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2024.03.22

大学の教育改革も視野に。「大学等における学生のキャリア形成支援活動表彰」が目指す、大学と企業の協業

これからの「働く」を考える Vol.23

高い教育的効果を発揮するインターンシップの取り組みを、グッドプラクティスとして表彰し広げていきたい。そんな思いで、2017年に文部科学省が設立したのが「大学等におけるインターンシップの届出制度」です。2023年度の今回から、「キャリア形成支援活動表彰」と名称を変えた本制度。応募内容に表れた変化や、今後の期待について、選考委員長の学校法人東京家政学院 理事・同大学客員教授の佐々木ひとみさんと、文部科学省高等教育局 学生支援課長の吉田光成さんに話を聞きました。

 

学校法人東京家政学院 理事・同大学客員教授
キャリアコンサルタント
佐々木ひとみさん(左)

 

文部科学省高等教育局 学生支援課長
吉田光成さん(右)

【大学等における学生のキャリア形成支援活動表彰とは】

学生の能力伸長に寄与するなどの高い教育的効果を発揮しており、他の大学等や企業等に普及するのにふさわしいモデルとなり得るインターンシップなどキャリア形成支援活動を、グッドプラクティスとして表彰し、その成果を広く普及することを目的とした表彰制度。文部科学省は、教育的効果の高いインターンシップのすそ野を広げる取り組みとして、2017年度に「大学等におけるインターンシップの届出制度」を創設。2021年度まで「大学等における学生のインターンシップ表彰」として実施していた。2022年の三省合意一部改正を受けて、制度名称の一部を「キャリア形成支援活動」に変更している。

 

企業との連携で、大学が主体となりプログラムを設計していく

 

―「大学等における学生のキャリア形成支援活動表彰」の目的や狙い、2021年度までの「大学等における学生のインターンシップ表彰」からの変更点について教えてください

 
吉田:この制度の目的は、学生の能力伸長に寄与する高い教育的効果がある取り組みをグッドプラクティスとして表彰することで、他の大学や企業に普及させることにあります。大学や短期大学、高等専門学校などから一定の条件を満たしたキャリア形成支援活動の届出を受け、最優秀賞、優秀賞を選出していきます。
 
届出制度の対象となるキャリア形成支援活動は、次の6つの要素を満たす必要があります。
・就業体験を伴うものであること
・正規の教育課程の中に位置付けられていること
・事前、事後学習、モニタリングを実施していること
・実施後の教育的効果を測定する仕組みが整備されていること
・原則としてキャリア形成支援活動の実施期間が5日間以上であること
・大学と企業が協働して行う取り組みであること

 
2023年度からは、文部科学省・厚生労働省・経済産業省の三省合意で示された4類型に基づいて、従来の「インターンシップ表彰」から「キャリア形成支援活動表彰」へと名称を変えています。届出に際して、大学などが自ら、いずれかのタイプ(キャリア教育・汎用的能力活用型インターンシップ・専門活用型インターンシップ・高度専門型インターンシップ)を選択して申請する形となっています。
取り組みの中身は変わっていますが、インターンシップ/キャリア教育として「大学と企業とが連携して教育活動として取り組む」という大前提は引き続き大切にしています。

 
佐々木:そもそも制度の設立背景には、「教育的効果の高いインターンシップを作っていこう」という思いがありました。学生たちにもっと社会のことを知ってもらい、大学は社会で活躍できる能力をつけて送り出していく。その一つのツールとしてインターンシップを活用していこうという考えがあります。
目指す形はずっと変わっておらず、評価基準として、5日間以上の実務体験を入れているのも、そのほうが、学生が社会や自分を知る機会につながると考えているからです。インターンシップを実施する主体として“企業”をイメージする方が多いかもしれませんが、多くの学生を社会に送り出すという点で、大学の役割は大きい。企業と連携しながら、どんなプログラムがいいのかを大学が主体となって考えていくことに意義があると考えています。

 
吉田:まさにそうですね。
インターンシップを採用や就職に関連づける捉え方もあるでしょう。もちろんそれも大事です。一方で、教育として見たときに、キャリア教育は学生の将来や人間形成に大学がどうコミットしていくかが試されている。就職との関係で考えるインターンシップだけではなく、インターンシップを通じてどんな人間になっていきたいかを考えるという点で、その在り方や成果を表彰し、発信していく意味は重要だと思います。「こんないい取り組みがあるのか」と広く伝えられるように、いい事例を発信していきたいですね。

 

ディプロマ・ポリシーと連動したプログラムへの期待が高まる

 

―今回の応募で見られた傾向、取り組みの変化をどう感じましたか

 
佐々木:インターンシップがより構造化されてきた、という印象を強く持ちました。例えば、1~2年生では自分自身を整理し、3年生では実務で自分の力を客観的に知り、4年生はその経験を踏まえて学びをどう社会で活かすかを考える、といったように。学年ごとに構造化されたプログラムが多く見られ、大学の教育の一環として設計している変化の兆しを感じました。
 
