2021.03.23

Vol.2 株式会社HIKKY 【個人と組織の新たなつながり方 ‐入社後編‐】

コロナ禍において対面でのコミュニケーションが制限されたことが、働き方や就職活動など個人と組織のつながり方の変化を加速させています。業務のオンライン化は、「場所にしばられない働き方」を可能にし、働く個人の選択肢を増やしました。リモートワークを実施する企業も増えた一方で「新卒の教育は対面がメイン」という企業も少なくありません。今回は2018年の設立当初からリモートワークを実現しているHIKKYの取り組みを紹介します。2020年入社の社員の方にも実際にリモートワークを体験しての感想も聞きました。

2018年の設立時からリモートワークを実施。
多様な「働き方」をする人たちの
協働を可能にする、フラットな組織

株式会社HIKKY
代表取締役
舟越 靖さん

※記事は、2020年3月1日にオンライン取材した内容で掲載しております。

 

#HIKKY×リモートワーク

VRを中心にXR(現実世界と仮想世界を融合する技術の総称)関連事業を展開する「HIKKY」。主催するVR展示即売会「バーチャルマーケット」には1回の開催につきのべ100万人を超える来場者が世界中から集まる。2018年の設立時からリモートワークを実施。社員はアプリ上の仮想オフィスに毎日出社し、バーチャル環境での会議にはアバターで参加する。そのような環境下で業務をスムーズに進行し、社員同士が信頼関係を築くにはどのような工夫があるのでしょうか?2020年入社の社員の声も交えて紹介します。

 

リモートワークによって、従来は働けなかった人たちも働ける

 

−−−−2018年の設立当時から積極的にリモートワークを実施されてきたのはなぜでしょう

当社は「仮想現実空間を豊かにしたい」という思いを持った仲間で設立した会社なので、私たち自身が仮想現実空間の中で何をやれるのか、可能性を追求したかったからです。また、当社の制作物には技術者、デザイナー、演出家といった幅広い分野のクリエイターが携わります。例えば、2021年6月に6回目を開催予定の「バーチャルマーケット」では、数百人のチームでひとつのものを作り上げていきます。副業や業務委託で携わる人も多く、そもそもリモートワークでなければ業務の遂行が成り立たず、当社が短期間で成長することもなかったと思います。

もうひとつの大きな理由は、従来の「働き方」では働けなかった人たちが働けること。子育てや介護などで働ける時間に制約がある人や、障がいや病気などで通勤が難しい人たちもリモートワークなら働きやすいですし、会社としても、従来は出会えなかったような優秀な人材に働いてもらうことができます。

象徴的な話として、私と一緒に会社を立ち上げた現・取締役CVO(バーチャルマーケット担当役員)「動く城のフィオ」は、精神疾患で会社に行けなくなって前職を退職後、「VTuber(VR YouTuber)として活躍するようになった経歴の持ち主です。

私とはオンライン上で知り合って信頼関係を築き、会社を設立してからも一年以上リアルで会ったことがありませんでしたが、「フィオ」がオフィスに現れなくても仕事に支障はありませんでした。彼は女の子のアバターの姿で毎日仮想のオフィス空間に出社しているからです。

 

リモートで社員の関係性を築くポイントは、ささやかなことの積み重ね

 

−−−−仮想のオフィス空間とは、どのようなシステムなのでしょうか?

