2021.09.29

これからの「働く」を考える Vol.3 「学ぶ」と「働く」をつなげる。愛媛大学×地元企業連携の長期インターンプログラム「愛媛Food Camp」が目指す世界

愛媛大学農学部と愛媛県内の食品関連企業との産学連携による新たなインターンシッププログラム「愛媛Food Camp」が2021年度よりスタートしました。「愛媛県の地方創生を食品業界がリードする」という実践型学習プラットフォームである「愛媛Food Camp」は、学生や企業のどんな学びにつながっているのでしょうか。「愛媛Food Camp」を立ち上げた愛媛大学大学院 教授の菅原卓也さんと、参画を決めた四国乳業 代表取締役社長の島原𠮷之さんにお話をうかがいました。
 

愛媛大学大学院農学研究科生命機能学専攻教授
菅原卓也さん(左)

四国乳業株式会社(食品業)
代表取締役社長 島原𠮷之さん(右)


※記事は、2021年9月9日にオンライン取材した内容で掲載しております。

愛媛大学農学部生命機能学科・大学院農学研究科生命機能学専攻と愛媛県内の食品関連企業が実施する産学連携による長期インターンシッププログラム「愛媛Food Camp」。学部・大学院修士課程の学生を対象とした実践型学習プラットフォームになっている。
「愛媛県の地方創生を食品業界がリードする」を合言葉に、学生のキャリア支援に加え、大学と地域企業を結び、お互いのリソースを活かし合った地域経済への貢献を見据えている。
2021年度は、愛媛県内の食品関連企業18社及び学部1年生から修士1年生までの62人の学生が参加。製品開発プロセスに関して企業から提示される課題に真剣に取り組みながら、大学・企業のニーズが合えば、さらに具体的な共同開発・製品開発を目指す。プログラムを通じて、学生は食品業界の仕組みや県内企業の取り組みに理解を深め、自らの「学ぶ」と「働く」をつなげることができる。

 

【Company Profile】

1968年設立の四国唯一の農協プラント系乳業メーカー。コーポレートメッセージは、“おいしさは、いつも自然から”。国内トップクラスの規模を誇る本社工場を中心に「らくれん」(※)商品を製造し、四国をはじめ、主に中国、関西地方にて販売を行っている。

※四国乳業株式会社によって製造、販売される牛乳・乳製品の代表的なブランド名

 

作ったものが店頭に並ぶ。大学では得難い体験価値を多くの学生に提供

 

――――「愛媛Food Camp」を企画された背景や思いを教えてください
 
菅原さん:構想のベースには、2014年から四国乳業さんと進めてきた共同商品開発があります。
始まりは、四国乳業さんからの「愛媛らしく、健康機能が期待できる商品を作りたい」という提案でした。愛媛大学農学部では商品化を目指した研究を行っており、柑橘類と乳たんぱくの組み合わせが花粉症などのアレルギー症状を緩和するとの研究結果が出ていました。そこで、症状の緩和につながる機能性ドリンクヨーグルトの開発を一緒に手掛けることになったのです。

 
大学での研究成果を活用するならば、ぜひ学生にも商品開発に携わる経験をさせたかった。一緒にやらせてもらえないかと提案し、共同開発につながりました。この取り組みから生まれたのが『エヌプラスドリンクヨーグルト』です。
 
「愛媛Food Camp」の前身とも言えるこれらの取り組みを通じ、学生たちは「試作などの開発過程で実際に食べたもの、作ったものが店頭に並ぶ」という体験価値を得ることができました。「この経験を、もっと多くの学生にしてもらいたい」と考え、インターンシッププログラムの企画へと動き出しました。
 

――――四国乳業さまが「愛媛Food Camp」に参画された理由は何でしたか
 
島原さん:愛媛大学農学部との共同商品開発を通して、さまざまなプラスの影響を実感していたからです。
 
学生の皆さんとは、1年半の商品開発を経たあとも、新しい広告を考えたり、学会でプレゼンテーションをしたり、店頭に立ってデモンストレーションをしたりと、販売プロセスにも関わっていただきました。自分たちにはないアイデアにはっとさせられ、終始前向きに真摯(しんし)に取り組む姿勢に、社員たちも刺激を受けました。「自分たちの商品のことを、こんなに考えてくれる」学生の皆さんに応えるため、社員の真剣さが増していきました。
 
「愛媛Food Camp」参画にあたり、再び、愛媛大学農学部の研究成果を活かした商品開発を目指したいと思いましたし、社内にもまたポジティブな発想が生まれるのではないかと考えました。学生さんが将来、食品会社を志す際に当社を選んでいただく可能性もあります。採用への期待も込めて、PRする場になればと参画を決めました。

 

企業や業務内容の理解を深め、キャリアデザインにつなげてほしい

 

――――「愛媛Food Camp」は大学1年生の学生も参画するなど、低学年の学生にもアプローチしています。その狙いとは?
 
