【個人と組織の新たなつながり方―採用・就職活動編―】Vol.11 KDDI株式会社
近年、人材確保などの観点から職務限定型採用(ジョブ型採用)を実施・検討する企業が増加傾向にあります。KDDI株式会社でも、2020年卒採用より初期配属領域を確約する「WILLコース」を設け、「ネットワークインフラエンジニア」「データサイエンス」「リーガル&ライセンス」「アカウントコンサル(法人営業)」など、同社が定める業務領域の中から、学生が希望する領域でキャリアをスタートできるよう採用を行っています。その背景やこれまでの取り組みについて、人財開発部 新卒採用グループ グループリーダー・足立 晶子さんに伺いました。
KDDI株式会社
コーポレート統括本部 人事本部 人財開発部 新卒採用グループ グループリーダー
足立 晶子さん
※記事は、2023年12月13日に取材した内容で掲載しております。
【Company Profile】
1984年創業。2030年のKDDIグループのありたい姿として「KDDI VISION 2030:『つなぐチカラ』を進化させ、誰もが思いを実現できる社会をつくる。」を掲げ、そのための事業戦略として、5Gによる通信事業の進化と、通信を核とした5つの注力領域であるDX(デジタルトランスフォーメーション)、金融、エネルギー、LX(ライフトランスフォーメーション)、地域共創(CATV等)の事業の進化を推進している。
働きたい領域が明確な学生のために
―御社では、2020年卒採用から初期配属領域を確約する「WILLコース」を設けられました。どのような理由からだったのでしょうか
2018年卒採用や2019年卒採用で、初期配属部署を確約してくれる企業を選ぶ学生が増えてきたことが背景にありました。
当時は、技術系(技術系部門への配属を希望する学生対象)と業務系(営業など業務系部門への配属を希望する学生対象)に分けて採用を行っていましたが、大学時代の経験を入社後すぐに活かして活躍したいという学生が増えていることも感じていました。
やりたいことが明確な学生にとって、希望する領域に配属されるかどうか分からないことが辞退の要因になっているならば、そのギャップを少しずつ埋めていきたい。入社前から働きたい領域が明確で、弊社に該当する領域があるのであれば、そこで活躍していただきたいという考えから、WILLコースの導入を決めました。
―初期配属領域を確約するWILLコースと、初期配属領域を確約しないOPENコースの2コースを設けられています。初期配属領域を確約しないコースも設けている理由を教えてください
学生もさまざまで、やりたいことや働きたい領域が明確な学生もいれば、「KDDIには興味がある。ただ、どの領域で働くのがいいかはまだ分からないから、一緒に考えてもらいたい」という学生もいます。WILLコースのみだと、後者の学生がトライできる入り口がないため、OPENコースも設けています。
―WILLコースは、2025年卒採用では14領域を設けられていますが、技術系の領域では、当該分野の学位や経験といった「応募要件」と、当該分野のコンテスト等の受賞・参加経験といった「歓迎要件」という2つの要件が設けられていることが特徴的だと感じました。どのような意図でこれらの要件を設けていらっしゃるのでしょうか
能力のある学生に入ってきていただきたいという思いがありつつ、学生の能力やスキルは未知数で、今後の頑張り次第で、成長ももちろん見込めます。チャレンジしたいと思っている人たちと出会うチャンスを逃したくないため、必須の要件は「応募要件」とし、あるとうれしいけれど応募要件にすると応募できなくなる人が増えるような経験や知識は「歓迎要件」としています。
応募要件や領域を毎年見直し、より適した学生の採用を目指す
―2020年卒採用として2018年から始まったWILLコースの採用活動は6年目を迎えていらっしゃいます。これまで、どのような改善や変更をされてきましたか
初年度の2020年卒採用においてWILLコースで入社したのは、新入社員の2割弱です。当時は告知が足りず、多くの学生に認知していただけなかったという反省がありました。そこから徐々に領域数を増やしたり、広報活動に注力したりしていったことで、2024年卒採用では、14領域、全採用数の6割弱がWILLコースでの採用です。
この間、各領域の名称変更や統合も行っています。KDDIでは、KDDI版ジョブディスクリプションをベースとしたKDDI版ジョブ型人事制度を運用しており、現在は30の業務領域を設定して全社員がそのいずれかに属しています。この30ある領域を意識しつつ、領域の名称が学生にとっては分かりづらかったなら翌年には伝わる名称に変えるなど、学生の耳馴染みや理解しやすさを第一に毎年見直しています。
例えば、「パートナーマネジメント(代理店営業)」という領域は、パートナー様へのコンサルティングを行うことがより伝わるよう、新卒採用においては「パートナーコンサル(コンシューマ営業)」という名称に変更しました。また、各領域の応募要件も、該当する部門の社員たちと毎年見直しています。
―WILLコース設置のきっかけとなった「やりたいことが明確な学生には、その領域で活躍してもらいたい」ということは実現できていますか
応募してくる学生は、「ファーストキャリアとして、まずは自分が選んだ領域で数年間頑張る」という意識を持っていますし、「初期配属領域での経験や身につけたスキルを武器に、その後のキャリアをどうしていくか?」ということも考えていけるようになってきていると思います。
そして、私たちも同じ思いで内定者に対して入社前に面談を行っています。弊社は事業領域が本当に広くて、通信を核にDXや金融など5つの注力領域を拡大していく戦略をとっているため、「自分はどこで活躍できるんだろう?」と不安を抱く内定者もいます。入社前の面談では、そういった不安要素を取り除きながら、「初期配属領域で身に付けた武器をもとに何をしていきたいか?」を確認・すり合わせしています。
―入社後も、キャリアについて何かフォローをされているのでしょうか
