採用にかける思いや取り組みに、企業の「人材の考え方」が見えてきます。今回は、愛媛大学と地元企業の産学連携によるインターンシッププログラム「愛媛Food Camp」に参画した食品メーカーをインタビュー。新卒採用や新人育成に込める思いをうかがいました。
【いま、新卒採用に注力する理由】
Vol.19 株式会社 オカベ(食品製造業)
代表取締役社長 岡部光伸さん
※記事は、2021年9月3日にオンライン取材した内容で掲載しております。
【Company Profile】
1974年に岡部商店として創業し、1985年に株式会社として設立。「素材を活かした味作り」をモットーに、お酒のおつまみなど“珍味”と呼ばれる水産物加工品を開発、販売している。1992年にはタイに工場を設立し、アジやイワシの原料を調達。商品を安定的に供給できる原料調達力にも優れている。主力商品の一つ『そのまんまちりめん』は、農林水産省事業の「世界が認める輸出有望加工食品40選」(2009年度)に選ばれ、「YWCK(※)お土産ランキング」全国第1位(2011年)にもなった。業界に先駆けて一般社団法人日本食品認定機構のHACCP(危害分析重要管理点)、ISO(国際標準化機構)9001、FSSC22000(食品安全マネジメントシステムに関する国際規格)の認証を取得するなど、品質管理も徹底し、安全安心な食品を製造している。
※YOSHIMOTO WONDER CAMP KANSAI
トップ自ら学生との対話を楽しむことで、採用への姿勢を伝えたい
−新卒採用を始めた背景、これまでの取り組みについて教えてください
新卒採用を始めたのは、株式会社化してすぐの1988年でした。 以来、毎年欠かさず採用を続け、もう33年になります。
それまでは、74年創業の岡部商店という個人経営の会社で、人員補充のための中途採用がメインでした。全員が日常の仕事に追われてばかりでは会社の未来がないと考え、中長期的な育成を念頭にした新卒採用を始めることにしたのです。
92年には初の海外グループ会社として、タイオカベプロモーション株式会社を設立し、グローバル展開を視野に動き始めました。2000年代に入ってからは、グローバルに活躍できるという観点で、外国人留学生やタイ国立大学出身メンバーなどの外国人採用も進めています。
現在の売上比率は国内9割、海外1割。まだまだグローバル比率は低いですが、これからも「愛媛から全国へ」「愛媛から海外へ」を強化していきたい。愛媛の豊かな食材を世界に広げたいという、地元出身の学生も多く入っています。
−景気変動も大きい中、新卒採用を30年以上継続するのは大変なことだと思います。続ける意義をどう捉えていますか
当たり前のことではありますが、企業を作るのは人です。人材が育つまでに10~15年かかりますが、育った分だけ後輩にも技術やノウハウが引き継がれていく。きちんとつながっていく様子を見てきて、採用は継続しなければいけないと感じています。
外国籍メンバーやグローバル視点のある学生を採用するようになってからは、タイ現地のバイヤーさんと英語で商談するような機会も増えています。新しい人材が、新しい販路を開拓していく様子は、既存社員にも新鮮な刺激になっていると思います。
−新卒採用で毎年欠かさず続けてきた試みや、学生とのコミュニケーションにおいて工夫してきたことはありますか
採用を始めた初年度から、会社説明会には必ず代表が出て、学生に直接話しかけてきました。事業内容の詳細な説明は各部門の担当者が行いますが、学生からの質問に代表が答えることも多い。学生とのファーストコンタクトの段階から対話を大切にしています。「人を大切にしている会社」と言葉だけで伝えるのではなく、トップ自らが出ていくことで、採用への本気度を伝えられるのではないかと考えています。
−学生にとって、入社の決め手となる御社の魅力、特徴はどんなところですか
国内売上のうち90%は県外なので、営業であれば、愛媛を拠点にしながら東京や大阪など大都市圏での営業活動が多くを占めます。海外出張の機会もあり、「愛媛発の商品を自分の手で広げていく」醍醐味を感じられるでしょう。「(愛媛県)伊予市の良質な産品を全国に届けられる」ことに興味を持つ、地元愛の強い学生も多いですね。
製造や開発、品質管理、品質保証部門では、安全・安心への取り組みも魅力の一つだと思います。
99年には業界に先駆けて一般社団法人日本食品認定機構のHACCP(危害分析重要管理点)の認証を取得し、2002年にはISO(国際標準化機構)9001の認証を取得。2020年にはFSSC22000(食品安全マネジメントシステムに関する国際規格)の認証を取得しています。オカベの商品は、小魚を加工した珍味が中心であり、高度な水処理技術や機能が必要です。設備の徹底した管理をはじめ、正しく、安全にものづくりをしてきた実績が当社の強みです。
−入社後、社員が長く活躍するために行ってきた工夫はありますか
一つは、給与水準を上げる取り組みです。愛媛県の食品業界内でできるだけ高い給与を出せるよう、売上と利益に応じた給与分配の仕組みを取り入れています。充実した生活のための“基盤づくり”が、社員を抱える経営者の役割です。基盤がしっかりしていれば、仕事のために生きるのではなく、自分や家族のために生活できる。社員には、仕事とプライベートのバランスのとれた人生を送ってほしいと考えています。
もう一つは、スキルアップの支援です。残業時間を把握し、有給休暇の取得促進などを進めることで、社員が、仕事以外の時間をきちんととれる環境をつくっています。自由な時間が生まれれば、スキルアップに向けた学びの時間をとれるでしょう。資格取得への費用負担も行い、これからの活躍の選択肢が広がればいいなと思っています。
