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2021.06.25

【採用注力事例】離職率改善で社員がいきいき働く 鹿児島のIT企業の社内活性化と新卒入社者の関係

採用にかける思いや取り組みに、企業の「人への考え方」が見えてきます。今回は、厚生労働省「ユースエール認定」やGPTW®「働きがいのある会社」に選出されている鹿児島県の企業に、新卒採用に注力する理由、外部評価制度にチャレンジし組織改善を続ける意義についてうかがいました。
 

【いま、新卒採用に注力する理由】
Vol.15 株式会社現場サポート(ソフトウェア)

代表取締役 福留進一さん


※記事は、2021年5月26日にオンライン取材した内容に一部修正(2023年3月15時点)を加え掲載しております。
 

【Company Profile】

2005年に創業。建設業に特化した情報共有システム「現場クラウドOne」をはじめ、建設業向けパッケージソフトウェアやクラウドサービスの企画・開発・販売・サポートを手掛ける。16年から厚生労働省の「ユースエール認定」(厚労省記事のリンク)に継続認定されている。Great Place to Work® Institute Japan(GPTWジャパン)、2023年度版における「働きがいのある会社」小規模部門2位、女性ランキング小規模部門3位選出。

 

外部環境がどう変わろうと、社員の成長を促す新卒採用は止めない

 

−新卒採用の取り組みについてお伺いします。そもそも新卒採用の意義をどう捉えていますか

 
現場サポートでは、2010年の1名の新卒採用からスタートし、毎年コツコツと採用を続けてきました。22年4月には5名の新入社員が入社予定です。
新卒採用を始めたとき、「どんな市況・経営状況になっても、毎年必ず採用し続ける」と決めました。業績が悪くなっても、社長である私の報酬を下げてでも、新卒採用は止めない。毎年春になったら新しいメンバーが入る会社を作ろうと決めました。

 
既存社員の成長にとって、新人の存在は絶大です。育成する立場になれば自ずと行動を振り返り、「教えている以上は、自分が示せるようにならなければ」と自覚が生まれます。必要性に駆られて、自主的に3カ月間の教育プログラムを提案してきた3年目の社員もいました。今は、そのプログラムをベースにブラッシュアップしながら研修を組んでいるほどです。
 

−新人育成に社員が主体的に取り組む風土はどう作られたのでしょう。カルチャーづくりに着手したきっかけは何でしたか

 
徹底した情報開示で、経営陣も社員も、みな同じ情報を共有するようさまざまな施策を進めてきました。
 
創業したときは経営理念もなく、ただ目の前の売上数字に追われていました。業績はよかったものの、激務についていけずに離れていく社員が続出。一時期は離職率が27%になりました。新卒採用も、最初の3年間で採用した4人のうち、3人が辞めてしまいました。
 
変わらなければいけないと思ったきっかけは、中途採用で入社した優秀なメンバーの離職でした。創業メンバーの一人がその社員と食事に行ったとき、「これからも一緒にやっていこう」という問いかけに、口をつぐんだと聞かされました。それまでは、組織を去っていく人に対して、個人の事情があるのだと本当の原因から目を背けていました。でも、話を聞いて、自分の中でスイッチが切り替わりました。創業メンバーは自社の存在意義や価値を共に考え作りながら、分かり合えていた。しかし、言語や共有・浸透というプロセスを重視できていなかったことが問題を引き起こした要因でした。未来を描けない組織では誰も頑張れないし、いい人材も離れてしまう。猛省し、理念づくりと、思いを共有する場づくりに本気で取り組み始めました。
 

−具体的には、どんな施策をされていますか

 
一つが、社長主催の社内勉強会「チーム力向上教育」の実施です。1回30分、年80回の開催で、社員は年20回の参加が必須です。主催する私は80回を毎年続けるのですから、なかなか大変です。でも、理念や会社が目指すこと、大切にしている考え方の共感を図るプロセスには、それくらいパワーをかけても足りないくらいです。
 