ビデオ通話や音声通話などができる「Discord(ディスコード)」というアプリ上に仮想のオフィスを作っています。社員はそこに午前10時までに出社することが原則。会議やプロジェクトチームごとの作業、雑談、ランチなど目的別にいくつもの「部屋」を設定し、状況に応じてビデオ、音声、チャットを使い分けてやりとりをしています。「オンライン」「オフライン」「離席中」といったステータスが表示されるので、勤怠管理やお互いの状況の把握も簡単にできます。

事業特性上、VRなどの制作物を複数メンバーで確認したり、共有したりする場面が多いので、アバターとしてコミュニケーションできるVRアプリ「VRChat」も「オフィス空間」として日常的に使っています。用途によってはチャットツール「Slack」も使いますし、取引先やクライアントとのミーティングでは「Zoom」などのビデオ通話ツールも活用しています。

身振り手振りや音声によって会話をする「VRChat」上のバーチャルオフィスで集まる社員の様子。

 

バーチャルオフィスでの会議の様子。アバターが会議室に集い、リアルでの肩書きや年齢に関係なく、音声で活発に意見が飛び交う。

−−−−「雑談部屋」といった業務以外のコミュニケーションの場も意識的に設けていらっしゃるんですね

「雑談部屋」に書き込まれている内容は「子どもとこんなテレビを観た」「お腹が空いたからラーメン食べに行く」といった「つぶやき」レベルのもの。反応もあったり、なかったりですが、だからこそみんな気軽に書き込んでいます。

さらに、基本的に全員が見ることになっているので、「この人はお子さんがいるんだな」「最近忙しそうだけど、大丈夫かな」と何となく相手のことを理解でき、自然と業務上でもお互いへの配慮が生まれています。こうした割とささやかなことを日々重ねていくことが、リモートワークの職場で社員間の関係性を円滑にするための大きなポイントだと考えています。

 

社員一人ひとりが自分たちで「働き方」を変えて行っている

 

−−−−2018年に創業され、2020年9月までは5名だった社員数が現在は37名、事業規模の拡大に伴い、社員数は現在も増え続けているとうかがっています。組織が大きくなると、リモートワークでの意思疎通はより難しくなると考えられますが、御社ではいかがですか?

組織が拡大すると、社員全員が一堂に会して話をすることはできないので、経営層と現場、社員間の意思疎通をどう工夫するかという課題を最近になって感じるようになりました。ただ、これはリモートワークの実施にかかわらず、多くの企業が直面する課題。むしろ、リモートワークを実施してきたからこそ、現在の規模に至るまで社内での意思疎通に大きな課題が生じなかったのでは、と考えています。リモートでの協働が前提であるために、離れた場所にいる、働き方やバックグラウンドの異なる相手と関係性を築き、理解し合うための工夫を経営層だけでなく、社員一人ひとりが日常的に重ねてきたからです。

例えば、ビデオや音声の会議では、同時に複数の人が話すと聞き取りにくくなるため、相手の発言を最後まで聞く姿勢が当社では定着しています。そうなると、全員の時間を消費しないよう、それぞれが端的に話すようになりましたし、資料を事前に共有して理解の土壌を作った上で会議に臨む習慣もできました。

コロナ禍を機にほとんどの社員がリモートワークで働くようになってからは、新たに入社したメンバーが当社での仕事を進めやすいよう、「社内Wikipedia(インターネット上の百科事典)」のようなものも生まれました。当社の理念や事業内容といった大枠から、総務や経理関連の申請方法、「Discord」など連絡ツール使用上の注意点、リモート会議でのマナーといった細かなことまでを社員が自由に書き込み、現在も進化しています。

こうした体制づくりが、社員発で行われていることが当社の特徴かもしれません。経営層が決めた「働き方」で社員が働くのではなく、社員一人ひとりが自分たちで「働き方」を変えていっている感じです。つい最近も新卒社員の発案で、あるツールをより効率的に運用できるようになり、とても感謝しています。

リアルメンバーとバーチャルメンバーが集った写真。ビデオ会議などでは、リアル姿のメンバーもいれば、思い思いのアバターで参加するメンバーもいる。

 

社員がフランクに話し合える仕組みと雰囲気づくり

 

−−−−御社では新卒や第二新卒の社員も、入社当初からリモートワークで勤務されています。新卒社員や第二新卒社員がリモートワークでもスムーズに勤務できるよう、何かサポートをされていますか?

