新型コロナウイルス感染症の影響で、企業と学生のコミュニケーションの在り方が大きく変化している。対面で行われていた説明会や面接などがオンライン化し、時間的・金銭的な学生の負荷は軽減。一方、「話が伝わっていないのでは?」「面接の評価が低くなるのでは?」といった学生の不安の声も大きい。そこで、すでに学生とのコミュニケーション手法の改革を実践している企業に利点や課題、学生へのメッセージを伺った。
グループワークで築かれる信頼関係や
場の熱気をオンラインでも実現
株式会社シーユーシー
採用教育部 採用チーム
宮内 浩美さん
COMPANY PROFILE
「超高齢化」という社会問題に対して、課題が山積な日本の医療を “持続可能”な社会システムとして再構築することを目指し、2014年に創業したベンチャー企業。病院・クリニックに対する経営コンサルティングを主軸に、医療課題を解決するシステム開発や人材支援、新興国の医療支援など、多領域を横断した事業開発を行っている。
インターンシップで大切にしていることは?
当社でインターンシップを実施している最大の目的は、「学生の皆さんに、新卒で医療業界で働くという選択肢を提示すること」です。医療業界は日本で数少ない拡大産業です。日本の医療費は年間約45兆円(2018年度)。2030年には60兆円を超えると言われています(※1)。 この数値を市場規模と置き換えると、自動車産業を上回る規模感になることが予測されているとも言えます。一方で、新卒で医療・介護の業界に就職する学生は2017年の調査で約12.5パーセント(※2)。専門職を除くと、ごくわずかです。
※1:出典/厚生労働省「医療・介護費の将来見通し(平成30年05月)」
※2:出典/文部科学省「学校基本調査」内「卒業後の状況調査」(平成29年)
そうした状況の中、当社は医療だけでなく、金融、IT、経営などさまざまなバックグラウンドを持つメンバーが病院・クリニックの経営支援に取り組んでいます。そんな私たちだからこそ伝えられる医療業界の現状と課題・その課題を解決する仕事の意味や醍醐味を学生の皆さんに知っていただくことに重きを置いてプログラムを企画しています。
2020年度実施プログラムの内容は?
昨年より新規事業立案に挑戦する「3DAYSインターンシップ」を実施しています。20年度のテーマは「WITHコロナ・AFTERコロナ”に向き合うCUCの新規事業を創る」。6月、7月に4回開催し、各回の定員は8名。応募は現時点(6月末)で400名を超えています。今回は新型コロナウイルス感染症対策のため、選考を含めすべてオンラインで実施。社会情勢の先行きが不透明な中、学生の皆さんに混乱を与えないよう、オンライン化は3月時点で決定し、準備を進めました。
3日間のプログラムは、オンライン会議システム『Zoom』を使い、実施時間中は常時接続。グループワークは『Zoom』のブレイクアウトセッション機能(参加者を小部屋にわける機能)や、Miro(オンラインホワイトボードサービス)を利用して4名ずつ2チームにわけて実施しました。アドバイスを行うメンター役の社員は両チームを行ったり来たりできる仕組みです。
プログラムの2大コンテンツは「日本社会の未来を読み解くワークショップ」と「新規事業プレゼン」。前者は、PEST分析(政治、経済、社会、技術の4つの観点からマクロ環境を分析する手法)、3C分析(ビジネス環境を顧客、競合会社、自社の3つの視点から分析する手法)に、当社独自の思考法を加えた、社会課題を解決するためのフレームワークを学びながら、「過去」と「未来」を思考するグループワーク。1日半かけてじっくり取り組み、2日目後半からは「新規事業立案」に向けて議論を開始。3日目午後の各チームのプレゼンテーションでは、社長が審査員を担当し、時間をかけてフィードバックを行います。この3日間のプログラムのほか、今夏には4日間かけて「オンラインワークショップ+オフラインの医療現場体験」も実施予定です。
オンライン化にあたり、工夫されたことは?
