割が高専卒で学部3年次から編入する。同大学では、多くの学生が大学院に進学するため、大学院(博士前期課程2年次)までの学部・大学院一貫教育を行っている。

 

卒業研究を終えた自分の「現在地」を知り、将来の進路を考える

 

――豊橋技術科学大学が独自に推進してきた「実務訓練」の特徴、他大学におけるインターンシップとの違いを教えてください
 
そもそも豊橋技術科学大学は、高等専門学校(高専)の卒業生を受け入れる大学として1976年に開学しました。今も8割の学生が5年間の高専教育を終えて学部3年次から編入し、2割が高校卒業後に学部1年次に入学します。1年次から入学した学生は、2年次終了前にプレ卒研をまとめるなど、高専生と遜色のない知識・実践力を身につけます。そして全体の8割の学生が大学院に進学し、「学部・大学院一貫教育」が本学の特徴となっています。
 

図1 豊橋技術科学大学の実務訓練実施時期



同大学では、学部・大学院一貫教育を行っており、多くの学生が大学院に進学している。
 
 
開学以来続けてきた「実務訓練」は、大学院に進む直前である学部4年生の1~2月に約2カ月間行われます(図1)。約200社の受入企業が、「こんなプロジェクトに参画してほしい」「一緒に製品開発を進めてほしい」「基礎研究として実験・評価をしてほしい」などさまざまなテーマで学生を募集。約450名の学生が、自分の研究分野とのつながりややりたいことを考えて希望を出します。双方をマッチングさせた上で、学生は“いち社員”のように実務に携わっていくのです。
 
2カ月という長い期間、その企業に身を置くため、企業側は学生に対して戦力としての貢献を期待します。数日のインターンシップのように、お互いに「お客様としてもてなす」「実務を経験させてもらう」感覚が拭えないまま終わることはありません。研究を通じて学んできたことが、実社会の仕事にどうつながっているのか、実務を通じて学べる点が大きな特徴だと考えています。
 
――実務訓練の実施時期を4年生の1~2月に設けています。どのような意図があるのでしょうか
 
4年の1~2月に行うのは、学部の集大成である卒業研究の発表が12月下旬にあるためです。4年間の勉学、研究を終えたあとに企業での就業体験を積むからこそ、自分の実力が社会でどれだけ役立つのかを知ることになります。大学と企業で求められることの違いを知り、自身の現在地を理解することで、大学院で何を学ぶべきか、どのような力を伸ばすべきかを考えるきっかけにもなるでしょう。
 
また、就職活動前の学部生である点も重要です。就活を意識すると、学生の希望は大手企業や人気企業に集中しがちです。しかし、就活前だからこそ、これまでの研究やこれからの大学院での学びとリンクさせて企業を選ぶことができます。企業から与えられるテーマやプロジェクト内容を見て「卒業研究で得た知識を活かせそう」と選ぶ学生もいますし、あえて違う分野に挑戦して自分に合うかを見てみたい、という学生もいます。学びと仕事とをよりフラットに結びつけられる点で、4年の1~2月は最適な時期だと思っています。
 
――200社近くの受入企業は、どのように参加いただけるようになりましたか
 
開学当初は「産学連携」という言葉もなく、賛同いただける企業探しは大変だったのではないかと思います。
豊橋技術科学大学は「技術を支える科学の探究によって新たな技術を開発する学問」である「技術科学」の教育・研究を基本理念として、技術を深めるために科学に落とし込んでいくことを大事にしてきました。だからこそ、仕事の現場を知ることが欠かせないのだと1社1社に丁寧に説明していきながら、少しずつ協力いただける企業を増やしてきました。受入企業先は、メーカーやIT企業の技術系職種、シンクタンクでの調査研究職、自治体のDX推進部、都市計画部など多岐にわたります。コロナ禍前には、実務訓練に参画する450名の学生のうち、80名程度が海外で履修していました。
 
――学生と企業とのマッチングはどのように進めていますか
 
まず企業側に学生を受け入れていただけるかを確認した上で、どのようなテーマをご用意いただけるかを提案いただきます。その内容を一覧にして、学生に希望を出してもらいます。
 
会社で選ぶ学生もいますが、大学院で学ぶ分野や将来のキャリアを考えて、具体的なプロジェクト内容で選ぶ学生もいます。基礎研究に関心がある学生もいれば、技術開発に興味がある学生もいる。あるいは、製品開発がやりたいという学生もいて、関心領域はさまざまです。学生の要望に応じて、企業側が非常に柔軟に「この学生を受け入れるなら、基礎研究に寄ったこんなプロジェクトを設けましょう」などと、ほかの選択肢を用意してくださるところもあり、受入企業の対応に非常に助けられています。

 

実務経験を積むから得られる、責任感と目的意識

 
――2カ月間、学生を受け入れ実務を体験させるのは、参画企業にとっても大変なことだと思います。企業側は、学生の受け入れのメリットをどう捉えているのでしょうか
 
おっしゃる通り、企業の担当者の皆さんには、さまざまな工夫をしていただいており頭が上がりません。プロジェクトテーマを複数用意いただいたり、学生の教育担当をつけてくださったり。受入企業は全国にあるので、社員寮や宿泊先を用意いただける企業も多いです。
 