WILLコースの社員に限りませんが、入社後は、メンバーとリーダー職との1on1を月1回行っています。ここでは、業務目標の設定や進捗確認のほかに自身の今後のキャリアについても話していただき、リーダー職はそれに対してアドバイスや支援をします。
また、自律的なキャリア形成に向けて、「キャリアセミナー(年代別)」など、社員一人ひとりがキャリアを考える機会を設けています。
―2020年にWILLコースで入社された方は、今4年目に入られています。どのようなキャリアを歩んでいる方が多いですか
まだ4年目なので、初期配属領域で活躍している方が多い印象です。スキルや能力がどのように伸びていっているのか、また、モチベーションがどのように変化しているかなどについて、今、検証を進めているところです。
―WILLコースで採用された学生の皆さんは、入社後のキャリアについてどのようにイメージしている人が多いですか
技術系は、大学でその分野の研究に取り組み、スキルや能力を持って入社してくるので、初期配属領域で知識を増やし、スキルを磨きたいという学生もいます。業務系の場合、スキルよりも、自分の「やりたい」という気持ちや得意なことをアピールして入社する領域もあるので、例えば「営業を経験して、次は企画や事業創造などにチャレンジしたい」など、新たなチャレンジを志向している学生もいます。
時期やターゲットを決めて、部門と協働して活躍できる人材を探しに行く
―学生から見たWILLコースの良さやメリットと、御社にとってのWILLコースの良さやメリットについて、それぞれ、どのように捉えていらっしゃいますか
学生としては、まず、応募要件を見ながら、「自分の専門分野は?」「自分の活躍領域は?」「自分の興味領域は?」と考えるきっかけになっていると感じています。
また、領域ごとにオンラインの説明会や社員を招いての座談会を行っているのですが、学生は、各領域の説明会を視聴して「この領域にはこういうキャリアがあるんだ」「こういう人たちが働いているんだ」といった情報を得て、自分の志向と照らし合わせながら、応募領域を決めていただいていると思います。
―御社にとってのWILLコースの良さ・メリットについてはいかがでしょうか
部門の人たちの協力があってこそですが、各領域で活躍できる学生を、当該領域の社員と一緒になって探しに行けることが、すごく追い風というか、嬉しいことですね。WILLコースがあるからこそ、各領域で必要な専門性やそこで働く先輩社員が明確になり、広報をしやすくなりました。
OPENコースは、領域が幅広いからこそ、どの領域の先輩社員に説明会や座談会に参加していただこうかと考えるうえで非常に難しさがあります。他方で、WILLコースは、明確に領域が分かれているため、「この領域の座談会をします」と協力を仰ぎやすいです。それは学生に対しても同じで、時期やターゲットを決めた広報がしやすくなりました。
また、領域によっては、届けたい研究室や大学がかなり明確な領域もあります。例えば、「デザイン」という、UXデザインやサービスデザインを担う領域は、やはり美術やデザイン系の大学の学生に来てほしい。そして、それらの大学の学生も、「デザインなら行きたい」「興味がある」と言ってくれるんです。これがOPENコースしかない場合だと、デザインという領域があることに気づいてもらえず、デザイン思考のある学生の応募は見込めません。WILLコースがあるからこそ、学生もエントリーすることができ、私たちも、その方々と出会うことができる。学生にとっても分かりやすくなったのではないかと思っています。
―部門の皆さんとは、先ほどお話があった応募要件の検討や座談会・説明会などの広報活動のほかにどのような連携をされているのでしょうか
領域ごとにリクルーター組織を作り、広報から選考まで適宜連携しながら活動を進めています。採用担当だけでWILLコースの正確な情報を伝えるのには限界があるので、「自組織の活躍する人材を一緒に見つけに行きませんか」と働きかけ、応募要件の検討から、能力の見極め方の検討、座談会や説明会への協力、選考まで、適宜連携してやっています。
―これまでの取り組みの反省や学生の動向なども踏まえて、今動いている2025年卒採用において力を入れていらっしゃることは何ですか
夏のインターンシップを強化しました。最近の学生の動向として、卒業年次前年の夏など早期に接点を持った企業の中から数社〜10社程度を入社企業の候補に決めている傾向が見られます。KDDIもその数社に入っている必要があります。
したがって、私たちも、学生がプレエントリーや本エントリーした後にKDDIについて詳しく知ってもらうのではなく、卒業年次前年の夏、あるいは、より早い段階で弊社のことを知り、共感してもらった上でプレエントリーしてもらう必要があります。そのために、夏のインターンシップの内容強化や、夏のインターンシップを見通した春のイベントへの参加に注力しました。
―今後の採用活動において、力を入れていきたい点はなんでしょうか
インターンシップを始めとした夏の段階での広報活動は、今後も力を入れていきたいところです。WILLコースの各領域で4〜5日間のインターンシップを行っていますが、今後は、対面実施を増やしていくことを検討しています。対面でさまざまな経験をしてもらいながら、通信という強固な土台を持って「5G×金融」「5G×教育」「5G×衛星」などの事業に発展していくKDDIの未来像、そして、24時間365日通信を守りつづけ、社会基盤を支えている一面と、スペースX社との業務提携にもいえるようなさまざまな領域で活躍フィールドを広げる先進的な一面の両面をもっているKDDIの面白さを伝えていきたい。そうして、業務や社員、働く環境についてしっかりと理解してもらいたいと考えています。
また、弊社は今、2030年に向けて「KDDI VISION 2030」という将来像を描いて事業を進めています。この将来像に行きつくために、2030年に活躍するのはどのような人材か、WILLコースはどうあるべきかなどを検討し、募集要件のブラッシュアップや必要に応じての領域の新設や統合を行いながら、そこに合わせたインターンシップを作っていきたいと思います。
取材・文/浅田夕香 撮影/鈴木慶子