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2020.09.01

Vol.11 Chatwork株式会社【新型コロナウイルス感染症に関する企業の取り組み】

新型コロナウイルス感染症の影響で、企業と学生のコミュニケーションの在り方が大きく変化している。対面で行われていた説明会や面接などがオンライン化し、時間的・金銭的な学生の負荷は軽減。一方、「話が伝わっていないのでは?」「面接の評価が低くなるのでは?」といった学生の不安の声も大きい。そこで、すでに学生とのコミュニケーション手法の改革を実践している企業に利点や課題、学生へのメッセージを伺った。

現場のエンジニアがチャットに加わり
プログラム中の学生の疑問を解消

Chatwork株式会社

開発本部 副本部長 藤井善隆さん(左)
人事広報本部 人事部 山本杏美さん(右)

※記事は、2020年8月25日にオンライン取材した内容で掲載しております。

 

COMPANY PROFILE

2004年設立。「働くをもっと楽しく、創造的に」をミッションに掲げ、11年にビジネスチャットツール「Chatwork」をリリース。業務の効率化と会社の成長を目的としたメール・電話・会議に代わるビジネスコミュニケーションツールとして、20年8月末日現在、28万1000社以上に導入されている。20年卒から新卒採用を開始し、19年夏に初めてのインターンシップを実施した。

 

 

2020年のサマーインターンシップをオンラインで実施した経緯は?

 

山本さん:当社は、これまで中途採用をメインに行っていましたが、これからの当社の風土や開発文化を醸成・継承していくにあたり、新卒社員がその担い手になってほしいという考えから2020年卒から新卒採用を始めました。その中で、インターンシップを、当社にマッチする学生に出会い、当社を理解していただき、選考への応募意欲を高めていただくための最も重要な機会と位置づけ、19年に初めて、サーバーサイドエンジニア志望者向けに1週間の講義と2週間の開発体験という、計3週間のプログラムを実施しました。
 
今年も同様のプログラムを実施するにあたり、オンラインとオフラインのどちらで実施するか議論を重ねていましたが、新型コロナウイルス感染症の流行状況を鑑み、5月の大型連休明けにオンラインでの実施を決定。以前からどの社員も日数の制限なく、各自の都合に合わせてリモートワークを行っていましたので、オンラインで業務を行う際の知見も蓄積されており、混乱はさほどありませんでした。
 
1つ、準備段階で昨年と違ったのは、当社と同じ開発環境でインターンシップに取り組んでいただくために、参加者全員に貸与するMacBookProを配送し、誓約書にも端末の管理を含めた危機管理に関する一文を追加したこと。ただそれも、今、中途採用で入社していただく社員に端末を配送しているので、担当部署と連携すれば済むものでした。

 

2020年サマーインターンシップのプログラム内容は?

 

藤井さん:昨年と変わらず、1週間の講義と2週間の開発体験を行う3週間のプログラムです。今回はサーバーサイドエンジニア志望者だけでなく、フロントエンドエンジニア志望者も募集したところ、昨年の2倍の応募がありました。そこで、書類選考とオンライン面接を行い、10名の方にご参加いただくことに。大学や開発コンテストなどでは体感できないプログラムに興味を持ち、明確な目的意識で応募してくれる学生が多く、私たちの時代よりも勉強熱心で真面目だと感じました。参加決定後に希望コースを選んでもらったところ、サーバーサイド、フロントエンドそれぞれ5人ずつに分かれました。
 
講義として用意したのは、サーバーサイド専門の講義とフロントエンド専門の講義、そして、両者共通の、ソフトウェア開発の基礎知識や、アジャイルやスクラムといったチーム開発に必要な開発手法の知見、要件定義や設計に関する方法・知見などに関する講義です。これらについて、業務に必要な範囲に絞って、1コマ1〜2時間ずつ、十数人の社員が分担して講義します。
 
1日のプログラムは10時半〜18時半の8時間(うち休憩1時間)。講義でのインプット量が多いので、プログラム内でも予復習ができるように開始直後と終了前に30分ずつ自習の時間をとり、そこで日報も書いてもらっています。
 