学生の成長、地域の発展に貢献することが、企業の強みにつながる
−2021年度より、愛媛県内の食品関連企業と愛媛大学農学部・大学院農学研究科との産学連携によるインターンシップ「愛媛Food Camp」に参画されています。参画を決めた理由は何でしたか
学生と大学、企業3者の中長期的な発展を目指している点に共感したからです。
「愛媛 Food Camp」は、就職を間近に控える学生だけではなく、大学1~2年生を含めて広く参加を募っています。インターンシップのあとにその企業に就職するとは限りませんが、学生の成長に貢献でき、仕事選びのヒントを与えることはできるかもしれない。地域に根差した一企業として、地元学生の育成に寄与し、それが地域発展につながれば、巡り巡って当社の発展にもつながると考えています。
今年度の「愛媛Food Camp」には県内の食品関連企業 18 社が参画したそうですが、どの企業も「長い目で見て、地域の発展に貢献できれば」と思っているのではないでしょうか。
−参画されていかがでしたか。社内にもたらされた変化があれば教えてください
愛媛大学農学部の学生5名と、担当社員5名とが一緒に商品開発を手がけたのですが、学生から出るアイデアはとても斬新でした。
仕事をしていると、どうしても「これは技術的に商品化が難しいだろう」「予算がオーバーしてしまう」など現実的なハードルがあらかじめ見えてしまい、先に枠を設けてしまいます。一方、学生には自由な発想力がある。実際に商品化する際に断念した点はありましたが、新しい視点にヒントをもらった社員もいたようです。
学生とのコラボレーションによって完成した『クリームチーズサンド』は、出来栄えの良さに驚きました。商品を手にした担当社員が、「学生でもこのクオリティのものを生み出せるのなら、食品のプロの我々はもっとできるはず!」と話していたのがうれしかったですね。
−今後の採用に向けた課題、やりたいことは何ですか
市場ニーズがどんどん変化する今、人材育成にじっくり時間をかけられる社会ではなくなりつつあります。企業側から大学に行き、「こんな準備をしておくべき」と学生に気づきを与えることも大切ですが、デジタルネイティブで英語力に長けた若い世代こそ、これからは企業をリードしていくでしょう。
当社は、学部生、院生問わず採用を進めていきますが、入社1年目から活躍できるフィールドを用意し、即戦力人材がのびのび働ける環境づくりこそが、企業成長に欠かせないと感じています。
【学生時代の学びとオカベの仕事の関係】
大内魁人(かいと)さん
大学院では魚の遺伝子研究をしていました。学んできた技術を仕事にどう生かせるのかと業界・企業研究をしていたとき、食品メーカーには「品質保証」や「成分分析」の仕事があると知りました。漁業が盛んな地元で魚に関する事業がある企業に絞っていくと、オカベにはまさにその職種があった。主力商品である「小魚を加工したおつまみ」にも興味を引かれました。
入社の決め手になったのは、世界に通用するような認証を多く取っていた点です。「お客様に安心・安全な商品を届ける」という真摯な企業姿勢に感銘を受け、ここでものづくりに携わりたいと思いました。
入社後は3か月間の研修を経て、各部署に配属されます。分析の部門に行くのかなと思っていたら、打診されたのは商品開発でした。機能性表示食品の新商品開発プロジェクトが発足したタイミングで入ることになり、すぐに魚の成分分析を担当。大学院で培った実験技術をそのまま生かすことができました。
機能性表示食品の申請のため、英語で書かれた800本以上の論文を読む必要がありました。機能性表示食品の場合は医学系の論文が多いのですが、「英語で論文を読む」こと自体は大学院時代に慣れているので、英単語だけ調べれば読み解けます。その後、申請作業を上司と私のほぼ2人で進め、無事2019年の発売を終えることができました。
1年目にしてこれだけ大きなプロジェクトに参画できたのは、「一緒にやろう」と周りを巻き込み、信頼して任せてくれるオカベのカルチャーがあったから。「これまで学んできたことを生かしたい」という思いがあったので、研究で培った基礎や実験の進め方を実践につなげられて、とてもうれしかったですね。
2021年度は、「愛媛Food Camp」の担当メンバーの一人として、学生との商品開発も進めてきました。これまでのオカベのインターンシップは、1日限りのものが多く、「それでは商品開発の仕事を本当には理解できないのではないか」と課題意識がありました。
「愛媛Food Camp」は5日間かけて、学生とやりとりを重ねながら一つの商品ができるところまで関われます。コロナ禍でオンライン上ではありましたが、商品開発の仕事の面白さや大変さをよりリアルに感じてもらえたのではないかと思っています。
プログラムを通じて、学生の柔軟な考え方、アイデアの幅広さに触れ、「自分は凝り固まっていたかも」と思うこともありました。オカベから「愛媛発、全国・海外へ」商品を届けるために、これからもいろんな人の意見を取り入れ考える習慣を、大切にしていきたいです。
取材・文/田中 瑠子
~関連記事~
これからの「働く」を考える Vol.3 「学ぶ」と「働く」をつなげる。愛媛大学×地元企業連携の長期インターンプログラム「愛媛Food Camp」が目指す世界
Vol.8 長期インターンシッププログラムで学生が得たものは?「愛媛Food Camp」成果報告会レポート