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就職みらい研究所とは
2024.06.24

「自らがその仕事で通用するかどうか」を見極める「タイプ3」のインターンシップを実施

これからの「働く」を考える Vol.24

高い教育的効果を発揮するインターンシップの取り組みをグッドプラクティスとして表彰し、その成果を広く普及することを目的に文部科学省が実施している「キャリア形成支援活動表彰」(2022年度までは「大学等における学生のインターンシップ表彰」)。2023年度は、京都産業大学が最優秀賞を受賞しました。同大学の取り組みの詳細について、経営学部准教授・松高政さんに聞きました。

 

京都産業大学 経営学部
准教授(インターンシップ・キャリア実習系科目統括)
松高 政さん

【大学等における学生のキャリア形成支援活動表彰とは】

学生の能力伸長に寄与するなどの高い教育的効果を発揮しており、他の大学等や企業等に普及するのにふさわしいモデルとなり得るインターンシップなどキャリア形成支援活動を、グッドプラクティスとして表彰し、その成果を広く普及することを目的とした表彰制度。文部科学省は、教育的効果の高いインターンシップのすそ野を広げる取り組みとして、2017年度に「大学等におけるインターンシップの届出制度」を創設。2021年度まで「大学等における学生のインターンシップ表彰」として実施していた。2022年の三省合意一部改正を受けて、制度名称の一部を「キャリア形成支援活動」に変更している。
 

【京都産業大学の取り組み】

創設時からの「産学協同」の理念に基づき、学内での「学び」と学外での「実践」を往還する独自のキャリア形成支援教育プログラムを長年実施。その一環として、2023年度より、全10学部の2・3年次の学生を対象に、選択科目として「キャリア実習(インターンシップ型)」「キャリア実習(職場体験型)」の2科目を設置。学内での事前・事後学習と、10日間程度の企業での就業体験により「仕事」や「働くこと」への理解を深める取り組みを行っている。とりわけ「キャリア実習(インターンシップ実践型)」は、実務で活用したい専門的能力・汎用的能力の明確化に資する内容で構成。2024年度は2科目合わせて146名が履修した。

 

10日間の就業体験と事前・事後学習で構成される2つのプログラムを実施

 

―「キャリア実習(インターンシップ実践型)」(以下、「インターンシップ実践型」)と「キャリア実習(職場体験型)」(以下、「職場体験型」)は、どのような目的・内容で行われている科目ですか

 
まず、「キャリア実習」という科目の位置づけからご説明します。本学は、大学名の「産業」を、本学独自の考えから、新しい業(わざ)をむすび、新しいものを産み出す「むすびわざ」と読みとき、あるべき大学像を「むすんで、うみだす。」、育成する学生像を「むすぶ人」としています。
 
教育においては、大学教育と実社会をむすぶことを基本コンセプトとし、その実現のために複数の科目からなるキャリア形成支援プログラムを組んでいます。その中で最も中心的な科目が「キャリア実習」という科目です。
 
ですから、科目のねらいとしては、大学での学びと実社会とをむすぶこと、つまり、学生が「働く」「仕事」「今後のキャリア」などについてしっかりと考える機会とすることを重視しています。就職は通過点でしかないので、個々人に向いている業界や適性のある仕事について考えることも大事ですが、この科目では、むしろ、その先のキャリアや働き方、生き方に目を向けてもらう。と言っても机の上で考えるのは難しいので、企業に10日間程度行って、社員の働く姿や職場を見て考えてもらっているわけです。
 
これらを、2022年度までは「インターンシップ3」という一つの科目で取り組んでいましたが、三省合意の一部改正でインターンシップの定義が変更されたことにより、科目の構成を見直すこととしました。その結果、「インターンシップ3」をほぼそのまま「キャリア実習(職場体験型)」にスライドさせ、三省合意で示された「タイプ3:汎用的能力・専門活用型インターンシップ」の要件に合致するプログラムとして、「キャリア実習(インターンシップ実践型)」を新たに立ち上げました。
 

―インターンシップ実践型と職場体験型は、どちらも10日間の就業体験を行うもので、一見、同じよう見えます。違いはどこにありますか

 
一番の違いは、三省合意改正後に改めて置き直されたインターンシップそのものの定義にある「学生がその仕事に就く能力が自らに備わっているかどうか(自らがその仕事で通用するかどうか)を見極めることを目的に」にという点に合致しているかどうかです。インターンシップ実践型は、この定義に則って事前学習を組み立てています。
 
つまり、就業体験に行った際に「その仕事に就く能力が自らに備わっているかどうか」を見極められるよう、事前学習を5日間17コマ設けて、「なぜ参加するのか?」「目的・目標は何か?」「自分にはどのような力が備わっているのか?」「なぜそう言えるのか?」「就業体験先はどのような業界にある企業で、どのような業務を行っているのか?」「そこで自分はどのような実務を体験して、自分の力をどのように活用するのか?」などについて学生たちに頭をフル回転して考えてもらいます。そして、それらをPowerPointにまとめ、就業体験先企業にプレゼンテーションし、企業からフィードバックをもらった上で就業体験に臨みます。(図)
 
