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就職みらい研究所とは
2021.06.07

【RJP理論】入社後のミスマッチを防ぐ採用とは?

入社後の定着・活躍のために、入社段階のマッチングの質向上が引き続き課題

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私たちの仕事のスタイルは今、大きく変わってきています。「人生100年時代」と言われるようになり、私たちはより長く働くことになると言われています。正社員雇用を前提とした企業の雇用慣行が変化し、働き方が多様化。仕事や生活の急速なデジタル化(デジタルトランスフォーメーション)が進み、日々の仕事の進め方が変わってきています。そして新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け、私たちの働く環境は、さらに大きく変化していくと言われています。

そんな中厚生労働省は、3月29日、今後5年における青少年の適職の選択ならびに職業能力の開発や向上に関する施策の基本となる方針を公表しました。

 

厚生労働省「青少年雇用対策基本方針」

 

方針の中には、「青少年の適切なキャリア形成の実現のためには、早期離職の防止の観点から入口段階でのマッチングの向上のための取組に加え、青少年の能力や経験に応じた適切な待遇を確保するなど、企業内での適切な雇用管理を促進することが課題となっている。」とあり、早期離職を防止するために、入社段階でのマッチングの質の向上が引き続き課題とされています。

現在の新卒者の離職状況を見てみましょう。グラフでは、新規大卒者の離職率の推移を示しています。新規大卒者が就職して3年以内に離職する者の割合は約3割。近年はおおむね横ばいで推移しています。新規高卒者についても同様で、就職して3年以内に約4割が離職する状況が続いています。

 

■就職後3年以内離職率の推移(新規大卒者)出典:厚生労働省「新規学卒者の離職状況」

ただし、足元では、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が青少年を取り巻く雇用情勢に大きな影響を与えています。新型コロナウイルス感染症が転職のきっかけとなっている割合は約6割というデータ(※)もあり、今後も引き続き、その動向に注視が必要とされています。

(※)リクルート 転職活動者の意識・動向調査(2021)調査結果

 

早期離職の理由は仕事内容や人間関係の不満。転職して納得している人は仕事内容を重視

厚労省発表の平成30年の調査では、「若年労働者(満15~34歳の労働者)」の離職の理由TOP3は、「労働条件がよくなかった」「仕事内容が自分に合わない」「人間関係がよくなかった」でした。同年に全国求人情報協会が大卒者の若手社会人に行った調査では「仕事内容への不満」「人間関係への不満」がTOP2となっており、「仕事」と「人間関係」の点で、ミスマッチが起きていることがうかがえます。加えて、同調査において「転職して納得している人は仕事内容を重視している」ことがわかっています。入社後の活躍や定着のために、早期の離職を防ぐために、「仕事内容の充分なすり合わせ」が重要な観点の一つであるという示唆ではないでしょうか。

 

■早期転職者の初職離職理由  出典:厚生労働省 平成 30 年若年者雇用実態調査の概況

 

■早期転職者の初職離職理由

■早期転職者の納得感別 転職時の重要項目

出典:全国求人情報協会「若者にとって望ましい初期キャリアとは〜調査結果からみる“3年3割”の実情〜」2018年

 

仕事内容や組織について入社前に「現実主義的にすり合わせる」考え方に立つのがRJP

“入社前に予め実態に即した形で仕事や組織について求職者に情報開示をする。”

この立場に立つ研究がRJP(Realistic Job Preview)です。アメリカの産業心理学者であるジョン・ワナウス(John P. Wanous)は、RJPには主に次の4つの効果があると提唱しました。

「セルフスクリーニング効果」

求職者が自ら企業との適合性を判断し、選抜できるようになる効果

「ワクチン効果」

事前に会社のリアルな情報を知ることで、入社後のショックを予防する効果

「コミットメント効果」

組織の誠実さが、採用者の企業への帰属意識や愛着を深めさせる効果

「入社後の役割自覚効果」

企業が求職者に何を期待しているかを明確化することで、入社後の役割の実感を高める効果

 

応募者自らが企業とのコミュニケーションの中で選抜を行うセルフスクリーニング効果によって母集団が小さくなることで、優秀な人材も減少してしまうのではないかという懸念については、ワナウスらによって、その仕事にふさわしい応募者が減るわけでないことが実証されています。

 

■RJP理論に基づく採用と伝統的な採用の違い

就職みらい研究所が企業向けに行った調査では、入社者(2021年卒学生)への満足度が高い企業の方が統計的有意(※)にRJPを実施していることがわかりました(『就職白書2021 冊子』)。

※「有意差」「有意な差がある」とは、確率統計の用語。偶然とは考えにくい差があることを指す。本集計は5%有意水準で計算

 

■入社予定者全体に満足している企業とそれ以外の企業の採用の情報提供の度合い

2021年卒採用実施企業/単一回答 各項目の数値は採用の情報提供における「あてはまる・計」の割合

また経営学者の金井 壽宏氏は研究論文(※)の中で、RJPは日本においても、職種限定型の募集であることが多い中途採用の領域に対して、有効であると示唆しています。

※『エントリー・マネジメントと日本企業のRJP〔現実主義的な職務の事前説明〕指向性 先行研究のレビューと予備的実証研究』1994年

RJPとは、良いことと悪いことの区別なく、事実をありのままに伝えることであり、ネガティブな事柄を自虐的に強調することではありません。最近では、SNSや口コミサイトで社内からの匿名の発信も行われ、よりリアルな多くの情報が得られるようになってきています。この研究自体は古くからあるものですが、人材不足が続く中、求職者側の情報取得の習慣や志向性の急速な変化によって、RJPの考え方に沿った情報開示を求められる環境にあると言えるでしょう。一見「求職者が引いてしまうのではないか」と思われるような社内の実情も、背景をしっかり説明し、課題を改善していく姿勢を伝えることで、求職者からの信頼度が思ってもみなかったほど高まるという声を、採用成功企業から数多く聞かれます。

 

RJPの導入方法として、研究では5つのガイドラインが示されています。

① RJPの目的を求職者に説明し、誠実な情報提供を行う

② 提供する情報にみあったメディアを使用し、信用できる情報のみを提供する

③ 現役の社員がリアルな情報を提供する

④ 組織の実態に合わせて開示する良い情報と悪い情報とのバランスを考慮する

⑤ これら情報開示を採用活動の早期段階で行う

 

また、オンラインが採用のコミュニケーションにおける主な場となっている今、オンラインで如何に社内の実態を情報開示し、納得して入社してもらうかが、入社後の納得、満足、コミットにつながります。最近では、入社後の同僚や上司の話を動画コンテンツで求職者へ見せたり、実際入社後に訪れると想定される「壁」を伝え、どう判断するかを問うコンテンツを配信したり、VR技術を使ってオフィスの雰囲気や文化を伝えたり、現場の仕事をLIVE配信で見せるなどの手法が実際に採用の場面で取り入れられています。

オンラインツールをうまく活用し、組織実態に即した質の高い情報開示を行うことが、マッチングの精度を向上させ、人材・採用戦略を成功へと導く重要な点であると考えます。

 

新卒採用におけるRJPの実態や効果事例についてはこちら(『就職白書2021 冊子』P36~P39)

『就職白書2020 冊子』

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