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2024.03.27

大学生活の中で十分にキャリア観が醸成された上で、学生が就職活動に進める社会に| 東京都市大学 住田 曉弘さん

識者に聞く「10年後の就職活動」 Vol.4

就職活動・新卒採用をめぐるさまざまな議論が行われています。そこで、若者が自分らしい意思決定の上、期待感を持って社会への一歩を踏み出すために、「10年後の就職活動・採用活動の在り方」というテーマで、各界を代表する識者の皆様にインタビュー。今回は、東京都市大学で長年、学生のキャリア開発に携わり、日本私立大学協会就職・キャリア支援委員会委員長なども務める住田曉弘さんのお話をご紹介します。
 

東京都市大学
学生支援部 部長
住田曉弘さん

 

【Profile】

民間企業で就職事業、キャリアカウンセラー養成事業の責任者を経験。人材・教育コンサルティング会社の役員などを経て、東京都市大学に入職。学生のキャリア開発に取り組む。日本私立大学協会就職・キャリア支援委員会委員長、大学職業指導研究会副会長。

 

3年次に判断する進路が本人の関心に合っているのか

 
学生が自身の興味・関心を整理できるのは4年生以降
 
これからの日本における働く個人と企業のつながりの在り方として、新卒学生においては、個々の学生が大学生活の中で十分にキャリア観を醸成した上で就職活動に入り、卒業時点で自分に合った企業への就職が決まった状態にある世界に変化していくことを望みます。
 
学生が、修めていきたい専門性や自身の興味・関心をある程度整理することができるのは、ゼミや研究室の選択、卒論のテーマ決めなどを経た学部4年生以降です。ましてや卒業後の仕事として何に取り組むかについて興味・関心を持つことができるのは、多くの方にとってさらにあとでしょう。それにもかかわらず、3年生から就職活動を始め、卒業後の進路について意思決定する現在の状況に課題を感じています。
 
とりわけ昨今は、インターンシップが企業の広報活動や母集団形成の手段として採用プロセスに強く組み込まれるようになってきていることから、学生も企業も「インターンシップへの応募=就職活動の始まり」と認識している実態があります。学部生であれば、3年生の夏という、働いていく上で必要となる基礎力や専門性、職業的な態度が十分に養われておらず、キャリア観も整理できていない段階から、内定を得るために企業に気に入られるような行動をとる。その状況で学生が判断する進路は、必ずしも本人の根っこにある興味・関心や能力に合ったものになるとは限りません。
 
基礎、専門、職業的態度を高める期間を長くとりたい
 
学生が自身のキャリアを整理していくにあたっては、「①自分を知る」「②社会を知る」「③自分を磨く」の3つのサイクルを回すことが有効だと考え、東京都市大学ではキャリア開発のフレームワークとして学生に伝えています。
 
具体的には、まず「①自分を知る」ために、自分の経験や履歴、能力といった「客観的な側面」をエビデンスに基づいて整理し認識することと、変化する社会を認識しそれに将来どのように関わりたいか、自分がどのようになりたいかといった「主観的な側面」を整理し認識することの2つを行います。主観的な側面を整理するには内省するだけでは不十分で、「②社会を知る」こと、すなわち、仕事や企業について知ることはもちろん、社会環境の現状や今後の変化についての予測なども知ることが必要です。そうして社会を知り、自身の主観的な側面を認識していくことを繰り返しながら、自分と社会との関わりを実現するためにどのように能力を向上させていくか計画し、主体的に行動して能力を磨き、高める。これが、「③自分を磨く」です。そして、自分の能力が高まれば、その事実やエビデンスに基づき「①自分を知る」の客観的側面に反映する。このフレームをぐるぐると回すことで、自身のキャリアについてだんだんと整理されていきます。
 
加えて、授業や課外活動をはじめとした学内外での活動を通じて、基礎的な学力やコミュニケーション力(対人能力)、自分で決めた目標に向けて前向きに努力する力(対自己能力)などの「基礎力」と、自己信頼、変化思考・好奇心、当事者意識、達成欲求などの「職業的態度」、そして、研究室やゼミでの活用による「専門力」を高めていく。これらに学生生活のできるだけ遅い時期まで取り組むことで、卒業後の進路におけるミスマッチが減る可能性が高まると考えます。
 
