新型コロナウイルス感染症の影響で、企業と学生のコミュニケーションの在り方が大きく変化している。対面で行われていた説明会や面接などがオンライン化し、時間的・金銭的な学生の負荷は軽減。一方、「話が伝わっていないのでは?」「面接の評価が低くなるのでは?」といった学生の不安の声も大きい。そこで、すでに学生とのコミュニケーション手法の改革を実践している企業に利点や課題、学生へのメッセージを伺った。
リアルの面接との違いや接続トラブルが
評価に影響を与えないよう仕組みを工夫
コマニー株式会社
総務統括本部 人事部 人事課
河島祐貴さん
※記事は、2020年6月19日にオンライン取材した内容で掲載しております。
状況に応じて、内容に変更の可能性がございますので、最新状況は こちら でご確認ください。
新型コロナウイルス感染症の拡大に対応するため、取り組まれたことは?
3月初旬に選考の全面オンライン化を決定しました。当社では、本社(石川県)、東京事業所、大阪事業所の3拠点で選考を行っており、3月初旬の時点ではどの拠点の地域でも新型コロナウイルス感染者は数名でした。その時点で全選考過程のオンライン化を判断できたのは、社長が新型コロナウイルス感染症の問題の長期化を予測しており、選考のオンライン化に向けて、強いリーダーシップがあったからです。
これまで取引先とのやりとりにビデオ会議システムを使うことはありましたが、採用活動に導入したことはなく、説明会の動画配信も初めて。どんな課題が発生するのかもわからない状態からのスタートでしたが、学生の皆さんの安全を第一に、「オンライン化できる」ことを前提に準備を進めました。
まず心配したのは、オンライン面接での接続トラブルです。社員間でオンライン会議システムを使って、何度もシミュレーションし、トラブル時の対応方法を検討。マニュアル化しました。実際にオンライン面接を実施してみると、トラブルが起きることもやはりありましたが、通信状況が良くなくて音声が聞こえないときは携帯電話に切り替えるなど、臨機応変に次善策を取ることができました。
選考のオンライン化にあたり、とくに力を入れたことは?
社員がお互いを大切にする雰囲気や、温かい社風が当社の魅力だと考えているので、そこを伝えることを大事にしました。例えば、オンライン説明会の司会は1人ではなく、社員2〜3名が担当。社員同士の会話のやりとりから、雰囲気を感じてもらえるようにしました。また、集中して見てもらえるよう、説明会の時間は20分弱とできるだけ短めに。「やわらかい雰囲気で、内容が印象に残りやすかった」という声が数多く学生から寄せられ、ほっとしました。
また、対面でのコミュニケーションがなくなったぶん、例年よりも学生と社員が接する機会を増やしました。そのひとつが、1次と2次の間に任意参加で実施した、若手を中心とした社員1名対学生4名ほどの座談会です。「一番忙しい時期は?」「仕事のやりがい・大変なことは?」など活発に質問が飛び交い、「先輩の実体験を聞けてよかった」「社員の方のお話に仕事への熱意を感じ、あらためてこの会社に入りたいと思った」と学生から好評でした。人事担当との会話では身構えてしまう学生もいますが、先輩社員だと気軽に話しやすいようです。
人事担当と学生の連絡には、数年前から『LINE』を導入しており、学生との関係性を深めるのにひと役買っています。メールだと肩肘の張ったコミュニケーションになりがちですが、『LINE』は学生も使い慣れており、気軽にやりとりができます。学生にとってはメールよりも質問がしやすいようですし、企業側も学生に知ってほしいちょっとした情報をポンと送ることができます。例えば、「1学年上の先輩が新入社員研修中です」と写真つきでメッセージを送ると、「いい感じですね!」と学生から返事が来たりします。タイムリーな情報提供ができますし、社内の雰囲気も伝えやすくなりました。就職活動の悩みや、進行状況など学生の本音も『LINE』なら聞きやすいです。
当社の採用活動では、企業理念やトップの考えを伝えることも大事にしていますが、そうした情報は「きれいごと」になりがち。例えば、当社の経営理念のひとつに「大家族主義」がありますが、その言葉を伝えるだけでは学生に理解してもらえません。そこで、「新入社員時代に先輩のこんなひと言に気づきを得て、助けられた」というような社員の具体的なエピソードから理念を感じてもらうようにしています。そういったことを自然に伝えるには、説明会や面談前後のちょっとした会話など、重すぎないコミュニケーションの積み重ねで学生との関係性を培うことが大事。今年度は学生と直接会えなかったため、『LINE』の果たした役割はこれまで以上に大きかったと思います。
内定者とのコミュニケーションにもオンラインによる工夫をされているとか?