社員に入社後適切なプロジェクトを任せ、上司が1対1でサポートしながら育成を促す手法を取っています。その期間に上司と密なコミュニケーションを取るので、結果的に新入社員研修を実施する以上のインプットが短期間でできるシステムになっています。

また、当社の場合、新しく入社してきた社員にとって、リモートワークはハードルではなく、むしろプラスに作用していると感じています。離れた場所で働いているからこそ、相手を思いやり、壁にぶつかっている社員に声をかけ合う文化が定着しています。また、基本的な業務の進め方がルール化・明文化されていて、キャッチアップしやすい仕組みを整えていることもポイントです。

なお、当社では新卒・中途に関わらず行動的な人材を採用しており、その結果、意欲や吸収力の高い人材が多いという背景もあります。分からないことや困ったことがあれば、自分から周囲に積極的に聞くといった自律的な行動ができるかどうかで、リモートワークへの適応度が異なるのではないかと考えています。

−−−−新卒社員は上司や先輩に遠慮して発言を控えがちです。リモートワークで相手の表情が見えないとなると、その傾向がより強くなりそうですが、御社では違うようです。何か工夫をされていますか?

新卒に限らず、社員がフランクに話せる雰囲気づくりを大切にしています。「雑談部屋」にしても、いきなり「ここでつぶやいてください」と言ってもどうすればいいのか分かりません。役員が率先してふざけた話をするうちに、「あんなしょうもないことでいいんだ」と社員が理解してくれました(笑)。

また、社員同士のやりとりを基本的にアバターやアイコンで行っている影響も見逃せないと考えています。ビジュアルが与える認知バイアスは私たちが思っている以上に大きく、体格に貫禄があったり、年齢が明らかに上の相手を見て威圧感を感じたりするのはよくあることです。

でも、同じ人が可愛らしいアバターでコミュニケーションを取り続ければ、周囲との関係性が変わります。例えば、「フィオ」は僕より年上ですが、社員は「フィオちゃん」と呼んで親しんでいます。アバターやアイコンを使ってリモートワークを続けることによって、フラットな関係性が生まれているように思います。

 

リモートでも対面でも、チームで仕事をするために大切なことは変わらない

 

−−−−リモートワーク関連で、今後の課題は?

組織の拡大に伴い、人事評価ツールの整備を進めているところです。リモートワークに限らず、「働き方」が多様な組織では、働いた時間や「明るくて、元気」といった漠然とした人となりで社員を評価することは成り立たず、より「成果」を重視して評価することになります。

ただ、成果を数値化しにくい職種もありますし、「みんなの仕事がスムーズになるような提案をした」「情報共有が細やかで、チームに貢献した」と言った担当業務だけでは測れない「成果」もあります。そのあたりを明確にし、離れて働いていても、社員一人ひとりが公正に評価されていると感じられるシステムを作りたいと考えています。

−−−−最後に学生の皆さんに向けて、リモートワークの職場で活躍するためのアドバイスをお願いします

リモートワークでは、非言語コミュニケーションで情報を補うことが難しいので、チームで仕事をするときに、ロジカルに行動することがより求められます。そう言うと何だか難しそうですが、職場の基本ルールを把握して行動する、という意味です。どの職場にもみんなが仕事をしやすいように作られたルールが何かしらあるはず。例えば、ある企業では「メールは素早く返信する」というルールがありますが、そうした身近なことです。それらを一度覚えてしまえば、一気に周囲とのコミュニケーションが円滑になります。

もうひとつ、リモートワークで大事なのは、相手を思いやる気持ちです。仕事がうまく行っていなかったり、叱られた人に声をかけたり、ダイレクト・メッセージを送るといったちょっとした思いやりによって、相手の気持ちが救われるだけでなく、結果的にチームが円満になります。

