2021.10.19

これからの「働く」を考える Vol.4 広島県が「働きがい」向上に取り組む企業を「推す」理由

自治体のまなざしからも、これからの「働く」が見えてきます。今回は、「働きがい」に注目して企業の働き方改革を支援している広島県に、県が考える「働きがいのある会社」の定義や、民間機関による「働きがい」の現状を可視化する調査への参加をサポートする「働きがい向上促進支援補助事業」を2021年度に立ち上げた経緯、参加企業の特徴などについてうかがいました。また、そのような取り組みは学生の皆さんにはどのように映るのでしょうか。地元学生3名に「働きがい」について聞きました。
 

広島県 商工労働局
働き方改革推進・働く女性応援課
働き方改革推進グループ

兼田みゆきさん(右)、菊山由恵さん(左)


※記事は、2021年8月16日にオンライン取材した内容で掲載しております。

2021年度から「働きがい」向上に向けて積極的に働き方改革に取り組む企業など(広島県内に本社を置く中小企業など)を対象に、「働きがい」の調査・研究機関として世界的な活動を行うGreat Place to Work® Institute Japan(以下GPTW)の「働きがいのある会社」調査に参加する費用と、アフターフォローセミナー受講費用の一部を補助する「働きがい向上促進支援補助事業」を開始。2021年度は2回の募集があり、第1回の申請受付期間は5月10日〜6月18日(交付決定企業数17社)、第2回の申請受付期間は7月1日〜9月30日。

 

「さらに進んだ働き方改革」として県内企業の「働きがい」の向上を支援

 

――――広島県では、働き方改革関連法施行(2019年から順次施行)前の2016年度から県内企業の働き方改革推進支援を実施されています。いち早く取り組まれたのはなぜだったのでしょうか
 
兼田さん:背景には、人口減少やグローバル化などによる地域の環境変化があります。激しい社会の変化に対応するため、広島県では2015年に総合計画「ひろしま未来チャレンジビジョン」(2020年度終了)を改定。「将来にわたって、『広島に生まれ、育ち、住み、働いてよかった』と心から思える広島県の実現」を基本理念に、「仕事も暮らしも。欲張りなライフスタイルの実現」を「目指す姿」として掲げました。
 
その姿の具現化に向けて、県では「人づくり」「新たな経済成長」「安心な暮らしづくり」「豊かな地域づくり」の4つの政策分野からアプローチ。働き方改革は「人づくり」における重点施策のひとつに位置づけられ、広島県商工会議所連合会などの経済団体とも連携して機運を醸成するとともに、「広島県働き方改革実践企業認定制度(2017年度〜2020年度。働き方改革を実践し、さまざまな実績や成果を上げている企業を経済団体が認定する制度)」といった施策により、企業の取り組みを支援してきました。
 
2021年度からスタートした総合計画「安心・誇り・挑戦ひろしまビジョン」においても、「働き方改革の推進」は重点施策であり、現在は「さらに進んだ働き方改革」として、「働きやすさ(時間や場所にとらわれず、従業員が個々の状況や価値観に合わせて、自分らしく働くことができている状態 )」のみならず「働きがい(従業員が所属する組織で働く価値を感じながら、意欲的かつ自律的に仕事に取り組むことができている状態 )」のある職場づくりに向けた支援を行っています。

 

「働きがい」向上に取り組む県内企業の7割が経営上の成果を感じている

 

――――働き方改革の推進において、「働きやすさ」のみならず「働きがい」の向上を重視される理由は何でしょうか
 
菊山さん:広島県の考える「働き方改革」とは、「一人ひとりがそれぞれの能力を最大限に発揮し、意欲的に働ける組織づくり」によって企業価値や業績を高め、「企業の持続的な成長」を実現すること。その土台として法令順守によって誰もが「安心・安全に働ける環境」を整えた上で、従業員が個々のライフスタイルや価値観に合わせて柔軟な働き方ができるよう「働きやすさ」を高めることは非常に重要です。
 
