新型コロナウイルス感染症の影響で、企業と学生のコミュニケーションの在り方が大きく変化している。対面で行われていた説明会や面接などがオンライン化し、時間的・金銭的な学生の負荷は軽減。一方、「話が伝わっていないのでは?」「面接の評価が低くなるのでは?」といった学生の不安の声も大きい。そこで、すでに学生とのコミュニケーション手法の改革を実践している企業に利点や課題、学生へのメッセージを伺った。
新しい会社のあり方、働き方に合った
「就業型インターンシップ」の形を作っていきたい
ヤフー株式会社
コーポレートグループ ピープル・デベロップメント統括本部
コーポレートPD本部 採用部長
大森靖司さん
COMPANY PROFILE
日本最大級のポータルサイト「Yahoo! JAPAN」を運営し、広告事業、イーコマース事業、会員サービス事業など100を超える事業を展開するインターネット企業。従業員約7000人。近年はオフィスも含めたどこでもオフィスになるというコンセプトの「どこでもオフィス」、副業の容認といった「働き方改革」を進めており、2020年10月には正式に月5回までとしていたどこでもオフィスの回数制限およびフレックスタイム勤務のコアタイムを廃止。また、より柔軟な働き方を目指し、副業人財(ヤフー以外で本業に従事する人財の受け入れ)も始めた。
オンライン化決定のスケジュールと、最大の論点は?
新型コロナウイルス感染症拡大に伴い、3月初旬からオンライン実施の可能性を含めた体制構築を検討し、4月中旬にオンライン化を決定しました。最大の論点は、インターンシップを開始した2012年から一貫して実施してきた「就業型」のインターンシップをいかに実現するか。「オンライン化ありき」で議論が進んだのではなく、社会情勢を見ながら、ギリギリのタイミングまでコロナ禍での「就業型インターンシップ」のあり方を模索しました。
当社が「就業型」というスタイルを大事にしているのは、「ヤフーで働くこと」を1から10まできちんと知ってほしいという思いから。「ヤフーで働くこと」とは、実務を遂行することや、職場や社員とのコミュニケーションにとどまらず、当社の働き方や人事制度の一端に触れていただくことも含みます。とりわけ、ヤフーが人材育成の軸とする「経験学習」を体感していただくことを非常に重視しています。
具体例のひとつが、1対1の面談「1on1」。ヤフーでは、原則週1回30分ほどの「1on1」を実施して上長が部下の課題解決や目標達成の支援を行っており、職場での経験から学び、新たな仕事に活かしていく「経験学習」を促進する場として定着しています。「1on1」は当社の企業文化のひとつになっており、学生の皆さんにぜひ知っていただきたいと、例年、インターンシップではメンターによる「1on1」を毎日実施していました。
「就業型」のインターンシップを実施し、「実務の経験」と「企業文化の体感」を提供することは当社にとって必須であり、それ以外の選択肢はありませんでした。しかし、当社のインターンシップはプログラムの設計からインターンシップ生の選考、プログラムの実施まで一貫して受け入れ部門に任せているのが、大きな特徴のひとつ。オンラインで実施するとなると、各部門でオンライン完結のプログラムを企画・開発し、運用してもらうことが必要になります。コロナ禍で社員も新しい働き方を模索している中、果たしてそれが可能なのか、検討が必要でした。また、就業型のオンラインインターンシップを実施するには学生へのパソコン貸与が必要であり、セキュリティや情報管理の問題のクリアも課題でした。
最終的にオンライン化を決定できたのは、社員の積極的な協力のおかげです。インターンシップを経て入社した社員が現場で活躍していることもあって、多くの社員がインターンシップは重要であると認識し、それぞれが当事者意識を持って動いてくれたため、各部門との調整においても「どうすれば実現できるかを、一緒に考えよう」というスタンスで議論が進み、非常に助かりました。
2020年インターンシップの内容は?