この観点から、できることなら就職活動は、学部生なら例えば4年生の夏休みに入るころ、すなわち、7月の後半から8月頭ごろより開始するなど、現在よりも遅い時期から始められるよう変わっていけるといいのではないかと思います。
 

低学年次から「働く」を知り、考えるのはウェルカムなこと

 
なお、これは早期の企業と学生との接触を否定するものではありません。学生が、低年次から「オープン・カンパニー」(※)などを活用して企業や仕事に関する情報を得て、「働く」ということについて知り、考えていくことは、とてもウェルカムなことだと思っています。大学での学びや自身の興味・関心が将来にどのようにつながっていくのかを知り、考える機会にもなりますし、将来を見据えて今、何を学ぶべきか考え、学びのモチベーションを高める機会にもなりますから。
 
また、学生と企業が接点を持つ中で、企業が個々の学生それぞれが持つ知識やスキル、能力、特徴、強みなどを第三者的な観点でフィードバックする機会もあっていいと思います。「将来、一緒に働けるといいね」「そのためにはこういったことを学んでおくといいよ」といった声がけも、即、選考に誘うものでなければ構わないと思います。問題なのは、内々定を得るために学生が早期に活動し始めることです。選考を受けるという、特定の企業へのアプローチを始めるのは、卒業・修了年度の夏休みごろからにしてほしいと思います。
 
※2022年に4つに類型化された学生のキャリア形成支援の取り組みのうち、企業・就職情報会社や大学キャリアセンターが主催するイベント・説明会など、個社や業界に関する情報提供・PRを目的としたもの。
 
キャリア観を早くから持つ学生のチャレンジも支援
 
他方で、早くからある程度先までのキャリア観を持って就職活動にも早期からチャレンジしていきたいと考えている学生も、尊重してあげたいという考えがあります。
その方法として、一定の基準を設けて、企業の採用活動の時期を複線で設けることができればいいのではないかというのが私の考えです。2026年卒採用から、卒業・修了年度前年の春休み以降に実施される2週間以上の「専門活用型インターンシップ」に参加した学生には、卒業・修了年度前年の3月から採用選考活動を可能とするルールはその一つの方法だと思います。

 
あるいは、すでにある程度先までのキャリア観を持っている学生に対しては、企業が早期に「ほぼ内定」のような口約束をするとともに、「大学院に進んでこの分野の研究に注力してほしい」というオーダーを出して学生のモチベーションを高めて学びを促す、場合によっては大学院の学費を企業が負担するといった世界をつくっていく選択もあるのではないかと思います。
 
十分なキャリア観を持っていない学生がキャリア観を持っている学生に引っ張られて早期に就職活動を始めてしまい、活動が長期化する懸念もあります。それを防ぐために、学生の力を見極め、「まだ焦って動く必要はなく、今はこういう学びや活動で力をつけていくといい」という整理をし、助言できる存在がいる世界をつくることができればとも思います。その役割を担うのは、我々のような大学で学生のキャリア開発に携わる人間なのか、企業の方々なのか、民間の就職支援会社なのか、あるいは、AIを活用したHRテクノロジーなのかという議論が必要ですが、学生が自分の力と必要な学びを的確に認識できる世界ができるといいなと思います。
 
学生、企業、大学の三者が、お互いを知ることが必要
 
今後、より良い就職・採用の在り方を実現していくために大切なことは学生、企業、大学の三者がお互いを知り、理解し合うことだと考えます。
例えば、大学−学生間においては、単に教員が自分の専門分野について教えるだけでなく、その分野を学ぶ意味や、将来にどのように結びつくのかを語ることが必要でしょう。また、企業−大学間においては、企業は、大学がどのような教育をしているのか、何を教えているのかを知ること、大学は、企業がどのような力を持つ人材を必要としていて、その力をつけるためにどのように社員を育てているのかを知ることなどが必要でしょう。これらをうまく進めていくことで、互いに信頼関係がつくられ、良い形でのマッチングや就職につながっていくと思います。

 

東京都市大学の取り組み

 
独自システム「TCU FORCE」でキャリアをデザイン
 
東京都市大学では、学生が在学中に取得した単位や資格、課外活動の実績などを記録・登録し、各学年の終了時に「プレ・ディプロマサプリメント(以下、プレDS)」を、卒業時に「ディプロマサプリメント(以下、DS)」を発行する独自のシステム「TCU FORCE(FOR Career Enrollment)」を用いて、学生のキャリアデザインを支援している。
 
