これからの「働く」を考える Vol.1
就職を考える学生や、転職先を探す社会人の多くが気になる、入社後の「働き方」や「働きやすさ」。さまざまな企業情報が飛び交う中で、どの情報を参考にすればいいのか、戸惑うことも多いと思います。そこで今回は、厚生労働省の企業認定制度に注目します。客観的な認定基準に注目することで、一人ひとりが大切にしたい「働き方」に沿った企業を探索できるようになります。
国の認定制度に注目することで、企業の働く環境を客観的な基準で確認できる
厚生労働省
人材開発統括官付若年者・キャリア形成支援担当参事官室 平山雅裕さん
雇用環境・均等局雇用機会均等課 上野由佳さん
雇用環境・均等局職業生活両立課 加藤明子さん
Oksana/stock.adobe.com
※記事は、2021年3月24日にオンライン取材した内容で掲載しております。
平山さん:厚生労働省による企業認定の特徴は、働く環境づくりに積極的に取り組む企業を認定しているということです。仕事と子育ての両立や若者の就業環境向上など、国が推進している働き方改革に関するさまざまな観点で、複数の認定制度を策定し、企業を認定しています。就職・転職を考えている方だけでなく、就職・転職を支援している方にも、広く知っていただきたい制度です。
今回はそれらの認定制度の中から、女性活躍推進の取り組みを認定する「えるぼし認定」、子育てサポートの取り組みを認定する「くるみん認定」、若者の採用・育成・雇用管理の取り組みを認定する「ユースエール認定」を紹介します。
女性の活躍推進の取り組みに注目:えるぼし認定
上野さん:「えるぼし認定」は、女性の活躍を推進する企業を認定する制度です。女性活躍推進法では、常時雇用の労働者数が301人以上(※1)の企業において、職場での女性の活躍状況を把握、課題を分析し、それに対する行動計画を作り、社内周知、外部公表すること等を求めています。行動計画の策定・届出を行ったうち、一定の要件を満たした事業主が、厚生労働大臣から「えるぼし認定」を受けることができます。令和2(2020)年12月時点で、全国1,209社が認定を受けています。
えるぼし認定は、採用・継続就業・労働時間等の働き方・管理職比率・多様なキャリアコースの5つの項目で評価をしており、基準を満たしている項目数で3段階の認定レベルがあります。さらに、えるぼし認定を受けた事業主のうち、一定の要件を満たす特に優良な事業主は、「プラチナえるぼし認定企業」を受けることができ、令和2(2020)年12月末時点で6社が認定を受けています。
※1女性活躍推進法改正により、常時雇用労働者数101人以上の事業主に対象拡大の予定(令和4(2022)年4月1日施行)
えるぼし認定を受けた企業は、基準を満たした項目について、認定後も毎年1回以上公表することになっています。取り組みを継続している企業だけが、えるぼし認定を継続できることがポイントです。
子育てサポートの取り組みに注目:くるみん認定
加藤さん:「くるみん認定」「プラチナくるみん認定」は、子育てサポート企業を認定する制度です。子育てをしながら働きやすい環境を整備している企業を認定しています。次世代育成支援対策推進法に基づき行動計画を策定した企業のうち、行動計画に定めた目標を達成し、一定の要件を満たした企業が、子育てサポート企業として厚生労働大臣から「くるみん認定」されます。「くるみん認定」を受けた企業のうち、より高い水準の取り組みを行い、さらに一定の要件を満たした企業は、「プラチナくるみん企業」として認定されます。令和3(2021)年3月現在、くるみん認定は全国3548社、プラチナくるみん認定は全国425社です。
認定企業では、「男性・女性の育児休業取得率が一定以上」であり、所定外労働の削減や年次有給休暇の取得促進など「働き方の見直し」にも取り組んでいます。また、育児・介護休業法を上回る仕事と家庭の両立支援制度が導入されています。
中小企業の若者の採用・育成・雇用管理に取り組みに注目:ユースエール認定