技術職(エンジニア、デザイナー)志望の学生に向け、在宅勤務を前提としたフルオンラインで8月末から9月にかけて実施しました。なお、当社は新卒一括採用を廃止し、新卒、既卒にかかわらず30歳以下を対象とする「ポテンシャル採用」を行っており、今回のインターンシップはその採用活動の一環です。
プログラムは全35コースで、うち8月末から5日間の日程で実施した「Yahoo!ショッピング ユーザー体験向上を目指してチームで企画&開発」「Yahoo!不動産 ユーザーの課題を発見しチームを開発」はエンジニアとデザイナーのチームで取り組んでいただくもの。このほかはエンジニアまたはデザイナーのみで取り組んでいただくプログラムで、就業日数は5日間から10日間です。今年は多くのコースで日程を個別に調整しました。コロナ禍で大学の夏季休暇が短縮されるなど学事日程の混乱を見越し、学生になるべく負担を与えないようにしたいとの考えからです。就業時間は午前10時〜午後6時45分(休憩1時間含む)。また、当社のインターンシップは以前から実務の対価として有償で実施しています。
プログラムはオンラインでの実施が決定した4月中旬から設計し、6月初旬に情報公開しました。例年通り具体的な内容は各部門が担当。人事はサポート役として、過去のインターンシップの経験やデータをもとに、学生への訴求力があり、充実した内容のプログラムを作るための情報提供やクオリティコントロールを行いました。プログラムの設計において重視したのは、できるだけ実務に近い内容とすることに加え、オンライン化とは関連しませんが、ヤフーの「技術の幅広さ×サービスや事業の幅広さ」をコースの多様性を通して表現すること。そのために、社内コピーライターと相談してコース名も学生の皆さんに魅力を感じてもらいやすいよう工夫しました。
参加者は約70名。昨年の約80名よりは減りましたが、オンライン化でもっと人数が減ってしまう想定でしたので、当初想定よりは多くの方を受け入れることができました。応募人数は昨年の1.4倍でした。オンライン化に伴って参加枠が少なくなったので、選考時点では合格レベルでも受け入れのキャパシティの問題で参加できない学生が増えたことは大変申し訳なく思っており、そのようなケースでは希望者にフォロー面談をオンラインで実施。今回のインターンシップに参加できないことが採用選考には影響しないことを伝えました。
実施にあたって、工夫されたことは?
インターンシップ実施中は学生1名を1名または複数の社員がメンターとして担当しますが、社員には通常業務もあります。人事が代理で行える手続きは人事が一括して行う、各部門で対応いただくことも手順書を作成し共有する等、部門側の負担をなるべく減らせるように準備しました。
プログラム実施中は、メンターをはじめプログラムにかかわる社員、学生、人事の連携を円滑にするため、ビジネスチャットツール『Slack』を活用してコースごとにチャットルームを作成。学生の勤怠を管理したほか、パソコンの不具合などのトラブルや質問、依頼事項を随時書き込んでもらい、人事スタッフ2名体制でできる限り早く対応するようにしました。
また、今回に限らず、当社では「受け入れ部門の担当者を決め、担当者に対し説明会を行う」「インターンシップ選考の担当者、メンターを決め、それぞれに説明をきちんとする」といった基本的なプロセスを丁寧に行っています。そのため、人事、受け入れ部門の担当者それぞれがお互いの担当領域を理解できていたことも、リモートでの実施による混乱を防ぐことにつながったと思います。
具体的な運用については、各部門がそれぞれの環境や状況に合わせてさまざまな工夫をしてくれました。受け入れにあたり、「課題を複数用意し、学生のレベルや希望に合わせて提供する」「課題を自分で解き、学生がつまずきやすいポイントを把握しておく」といった細やかな準備をしてくれた部門も多く、インターンシップ実施への社員の熱意を感じました。
メンターによる毎日の「1on1」に加え、学生の希望を聞いて他部門の社員との「1on1」や懇親会をセッティングするなど交流の場も社員が自発的に設けてくれました。また、ランチ会の開催など業務以外の交流の場も設けるよう事前に依頼していたところ、部門の事業に関するクイズ大会を実施したりと部門ごとに社員も楽しみながら実施してくれました。今回はインターンシップ中に会社見学を実施できなかったので、社員1名が出社してWebカメラで「バーチャルオフィスツアー」を行った部門もあり、学生に大変喜んでいただけたようです。
業務中のメンターのかかわり方も、『Zoom』を常時接続していたコースもあれば、あらかじめ決めた時間に接続する、学生が質問や相談をしたいときに随時『Slack』でメンターを呼び出すなどさまざま。メンターが通常業務で忙しい場合に、学生に自分の作業内容や疑問点を『Slack』に逐一書き込んでもらって進捗状況を把握し、チャットでサポートする方法を取り入れているコースもありました。これは「分報」というエンジニアがよく使っている進捗共有方法です。
なお、他部門のアイデアや情報を参考にできるよう、早い時期にインターンシップの実施を終えた部署に声をかけ、ナレッジの共有をお願いしたところ、積極的に協力してくれ、その後のインターンシップの実施に活かすことができました。
オンラインインターンシップの手ごたえ・改善を検討していることは?
