各界の著名人に、これまでに出会った、プロとしてすごいと思った人、影響を受けた人など「こんな人と一緒に働きたい!」と思う人物像をインタビュー。
ひとつのことに向かって一緒に力を合わせる。その過程では、誰と働いても楽しい
かわた・ひろみ●1983年、大阪府生まれ。和歌山大学経済学部卒業。2006年、読売テレビ入社。11年4月より『情報ライブ ミヤネ屋』のMCを務める。15年3月末に退社し、同年4月よりフリーアナウンサーとして東京を拠点に活動を開始。TBS『この差って何ですか?』、TBS『ぴったんこカンカン』、読売テレビ『ピーチCAFE』など数多くのレギュラー番組に出演中。和菓子好きで知られ、著書に『あんことわたし 日々大あん吉日』がある。
第一線で活躍している人の共通点は、「自分がどう見られるかは後回し」
――川田さんにとって、一緒に働きたい人の「第一条件」は?
何かなぁって考えてみたのですが、誰と一緒に仕事をしても楽しいんですよね。テレビ番組を作るのって、ひとつのことに向かっていろいろな人たちが力を合わせていく仕事なので。読売テレビ時代もそうでしたが、フリーアナウンサーになって一層感じるようになったのが、プロの方々というのはそれぞれスタイルを持っていらっしゃるということ。打ち合わせや本番の進め方もそうですけど、本番前の出演者の方々の様子も人それぞれなんですよ。ひとり静かに本番に向けて気持ちを高めていく方もいれば、共演者の方々とおしゃべりをして盛り上がって、そのまま本番に入る方もいる。スタッフも同様で、緊張をほぐすために話しかけてくれる方もいれば、ある程度の距離を保って、そっとしておいてくれる方もいる。皆さん個性があって面白いし、勉強になります。「すごいなぁ」と刺激を受けたり、「私も真似してみよう」と思ったりしますね。
――読売テレビ時代の『情報ライブ ミヤネ屋』の宮根誠司さん、『1周回って知らない話』の東野幸治さん、『この差って何ですか?』の加藤浩次さんなど川田さんが共演されてきた方々のお顔を思い浮かべても、確かにそれぞれスタイルがありますね。逆に、今、テレビの第一線で活躍されている方たちの共通点は何でしょうか。
自分がどう見られるかは後回しで、番組の方向性をとても大切にされていることだと思います。例えば、芸人さんとして確固たる自分のキャラクターを持っていらっしゃる方でも、それを前面に出そうとする感じは受けません。どういう番組を作りたくて、どんな方たちに見ていただきたいのか。方向性をスタッフと一緒に追求し、そこに自分の色を乗せていくのを基本としている方が多いように思います。超一流の方々というのは、そのうえで強い存在感を放っているのがすごいですよね。学ばせていただいています。
アナウンサーの先輩だけでなく、技術スタッフから多くを学んだ
アナウンサーを志したのは大学2年生のとき。「私なんて無理だと思っていたときに、ゼミの先生が『可能性はゼロじゃないでしょ』と背中を押してくれました。皆さんにもやりたいことにはまず挑戦してもらえたらと思います。とくに若いうちは何度でもやり直しがききますから」。
――川田さんがアナウンサーの仕事に興味を持ったきっかけは?
中学生のときに『ニュースの女』というドラマを見て、鈴木保奈美さんが演じていたキャスターの姿に憧れましたが、具体的にどんな仕事なのかはわかっていませんでした。はっきりと「アナウンサーになりたい」と考えるようになったのは、大学のゼミの先生が出演されていたテレビ和歌山の番組の現場を見学させていただいたのがきっかけです。アナウンサーというのは書かれた原稿を読む仕事だと思っていましたが、実際に現場を見せていただくと、取材にも出かけるし、原稿を書くこともある。地方局では編集をしたり、ロケでカメラを回すこともあります。本番でカメラの前に立つまでには地道な作業の積み重ねがあると知って、すごいなと思ったんです。
また、番組収録の現場には独特の緊張感があり、アナウンサーに限らず、そこで働いている方たち全員がすごく素敵だなと感じました。自分より大人の皆さんがひとつのことに向かって力を合わせて仕事をしている姿に、何かと戦っているような真剣さがあって。私もあんな風に仕事をしたいと思いました。
――読売テレビに入社後、新人時代に影響を受けた先輩はいますか?