平山さん:「ユースエール認定」は、中小企業を対象に、若者の採用・育成・雇用管理を積極的に行う企業を認定する制度です。若者雇用促進法に基づき、若者の採用・育成や、若者の雇用管理を積極的に行う中小企業が、厚生労働大臣から「ユースエール企業」として認定されます。令和3(2021)年3月時点、全国817社が認定を受けています。新卒正社員の離職率、残業時間、有給休暇取得率などの認定要件が設定されており、認定を受けるには、自社がそれらの要件をクリアするための取り組みを続け、要件をクリアしたことを証明する必要があります。また、認定後も毎年、それらの要件に対する状況を報告いただいています。「ユースエール認定企業」は、国が若者の採用・育成に積極的な企業として認めている企業です。
ユースエール認定企業の中には、採用のために働き方改革を継続している企業の事例もあります。新卒採用活動をする中で、社内の働き方を改善し、改善の成果が客観的に評価されないと採用ができないという意識を持ち、継続してユースエール認定を受けているそうです。
平山さん:今回紹介した3つの制度は、それぞれ制度運営の仕方が異なりますが、年度ごとに認定をしていたり、認定企業の情報を定期的に更新していたりと、企業の働く環境づくりの状況が更新され続けています。企業情報を探している皆さんの安心・信頼につながるポイントだと思います。
認定企業を検索できるデータベースも活用しよう
平山さん:厚生労働省では、全国の企業の職場情報を検索できるデータベース、「しょくばらぼ」を公開しています。気になる企業の時間外労働時間(残業時間)や有給休暇取得率、従業員の平均年齢といった情報を確認することができます。希望する地域・業種の企業を希望する働き方の条件と掛け合わせて一括検索し、検索された企業を複数比較することも可能です。
希望する働き方の条件が明確でない場合は、「検索条件に迷った場合はこちら」の項目をチェックしていただくと、「平均勤続年数」や「有休取得日数」「月平均所定外労働時間」など、基本的な項目から企業を絞り込んでみるのがお勧めです。
他にも「新卒者等の採用・定着状況」「平均勤続年数」「女性管理職・役員人数」などさまざまな項目が用意されているので、ぜひ利用方法を参考にサイトを活用してください。
企業の「働き方」に注目した制度に認定された企業の一括検索も可能
平山さん:「しょくばらぼ」では、今回紹介した3つの制度をはじめとした厚生労働省の制度と、「健康経営銘柄」「ダイバーシティ経営企業100選」など経済産業省の制度の一部を、一括検索できます。さらに、働きたい都道府県・業種の認定企業を絞り込むこともできます。
それぞれの認定制度の特徴を踏まえて、自分が希望する「働き方」「働きやすさ」のイメージに近い制度の認定を受けている企業に注目すると、企業情報を探しやすくなると思います。
また、就職や転職を希望する方々をサポートする立場にある方々にも、ぜひ、明確な基準で企業情報を紹介できるツールとして、活用していただければと思います。
学生・求職者に伝わりにくい、入社後の「働き方」
『就職白書2021』では、企業が新卒採用活動を通して提供した情報と、学生が就職活動を通して知ることができた情報について紹介しています。
調査結果から、企業が「提供した」と感じているほどには、学生は「知ることができた」と認知してないことが分かりました。注目すべきは、「具体的な仕事内容」「社風・企業文化」等の数値化しづらい情報だけでなく、「所定外労働時間(残業など)の実績」「男女別の育児休暇取得状況」といった数値化しやすい情報でさえも、情報提供した企業と情報を受け取った学生の認知に、大きな開きがあることです。このコミュニケーションギャップを埋めるには、企業が自社について正しく理解し、分かりやすく伝えることが大切です。
企業にとっては自社の働き方が客観的に評価できる指標のひとつとして、学生・求職者にとっては企業を比較検討する際の指標のひとつとして、行政や信頼できる第三者による企業認定制度を活用してみましょう。
取材・文/衣笠 可奈子・清水山 隆洋
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