実施後の学生への満足度調査によると、最高点をつけた学生は全体の95パーセント。昨年よりも20ポイント高い数値でした。うれしかったのは、多くの学生に「実務経験を積めた」「想像以上に社員と交流できた」と言っていただけたこと。オンラインであっても当社がインターンシップで大事にしてきた「就業型」の要素は提供できたのでは、とホッとしています。
受け入れ部門の社員の評価も高く、「いい学生と出会えた」「オンラインでも、学生の資質や人となりはよくわかった」と感じている社員が多いです。社員と学生の相互理解はできており、「オンラインでも『実務型』インターンシップはできる」という手ごたえが得られたのは当社にとって大きな収穫だったと思います。
オンラインならではの良かった点は、大学の所在地や現在の居住地に拠らずに学生に応募していただきやすかったこと。また、『Slack』を活用したことにより、インターンシップ実施中の状況がチャットに文字ベースで記録されており、振り返りがしやすかったり、ナレッジを来年以降に引き継ぎやすいのも思いがけないメリットでした。一方、人事と受け入れ部門の連携は内容やタイミングを精査して改善していく余地があると考えていますし、「1度はオフィスを訪れてみたい」「インターンシップ生同士の交流の場がほしい」「業務以外で社員の方ともっと話してみたい」という声も学生から聞いています。今後オンラインでインターンシップを開催する際には検討していきたいです。
今後のインターンシップの実施形態については、現段階ではまだ考えていません。新型コロナウイルス感染症の影響もあって社会が急速に変化していく中、今は私たち自身もより良い会社のあり方、働き方を探っている段階。「オンラインかオフラインか」という観点ではなく、ヤフーの新しい会社のあり方、働き方に合った「就業型インターンシップ」の形を作っていきたいと考えています。
学生の皆さんへ
ヤフーの企業文化の根底には、エンジニアのクリエイティビティ精神があります。サービスや商品であれ、会社の経営戦略や人事制度、働き方であれ、物事を「永遠に完成しないもの」ととらえ、フィードバックに対して、常により良いもので応えようとする。また、エンジニアの「オープンソース(広くソースを公開し、有用な知識・技術を共有することによって、より良いソフトウェアを生み出していこうとすること)」の考え方が職種問わず理解されており、「集合知」の力で新しいものを生み出していく。そして、変化に対して、楽しみながら対応していく社員が多いと感じています。
インターネットのサービスは「作って終わり」ということがありません。当社に限らず、ITの世界で働きたいと考える人なら、未知の状況や、変化をしていくことをぜひ面白がってほしい。そのほうが、仕事をすること、働くことを楽しめると思います。
*インターンシップ参加学生の声*
・コードのデザインパターンやメモリ管理、単体テスト作成など実務に活かせる知識をたくさん教えていただきました。個人開発では学ぶことにできない「綺麗な」コードを書く方法を教えていただき、ソフトウェア開発者として大変ステップアップできたと実感しています。また、メンターの方のアドバイスや働く姿から、Yahooで働くことはどういうことかを学ぶことができました。
・オンラインでのインターンとなり、少し不安なところもありましたが、メンターやチームの方々のおかげで安心して業務に取り組めました。また、全社朝礼や部下などの社内イベントにも積極的に誘っていただき、会社の雰囲気がよくつかめたと思います。
・成果発表会に100人ほど参加してくださり、社員の皆さまからのご意見をいただけたので良かったです。
・オンラインでの実施は、社員の皆さまがこのコロナ禍でどのような仕事をしているのかを経験させていただく貴重な機会でした。
・仙台に住んでいるのでオンライン開催はありがたかったです。もちろんオフィス見学をさせていただいたり、社員の皆さまにも直接お会いしたいですが、長距離移動がなかったのは非常によかったです。
*受け入れ部署の社員の声
・勤怠や日報、社内ツールの設定など学生受け入れのための環境を人事であらかじめ準備していただいていたことにより、スムーズにコース課題に入ることができました。
・リモートということもあり、雑談タイムを明示的に設けてみたことが学生に思いのほか好評でした。また、どのような社員と「1on1」したいかを事前に学生にヒアリングし、希望に沿った社員をアサインしたことも高評価でした。
・地方の人材にもインターンに参加してもらいやすいので、コロナが収束してもオンライン開催は有効だと思いました。ただ、メンターが割く労力がより大きくなるので、業務の調整は必須だと感じました。
・自分自身のキャリアにとっても非常によい経験をさせていただいたと感じています。インターン生の受け入れを通じ、人材育成や採用のお仕事に非常に興味が湧きました。インターンに限らず、採用、エンジニア育成、リーダー育成など人事関連の案件がある際はぜひ参加させていただきたいです。
取材・文/泉 彩子