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就職みらい研究所とは
2013.11.08

新卒就職・採用の新たなトレンド『試職(シショク)』。 学生と企業のマッチングに進化の兆しあり。

リクルートグループは2010年より毎年、住宅・旅行・進学・飲食・美容などの各事業領域におけるトレンド予測を発表していますが、就職領域においては『試職(シショク)』を2013年のキーワードとして発表しました。(⇒リクルートホールディングスのリリースページはこちら)
『試職(シショク)』とは、学生の就職先選びにおいて、その決断をする前に対象となる仕事や職場を試す行為を意味します。私たちは、試着、試飲、試乗、試聴・・・といった、消費行動においてはごく一般的な「決断前に試す行為」が、いよいよ就職の領域にも応用され始めたと感じています。
学生個人にとっても、企業にとっても、入社後のミスマッチは大きな損失。その回避を願った『試職(シショク)』への取り組みが新たなトレンドになっています。

『試職(シショク)』の背景

『試職(シショク)』が学生/企業に求められ、新たなトレンドとなっている背景を、「学生」「企業」「就職/採用スケジュール」の3つの視点で見てみましょう。

<1>学生には「志望動機が書けません」という悩みが

 毎年、就職活動生から寄せられる悩みの一つに、「(エントリーシートなど応募書類の)志望動機が書けません」というものがあります。本来は、応募行動を起こすきっかけとなるのが志望動機ですから、「志望動機が書けない」という状況は矛盾しています。ところが実際は、応募書類の志望動機記入欄を前に頭を抱える学生は、決して特別な存在ではありません。

矢野経済研究所が2009年に行った調査(図1)を見ると、「自分が何に向いている/やりたいのかが見つけられない」ということを6割近い学生が挙げています。他の項目を見ても、総じて就職活動生が「自分を知る」、「相手(職業)を知る」というプロセスで躓いていることがわかります。またこの調査結果では、未内定者が内定者よりも明らかに高い数値を示していました。

また、02年に厚生労働省職業能力開発局がまとめた『キャリア形成を支援する労働市場政策研究会』の報告書にも、「若年者にとってのキャリアは、未来型のキャリアであり、自らの職業の適性、潜在能力、希望・動機を確認し、職業とのすり合わせを行って職業を選択するのが本来の姿であろう」と記されているとおり、学生などの若者にとって、「自分を知る」、「相手(職業)を知る」ことはキャリア選択の必要条件だといえます。
しかし、残念ながら多くの学生は「自分がわからない」、「相手(職業)を知らない」まま、就職活動を進めようとしているのが現状です。  『試職(シショク)』は、そうした現状のブレークスルーとして機能し始めています。 『試職(シショク)』の機会が提供されることで、学生は 「自分を知る」 、「相手(職業)を知る」というプロセスを踏むことができ、志望動機の明確化やフィット感の確認が可能になる。これが学生側から見た背景だと言えるでしょう。

<2>企業は生き残りをかけ、若手の戦力化に注力。

 一方、企業側は、内需の頭打ち感、グローバル競争の激化という状況のもと、勝ち残るために、人材マネジメントに一層注力しています。さらなる生産性向上や経営のスピードアップが至上命題となるなか、新人・若手社員の早期戦力化に積極的に投資する傾向も強まっています。  ところが、リクルートマネジメントソリューションズの『人材マネジメント実態調査2010』(図2)によると、新人・若手の職場不適応者が「増えた」と回答した企業が44.1%にものぼります。  新人・若手への期待の高まりにより、職場不適応の問題はよりクローズアップされているようです。この背景には若年層の指向や特性の変化といった「個人要因」、上司や職場の育成力の低下といった「職場環境要因」、若手の担う仕事の質の高度化といった「仕事環境要因」などが挙げられます。「個人要因」と「仕事環境要因」は時代の必然ともいえますし、「職場環境要因」については強く改善が望まれるところであるものの、一朝一夕に成るものではありません。  こうした状況に対し、企業はより一層「適応する人材の採用」に解決の糸口を求める方向に傾き、「より早期戦力化しやすい人材」を求めて、学生とコミュニケーションを深めるべく尽力しているといえます。  上記のような背景から、『試職(シショク)』は、「学生に志望動機を芽生えさせるためにも、まず体感してもらう」という意味や、「自社に適応する人材なのかをしっかり見極める」という意味においても、 活用され始めているのです。

<3>就職/採用活動のスケジュールの圧縮も後押しに。

  「学生は仕事や職業を知らないため、志望動機がわかない」、「企業は早期戦力化する資質と意欲のある学生が欲しい」。こうした背景に加え、さらに就職/採用スケジュールの圧縮も後押しになっています。
活動は圧縮されてはいますが、学生からすれば「自分を知る」、「職業を知る」という行為自体が制限されているわけではありません。むしろ、こうしたことに日頃から取り組んでおかなければ、採用広報開始のタイミングで企業へのアプローチが開始できない、あるいは、あいまいな応募動機でとりあえず企業にアプローチするという行動に陥ってしまいます。  一方企業側は、以前よりインターンシップの導入などで『試職(シショク)』の機会を提供してきていました。しかしながら、インターンシップが一定規模以上に広がっていないという現実もあります。その背景としては、一部の人気企業を除けば、インターンシップの母集団形成が採用母集団に比べ極めて困難であること。仮にうまく集客でき、インターンシップを実施できたとしても、その学生を、採用活動時期まで繋ぎとめておくことは極めて難しいこと。また産業構造の変化により、就業人口の約45%の雇用の担い手であるサービス業は、現場に多くの「素人」を長時間配置することが難しいなどの要因が挙げられます。
そんななか、さまざまな制約条件を鑑みて各社ごとに工夫を凝らし、比較的コンパクトに仕事体験や実習を行う『試職(シショク)』を施すといった取り組みが増えてきています。学生にとってみれば、今後、図3のように『試職(シショク)』の内容も時期も多様化し、“試す”機会の増加が予測されます。

就職みらい研究所として、『試職(シショク)』事例の収集・研究に取り組みます。

 以前より、学生の就職難が叫ばれ続け、同時に企業の採用難も一向に解消されていません。さらに、就職/採用時点でのマッチングの難しさに起因する早期離職も後を絶ちません。最初から入社後の不適応を望んで就職する学生も、また採用する企業もありません。しかし双方が望まないことが数多く起きているのも現実なのです。  わたくしたち就職みらい研究所は、この『試職(シショク)』が、そうした悩ましい現実のブレイクスルーとして、多くの期待と注目を集めつつあると感じています。  今後、拡大・多様化していくであろう 『試職(シショク)』の事例の収集・研究・発信に取り組み、『試職(シショク)』の普及、ひいてはマッチングの進化に寄与したいと考えています。今後の記事にご期待ください。

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