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2013.12.05

『試職(シショク)』を導入した事例 ~株式会社 河内屋~

すべてを見せる「営業同行」と、徹底した内定者・入社後研修で、ミスマッチによる早期離職者ほぼゼロへ。

新たなトレンドである『試職(シショク)』を通じた就職/採用活動。この取り組みは、学生と企業のマッチングの進化へのブレークスルーとして機能し始めている。今回はその事例として、株式会社河内屋の山浦さん、百瀬さんへのインタビューを行った。

管理本部 総務課 係長
山浦 智道さん

 

管理本部 総務課
百瀬 洋美さん

 

 

社名(所在地) 株式会社 河内屋(東京都中央区)
会社情報 業務用酒類飲料販売業
主な募集職種 総合職(主に営業職) ※主な事業所が「八王子」と「日本橋」で「郊外型・車営業」と「都市型・電車営業」の両方がある。
従業員規模 従業員150名(グループ全体700名)
採用人数
(試職参加)
10名程度 (20名程度 ※年によって異なるが、2014年卒の選考では人数を絞り込んで実施)

『試職(シショク)』導入の背景

離職率改善のための取り組みを多面的に展開。

 同社では、離職率を下げ、入社後の活躍を支援するために『試職(シショク)』のみならず、さまざまな内定者研修・入社後研修の充実なども併せて取り組んでいる。また、こうした『試職(シショク)』の取り組みは15年ほど前から続けている。

過去、離職率が高い時期は、入社後5年で見ると80%以上退職していた時期もあった。入社後ギャップが大きいことが原因となっている面があり、徹底して現場を見せる機会を作ることに。「通常の採用活動で学生を集めて“同じ資料を使って”“同じように説明”しても“学生個々の受け止めかた”や“イメージする仕事像”はバラバラなため、リアルに見せて自己投影できるようにしないとギャップは生まれると感じていた」 (山浦さん)。

また同社は、1988年に配送を別会社化したため、採用も営業職を中心としたものへと変化した。それに伴い、高卒中心の採用から、現在の大卒中心の採用に変化した。さらに以前は「酒販業界=配送=男性の仕事」というイメージが強かったが、現在はそうではない。さまざまな面で学生の価値観や質の変化を感じており、対応策として「判断材料を与える」「すべてを見せる」ということを意識しているという。

『試職(シショク)』の内容

ありのままをすべて見せる。終了時間も未定で、仕事が終わる時間まで同行する。

 同社では、新卒採用を下図のようなフローで実施しており、2次面接の前段階の「営業同行」が『試職(シショク)』に当たる。この「営業同行」は1日の営業に完全に同行するプログラムで、下記のような内容となっている。

1.午前10:30 八王子または日本橋の営業所へ集合

午前中は、適性検査の受検と、1時間ほど社内で先輩の仕事や商材となる酒類のパンフレットなどを見ることができる。

2.午後、営業同行へ出発。

営業の仕事は終了時間が一定ではないので、この営業同行のプログラムも終わりの時間は決まっていない。過去、最長のケースは23:00まで。代金回収やメーカーさんとの会食、クレーム対応などにも同行させ、事実をすべて見てもらう。

※ ここ2~3年は内定前に「八王子(郊外型営業)」を体験したら、内定後に「日本橋(都市型営業)」を、逆に内定前に「日本橋」を体験したら、内定後は「八王子」を体験してもらう。実際に入社した際には、配属がどちらになるかは分からないので、両方のマーケットを見てもらうようにしている。すべてを見せて入社前に、フィット感をジャッジしてもらうことを意識している。

※ 近年はセミナーで手作りVTR(飛び込みや商談の風景)を見せてリアリティーを出すようにして、そのことによるスクリーニング効果を狙っている。その結果、試職の際にギャップがない(VTRの事が本当だった)ことに、より気付いてもらえている。

また、『試職(シショク)』以外にも、内定者・入社後研修を充実させて、早期離職の防止・入社後活躍の促進といったテーマに取り組んでいる。内定者研修は7月以降毎月実施し、入社後のスタートダッシュや内定者同士の仲間意識の醸成に役立っている。入社後は、人事からの2カ月ごとのヒアリングなど細かなケアを実施している。

『試職(シショク)』導入の成果

『試職(シショク)』の導入成果(メリット)は学生側・企業側ともにあり、
以下のような内容が挙げられる。

学生側

実態を見て学生自体が判断できる場に。

 参加すると、「楽しかった」と感じる学生も、「自分には無理だ」と感じる学生も両方出てくる。そのことにより学生自身がミスマッチを回避することができていると思われる。学生のほうから更なる選考に進むのを断ってくる際は「自分の考えていた営業と違う」という声が多いとのこと。

また、女子学生の場合は、女性の先輩に同行するが、「あの先輩のようになりたい」と言って入社してくるケースが多く、実態を見たうえでのマッチングが行われていると言える。

企業側

「面接では見えない素の部分」を多面的に見ることができる。

 営業現場では「面接では見えない素の部分(人間性)」で人物を判断できるということや、営業のスタッフの目線から見て「仲間として一緒に働きたいか」という感覚で判断できるというメリットもある。
離職率に関しては、圧倒的な改善が見られる。研修など他の施策の実施による効果も大きいが、ここ3~4年の定着率で見ると、家庭の事情などによる離職はあるが、ミスマッチによる離職はゼロになっている。
入社後は2カ月ごとに人事からヒアリングをしているが、事前のイメージの擦り合わせが上手くいっている実感があるとのこと。
また、『試職(シショク)』の実施に際して、「仲間意識が高い社風なので、若い人(学生)に興味を示す社員が多く、喜んで協力してくれる。また、同行する社員の人選は、支社のTOPに選んでもらっているため、選ばれること自体が先輩社員として誇らしいことにもなっている」 (山浦さん)といった話もあった。

事例収集・研究担当の着目点

 このケースのポイントは営業という仕事の「すべてを見せる」ということです。 事前に、セミナーにおいてVTRで実際の飛び込みや商談風景を見せていますが、『試職(シショク)』における営業同行で、それが事実であるということを確認し納得してもらえるような流れとなっているのも効果的だと感じます。営業同行では、一般的な商談場面だけではなく、クレーム処理や代金回収など、営業として携わる「すべて」のプロセスを体感できます。一見ネガティブに見える部分も事実として見せていることで、“働くリアリティ”が伝わり、定着率アップなどに繋がっていると思われます。

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