リモートでも、対面でも、チームで仕事をするために重要なことは変わりません。むしろ、リモートだからこそ、「共通のルールを守る」「思いやりを大切にする」といった基本的なことがより問われるようになっていくと思います。

【入社後すぐにリモートで海外プロジェクトを担当】

VR制作ディレクター 眞中啓人さん


大学中退後、スマホゲーム運営会社のディレクターを経て、2020年9月、23歳でHIKKYに入社。おもにイベント制作のディレクションを担当。ハンドルネームは「なごみ」(写真右)。

フラットな組織なので、リモートでも上司や先輩に相談しやすい

入社後すぐ、1カ月後に開催を控えた、海外市場に進出する日本企業を支援するためのバーチャル展示会のディレクションを担当しました。新規のプロジェクトを、それほど慣れていないリモートワークで進行したので緊張しましたが、任せてくれることへの喜びや、先輩の丁寧な指導が励みになって、イベントを成功させることができました。

なんとか乗り越えられたのは、上司にお願いすると、すぐに1on1ミーティングを開いてくれ、分からないことを聞きながら仕事を進めていけたからです。当社では基本的にアバターの姿でオンラインミーティングをするので、当時、僕は上司の顔を知らず、名前もハンドルネームで呼んでいました。おかげで上下関係を意識せずにコミュニケーションができ、質問しやすかったです。

当社に入って驚いたのは、リモートでも社員同士の距離が近いこと。フラットな組織で、上司や先輩に相談しやすいですし、雑談も活発で、趣味についてみんなで語り合ったりもします。前職ではコロナ禍をきっかけにリモートワークに移行しましたが、業務以外のコミュニケーションはあまりなかったので、「お、楽しくていいな」と思いましたね。

業務上、取引先や業務委託先と一緒に仕事をすることが多く、入社当初はリモートのやりとりに慣れていないことから、指示がうまく伝わらなかったこともありました。「コンセプトや目的をしっかりと共有する」「依頼事項は箇条書きにして具体的に伝える」「締め切りを設定し、リマインドをする」などのポイントを学び、今はさまざまなクリエイターと仕事をする面白さを感じています。

 

【2020年新卒入社で、オンラインで業務を実施中】

エンジニア 新津寛太さん


大学で情報工学を学び、2020年4月、HIKKYに入社。バーチャルマーケットをはじめとするVRイベント会場などの3Dモデル製作やWebサイト開発を担当。ハンドルネームは「メカニック」(写真右)。

会社が大切にしていることを理解していたから、リモートワークに不安がなかった

学生時代に「バーチャルマーケット」にユーザーとして参加し、就職活動とは関係なく社員とオンラインでの交流もあり、HIKKYの「バーチャルを豊かにする」というコンセプトに共感して入社しました。

地元は北海道で、入社を機に上京し、一度もオフィスには出社しないままリモートで働きはじめましたが、不安はあまり感じませんでした。もともと趣味でVRの世界で遊んでいて、オンラインでのコミュニケーションに慣れ親しんでいましたし、入社前から、何を大切にしている会社で、どういう人たちがどんなことをやっているかを理解していたことも大きかったと思います。

2020年に入社した同い年の社員は僕を含め3人ですが、当社は通年採用ということもあり、あまり「同期だから、つながる」という感覚はありません。そのくらい入社年次に関係なくフランクに話せる雰囲気があることも、リモートワークに支障を感じない理由かもしれません。

ただ、僕の場合は新卒からいきなり「VR出社」で、オフィスには数回しか出社したことがありません。今後のキャリアを考えると、幅広い経験を積みたいので、対面での業務にも携わってみたいと上司には話しました。この提案は、すぐに承認され、サブオフィスに新しい環境が整う予定です。リアルの職場で働くと、自然と先輩から学べる言葉づかいや電話応対などのマナーもあると思います。現時点では、多少心もとないものがあります(笑)。そのあたりは自覚して、自ら気をつけるようにしたいと思っています。

 

取材・文/泉 彩子