2週目からの開発体験では、サーバーサイドとフロントエンドから2〜3人ずつ、計5人で構成するチームを2つつくり、共通の課題に取り組みます。課題は、「Chatwork」のシステムにかなり近い模擬的なシステムを私たちが用意し、そこに機能追加や修正、変更などを行っていただくというもの。当社でもプロジェクトによっては職能横断でチームを組んで開発を行うので、同様にチームで1つの目標に向かって、最終的な制作物に全員でフルコミットする体験をしていただきたいと考えました。
 
開発手法も、当社がとっているスクラムという手法を体験していただくために、イテレーション(設計、実装、テストの一連の工程)を1週間とし、月曜に始めて金曜にレビュー、翌月曜に次の工程を始めて金曜にレビュー、という進め方をします。各チームにプロダクトオーナーとして開発本部の社員が1名、アシスタントして昨年のインターンシップに参加していた内定者アルバイト1~2名が入り、進行やレビューを行います。
 
最終的な成果物が完成しているかどうかは評価せず、2週間という期間の中で最大の成果を出すことに注力していただくことを重視しています。というのは、当社のサービスはSaaS(Software as a Service:提供するソフトウェアをインターネット等のネットワーク経由でユーザーが利用するサービスの形態)という形で展開しているので、つくったら終わりということはなく、改善、改良、機能追加を繰り返していくものですからです。といっても、学生たちは昨年も今年も「絶対に完成させる」という意気込みで取り組んでいて、それに対しては私たちも助力するところではあります。
 
なお、事前課題として、開発言語の基礎知識に関する書籍を1冊(サーバーサイドコースはScala、フロントエンドコースはTypeScript)と講義資料の一部を送付し、読んでくることを、また、開発に関するチュートリアルとなる複数のサイトを案内し、取り組んでくることもお願いしています。

 

実施にあたり、工夫されたことは?

 

山本さん:途中離脱がないよう、インターンシップ開始前から運営する社員と学生との間で密なコミュニケーションをとるようにしました。具体的には、参加が決まった時点で「Chatwork」に登録していただき、事前準備のグループチャットを作成。学生の皆さんのプロフィールがわかると「同じ学部でした!」「同じ趣味を持っています」「近くに住んでいたことがあります」など、社員からもたくさんのコメントが寄せられました。そうしてコミュニケーションをとりつつ、事前課題や誓約書へのサインの依頼なども行いました。タスクの進捗管理は「Chatwork」のタスク管理機能を用いて行いました。
 

藤井さん:インターンシップ開始後は、参加学生1人につき1つグループチャットをつくり、そのメンバーに50人超の開発本部の社員全員を入れて、学生のつぶやきで社員が興味を持ったことには反応するという状態をつくっています。
 
開発本部のメンバーは皆、ホスピタリティが高いんです。例えば、学生個人のグループチャットには日報も書いてもらっていますが、私よりも開発本部のメンバーのほうが反応が速くて。安心して学生のフォローを任せられると感じています。もちろん、私も運営担当として全員の日報に必ず反応して悩みや不明点を全力でサポートしていきますし、開発体験で上がってくるソースコードにもすべて目を通して、エンジニアリングの知見を伝えていきます。
 
山本さん:運用側が追いつかないくらい社員の注目度が高くて、ありがたいなと思います。我先にコメントしようという意気込みなので、学生の皆さんも、何を書いても誰かしら反応してくれるという心理的安全性のもと、リラックスできたのではないでしょうか。なお、開発実務以外の困りごとや、就活の相談などは、総合窓口の私に相談してもらうようにしています。プログラムが始まって1週間で、数人の方から就活に関する相談を、ダイレクトチャットでいただきました。

 

オンラインプログラムを実施して良かったことと、今後の課題は?

