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就職みらい研究所とは
2024.07.08

若年層から“働く”に触れる機会が大切。個々のキャリア自律が日本の国際競争力を高める

識者に聞く「10年後の就職活動」 Vol.12

就職活動・採用活動をめぐるさまざまな議論が行われています。そこで、若者が自分らしい意思決定の上、期待感を持って社会への一歩を踏み出すために、「10年後の就職活動・採用活動の在り方」というテーマで、各界を代表する識者の皆様にインタビュー。今回は、NEC(日本電気株式会社)執行役Corporate EVP兼CHRO兼ピープル&カルチャー部門長の堀川大介さんのお話をご紹介します。
 

NEC
執行役Corporate EVP兼CHRO兼ピープル&カルチャー部門長
堀川大介さん

 

【Profile】

1992年にNEC入社。2015年にパブリック企画本部長、2017年に社会基盤企画本部長を経て、2020年にNECマネジメントパートナー株式会社(現NECビジネスインテリジェンス)代表取締役執行役員社長を歴任。2023年より現職。

多様な人材が交ざった組織が、イノベーションを生んでいく

 
「適時適所適材」で進めるカルチャー変革
 
私は長くビジネスサイドにいた人間で、人事の専門家ではありません。2023年のCHRO就任により求められてきたのはカルチャー変革。人事の道を歩んでこなかったからこそ、自由な発想を持ち込みやすく、採用においても、既存の枠組みにとらわれずに動いていけるのではないかと考えています。
 
NECは長く、新卒人材を中心とした同質性の高い組織でした。しかしいまや、新卒で就社した1社で勤め上げる価値観は完全に崩れているでしょう。そこで、より多様な人材が入り交じる組織にしていこうと、NECでは2019年度よりキャリア採用専門部署を設置。現在の新卒とキャリア採用数は同等の割合になっています。多様なバックグラウンドを持ち、複数社を経験してきた即戦力のある人材が続々と入ってくることで、NECに新卒で入社した社員は自らのキャリア観や働き方について考え直したり、自分の市場価値に意識を向けるきっかけを持つことができています。さらに両者がうまく融合することで、多様性が加速し、イノベーションにつながる可能性も感じています。
 
カルチャー変革で目指すのは、社員一人ひとりが「自ら考え、自ら決め、自ら行動する」プロになることです。従来の人事制度は、会社が配属先や職務を決めていくものであり、社員自らが考え、選ぶというものではありませんでした。現在のジョブ型人材マネジメントにおいては、人材配置を「適時適所適材」で考え、会社として戦略実行力を強化するとともに、社員としてはキャリア自律の実現を目指しています。そのためのサポートを充実させており、例えば、主体的なキャリア形成を促す人材公募制度「NEC Growth Careers」や、職場を超えた人材のポジションマッチング、スキルのアップデートと行動変容を促す「Re-skilling Program」などにより、自らの今後を考えて動く機会をつくっています。また「適時適所適材」の加速のために、組織・ポジション設計の考え方から始まり、プロセスやシステムに至るまで抜本的に改革を進めています。
 
新卒採用においても、ジョブマッチング採用の導入を進め、2024年度から、内定時に部門・職種を確約させた新卒メンバーが入社してきています。“就職”ではなく“就社”だった採用の在り方から、入社の段階で職務を選べるようになることで、学生が自分のキャリアをどう重ねていきたいかを考え、それに沿った選択ができるようになっていきます。多くの企業でジョブ型採用が広がる中で、学生側の選択の自由度が高まっていると感じています。
 
NECを含めた企業側もまた、事業戦略上、必要な人的リソースをすべて新卒で採用しイチから育てるのではなく、外部から即戦力で採用するという選択肢が生まれたことで競争力を高めやすくなっているのではないでしょうか。個人から見ればキャリア自律の選択肢が広がり、企業は競争力のある人材を選ぶことができるようになる。お互いが選び選ばれる、対等な関係になっていくといえるでしょう。
 

エスカレーター形式のルールでは、キャリア自律は育たない

 
中高生の段階から、“働く”を知る機会が広がっていくと良い
 
新卒採用の在り方を考える上では、「多様性をどこまで追求するか」によって方針は変わってくると考えています。
 
就活スケジュールには、一定のルールが設けられています。しかし、エスカレーター形式で、「いつまでにこの活動をすれば内定をもらえます」などといったレールに乗っているだけでは、自分でこれからのキャリアについて考える機会につながらず、キャリア自律がなかなか育たないのではないかという懸念があります。
 
企業としては、大学4年生を対象に採用活動をするだけではなく、もっと早い段階から、優秀な人材とコミュニケーションをとっていきたいと考えるのは自然なことでしょう。大学3年生からインターンシップに参加し始めるのではなく、中学生や高校生の段階から“社会人としての経験を積む場”として企業を開放していく。“職業体験”のような授業を広げ、働くとはどういうことなのか、最新のテクノロジーに携わる面白さはどこにあるのかといったことを、早い段階から体感してもらっても良いのではないかと思うんです。
 
また、中学生や高校生のうちに、自分たちの地元にどんな企業があるのかを知る機会も重要です。地域にはさまざまな優良企業があるにもかかわらず、それを知る機会が圧倒的に足りないために「東京に行かなければ選択肢はない」と思い込んでいる地方の学生は非常に多くいます。子どものころから、地域で働く選択肢に触れ、地元企業の良さを認識した上で、企業を選べるかどうかで、働く際の納得度も大きく変わってくるのではないかと思います。
 
大学の機能と価値を、国全体で高めていく工夫が必要
 
多様な価値観の広がりによって、今後は、大学を出ること自体の価値が見直されるのではないかとも考えています。漫然と、どこどこの大学を卒業すれば良い企業に就職できるからと進路を選んでいては、大学の4年間ないし6年間を有意義に使うことができません。
 
一方で、インターンシップを複数社経験した中で、働くことへの意識が完成されている人材がいるならば、企業としてはぜひお会いしたい。「こんな理由でこの会社に入りたい」と明確に言えるのであれば、もはや大学を卒業しているかどうかは関係なくなる時代もくるのかもしれません。企業側が知りたいのは、どの大学を出たのかよりも、そこで何を経験し学んできたか、どんな力を身につけ、今後も成長を続ける可能性があるのか、というその人自身の中身だからです。
 
大学教育の意義を高めるためには、産官学の連携を進め、「日本の大学は、競争力のある人材を輩出している」ということを証明していかなくてはいけないでしょう。スキルアップの仕組みとして大学が機能し、卒業した人や社会に出て働き始めた人がリスキリングのためにもう一度大学に入り、自身のキャリアや人生を豊かにする選択肢がより増えても良いのではないでしょうか。
 
グローバル企業が競合相手になっている昨今、採用でも苦戦を強いられる日本企業は多いでしょう。国全体のエコシステムとして、大学の学びの機能を高めていかなければ、日本はますます世界から取り残されていってしまうという危機感を抱いています。
 
大事なことは、これまでの当たり前を疑い、従来の枠組み・慣習について、改めるべきことは改めていくこと。そして必要な変化を起こし、新しいことを取り入れていくことが、将来を担うリーダーに求められることと考えています。
 

取材・文/田中瑠子 撮影/刑部友康

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