菅原さん:愛媛大学農学部には、「将来は食品メーカーで商品開発をしたい」と入学してくる学生が多くいます。キャリアデザインを考える上で、実践的な学びの機会があればと思っていましたが、通常のインターンシップでは就職が目的になってしまう。
企業と学生が一緒に商品を作り上げるという形であれば、学生のやりがいにもつながりますし、「本当にこの仕事に興味を持てるか」「楽しくやっていけるか」を考える上で、リアルな企業研究になるでしょう。業界や仕事内容の理解が深まれば、入社後のミスマッチによる早期退職というリスク軽減につながります。学生にとっても、企業にとってもメリットがあると思っています。
 
大学側としては、低学年のうちからインターンシップに参加することで、大学で研究するモチベーションにつなげてほしいという思いもあります。
 
大学では「課題解決力を身につけなさい」と常々言っています。課題をとらえアイデアを出し実行する力がなければ社会では役に立たない、と。しかし、大学の授業ではなかなか鍛えられないのが現実です。「愛媛Food Camp」の体験の中にこそ、課題解決力を磨く機会があると考えています。
 
「愛媛Food Camp」に参加したことで、「もっと勉強しなければ社会で通用しない」と実感する学生も出てくるでしょう。実践的な授業の一環であり、参加企業からの評価が単位にも考慮されます。社会人生活で求められる大人としての常識、高い専門性。「愛媛Food Camp」での気づきから、研究に意欲が向き、大学院まで進学して専門的な知識を身につけたいと考えてもらえればうれしいです。働く厳しさを体験してもらい、自分に合ったキャリアデザインを考える機会になるといいですね。
 

――――企業側は、インターンシップを採用につなげるために行うケースが多いと思います。大学1年生からアプローチし大学院修了まで待つとなれば長い期間が必要になり、その学生が自社に就職する保障もありません。インターンシップにかかるパワーをどう考えていますか?
 
島原さん:学生の皆さんは研究に関する知見は素晴らしい一方、ビジネスとして成り立つ商品づくりの点では素人です。消費者に購入していただくために、できることとできないことを理解してもらい、納得のためのすり合わせを行う。2014年の共同研究から生まれた『エヌプラスドリンクヨーグルト』の開発過程でも、その議論には時間を要しました。
 
それでも、学生と一緒にものを作るプロセスには、かかるコスト以上の価値があります。
 
学生が商品開発を通じて四国乳業のことを知り、商品への愛着を感じ、ファンになってくれたら、その影響はとても大きい。友人や家族に四国乳業のことを話してくれれば、商品を手に取ってくれる人が増えるかもしれませんし、面白い取り組みをしている企業としてメディアに取り上げられればブランディングにもつながります。「選考を受けてみよう」と考える学生が増え、採用成果にも影響するでしょう。
 
また、学生へのヒアリングを通じて得られた情報が、市場調査よりも有意義だったこともあり、「ネットワークを広げる」重要性を感じています。
 

【図1】これまで

これまでは、学生は社会をよく知らないまま企業を選択し、専攻に関係のない職場選びで「学び」と「働く」をつなげられずにいた。また、企業は、大手企業の合従連衡(合併統合)で、地域のイチ企業の頑張りだけでは中小企業の経営が難しい状況に。大学は、「知の拠点」としての存在感が高まりにくく、大学院進学率も低いという課題がある。地元企業は人手不足が深刻化する中、学生は地元企業を知らず、卒業後の進路は県外が多数。学生、大学、企業、それぞれの課題が点在している。

 

【図2】愛媛Food Campが目指す世界

企業は大学の研究成果などを活用し、新しい製品開発する(知の活用)。学生は先入観のない自由な発想で、新製品を検討する(知の提案)。学生は「愛媛Food Camp」で、「動機・学びの棚卸し」「マーケティング」「商品企画」「製品作成」「製造」「販売」それぞれの工程で、計画・実践・検証といった小さな経験学習サイクルを体験。各工程で学びながら、製品開発の全工程での大きな経験学習サイクルも含め、立体的に仕事を捉えることができる。特に、大きな経験学習サイクルの前提として、学生自身の「持ち味(強み)」の自覚があり、「愛媛Food Camp」を通じて「持ち味」をどのよう発揮したかを振り返ることで、深い仕事理解や自己理解が実現できるのが特長だ。実践的な学びの機会を通じた深い仕事への理解。地元企業の魅力の発見。企業は新商品の開発で競争力を高め、地域に貢献したい学生の地元就職の選択肢となる可能性もある。企業と学生(大学)がお互いのリソースを活かし合うことで、自分たちだけでは成し得ない「地域活性」を目指すのが「愛媛Food Camp」だ。