「3DAYSインターンシップ」のオンライン化にあたり、コンセプトやプログラムの大枠は昨年と変えていません。当社のインターンシップの目的を果たすには、「インプットとアウトプットを繰り返す」ことが不可欠だからです。ただ、直接の参加と比べるとやはり画面越しでしか情報が伝えられないので、工夫は必須です。フィードバックの回数を増やす、資料を事前に動画化して自由に閲覧できるようにするなど、きめ細かな準備とフォローは、オフラインでの実施以上に必要だと感じています。
『Zoom』は以前から地方や海外の学生との面談に使っており、導入はスムーズでした。対面では「未来年表」の作成に模造紙とふせんをワークで使用していたことから、オンラインホワイトボード『Miro』を補助ツールとして選択しましたが、利用方法は参加者に任せました。
当社は学生の自主性を大切にしており、ツールについても「学生たちが自分で考えて別のものを提案してもらっても良い」という考えです。通信面の対応策としては、運営スタッフ(1日5名、3日間で10名の社員が運営に参加)のうち1名をトラブル時のサポート担当としてあらかじめ役割を決めていました。運営人数は昨年までと変わらないので、オンラインだから運営が簡単、ということはまったくなかったです。
対面とオンラインの差を埋めるために最も力を注いだのは、社員を含めた参加者間の関係性構築と、雰囲気づくり。本プログラムは学生に現代の医療課題をビジネスで解決することの手ごたえを実感していだくために、かなりハードなプログラムにしています。とくに2日目以降の「新規事業立案」においてはタイトな時間の中で限界まで考え尽くしてアウトプットを出すことを求めます。その過程で、チームのメンバー間やメンター役の社員との信頼関係を築くことや、一体感や場の熱気を味わえることが当社のインターンシップの醍醐味だと思っています。オンラインであってもそういった面白さを感じてほしいと考え、いくつかの「しかけ」を用意しました。
そのひとつが、自己紹介の時間を念入りに設けたことです。相手の人となりや考え方を最初にわかっておくことで、お互いの力を活かしやすくなるのではと考えました。もうひとつこだわったことは懇親会です。例年は3日目終了後に開催する懇親会を楽しみに「新規事業立案」のハードな時間を乗り切るのですが、今年はオンラインでの開催となるため、自社のクレド(信条・ポリシー)カードなどと一緒に、ビールやおつまみなどの「懇親会セット」を参加者の皆さん(全員20歳以上)それぞれに送付しました。2日目開始に間に合うようにお届けしたので、プログラム中は、「終わったあとにこれを気持ちよく飲めるよう頑張りましょう!」とみんなを鼓舞することができました。オンライン開催にあたり、画面の向こうにいる人間がリアルに存在し、共に頑張る仲間であることを意識してもらう意図があったのですが、予想以上に盛り上がりました。
学生にリラックスして過ごしてもらえるよう、堅苦しくないコミュニケーションも心がけていました。例えば、チャットでひと言返すときに少し砕けた言葉づかいにしてみるだけで、和やかな雰囲気のやりとりになります。
オンラインプログラムを実施して良かったこと・課題は?
オンライン化によるマイナスの影響はほとんど感じられませんでした。良かった点は、それぞれ自宅から参加していたので、個人ワーク時にマイク・カメラをオフできることもありオフラインよりも社員の視線を気にせず集中して取り組んでいただけたことです。また、オンラインでは、2チームの様子を俯瞰(ふかん)して把握することができるため、社員同士の連携も取りやすかったように思います。
スケジュール調整をしやすかったり、地理的な制約がなかったりすることもオンラインならではの良さです。昨年もさまざまな地域の学生に参加していただきましたが、今年はよりいっそう気軽に参加を促せるようになりました。初回のインターンシップでは、アメリカ在住の日本人学生も参加してくれました。
最初は接続トラブルもありましたが、担当スタッフのサポートと、あらかじめ「通信トラブルがあっても、落ち着いて入り直せば大丈夫」と声をかけておくことで、大きな影響はありませんでした。ただ、グループワークにはスマートフォンよりも、画面の広いデバイスの方が資料を作成しやすく、早い時期にそのことをお知らせしていなかったのが反省点です。直前になってスマートフォンのみで参加する予定の学生がいることに気づき、パソコンかタブレットを用意してもらうようお願いしました。また、時差のある海外の学生には不便なこともあったと思うので、今後、海外在住の参加者が増えてきた場合は開催時間の工夫も必要だと考えています。
最終日のプレゼンテーションのクオリティは例年同様ハイレベルでした。最終日の振り返りでは「あっという間の3日間で、チームがまとまり、思考も深まって『やっとここから』というときに終わってしまった」という声がありました。この「やっと」があってこそさらに成長できると私たちは考えており、プログラムの効果を感じてうれしかったです。今後も、オンラインであるかどうかにかかわらず、医療問題を解決する仕事のダイナミズムを感じてもらえるコンテンツを提供し、学生と熱い時間を過ごすことを楽しみにしています。
学生の皆さんへ
新型コロナウイルスの感染拡大は社会に大きな影響を与え、企業も個人も、さまざまな場面で、これまでとは異なる方法で物事に対応していくことが求められています。大事なのは、目先の変化にとらわれるのではなく、その先に自分が目指すものを明確にし、それを軸に選択をしていくこと。このような時代だからこそ、こだわった「変化」を意識していただけたらと思います。
今回のインターンシップも、核となる大切なコンセプトは変えず、一方で、目的を達成するために形式は柔軟に変化させました。実は当社の社名の由来は「Change Until Change(変わるまで、変える)」。変化にこだわることが“当社らしさ”なんです。「変えてはいけないもの」と「変えるべきもの」を見定め、とことん思考を深めていくようにすると、プログラムの楽しさが倍増します。ぜひ、参加者の皆さん自身で、インターンシップの時間を有意義なものにしていただけたらと思います
*インターンシップ参加学生の声*
・参加して一番よかったのは、就活の見え方が変わったことです。選考の先にはCUCのみなさんのような社会人として尊敬できる先輩方がいること、一緒に参加したメンバーのような最高に面白い仲間もいること、厳しい世界もあること、どれも身に染みて感じました。
・3日間をひと言で振り返ると、「疲れた」&「楽しかった」です。これまで生きてきて、こんなに頭を使ったことはありませんでした。とくに思ったのは、「新規事業立案って、思っている何倍も難しい」ということ。「ビジネスとして成り立つか」「競合との差別化」「その事業に心から情熱を注げるか」など必要な要素を挙げればキリがなく、よく迷子になりました。その経験を通し、これまで以上に「やる気スイッチ」が入りました。
・社員様の温かさにより、私も恐れず新しい事に挑戦できました。御社の「7つのスピリット」、とくに「違いを認め合い、WEで成果を出す」というスピリットをプログラムを通して実感できたように思います。アメリカに住んでいるにも関わらず、貴重な機会をいただき、本当に感謝しております。
取材・文/泉 彩子