社員には、財務業績を含めて自社の情報を何もかもオープンに伝え、社内の情報格差を極力縮めています。勉強会の最後には必ず一人一言ずつ発信してもらい、自分の言葉でアウトプットする機会を作ります。すると少しずつ、会社のことを、自分のことのように考える社員が増えていくのです。
 
2020年には、社員全員で1年かけてディスカッションを重ね、「チームを活かす、だれもが活きる」という理念を作りました。みんなで作ったので、経営理念ではなく「私たちの理念」としています。自分たちが目指す組織のあり方を、自分たちで定義する。一人ひとりが会社づくりに携わっているという思いが、組織の未来を担う新人育成に向かっているのかもしれません。

 

採用方針もすべて開示し、「共感」いただけるか学生の皆さんに決めていただく

 

−採用時のコミュニケーションでは、どんなことを意識していますか

 
ここでも、「全てをオープンに伝える」というスタンスを大事にしています。
私たちの採用方針の軸は、

・当社の考え方に共感できる人を採用する
・学業成績は参考程度に考える
・資質テスト・能力テストを行い、当社がその人に活躍できるステージを与えられるかを判断する
・選考を通して当社の志望度が高いと判断してくれた学生を、優先採用する
の4点です。

 
もっとも、大切な「共感」のためには、こちらからの情報開示が必要です。社内には閲覧スペースを作り、何でも見ていってくださいとオープンにしています。欠かせないのは先輩社員との座談会です。社員とは「採用には全社員が関わるもの」という考え方を共有しているので、みんな率先して時間を作ります。
 
お互いに「一緒に働きたい」と思えるかどうかは、実際にコミュニケーションを取らなければ分かりません。座談会には、いつも通り自然体で参加してもらい、言ってはいけないことも、話してほしいことも特になし。私は、座談会スペースの端っこでにこにこ聞いています(笑)。
 
採用方針は、面接や説明会に来る学生には必ず説明し、「共感できるかをあなたが判断してください」と伝えています。採用のゴールは、入社後に活躍でき、本人も周りにハッピーになること。やりたいことが当社では実現できず、活躍のステージを与えられる可能性がないのであれば、どんなに優秀な方でも採用しません。学生の話にじっと耳を傾け、「あなたなら、**のような仕事の方が向くと思いますよ」と提案することも少なくありません。
 

−面接を通じたキャリアサポートですね

 
まさにそうですね。一次面接は代表である私が担当し、学生の皆さんの人生に真剣に向き合います。採用は経営者のもっとも大事な仕事の一つですので、ここに時間をかけると決めています。こちらが理念や10年後のありたい姿、信条について洗いざらい話してオープンに接していると、学生さんもどんどん自分の話をしてくれます。「こんなに情報開示してくれる会社に出合ったことがない」とみんな驚きますね。
 
内定後も、情報開示は続いていきます。入社までに方針説明会を2回開催するほか、オンラインの内定者研修会を実施。内定者には、週に1回社内SNSに近況を投稿してもらっています。「こんな趣味を始めました」「大学のゼミでこんなことがありました」などライトな内容なのですが、それに対する社員のコメントもあたたかく、入社前からコミュニティが出来上がっています。安心して入ってきてほしい…と続けてきた結果、過去の内定者辞退は過去12年で1名のみです。
 

社内SNS「Conne」への内定者の投稿。入社前から社員とコミュニケーションを深められる。

 

外部認定やランキング入賞が、社員の貢献意欲をさらに向上させた

 

−こうした取り組みが、2016年以来の「ユースエール認定」継続やGPTW®「働きがいのある会社ランキング」での上位入賞につながっているのかと思います。働く環境・組織づくりに関する、外部認定制度や評価獲得にトライし続けているのはなぜでしょう

 
一番の目的は、現場サポートを「よい会社」にしたいからです。それまで自分なりに組織づくりを進めてきましたが、客観的な評価がなければ良し悪しを判断できません。外部のフレームワークを通して自分たちには何が足りないのか、課題を発見したかったのです。もしランキングに入れば、お客様からの信頼につながり、採用ブランディングが高まるだろうという期待もありました。
 