 

地元企業の取り組みを知ることが、地元就職という選択肢を増やしていく

 

――――「愛媛Food Camp」を実践してみての手ごたえをどう感じていますか
 
菅原さん:「愛媛Food Camp」は現在進行中で、全体の総括までは至っていません。ただ、社会人と接する機会がない学生にとって、通常の授業とは異なる緊張感を持って取り組めているのは確かでしょう。「愛媛Food Camp」に参画された18社はすべて県内の企業です。愛媛の地域発展に貢献したいと考える学生にとっては、県内のいろいろな地域に出向いて職場の雰囲気を知り、地元の産業発展につながる企業活動を知ることができる。その意義も大きいと思います。
 
島原さん:現在、学部生・院生を含めた4名と商品開発を進めていますが、学生の皆さんの研究成果、技術的な知見に学ぶことも多くあります。完成した商品がすぐに利益をもたらすものでなくても、今後、注目される可能性もある。継続的に取り組むことに価値があります。
 
インターンシッププログラムでは、商品企画立案の前に、四国乳業について企業分析をしてもらい、強みや弱み、競合優位性を発表してもらいます。その過程で工場を見学し、酪農家さんを巡るので、仕事内容や企業風土への理解が深まる。よく見極めてもらった上で、「四国乳業に入りたい」と思ってもらえればとてもうれしいですし、「愛媛Food Camp」に携わっている社員も、いつか選んでもらえたら、という思いで真摯に対応していると思います。
これまでは、地域に根差した企業を知る機会がなく、地元就職への学生の選択肢が限られていました。「愛媛Food Camp」を通じて、地元にもこんなにいい企業があったんだ、と知ってもらえれば、そこから友人、家族へと情報が伝わり、将来の就職先候補になる可能性も出てくると考えています。
 

――――これから社会に出る学生の皆さんへ、企業探しのアドバイスをいただけますか
 
菅原さん:どんなに知名度が高く、条件のいい企業に入っても、仕事にやりがいを感じられなければ続きません。就職活動では、どうしても給料や知名度で選びがちですが、自分が仕事に面白さを感じられるかどうか、イキイキと取り組める環境があるかどうか、自分が貢献できる機会や場所があるかどうか、という観点で企業を見ることが大事だと思います。このようなことは、表からは見えないので、「愛媛Food Camp」のように実際に企業の中に入ることで、しっかりと企業研究した上で、進路を検討してほしいですね。
 
島原さん:「愛媛Food Camp」のように、企業の中に入って社員と一緒に取り組む機会はとても重要だと考えています。長期プログラムだからこそ、いいところも悪いところもオープンにせざるを得ませんが、仕事の厳しさや泥臭さを予め知っておいてもらった方が、入社後の活躍につながりやすいでしょう。商品開発は、理想のものづくりを求めながらも、ビジネス上の制限が多く、折り合いをつける難しさがあります。学生のうちに、大人たちが本気で取り組む姿に触れて、仕事の実情を知り、その上で自分の力を試したいと思えるか、検討できる機会が持てることは幸運なことだと思います。
 
長期インターンシッププログラムを始め、具体的に仕事を学ぶ機会があるのなら、積極的に参画してみてはいかがでしょうか。
 

――――「愛媛Food Camp」の取り組みは、企業にとってどのような意味があるのでしょうか
 
島原さん:大学の持つ知見を商品に活かすことができることはもちろんですが、商品化に向けたディスカッションでは、学生と社員が熱い意見を交わします。学生の皆さんの本気に、社員も本気で応える。そのことで社員の意識も向上するなど、間接的な良さもあります。この取り組みで出会った優秀な学生が「愛媛にもこんないい会社があるんだ」と実感してもらえたら、地元への就職が視野に入ってくるかもしれません。他社と協働することで、地域活性により深く貢献できることは、当社にとっても十分意味のあることだと感じています。
 
菅原さん:「愛媛Food Camp」の中に、学生が参加企業の企業研究をし、それを企業にプレゼンテーションし、企業とディスカッションする場があります。企業は、自社の強みや良さについてアピールできるだけでなく、通常の企業研究では知ることができない「企業の考え方」「どう発展していこうかという展望」まで参加学生に伝えられる。そのことで、学生は自分自身の将来の展望を膨らませることができる。深い相互理解が前提となるマッチングが生まれる可能性があります。
「愛媛Food Camp」は今年度からの取り組みですが、複数年実施したいと思っています。学生も2、3社の企業で経験を積むことで、「自分が本当に活躍できる職場はどこか」を考える。その上で、強い意志を持って地元企業を志望する学生が増えることは、学生にとっても参加企業にとっても良いことなのではないかと思います。
 
 

取材・文/田中 瑠子

 

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