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2023.01.13

アバターを活用した「バーチャル面接」で学生個人のスキルや人柄に注目! お互いが“選び選ばれる”関係性を目指す

【個人と組織の新たなつながり方 ―採用・就職活動編―】Vol.8 株式会社ビヨンド

 
Web面接が広がり、就職活動・採用活動の手法や進め方は大きく変化してきました。オンラインならではのコミュニケーション方法に、工夫を凝らす企業も増えています。
そんな工夫の一つとして、大阪にあるIT企業・株式会社ビヨンドは、学生と採用担当者がそれぞれアバターになって相互理解を深める「バーチャル面接」を行いました。どんな思いからバーチャル面接の実施を決め、得られた発見や気づきは何だったのでしょう。代表取締役・原岡 昌寛さんに話を伺いました。

 

株式会社ビヨンド
代表取締役 原岡 昌寛さん


※記事は、2022年12月23日にオンライン取材した内容で掲載しております。

 

【Company Profile】

クラウド/サーバー設計・構築から運用保守、移行、システム開発まで総合支援サービスを提供する株式会社ビヨンド。システム開発事業やWebサービスの企画・開発・運営なども幅広く手掛ける。ビヨンドの仕事は、ITを通じて新しい価値を創造する人々を支えること。「世界を少し『楽』にする」をミッションに、24時間365日体制で、システムという生活に欠かせないインフラを守っている。

 

顔も年齢も分からないアバター同士だからこそ、フラットな対話が生まれた

 

―ビヨンド様が2023年卒の新卒採用において行った「バーチャル面接」とはどのようなものでしたか。募集職種や選考フローなどと合わせて教えてください
 
システム開発、保守運用を手掛ける当社では、毎年10名前後のインフラエンジニア、開発エンジニア職の新卒採用を実施しています。
2023年卒向けに初めて行った「バーチャル面接」では、学生が自分で作ったアバターで一次面接に参加し、同じくアバターとなった採用担当者と対話します。音声変換ソフトも利用するため、性別・年齢が分からず、外見の印象に左右されることがなくなりました。本人のスキルや経験、人柄によりフォーカスできる、新たな取り組みとして始めています。

 
通常面接は、エントリー → 会社説明会 or 個別面談 → 一次面接+適性検査①→ 二次面接+適性検査② → 最終面接(全てオンライン)のフロー。一方、バーチャル面接ではニックネームとメールアドレスでエントリー後、エントリーシートのフォームを案内し書類選考。その後アバター同士での人事担当者との一次面接があり、通過した学生は適性検査を受けたのちに、最終の社長面接(オンライン)へと進みます。
 
エントリーシートのフォームでは、エンジニアを志望する理由に加え、ビヨンドのコアバリューである「コミュニケーション」「スピード」「ホスピタリティ」のいずれかを活かして成果を上げたエピソードを400文字で書いていただきます。学歴や性別、年齢などの情報は一切ないので、面接でバイアスがかかりにくく、その方の考え方など、内面に目を向けやすくなります。
2023年卒の新卒採用では、9名中2名がバーチャル面接での内定者となりました。

 
―バーチャル面接を行い、どんな気づきや発見がありましたか
 
優秀な方の多さに驚きました。「もしかしたら、遊び感覚で応募してくる方もいるかな」と懸念していたのですが、皆さんとてもITスキルが高く、当社が推奨したツール以外に、ご自身で調べたツールでアバターを作成した学生もいました。細部までこだわり抜いたアバターで参加いただく学生も多く、「どうしてこのアバターにしたのか」との質問のやりとりで、面接への準備姿勢が分かり、仕事に対する姿勢も垣間見えるようでした。
 
また、面接担当者もアバターなので、対等な関係性を築きやすかったとの意見も。「社会人相手だと気負わずにすんだ」「緊張したりすることなく、リラックスして話せた」という声がありましたね。

 

実際の「バーチャル面接」での画面の一例。右がビヨンド採用担当者、左が学生の作ったアバター。3Dモデルのアバター、実際の性別と逆のアバター、自作の背景画像など、自由度が高い分、自作のアバターには学生の個性や技術力が表れる。

 
 
―アバター同士の面接から、最終面接ではオンラインで対面することになります。ギャップを感じることはありましたか
 
最終面接前に初めてプロフィール写真を見て、「あのアバターがこんな学生だったのか!」と新鮮な気持ちになることはありました。アバターではめいっぱい自由にご自身を表現していた学生が、最終面接では非常に丁寧で真面目な受け答えをしてくれ、状況に応じて振舞い方を変えられるという良さに気づかされたこともありました。
 
大学名や学部が分からない中でのバーチャル面接では、具体的な大学名から連想できる情報が少なく、人事担当は戸惑ったこともあったようです。でも、大学名が分かることで、バイアスを持って学生に接してしまう可能性は拭えません。情報が限られているからこそ、学生の本来の能力を見ることができたのではないかと思っています。
 
―そもそも、バーチャル面接を導入しようと考えた理由とは。組織課題や、会社として大事にしている考え方など、背景には何がありましたか
 
私たちはクラウドやサーバーの保守運用を中心に、24時間365日体制の技術サポートを強みとしています。以前はエンジニアの夜勤が必須でしたが、働き方を改善すべく、2020年よりカナダ・トロントにオフィスを設立。13時間の時差を活かして、夜勤対応の時間帯は全てカナダからサポートする体制を確立しています。バーチャル面接のアイデアは、そのカナダでのエンジニア採用を行う中で生まれました。
 