しかし、働き方改革の究極の目的は、企業価値や業績を高め、「企業の持続的な成長」を実現すること。そのためには「働きやすさ」だけでなく、「仕事を通して成長できる」「周囲に役立っていると感じられる」といった「働きがい」を高める必要があることが、2019年度に「広島県働き方改革実践企業認定企業」に対して行ったアンケート調査の結果にも表れています。
 
この調査によると、「働きがい」向上に向けた取り組みを実施している企業のうち、経営上の成果を感じている企業は7割以上でした。さらに、「働きがい」向上に取り組んでいる企業と取り組んでいない企業を比較すると、「生産性の向上」、「従業員の定着状況」、「3年前と比較した経常利益」、「新卒・中途採用の充足状況」において、取り組みのない企業よりも取り組みのある企業が高い数値を示していました。(図1)
 

【図1】広島県働き方改革実践企業(認定企業)対象のアンケート結果

 

出典:2019年 広島県働き方改革実践企業(認定企業)アンケート

 
県内企業全体の状況に目を向けると、働き方改革に取り組む企業は着実に増えており、その多くは「働きやすさ」の向上に向けた取り組みをすでに実践しています。広島県が毎年実施している調査では、働き方改革に取り組んでいる県内企業(従業員31名以上)の割合は,2019年が75%でした。初回調査の2016年(35.5%)から4年間で40ポイント増加しています。また、2019年の同調査で働き方改革の取り組みを「実施している」と回答した企業のうち、約8割の企業が「休暇の取得促進」「残業の削減」といった「働きやすさ」向上の取り組みを実践していました
 
一方、何らかの「働きがい」向上の取り組みを実践している企業は3割に留まり、「働きがい」向上については途上にあります。そこで、広島県が働き方改革で目指す、「企業の持続的成長につながる、一人ひとりがそれぞれの能力を最大限に発揮できる組織づくり」に向けて、次に注力すべきは「働きがい」向上の支援だと考えました。

 

「働きがいのある会社」とは、「全従業員が活躍する組織」

 

――――広島県の考える「働きがいのある会社」とは、どのような組織でしょうか
 
兼田さん:個人にとっての「働きがい」は、一人ひとり受け止め方が異なるもの。あくまで個人の内面から自発的に生まれるものであり、「働きがいのある会社」の定義はそれぞれです。一方、企業の観点から見れば、「働きがいのある会社」とは「全従業員が活躍する組織」。下の【図2】は広島県が考える「働きがいのある会社(全従業員が活躍する組織)」をモデル化したものです。
 

【図2】広島県企業が目指す「働きがいのある会社(全従業員が活躍する組織)」モデル

広島県作成

 
各種調査や研究によると、能力を最大限に発揮し、活躍している従業員に共通した心理的要素として、「連帯感」「信頼」「貢献」「誇り」「成長・自己実現」の5つが挙げられます。この5つの心理的要素は、組織からの働きかけ(「制度づくり(ハード)」「効果的なマネジメント(ソフト)」「企業文化の醸成(ハート)」)によって高めることが可能です。また、組織からの働きかけの効果を上げるには、それぞれの施策が経営理念や経営戦略に基づいたものであることが重要であり、経営的な視点が大きな要となります。

 

自社の「働きがい」の現状を「見える化」する決断には、「覚悟」が伴う

 

――――県内企業の「働きがい」向上支援の一施策として、GPTWの調査やアフターフォローセミナーの参加費を補助する「働きがい向上促進支援補助事業」を2021年度から実施されています。この事業の狙いを教えてください
 
兼田さん:GPTWは1991年に米国で活動を始め、現在は世界60カ国において共通の評価基準、方法で働きがいのある会社の認定やランキング公表を行なっており、「働きがい」に関する高い知見とともに国際的な発信力も持っています。信頼性のある調査機関を活用し、「働きがい」向上に積極的に取り組む優良企業を情報発信することにより、県内企業の「働きがい」向上に対する関心を高めるとともに、「働きがい」向上に取り組む企業の裾野を広げることがこの事業のひとつの狙いです。
 
