新型コロナウイルス感染症の拡大防止によって、就職活動のプロセスの多くがWebに移行するなど、今年度の就職環境は大きく変化しました。そのような中、10年以上前からWeb面接を取り入れ、通年採用を実施してきた臨床検査機器・体外診断用医薬品メーカーのシスメックス株式会社に話を伺いました。
【いま、新卒採用に注力する理由】
Vol.4 シスメックス株式会社
人事本部 本部長
前田真吾さん
【Company Profile】
1968年創立。健康診断や病院での診療に欠かせない血液や尿などの検体検査を行う機器・試薬・ソフトウエアの研究開発から製造、販売・サービス&サポートを一貫して行う。世界190以上の国や地域に製品やサービスを提供し、2014年度以降、海外売上比率が80%以上を占める日系グローバル企業。2021年卒に向けた採用においても、64名の内定者のうち、8名は海外大卒でNon-Japaneseの学生(2020年10月現在)。グループ全体での海外従業員比率は6割近く、多様性を重視した組織風土づくりに力を注ぐ。
未来のビジネスの可能性と、本人の能力やキャリア志向とを繋げる職種別採用へ
当社は、現代の医療現場において必要不可欠な、血液や尿などの体液や組織中の細胞、タンパク、遺伝子等を検査する機器・診断薬・ソフトウエアなどの研究開発から製造、販売・サービス&サポートを一貫して行っています。創立以来、革新的なヘルスケアテスティングの創出を目指し、常にチャレンジしてきました。ヘマトロジー(血球計数検査)や血液凝固検査、尿沈渣検査で世界トップクラスのシェア(アライアンスを含む)であり、世界の医療インフラの一翼を担い続けています。近年では遺伝子診断やAIの活用に加え、新型コロナウイルス感染症関連の製品やサービスも提供しています。
創業期から世界展開を強く意識しており、1968年の創立後間もない1970年代にはヨーロッパやアメリカに事務所を設立。90年代には日本企業の中でもいち早く、中国における合弁会社の設立やブラジル、シンガポールなどの新興国へ参入。これらの絶え間ないチャレンジが、今日の全世界における事業展開に結びついています。海外売上比率が80%以上で、国連加盟国のほぼ全てに事業を展開する日系企業はなかなか多くはないのではないでしょうか。
グローバルに事業展開を行い、すでに海外の従業員比率が日本を上回っていることから、必然的に世界中から優秀なエンジニアを採用したいと考えていました。インドをはじめとした世界7カ国からインターンシップ生を受け入れ、アジアやヨーロッパなど各地で採用説明会や選考会を実施し、2010年頃からはインターネットを通じたWeb説明会や面接も行ってきました。そのため、コロナ禍で国内の学生の選考をすべてオンラインに切り替えても大きな障壁はありませんでした。また、日本では本社所在地(兵庫県神戸市)を中心とした関西圏の学生からの応募が多かったのですが、オンラインへの移行が幸いし、今年は北海道から沖縄まで、広い地域からの応募者が増加しました。
採用にあたっては、今年度からより職種を明確にした職種別採用を実施し、2021年卒採用では、15職種に分類して行いました。
その背景には、当社の人事制度の大きな変革も関係しています。2020年4月より、管理職を中心に、年功序列ではなく、職務を明確にしたジョブ型人材マネジメントシステムを導入しました。そこで新卒採用においても、一人ひとりが「何をするか」「何をしたいか」を明確にし、より自律的な仕事環境を築いていくために、採用の段階からやりたいことを熱く語ってもらおうという意図から、職種別採用を打ち出しました。
職種ごとのリアリティを実感してもらうためにも、現場社員が選考時から学生と関わっていくことを意識しました。狙い通り、従来に比べ、「何をやりたいか」「どのように世の中に貢献したいか」といったそれぞれの思いを深めて、学生一人ひとりが「シスメックスで実現したいこと」の精度を高めながら選考に進んでいただけたと思います。
通年採用を行っているのは、世界中から優秀なエンジニアを採用したいという意図があります。当社の新卒採用の7〜8割は理系学生の採用です。特に、ユーザーインターフェースを高めるソフトウエア開発は、今後の社会には欠かせない領域で、次世代をつくるエンジニアや研究開発者への期待は非常に大きいです。そのため、海外の学生や留学を終えて戻ってきた学生など、3月卒業ではない学生に対応するためにも、以前より通年採用の門戸を開いています。特に今年は、コロナ禍の影響で一時期就職活動を中断していた学生や、他社に内定をもらいながらも自分の生き方や仕事の価値を問い直し、「社会にもっと貢献したい」と夏以降に当社に応募してくださる学生さんも少なくありませんでした。常に門戸を開くことで、より良い出会いに期待しています。