職場体験型も、タイプ3の5つの要件を満たしているものがほとんどですが、事前学習でここまでのことはしません。「なぜ働きたいのか?」「なぜ就業体験に参加するのか?」などについて考え、職業観や勤労観を育成することに重きをおいています。
 

図 インターンシップ実践型のプログラム内容(京都産業大学HPより抜粋)


インターンシップ実践型は、実習の目的を「その仕事に就く能力が自らに備わっているか見極める」としている。一方、職場体験型は、プログラムの構成はインターンシップ型と同様だが、事前学習の内容・コマ数(5日間14講)と、実習の内容(職場体験)・目的(働くことへの理解を深め、自らのキャリアを考える)が異なる。

 
 
―2023年度は123名が参加したとのことですが、内訳を教えてください
 
インターンシップ実践型が1クラス・24名で、職場体験型が9クラス・99名です。学生を派遣した企業は83社で、そのうち、インターンシップ実践型の受け入れ企業は145社でした。13~20名前後の小人数クラスで、専任教員8名、非常勤講師2名で担当しています。
 

プログラムをやり切ることで醸成される、自信とキャリア観

 
―インターンシップ実践型は初めての取り組みでしたが、手応えはいかがでしたか
 
想像以上に学生が頑張ってくれました。事前学習で毎週出す課題に対して、決して手を抜かなかったんです。例年なら、途中からモチベーションが下がる学生も出てくるのですが、そういったことがまったくなく、就業体験先企業へのプレゼン資料も、全員が時間をかけてしっかりと準備してきました。
 
募集説明会で、実践型は事前授業のコマ数も多く、求めるレベルも高いし、負荷がかかることをしっかり説明しました。その点を理解してチャレンジしようという意欲的な学生が多かったからだと思います。
 
―事前学習から就業体験、事後学習に至るすべての学習を終えた後の学生の感想や反応はいかがでしたか
 
まずは「やりきった」という達成感がありましたね。事前学習でいろんなことを考えさせられ、就業体験に行って良いも悪いもいろんな経験をし、事後学習で振り返りもするという一連のパッケージを7月・8月という暑い時期にやりきったことの満足感です。
 
正直なところ、10日間実習に行ったところで何かの力が伸びるなんてことはないですし、見聞きしたこともすぐに忘れてしまうと思うんです。でも今後、社会人になって3年、5年と経ったときに「あのインターンシップで学んだことが今も生きてるよな」と思える経験が大事だと思います。例えば、「事前の準備って本当に大事なんだ」「働くこと、自分の生き方を真剣に考えることはとても大切なんだな」ということが腹落ちして、心の底から手応えを感じたなら、その思いはずっと生きていくはずです。そういった、企業に入ってからもコアになるような経験をしっかりとさせたいと思っていますし、学生も感じ取ってくれているような気がしています。
 
あとは、「就職活動に対してものすごくネガティブで、嫌なものでしかなかったけれど、少し前向きにやってみようかなという気になりました」という感想は多いですね。それを聞くとこちらも嬉しいです。
 
―詳しく教えてください
 
就職活動って、学生からすると「エントリーシートを書いて、適性検査を受けて、面接を受けて…」などと手続き的なことを、なぜやらないといけないのか分からないままやらされる地獄のような活動に見えているようです。
 
それが、この科目によって、ひたすら面倒くさいと思っていた就職活動もやりようによっては意味があるし、自分にとってプラスだということがわかったんだと思います。なぜそのようなプロセスを踏むのかなど、意味を考えるようになった。授業でも「それはなぜ?」という本質を考えることを繰り返し伝えています。
 
例えば、自分の理想とする社会人像には、どのような要素があるのか、事前に仮説、つまり自分のなりたい社会人、仕事のできる社会人とはどのような人物なのかを自分の言葉でしっかりと考えさせます。そして実際に10日間企業に行って「この社員のこの要素は見習いたいな」などと見て感じ、事後学習の振り返りで「じゃあ、あなたはどうなりたい?」といったやりとりを行っていけば、「こうなりたい」という人物像がより明確になりますし、そうなれるように何をすべきかも考えられます。
 
そうして思考を巡らせた学生は、就職活動のプロセスの意味や、その先の人生設計、自身のキャリア観なども考えられるようになります。そして、就職活動で内定を獲ることだけをゴールにし、一喜一憂することもなくなります。企業からいいことばかり聞かされても舞い上がらないですし、たくましさを感じますね。
 