また、「働きがい」向上における目標を企業に提示することにより、自発的な取り組みのきっかけになればという思いもありました。GPTWの「働きがいのある会社」調査では、「働く人へのアンケート」と「会社へのアンケート」によって職場の「働きがい」やエンゲージメントが可視化されます。また、調査結果がGPTWの定める水準を超えた企業は「働きがい認定企業」として認定されるとともに、上位企業は「働きがいのある会社」ランキング入賞企業として公表されるため、企業のモチベーションを高めやすいと考えました。
 
――――現在は「第一回働きがい向上促進支援補助事業」の参加企業17社が決まり、各企業の調査が始まった段階です。現時点での企業の反応や県としての手ごたえはいかがでしょうか
 
菊山さん:「働きがい」は「働きやすさ」に比べて抽象的で分かりづらく、企業がその向上の意義やメリットを認識しづらいところがあります。また、「働きがい向上促進支援補助事業」は新事業で認知度が低いこともあり、公募にあたっては、すでに働き方改革の取り組みを進めている企業を中心に県の職員が個別に面談し、事業の目的や「働きがい」について説明を行いました。
 
その影響もあってか、第一回の公募への県内企業の反応は予想以上に好感触でした。参加企業の業種は製造業、建設業、医療福祉など多岐にわたり、規模も従業員約400名から約25名までさまざま。特徴としては、これまで働き方改革に着実に取り組んでおり、もう一段階ステップアップしたいと考える企業が多いことが挙げられます。認定やランキング入賞よりも、調査によって自社の働きがいの現状を「見える化」し、さらなる「働きがい」向上につなげることを目的に応募する企業が多く、事業の狙いをしっかりと理解して調査に参加していただいていることに確かな手ごたえを感じています。
 
兼田さん:事業を実施してあらためて分かったのは、企業にとってこうした調査を受け、「働きがい」を「見える化」するのは、相応の覚悟がいるということです。とくにGPTWの調査は従業員の評価が反映されますから、この調査に参加することそのものが、その企業が「働きがい」の向上に取り組んでいく、という大きなメッセージになります。本気で取り組みを実践していくという意気込みが経営者になければ、参加の決断はできないはずです。

 

人生を豊かにするには、「働きやすさ」とともに「働きがい」のある環境で働きたい

 

――――学生に向けて、企業や仕事を選ぶポイントについてアドバイスをお願いします
 
兼田さん:「働きやすさ」と「働きがい」、両方の観点から自分に合った企業や仕事を選ぶことをおすすめしたいです。「休暇が取りやすい」「残業時間が少ない」といった「働きやすさ」が実現できている環境でワークライフバランスを取って自分らしく働くことはもちろん大事ですが、一般に働く時間というのは、1日のうち多くの割合を占めます。人生を豊かにするには、意欲的に仕事に向き合える「働きがい」のある環境を選び、働く時間を充実したものにすることも非常に重要ではないでしょうか。
 
菊山さん:従業員の「働きがい」を高めることを重視している広島県内企業を見ていると、先ほどご紹介した「働きがいのある会社(全従業員が活躍する組織)」モデルに合致した働きかけを行っています。
 
具体的には、第一に、経営理念や経営戦略,あるいは方針会議などで、従業員の「働きがい」を高めていくことについて明確に示しています。そして、いわゆる「年功序列」を見直し、個人の成果がしっかりと反映される評価制度を設けるといった「制度づくり(ハード)」や、現場に権限を委譲することによって組織に対する信頼感を高めるといった「効果的なマネジメント(ソフト)」や、それらの結果生み出される「企業文化の醸成(ハート)」により、従業員の意欲向上につなげています。
 
企業選びをする際には、従業員の「働きがい」、あるいはモチベーション、幸福、といったことを大切にしているかという点にぜひ注目いただきたいです。そうしたことを会社の方針としてホームページで発信している企業も多いです。
 
また、「働く仲間としっかりコミュニケーションをとれている職場か(連帯感)」「社会に役立っていると感じられる仕事か(貢献)」「指示されたことをやるだけでなく、仕事をしっかり任せられ自分の意思で仕事ができる職場か(信頼,自己実現・成長)」といった視点をもつことで、「働きがい」のある企業や仕事に出合いやすくなると思います。
 

 

【地元学生に聞く「働きがい」】

広島県の「働きがい支援」の取り組みを、学生の皆さんはどのように感じるのでしょうか。広島県出身で、インターンシップを通じて県内の企業に取材を重ねた3名の学生さんに聞いてみました。

畑中彩里さん(下段中央)
広島修道大学4年。東京都の企業に入社予定

増田晃大さん(下段左)
広島工業大学専門学校3年。広島県の企業に入社予定

中田正宗さん(右)
島根県立大学4年。広島県の企業に入社予定


※コラムは、2021年10月8日にオンライン取材した内容で掲載しております。

 
−−−就職活動において、「働きがい」をどのように考えていましたか?
 