「今の能力」を守るだけではなく、「未来を担う」優秀な人材に常に門戸を開き続ける
医療機器、なかでも健康診断などの定期健診にも必要とされる当社製品は、景気変動の影響を受けづらい業界です。そのため当社は、リーマン・ショックといった世界的な緊急危機を乗り越え、創立以来右肩上がりで成長を続けてきました。ところが、今回の新型コロナウイルス感染症の流行によって、創立52年目で初めて、医療現場における検査のニーズが停滞するという事態を経験しています。理由は、ロックダウンや外出自粛により医療機関における検査数が減ったためです。
ただ、医療ニーズはやはり底堅く、新たな技術からの事業化も見込まれるため、新卒採用に関しては、2021年卒も2022年卒も変わらず通年採用を実施していく方針です。新しい領域に挑戦し続けるために、社内に人が足りない、テーマに合う専門性を持った人材が不足しているという事態を避けられるよう、一次的に多少利益率を落としたとしても、人材への投資は続けていきます。これからはデジタルネイティブの世代がマジョリティになる時代であり、若い世代の柔軟な発想にも期待しています。採用や人材育成は、単年度で考えると必ずしっぺ返しがきます。このような時代だからこそ、従来とは異なる人材にも活躍してもらい、企業の新陳代謝を図っていくべきだと考えています。そういう意味では、今当社で活躍している人材と同じ人材だけを求めているわけではないとも言えます。
昨年、アメリカでGAFAや力強い動きをしている新たなベンチャー企業をいくつか視察した際、どの会社も口をそろえて「やっぱり人だ」と言っていました。どのような働く環境をつくるか、どういう人を採用するか。それが、企業の成長を左右すると。まさに、その通りだと思います。
だからこそ、新卒採用は止めないし、さまざまな人事制度や働き方の改革を模索しています。大胆に、全員一律の初任給を廃止して、実力と仕事に応じた報酬制度という考え方もあるかもしれません。新卒入社時から嘱託制度によって副業も可能な働き方を提示したり、コロナ禍によって浸透してきたテレワークを推し進め、work from anywhereを定着させたりすることも考えられるかもしれません。会社の意識自体を変えていく必要があります。企業と働く個人の関係は、もっと対等で自由なものになっていく。そのような未来の創造は、既存の価値観に縛られない柔軟で多様な価値観を持つ若い世代の人々が活躍してこそ成しえるものだと考えています。
社会貢献を本気で願うからこそ、対応な立場で意見し成果にコミットしてほしい
最近、面接をしていて実感するのが、「もっとよい社会づくりのため、自分が何をやりたいか」「どのように世の中に貢献したいか」を、語ってくれる学生さんが増えたということです。学生時代にキャリア教育を受けたり、さまざまな場面でキャリアを考える体験をしたりしているためでしょうか。その想いは心強く感じます。
当社の企業理念である「Sysmex Way」では、自分たちが社会に対してどのような存在であるべきかを明文化しています。その内容は、Mission「ヘルスケアの進化をデザインする。」Value「私たちは、独創性あふれる新しい価値の創造と、人々への安心を追求し続けます。」Mind「私たちは、情熱としなやかさをもって、自らの強みと最高のチームワークを発揮します。」そして各ステークホルダーに対する行動基準から構成されます。当社では一人ひとりが「Sysmex Way」を意識しながら、社会にどれだけ貢献できるかを重視します。つまり、事業を通して社会貢献するということ。だからこそ事業で成果を出すことに、こだわりを持っていただきたいと思います。
そこで重要になってくるのは、何よりも一人ひとりの「情熱」です。情熱は、人から与えられるものではなく、本人の中から湧き上がってくるもの。自分の中から生まれた熱い思いを、自分の力で動かし始められることが重要です。
面接でも、そのような「情熱」をたくさん聞かせてもらいたいと考えています。今までに情熱を持って取り組んだこと、今後実現してみたいこと…これまでの体験や夢について語ってもらいたいですね。正しいかどうかが重要なのではなく、なぜそういう考えに至ったのか、どのような行動をとってきたのかなど、「プロセス」に興味があります。面接は、学生の皆さんを一方的に評価する場ではなく、皆さんの考えをしっかり伺い、会社と個人が思い描く未来を共有する場だと考えています。会社と対等な立場で、思い切り考えをぶつけてほしい。そして考えをぶつけるだけでなく、それを成し遂げ事業成果に結びつけることにこだわってほしいと思っています。力強く事業を推進する皆さんの「情熱」に期待しています。
取材・文/清水 由佳