―学生を受け入れた企業の皆さんの感想はいかがでしたか
 
評判は良かったですね。プログラム終了後に受け入れていただいた企業を集めて交流会を行っていますが、そこで話を聞いていると、いい学生が来てくれたと思ってくださっているようです。残念ながら、必ずしも受け入れ企業の採用選考に学生が応募するというわけではないのですが、そのことに対する不満の声もなく、納得の上で受け入れてくださっているようです。
 
―企業は、学生を受け入れるメリットをどのように感じているのでしょうか
 
純粋に、若い学生を受け入れたいんだと思います。学生がもたらす新たな視点や考え方、刺激に期待しているというか。これまでの「インターンシップ3」という1つの科目だったころから長年お付き合いしている関西圏の中堅・中小企業さんたちなのですが、インターンシップ実践型を新たに行うとなったときも、趣旨を説明すれば「わかりました。もちろんやります」という反応が多かったです。「ああ、学生を受け入れることに、採用だけではない何かに期待してくれているんだな。」と感じます。
 

プログラム内容をさらにブラッシュアップしていく予定

 
―次年度以降に向けて、課題があれば教えてください
 
1つは、プログラム内容のブラッシュアップです。現状、就活に対しアンテナ高く活動している学生は、自ら学外のインターンシップを探して参加しているため、キャリア実習をなかなか受講してくれません。ただ、そういった学生も含めて皆で切磋琢磨することで、キャリア観が醸成されてきている学生はさらに鍛えられますし、まだ醸成されていない学生も刺激を受けて伸びていくと考えます。
 
そのために、学生がチャレンジしてみたいと思えるような、大手企業や実力のある企業に参画してもらえるようアプローチしているところです。まだ快諾いただけた企業は限られていますが、なんとか増やしていきたいと思います。
 
また、今は主に3年生が職場体験型とインターンシップ実践型のどちらかを選ぶような位置づけになっていますが、数年後には、職場体験型とインターンシップ実践型のクラス・定員数を半々くらいになるようにして、2年次に職場体験型を受講し、3年次にインターンシップ実践型を受講するような流れにできればと思っています。それにより、学生が「働くことやキャリアについて考える(2年次)→学内外で学びを深めながらキャリア観を醸成する→関心のある仕事に必要な能力が備わっているかを見極める(3年次)」というステップを踏むことを期待しています。
 
―ほかにも課題はありますか
 
タイプ1の「オープン・カンパニー」が早期選考の草刈り場になっています。コスパ、タイパ(※)を求める学生は、半日や1日のお手軽なプログラムに参加し、お手軽に内定をもらいたいと考える傾向があります。キャリア実習のように、事前・事後授業にしっかりと時間をかけるプログラムを嫌厭しがちであることなどから、数年前から受講者数の減少が続いていました。2023年度は、科目開始前の4〜5月の2カ月間、毎週説明会を開催するなどしてこの科目の目的、意味を伝えることに力を入れたことで123名まで回復しました。2024年度は、実践型を2クラスに増やし受講生数44名、職場体験型は8クラスで102名、合計146名とさらに増加しました。就職活動の早期化がますます加速しているので、学生には慌てず、焦らず、しっかりと自らの生き方・働き方を考えることの大切さを伝え、キャリア実習科目はその機会であることを、しつこく地道に伝えていくつもりです。
※費やした時間に対する効果を意味する造語。タイムパフォーマンスの略
 
あとは、受け入れ企業との連携に関してももう少しアップデートしていく必要性を感じています。というのは、インターンシップ実践型を行うにあたり「就業体験において学生に担ってもらう実務」「その実務に必要な能力要件」など、具体的な情報を事前に書類に記入して提出してもらったのですが、ほとんどの企業が言語化することができていませんでした。「コミュニケーション能力」「自主的な行動」「主体性」など、辞書的な説明に留まり、その能力が実務においてどんなふうに必要なのかを自社の実務の文脈に落とし込んで具体的に書くことができない。
 
また、学生が事前学習の一環で受け入れ企業に向けて行うプレゼンに対して、的確なフィードバックができない企業も見受けられるので、もっと学生一人ひとりのらしさや持ち味に着目し、今後の成長や成果につながるフィードバックをしていただけるように、期待したいところです。
 
―大学として何か対応を働きかけたりされるのでしょうか
 
インターンシップ学生を受け入れるというのは、企業にとっても様々な点を見直すよい機会だと思います。2024年度は、初めての試みとして、受け入れ企業に集まってもらい事前の勉強会を開催します。大学側が感じていることや考えていただきたい点なども伝え、企業にとってもプラスになる協働のあり方を考えていきたいと思っています。
 
また、2024年度からは、学生用テキストとして事前・事後学習で取り組む内容をまとめることができたので、それを企業にも読んでもらいます。テキストを通して、学生たちが事前学習でどんなことを考え、取り組んでいるのかについて理解を深め、企業とのより良い連携を模索していきたいと思っています。
 

取材・文/浅田夕香 撮影/刑部友康

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