例年は、6月の内定者交流会時に10数名の内定者で先輩社員を囲んで座談会を行っていましたが、2021年卒採用では安全性に考慮して中止し、社員2~3名対内定者数名でオンライン座談会を開催しました。オンライン化によって日程の調整が行いやすく、数多く開催できたため、例年よりも少人数のグループでの実施が可能になり、深いコミュニケーションができたようです。
また、内定者全員に案内をしてオンライン交流会を開催。各自用意したパワーポイントのスライド1枚を画面共有して自己紹介をしてもらった後、4名ずつのグループに分かれてディスカッションを行いました。当社の会議の雰囲気を体感していただくことと、少人数での交流を深めてもらうことが目的です。自己紹介やディスカッションでお互いの目標や夢を共有することにより、刺激を与え合うことができ、一体感も生まれたようです。オンライン選考ではほかの学生に会う機会がないので、「同期の様子を知ることができた」と好評でした。開催後、うれしいことに多くの学生から「『LINE』で同期のグループを作ってください」とリクエストがあり、すぐに作りました。
内定者に向けた初めての取り組みとして、東京オフィスのショールームの動画配信も行いました。当社の商材であるパーティションについてさらに知ってもらい、その可能性を感じてもらうことが目的です。これまで入社前にショールームを見学する機会があるのは、東京エリアの内定者だけでしたが、映像配信することによって、全内定者に見てもらえました。
選考のオンライン化によって課題と感じたこと、意外と良かったことは?
通常とは異なる手段で選考を行うことにより、学生の皆さんには不安な思いもさせてしまい、申し訳なく感じています。ただ、学生一人ひとりが持つ魅力はオンラインでも十分判断でき、オンライン化によって人材評価が難しくなったとは感じませんでした。
背景として、オンライン面接では大きくうなずく、「音声が途切れたら、遠慮なく言ってくださいね」と声がけをするなど基本的な配慮を徹底したこと。そして、最終選考の前にはオンライン上に「待機室」を設け、採用担当が接続確認とともに「がんばってくださいね」と声をかけて役員との最終面接に送り出すなど、緊張をほぐすための工夫もできる限り行ったことがあるかもしれません。
例年、当社では「社内で実施する説明会への参加」をエントリーの条件とし、まず会社の雰囲気を感じていただいているのですが、そうした機会がオンライン化によって失われたのは残念でした。リアルでこそ伝えられることもあるのは事実で、もしかしたら、内々定の時点では例年ほどは当社への理解度が深まっていない学生もいたかもしれません。しかし、内定後に座談会や交流会を実施したり、必要に応じてオンラインでの個別面談を実施するなど、これまで以上に学生との接点を増やし、コミュニケーションを深めることにより、現時点では例年との差を感じていません。
一方、オンライン化により、中国地方など、選考拠点から遠い地域の学生とも出会えたのは大きな収穫でした。エントリー数も例年に比べて2割以上増えました。また、オンライン化にあたり、面談は「服装自由。スーツも可」とし、私服で参加してくれた学生が多かったのですが、スーツ着用の面談に比べて学生がリラックスしており、飾らない姿を見られたことは意外なメリットでした。
22年卒以降もオンライン化のメリットは積極的に取り入れたいと考えており、説明会のリアル、オンライン両方での開催などを検討しています。また、学生の皆さんが混乱しないよう早めの意思決定が必要だと考え、夏に実施するインターンシップは早期にオンラインでの実施を決めました。1日と複数日の2種類のプログラムがあり、長時間になることに加え、いずれもグループワークを重視しているため、具体的な実施方法を議論しているところです。秋、冬のインターンシップについても、社会情勢に合わせて、迅速に対応をしていきたいと考えています。
就職活動を行っている学生の皆さんへ
働く場所を決めるのは、人生において大きな決断。ぜひ悔いのない選択をしていただきたいです。そのためのポイントは、企業をさまざまな視点から研究すること。業績、事業内容だけではなく、どんな価値観を大事にしていて、どんなことを目指しているのか、その企業の考え方をしっかり調べたうえで企業を選ぶことをおすすめします。というのも、どの業界もビジネス環境の変化はめまぐるしく、今ある事業内容が10年後になくなっているということもあり得ます。では、さまざまな変化の中で変わらないものは何かというと、その企業の価値観、考え方です。そこをしっかりと研究して、自分の志と企業の志が重なっている会社に入っていただけたらと思います。
2021年卒学生の採用スケジュール
説明会→エントリーシート→1次面接(人事担当1名対学生1名/質疑応答時は学生4名)→座談会(任意参加)→2次面接(人事担当1名対学生1名)→最終面接(役員2名対学生1名)→内々定
取材・文/泉 彩子