TCU FORCEは、各年度の履修履歴や課外活動の内容・実績、取得した資格などの定性情報を記録できるキャリアポートフォリオの機能と、正課科目の成績や全学生が毎年受検する適性検査の結果、英語資格試験の結果などを「リテラシー基礎力」「コンピテンシー基礎力」「語学力」「基礎学修力」「専門学修力」「専門実践力」の6つの指標で数値化してレーダーチャートに示したDSを発行する機能を持つ。3年次修了時点のDSを就職活動などに活用することも想定しており、また、卒業後は、同窓会組織のWebサイト「都市大校友オンライン」から発行することも可能だ。
 
2023年度からは、ディプロマ・ポリシー(※)に基づき「自立の力」「問いの力」など社会で生きる上で必要な5つの力からなる「都市大力」をレーダーチャートに示すDSの機能も実装した。
 
※各大学、学部・学科等の教育理念に基づき、どのような力を身に付けた者に卒業を認定し、学位を授与するのかを定める基本的な方針であり、学生の学修成果の目標ともなるもの。卒業認定・学位授与の方針。
 
年2回のガイダンスで、目標設定と振り返りを実施
 
学生は、まず1年次の4月に実施されるキャリアガイダンスで、1年間で達成したいこと(学修目標)と、そのために取り組みたいことや必ず取り組むことを設定する。そして、9月のキャリアガイダンスで1年次前半のプレDSを確認し、活動の進み具合や学修目標の達成具合を点検する。
 
次に、2年次4月のキャリアガイダンスで1年修了時のプレDSを確認してこれまでの活動を自己評価し、自分自身について理解を深めた上で、新たな1年の目標を設定する。そして、9月のキャリアガイダンスで2年次前半までのプレDSを確認し、活動の進み具合や学修目標の達成具合をふまえて活動計画や目標を見直す。この間、年1回、9〜10月に実施されるクラス担任との個人面談により、学生が自身の問題意識や課題意識について話し、担任から助言をもらう機会も設けている。「学生にPDCAを回すことを習慣化してもらいたい」(住田さん)という意図で1・2年次は全員参加のキャリアガイダンスを行い、目標設定と振り返りを行っているが、3年次以降は学生の自主性に任せて運用しているとのことだ。
 
「我々が学生に取り組んでほしいと思っているのは、日々、PDCAの小さなサイクルを回すことです。日々学んだことをスマートフォンから入力して蓄積し、例えば就職活動のときに『これまでどんなことを学んだのか』『何に取り組んだのか』を整理する材料にしてほしい。でも、ここまで取り組んでいる学生はまだ少ないのが課題です」と住田さんは話す。
 
今後は、卒業生のDSを必要な手続きを経て学部1年生に開示し、目標設定や行動計画の指針にしてもらうことも検討しているという。
 
「入学当初の1年生は『まず何からすればいいんだろうか?』と迷っている状況です。そこで、卒業生のDSを開示して『この企業に入社した先輩は、TOEIC®Testのスコアは最終的にいくつで、課外活動としてはこんなことをしていた』といった情報提供をすることで、『まずは英語の勉強から始めてみようかな』『将来的には海外留学にチャレンジしよう』といった指針を持てるようにして、大学生活に対するモチベーションを高めたいと思っています」(住田さん)。
 

  1. スマートフォン画面イメージ
  2. 学生は、スマートフォンからTCU FORCEにアクセスし、日々の活動記録を日記のように残したり、プレ・ディプロマサプリメントを確認したりすることができる。
     

  3. ディプロマサプリメントイメージ
  4. ディプロマサプリメントの6項目のうち、「リテラシー基礎力」と「コンピテンシー基礎力」は、毎年全学生が受検する適性検査の結果を数値化。「語学力」は、外国語の正課科目の成績とTOEIC®TestやTOEFL®Test、英検®などの試験結果、国際交流の経験などを独自のスコアに数値化し、「基礎学修力」と「専門学修力」は、学科ごとに該当正課科目を設定し、その成績を数値化している。「専門実践力」は、卒業研究科目などの成績や学会発表などをもとに数値化している。

取材・文/浅田夕香 撮影/刑部友康

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