−外部評価を受けたことで、どんな変化がありましたか

 
まず、やるべきことがクリアになり、多くの仕組み導入につながりました。認定にチャレンジするには、アセスメント基準に従って回答し、何十枚ものレポートを作成しなければいけません。大変なパワーがかかりますが、経営理念、事業戦略、人材育成、お客様への価値創造など、経営に関するあらゆる観点で考えるべきことが見えてきます。「そもそも取り組んだことがない」「考えたこともない」というテーマにもたくさん出合いました。組織のチェック機能として活用できた点は収穫でした。
 
そして、何よりも大きかったのは、認定を受け、ランキング上位に入ったことに、社員がすごく喜んでくれたことです。当社には、会社を自分のことのように考え、チームのために価値提供しようと努力する社員が多くいます。会社が評価されたことでモチベーションが上がり、さらに貢献しようと成長スピードがぐんと速くなりました。今では、入社2年目の社員から新規プロジェクト案がどんどん出てくるようになっています。
 
会社の存在意義は、「社員が幸せになり、その社員がお客様に価値を提供する」ことにあります。その根本的な目的に立ち戻ると、止まっているわけにはいきません。社員の成長したい欲求を叶えるためには、まだまだ代表として頑張らなくてはいけない。社員たちから、日々背中を押されています。
 

−これからの「働く」を考える学生の皆さんへ、伝えたいことはありますか

 
インターンシップや選考を通じて学生と話をしていると、「働くって意外と楽しいんですね」「働くことへのイメージが変わりました」と口を揃えます。社会人になることを苦行の始まりのように捉えているのはすごくもったいないし、国力を削いでいるのでは…とすら思ってしまいます。学生の皆さんには、ぜひ「働くこと」「働く人」のさまざまなケースに触れていってほしい。「こんな働き方があるんだ」と分かれば、就職活動もわくわくするものになるはずです。そして企業は、働くことへのポジティブな対話を重ねる時間を作っていかないといけない。学生が「ここで働きたい」と判断できるような情報発信を続け、これからも変わっていかなければいけません。
 

本社4階のCaféスペースで行われた、社内イベント「読書会」を終えたあとの1枚。

 

【インターンシッププログラムで連携。鹿児島大学から見た現場サポート】

国立大学法人鹿児島大学 学生部 キャリア形成支援課
課長 下田智子さん
専門職員 西山元子さん

鹿児島大学キャリア形成支援センターの皆さん。
後列左から3番目が下田さん、前列右が西山さん


地元企業様による10日間の「課題解決型インターンシップ」に、毎年、鹿児島大学の多くの学生が参加しています。2020年は新型コロナウイルス感染症の影響で、各社がインターンシップのやり方を模索する中、現場サポート社は完全オンラインでの実施をいち早く決めていました。同社のインターンシップでは、社員同士の距離が近く学生にもフラットに接していると感じます。学生からは代表の福留さんが要所要所で顔を出し、いい点も悪い点も含め本音で話してくれたと聞きました。そして経営者目線からのアドバイスが、学生にとって貴重な勉強の機会になっています。社員と学生の密なコミュニケーションが、インターンシップを通じて「企業の役に立っている」という学生の実感と、インターンシップへの満足度の高さにつながっているのだと思います。
 
同社はさまざまな外部評価も受けている通り、働く環境づくりを積極的に推し進めているだけでなく、それを社外に見えるように開示しています。会社の実態を見えるようにしているだけでなく、採用段階では学生一人ひとりと対話を重ね「やりたいことを実現できる職場探し」を一緒に進める場合も。ある学生は、福留さんとの面接を通じて、「あなたがやりたいことは、本当にうちの会社にあるの?」と問われ、自問を重ねた結果、他業界に進むことを決めました。自社で採用しない学生に対してそこまでの熱意を持って接する企業はなかなかありません。
 
コロナ禍の影響もあり、働き方や生き方の選択肢が広がり、都会志向だった学生が、高い技術力を持つ地元企業に目を向ける動きも出ています。企業の皆さまにはさらに情報開示を進め、学生との対話を大切にしてほしいですね。
 

 

取材・文/田中瑠子

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