増田さん:「働きがい」という言葉は今回知りましたが、お客さんから感謝され、充実感を持ってバリバリと仕事をしたいと考えていたので、就職活動では「働きやすさ」とともにやりがいも重視していました。
 
畑中さん:私も「働きがい」は知りませんでした。志望業界や職種が比較的はっきりしていて「やりたい仕事ができる会社」を選びました。そういう意味ではやりがい重視ですね。それを前提に、好きな仕事を長く続けられる「働きやすさ」もある会社で働きたいと考えていました。
 
中田さん:僕は大学進学で初めて地元を離れて、広島にしかない魅力に気づき、「広島の人を笑顔にできる仕事」を基準に就職先を選びました。広島で長く働き続けるための「働きやすさ」ももちろん大事だと思っていましたが、やりがいの重要度はかなり高かったです。
 
−−−皆さん「働きがい」という言葉は知らなかったけれど、仕事選びに「働きがい」という視点が入っていたようですね。広島県の「働きがい」支援の取り組みを知っていましたか?
 
畑中さん:自治体がこうした取り組みをしていること自体、知りませんでした。「“働きやすさ”とともに“働きがい”が大事」というメッセージを広島県が県内企業に対して発信し、具体的な施策を実施しているというのは、とても安心感があります。地元出身の学生に限らず、広島県の取り組みを知って、「広島で働きたい」と感じる学生は多いのではないでしょうか。
 
増田さん:僕も知りませんでしたが、「働きがい」に関して、外部の調査機関から評価を受ける機会を企業に提供するのは、学生にとっても意味のある支援だと思います。その理由は、自治体が活用している、信頼できる調査機関に高い評価を受けた企業なら、「安心して入社できる」というのがひとつ。また、そうした企業では、評価にふさわしい仕事をしようと社員の士気が高まるはずなので、入社後に先輩からポジティブな刺激を受けることができ、成長しやすいように思います。
 
中田さん:僕も今日、初めて知りました。「広島県による、“働きがい”を支援する取り組み」と聞いて感じたのは、率直なところ、「どう支援してくれるんだろう」と(笑)。「働きがい」は人それぞれなので、「働きがいのある会社」の評価軸も多様で、支援のアプローチが難しいんじゃないかなと思ったんです。でも、広島県が活用している「GPTW」の調査は、多面的な評価によってその企業の「働きがい」を可視化するものと知って納得しました。
 
−−−「GPTW」の調査で評価が水準を超えた企業は「働きがい認定企業」として認定され、上位企業はランキング入賞企業として評価ポイントとともに公表されます。「働きがい」を行政や民間企業が認定や情報発信していることについて、どのように感じますか?
 
中田さん:就職情報サイトの企業検索では、「働きがい」までは検索できないので、こうした認定や情報発信があることを知っていると、企業選びのひとつの指標になり、自分に合った会社を絞り込みやすくなると思います。
 
増田さん:認定や情報発信をどのような機関が行うかによって信頼性が変わると思います。そういう意味で、広島県の事業は学生にとって安心感があるとあらためて感じます。
 
畑中さん:私の場合、「形になるものを作って、社会に届ける仕事をしたい」と考えており、その企業が何を作り、ユーザーはどういう層かといった「実績」をもとに「働きがい」を判断していました。でも、実績では判断できない「働きがい」もあります。それぞれが考える「働きがい」によって企業情報の収集のしやすさも異なるので、信頼できる機関による認定や情報発信はとても心強いと思います。
 

取材協力/株式会社ザメディアジョン

 

取材・文/泉 彩子

 

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