これまでのインターンシップは、大学は学生を企業に送り出し、その後の振り返りは学生個人次第、という傾向が少なからずありました。学生は「採用に有利になったなら良かった」と捉え、大学側は「いい経験ができた」「しっかりした」という曖昧なフィードバックで終わり、せっかくの体験がキャリア教育にまで落とし込まれていなかったように思います。
 
今回の応募内容の中には、学生の成長ごとに、さらには大学のカリキュラムと連動して、「本大学ではこういう人材を輩出したい。だからこれらの企業と連携して、こんな能力のある人材を育てていく」というプログラム設計の意図がしっかり伝わってくる取り組みもありました。
自分たちがどうしたいのか。大学の意図が先鋭化され、キャリア教育とリンクされていけば、インターンシップ自体がその大学の特徴になります。この大学ではこんな経験ができる、こんな力をつけて卒業できるという認識が広がっていくといいなと感じました。

 
吉田:インターンシップを教育の一環として捉えれば、「行ってきてよかった」というイベント的な扱いにはなりません。体系化された取り組みが増え、社会を知ることと、インターンシップの在り方がかみ合ってきたな、という感覚は抱きましたね。
 
佐々木:ディプロマ・ポリシー(卒業認定・学位授与の方針)とリンクしたプログラムが創られる期待感も感じました。
大学はどこも、「社会に貢献できる、活躍できる人材を育てます」とディプロマ・ポリシーで宣言しています。でも、何でそれを証明しているのかというと、明確な提示がありません。

 
そんな中でインターンシップは、育成人材の在り方を示す一環になりうると思います。インターンシップ先で企業から「学生がこんな能力を発揮してくれた」「大学での学びが活きている」などと評価されれば、ディプロマ・ポリシーに連動した一つの証になります。
大学でやってきたことが、社会で本当に役立つのか。“学ぶ”と“働く”がきちんとリンクし、教育が正しい方向に進んでいるかを見極めるものとして、本制度がインターンシップ/キャリア教育の後押しになればいいと思っています。

 

―来年度以降もキャリア形成支援活動表彰を続けていくにあたり、大学側、企業側に対してこれからどのような変化を期待していますか

 
吉田:インターンシップが、大学での学びが社会に出て役に立つのだということを確認できる場になっていってほしいです。
教育は積み上げ型の考え方が根強いですが、社会がどんな活躍を望んでいるのかを考えながらどのように自立した個人を育成するかという点から逆算して教育を考えていくことが、まさにインターンシップやキャリア教育の大事な視点だと思っています。社会との接続点であるインターンシップが、採用や選考のためだけではなく、大学の教育改革のきっかけになっていくことを期待しています。

 
佐々木:構造化されたプログラムを受ける学生は、自分たちが教育され、成長している実感を持つでしょう。その結果として、社会人スタートがスムーズにできれば自信にもなる。インターンシップがそうあってほしいですね。
現在の課題は、文系の学生にどう力をつけさせていくか、でしょう。理系は実習を通じて学びを深めるやり方が長い歴史の中で確立していますが、文系は学問の範囲が広く、能力の定義が難しい。

 
今後、日本がグローバルに進出し国際競争力を上げていくために、修士・博士の資格は一つの武器になります。海外では博士号(Ph.D.)を持っている経営者が多くいます。一方日本では、修士・博士まで学ぶことで具体的に社会で活きるどんな力を身につけられるのかの議論が長く続き、大学院に進学することの価値が社会的に認知されていません。このままでは、日本は世界から取り残された低学歴社会になってしまいます。
 
吉田:企業側が、採用の際に求める能力をより明確に示すこともとても重要です。
例えば、よく言われる「コミュニケーション能力」も、キャリア教育的な観点からすれば、汎用的なコミュニケーション能力と専門的なコミュニケーション能力は異なるはず。企業が、自社の仕事に応じて具体的にどのようなコミュニケーション能力が必要なのかを区別して考えていくことで、大学もキャリア教育の在り方を考えやすくなるのではないでしょうか。
インターンシップは、活動自体が当たり前になってきています。多くの大学や企業に本表彰制度に参画いただくことで、お互いの思いをすり合わせた取り組みが広がっていってほしいです。

 

最優秀賞は京都産業大学が受賞。受賞理由は、参加学生の多さ、教員と事務職員との教職協働体制がとられている点、学習到達度の定量的な把握と個別のフィードバック機会の提供などが挙げられた。また、教員間で指導のバラつきがでないように「ティーチングガイドブック」を準備し、担当教員を対象としたFD(ファカルティ・ディベロップメント)を行っている点も評価されました。

 

取材・文/田中瑠子 撮影/刑部友康

 

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