 

藤井さん:一番良かったと思うのは、全国各地から参加いただけたところです。
 

山本さん:そうですね。埼玉、東京、京都、大阪、奈良、香川など、参加者10人の在住県はほとんどかぶってないですね。
 
藤井さん:ただ、オフラインでは可能だけれどオンラインでは難しいと感じることもあります。最たるものが、偶発的なコミュニケーションがとれないこと。ランチに外に出たとき、お手洗いに行ったときなどに生まれるコミュニケーションや、5人いたとしたら誰かを起点に星状に1対1のコミュニケーションが生まれるといった、ちょっとしたコミュニケーションがとれないのがつらいところです。
 
運営する私たちも、先述したようにグループチャット内で学生のつぶやきに反応するというコミュニケーションをとっていますが、それはオフラインでもオンラインでも当たり前にすることなので、オフラインでできていたちょっとしたコミュニケーションがとれないのは課題ですね。
 
また、もう1つ、事業につながるような開発課題を設定していくことも課題です。インターンシップ自体がまだ2年目ということで、開発体験の課題は現状、事業とは切り離したものを用意していますが、今後は、事業につながるような新たな機能の開発などにも取り組んでいただき、プロトタイプ(テスト版)としてお客さまに使っていただいてフィードバックをいただくようなこともやっていければと思っています。

 

学生の皆さんへ

 

山本さん:新型コロナウイルス感染症の流行という不可抗力によって、仕事も、就職活動もオンラインに切り替わり、就活に苦戦している学生さんもいらっしゃると思います。ただ、今後、リモートワークという働き方や、遠方にいる人とオンラインでコミュニケーションをとりながら働くことは必須になってきますから、オンラインでの就職活動やインターンシップは、その練習だったり、これからの働き方を先取りできたりする機会だと、ぜひポジティブに捉えていただきたいですね。
 
藤井さん:仕事をするのに一番大事なのは、自分自身が楽しんでできるかということだと思います。「つらいけど、でもこれからはこういう仕事につかないとダメなんでしょ?」といった感じで選択し、努力するのはしんどいこと。私自身、当社での開発の仕事は個人の時間を削ってやったとしても苦ではなく、楽しく、続けていきたいと思うことなので、そう思えない分野の仕事は、やめておいた方がいいと思っています。
 
逆に、大変でも耐えられる、あるいは、どんどんやりたいと思う分野があれば、ぜひそのモチベーションをアウトプットしてください。例えば当社に対してであれば、1つ、思い入れのある制作物をポートフォリオの形で紹介していただければと思います。それが当社とマッチすれば、ぜひ一緒にお仕事したいですし、今は機会がないとなっても、巡り巡って一緒にお仕事できる機会が出てくるかもしれません。そのときは一緒に楽しくできればと思います。
 

初日のタイムスケジュール。翌日からは講義がびっしり詰まっている。

 

講義では、社員12名が専門分野ごとに講師を担当した。

 

同社の開発言語Scalaに関する講義スライド。

 

Single Page Applicationの基礎知識に関する講義スライド。

 

学生と関係者全員がメンバーに入っているグループチャットでは、出欠確認や講義開始の案内などを行っている。

 

*インターンシップ参加学生の声*(2020/10/2追加)
 
・ほとんど面識のない方でも積極的に交流をしてくださったり、何の気なしにホウレンソウに挙げた質問に答えてくださったりというところに「発言すること」自体への安心感を感じました。否定されたり、変な奴と思われたりしないかという事を必要以上に気にする事なくコミュニケーションを楽しめたと思います。通常インターン生としてはインターンを運営していただいている社員の方々としかコミュニケーションを取れない事も多いかと思いますが、ランチやチャットでのお話を通して、本当の意味での会社の雰囲気を知る事ができたかと思います。
 
・始まりと終わりに自習時間があり、朝では「今日行うこと」について、夕方では「今日行なったこと」について整理する時間があったのは大変助かりました。
お昼の時間にはゆるい (業務以外の私生活、学生生活の話や、個人開発の話) 交流もでき、楽しい時間を過ごすことができました。

 
・本格的なチーム開発を体験できたことが良かったです。GitHubを使った本格的なコード管理やアジャイル開発、モブプログラミングなど様々なことに挑戦でき、全てのことが学びでした。また、社員さんからのフィードバックやチームメンバーからも多くのことを学ばせてもらいました。
 
・Saas (Web サービス) を自社で開発されている会社でインターンシップに参加をさせていただくなかで「IT にそれほど専門知識のない方々に対しても、直感的にわかりやすい UI やシステムを提供する事で IT 技術や Web 技術のメリットを受けられるようにする」などの点で「良い体験、価値の提供」という私の軸が具体的な経験を通じてさらに深まり、この業界に対してより魅力を感じる事ができたと考えています。

 

文/浅田夕香

 

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