文化的バックグラウンドが多様なカナダでは、採用面接で聞いてはいけない質問が明確です。性別、年齢、婚姻、家族構成、出身地などに関する質問は全てNG。日本でももちろん質問してはいけない項目はありますが、カナダのほうが「スキルや経験、その人自体の人柄を中心に面接していく」ことが徹底されていました。そうして最終面接まで終えたときに、「仕事に必要な情報だけを聞くことで、採用はできる」と気づかされたのです。
 
その後、2023年卒採用に向けて「これまでとは異なるやり方で面接ができないか」「新たな採用手法を通じてビヨンドらしさを表現できないか」と人事メンバーと議論する中で、「履歴書や顔を見ずに、その人のスキルや人柄だけで面接をしてみたらどうか」という意見が出てきました。カナダでの気づきから、「バイアスなしの面接はどこまでできるのか挑戦しよう」と動き出しました。
 
私たちは、外見や肩書に、知らず知らずのうちにとらわれています。それらをゼロにしてみたらどんな学生と出会えて、どう感じるのだろう。わくわくしながら始めてみた、というのがスタート時の正直な思いでした。
 

 

新たな採用手法の実践を通じて、“チャレンジする社風”を伝えたい

 

―新しい手法を始めるのにはエネルギーが要りますよね。チャレンジを楽しむ姿勢が、カルチャーとしてあるから実現できたのでしょうか
 
そうですね。私自身が、「楽しく仕事したい」という思いを強く持っており、社内にも反映させたいと思っている。それが、当社の風土になっているのかもしれません。
 
保守運用業務といえば、ミスなく地道に行う仕事で、“チャレンジ”や“わくわく”とは一見遠いと思われがちです。でも、日々の業務の中では、常に創意工夫を求められます。お客様のためにどう改善すべきかアイデアを考え、提案できるような方とぜひ一緒に働きたい。だからこそ、採用においても、どんどん新しいやり方に挑戦し、「やってみる」という姿勢を見せること自体に大きな価値があると考えています。
 
そんなチャレンジの一環として、2022年9月にはRPGゲームでエンジニア業務を体験できるインターンシップコンテンツをリリースしました。エンジニア採用がますます難しくなる中、どうしたら当社のことを知ってもらえるだろうかと、社内で話し合って決めました。当社のクライアントにはゲーム会社さんが多く、ゲーム好きなメンバーも多い。カルチャーフィットした人に興味を持ってもらえるんじゃないか、という発案から出てきたものでした。
 

RPGゲームによるインターンシップコンテンツ「転生したらビヨンドのインターンだった件」の実際の画面。このゲームでは、プレイヤーが勇者となってビヨンドのインターンに転生し、インフラエンジニアやサーバーサイドエンジニアの業務を体験できる。制作は全て社内のメンバーが担当。登場するキャラクターは勇者以外全て実在する人物で、シナリオも実際の業務を可能な限り再現している。「最終バトルの社長が強かった」「マルチエンディングを全てクリアした」 など、学生のコメントからはゲームを楽しんだ様子がうかがえる。

 
 
―社内からのアイデアを実践につなげていくんですね
 
そうですね。2018年頃から、働きやすい環境づくりに向けた制度改善を継続してきました。社員からの提案も含め、これまでに83項目を改善しています。現場の声にこそ、会社を良くするアイデアがあると考えているので、日々の接点が大事。社内の行事は大小問わず基本的に全て参加します。
 
2022年は、「LT大会(ライトニングトーク大会)」という取り組みを行いました。社員全員が3人一組になり、経営陣への改善提案を毎日一組5分でプレゼンするんです。それを1か月間続け、出てきた全アイデアの中から、もっとも実践したい案に全員で投票します。選ばれたのは「有給休暇をもっと取りやすくする」というもの。具体的にどうすべきかの議論を、現在進行形で行っています。
 
ほかにも「メタバースオフィスを作りたい」「プログラミングの勉強用のボードゲームを自分たちで作りたい」といったアイデアも寄せられ、今後実現に向けて動いていこうと考えています。
 
―今後は、どんな採用活動を行っていきたいと考えていますか
 
通常面接とバーチャル面接はこれからも並行してやっていきつつ、技術的にもフロー的にも、進化させた手法を模索し続けたいですね。
 
これまではコロナ禍の影響もあり、一次から最終まで全てオンラインで行ってきましたが、今後は最終面接をリアルで行い、会社の雰囲気を感じていただきたいなと思っています。リアル面接を経て入社した社員に理由を聞いたとき、「面接中にオフィスから社員の笑い声が何度も聞こえてきて、ここで働いたら楽しそうだなと思ったから」という声がありました。そうした、リアルだからこそ得られる直感は、内定後の志望度にもかかわるなと思っています。
 
また、バーチャル面接は今後、中途採用にも広げていきたいです。中途採用はよりスキル重視になります。一次面接の最初の入り口で、バイアスを取り除いてスキルや経験、人柄に注目できるやり方はマッチしているのでは、と思うんです。バーチャル面接で採用した方がどう活躍するか、継続して見ていきながら採用手法を柔軟に変化させていきたいと思っています。
 
―最後に、これから就職活動を始める学生の皆さんへのアドバイスをお願いします
 
創業以来16年、さまざまなメンバーと一緒に働いてきて思うのは、「会社の文化に合うかどうか」がとても大事なポイントだということです。良し悪しではなく、その会社に合う・合わないは必ずあります。事業内容や仕事内容をよく調べ理解した上で、そこにどんな人たちが働いていて、どんな価値観を大事にしている会社なのかはぜひ注目してほしいなと思います。
 
会社のホームページ以外にもSNSでの発信情報を詳しく見て、面接で逆質問をすることも大切。どんな人が活躍しているのか、その会社のカルチャーをよく表したエピソードを教えてもらうなど、選考段階からどんどん聞いていってください。

取材・文/田中瑠子

 

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