一方で、そうした学生を受け入れること自体が、社員の学びにつながっているとの声は多くいただいています。社員は学生を指導する中で教える力を試されると同時に、学生が持つ専門的なスキルを吸収できます。「大学で学び直さなければいけないような知識を、学生との協業によって得られた」と言っていただけることもあるのです。リスキリングのような機会になっているのだと思います。
 
実際に、本学の学生は、研究を通じて最先端の技術、専門的な知識を学んでいます。特に卒業研究まで終えた4年生は、実践的な研究にも慣れているので、企業からは「既存社員より深い専門知識を持っている」「戦力になる学生が来てくれてありがたい」と感謝されることも少なくありません。
 
また、学生を受け入れることで社内の多様性につなげているケースもあります。まだ事例は少ないですが、例えば本学の外国人留学生の受け入れを通じて、将来のグローバル人材採用に向けた土台を作っている、という声もあります。学生という外部人材が入ることで、企業にさまざまな刺激をもたらしているのではないかと考えています。
 
――学生が実務訓練を経て得られる知見とは? 履修を終えた学生にどのような変化がありますか
 
大学で学んできたことが、ビジネスの現場で通用しないことは多々あります。大学だけでは失われがちな多面的な視点に気づけることが、実務訓練の大きな収穫ではないでしょうか。
 
例えば、研究開発における薬品の取り扱いなどの基本的な「安全管理」においても、大学で学ぶやり方と企業のやり方では異なることがあります。扱う商材によって切り口が異なるのであれば、「研究で学んできた基礎知識を、社会に出たらこう活かさないといけないんだな」と学ぶことができるでしょう。
 
学生を見ていると、実務訓練後に責任感と目的意識が芽生えたな、と感じることが多いです。学部の研究室では、教員や先輩に教えてもらい、指示を受けながら研究をすることも多く、ある程度受け身でいても物事は進んでいきます。しかし実務訓練では、2カ月間のプロジェクトで「あなたはここを担当してください」「納期はこの日です」と明確な目標設定があります。自分がやらなければ進みませんし、ビジネスの世界ですから「間に合わなかった」では済まされない。責任を全うする厳しさを学び、頼もしくなって帰ってきます。
 
そして、社員と同じように出社したり会議に出たりと“社会人の生活”を体験すると、自分はどんな仕事に就いて、どんな地域でどんな人たちと、どんな働き方をしたいのかをリアルに考えるようになります。
 
実際に仕事としてやってみたら、「この分野は向いていないのではないか」「もっと違う領域に挑戦したほうが良いのではないか」と気づきを得る学生もいます。社会に出る前に、失敗しても良いので挑戦することで将来を考えるきっかけとなり、大学院で何を学ぶべきか、明確な目的意識のもとに設計するようになるのです。その後の研究に対する意欲も変わり、大学院修了後の納得感のある進路選択につながっていくと考えています。
 
実務訓練前後で学生や受け入れ企業に実施したアンケート(*)結果では、学生・企業ともに実務訓練後は全ての項目で評価が高くなっていました。特に学生自身が伸ばしたい能力として目標設定した項目の伸びが顕著であり、実務訓練を通じ学生自身も成長を実感できていると考えています。
 
*高専モデルコアカリキュラムでの「技術者が備えるべき分野横断的能力」を参考に作成
 
 
――実務訓練を実施することで、その企業へ就職することもあるのでしょうか
 
実務訓練先に限定した就職率は5%ほどで、高くはありません。ただ、実務訓練に協力いただいている受入企業には、大学での合同説明会に参加いただいており、そのつながりから、本学の学生が就職先に選ぶことはあります。学生同士で「あの企業なら、(自分の分野とは違うけれど)あなたの研究領域とマッチするのでは」と情報交換し合うこともあります。受入企業には、「実務訓練は教育の一環である」ことをよく理解いただいていますが、一方で、できれば就職してほしいという期待はあるでしょう。その思いに応えられるよう、学生との接点はできるだけ増やしていきたいと思っています。
 
また、実務訓練期間中は指導教員が企業に視察に行っており、そこで企業とのコミュニケーションが生まれます。教員側も、企業が求めている人材像について教えてもらいますし、企業からは「うちの会社は学生からどう見えているのだろう」と“学生の本音”を聞かれます。こちらからお伝えしたことを採用PRに活かしたり、組織改善につなげたりする企業もあり、採用力強化に間接的につながっているかもしれません。
 
――最後に、「大学での学びを活かした仕事をしたい」と考える学生の皆さんへ、進路選びの考え方、企業探しのアドバイスをいただけますか
 
普段いる場所から離れたところに自分を置いてみると、さまざまな発見があります。アルバイトでも留学でもインターンシップでもいい。大学の研究室という小さな世界から出て、多様な人と触れると、自分の強みがほかの場所でどう活きるのかが見えてくるでしょう。
客観的な視点がなければ、「自分らしさ」にはなかなか気づけない。自分ならではの提案が活きる現場を探すために、普段いる場所からどんどん飛び出していってほしいと思います。

 

取材・文/田中瑠子

 

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