全員からさまざまなことを教えていただきました。例えば、新人教育担当だった森たけしさんから学んだのは、基礎の大切さです。森さんはひょうきんなキャラクターで親しまれている、関西で知らない人はいないアナウンサー。いつもは面白いことを言って笑わせてくれるのですが、指導中はなかなかのスパルタ(笑)。息の吐き方やブレスのタイミングといった細かいアナウンス技術まで熱心に指導してくださいました。また、綿密に物事を考え、しっかりとした取材をして本番に臨む姿勢を間近で見させていただいて、大きな影響を受けました。
脇浜紀子アナウンサーがくださった「技術さんたちがいろいろなことを教えてくれるよ」というアドバイスもとても貴重でした。カメラマンさんや音声さん、照明さんといった技術スタッフはアナウンサーと職種こそ異なりますが、現場でいつも一番近くにいてくれる存在。さまざまなアナウンサーの仕事ぶりを見てきていて、新人がやってしまいがちな失敗なども全部知っています。また、ディレクターやアナウンサーとは別の視点を持っていて、ものの見方が視聴者に近かったりもします。だから、ロケの撮影後ケーブルの片付けを手伝っているときなどに「さっきの収録、どうでしたか」と聞いてみたりすると、「大きさを見せたかったなら、もう少し近くに寄ってみるとさらに伝わりやすかったかもしれないね」というような具体的で的確な意見をたくさんいただけて本当にありがたかったです。
アナウンス技術とはまた別の、映像を通して情報を伝えるうえでのちょっとしたテクニックも技術さんたちから学びました。例えば、グルメレポートであんパンのおいしさを伝えるときに、先に半分に割って中身を見せてから、ひと口大にちぎって食べた方が清潔感があるし、食べる姿もきれいに見えるよと。最初に聞いたときは、なるほどと感心してしまいました。私はあんこが大好物なので、プライベートではつい丸かじりしてしまいますが(笑)。
――読売テレビには9年間勤務されて、川田さんご自身が後輩に何かを教える場面もあったのでは?
新人教育を担当するのはベテランの方々だったので、後輩に特別に何かを教える立場ではなかったのですが、ふだんの会話でアドバイスを求められたときは自分のわかる範囲で話をしていました。私は後輩に教えるのが得意ではなくて、「こうした方がもっと素敵なのにな」と思ってもどう伝えていいのかわからずモジモジしてしまうタイプなので、自分から屈託なく聞いてきてもらえたりすると、話しやすくてすごくありがたかったです。だから、皆さんも社会に出て、先輩に聞きたいことや助けてもらいたいことがあれば、あまり遠慮せず頼っていいんじゃないかなと思います。
信頼関係の構築は、自分が相手を信頼することから始まる
大阪生まれの大阪育ち。標準語のマスターに苦労し、ヨーロッパへの卒業旅行でもアクセント辞典を持ち歩いた。「会社の先輩からは学生時代しかできないことを優先した方がいいよと言ってもらい、今でこそ私もそう思いますが、当時はどうしても気になってしまって」と振り返る。
――入社5年目には『情報ライブ ミヤネ屋』のMCに抜擢されました。当時のご心境はいかがでしたか?
『ミヤネ屋』なんて自分は担当することのできない番組だと思っていたので、最初はただ驚くばかりでした。会社の看板とも言える番組で大きなことだとはわかっていましたが、実感がなかったんです。実際に『ミヤネ屋』の現場に入ってからも、最初はオンエアの2時間、そこにいるだけで精一杯。ところが、数カ月たって少し慣れ、状況が見えてくると、お昼の2時間という時間帯に全国ネットの生番組を放送することの重大さを認識してプレッシャーが襲ってきました。
お昼の2時間というのは世の中が動く時間帯です。番組の途中で記者会見の現場中継に切り替わることも多いですし、裁判の判決が出て、速報をお伝えすることもあります。大きなニュースが入るたびに番組の構成が変わりますから、それに対応しつつ、その場で情報を整理してわかりやすく視聴者の方々にお伝えしなければいけません。そのときに大事なのは、その日の午前中までに起きているニュースを頭に入れておくといった事前の準備とともに、一緒に仕事をする方たちとの信頼関係なんだということを『ミヤネ屋』では身をもって学びました。
やっぱり、自分がどれだけ相手を信頼できるか、そこに尽きるんですよね。とくに生放送は1秒1秒が大事で、瞬時に物事を判断しなければいけない。自分の判断が正しいか、間違っているかをじっくり考える時間はありません。そういう状況で、自分の手元に届いた速報を視聴者にお伝えすべき情報として間髪入れずに読むというのは、原稿を作成したスタッフへの絶対的な信頼感があるからこそできることなんです。
もちろん、相手から信頼していただくことも大事で、例えば、速報は多くの場合、私に届きますから、メインMCの宮根さんが伝えるのか、私が伝えるのか。宮根さんが伝えるなら、どのタイミングなのか。そうした判断も、宮根さんが私のことを信頼してくださったからこそできたことなのかな思います。
――皆さんとの信頼関係を築くために大切にされていたことはありますか?
信頼関係というのは何か特別なことではなく、日々の会話だったり、お互いの仕事ぶりを見てできあがっていくものだと思います。だからこそ、コミュニケーションは大事にしていました。
アナウンサーのデスクはアナウンス室にありますが、プロデューサーにお願いして『ミヤネ屋』のスタッフがいるフロアにもデスクを置いてもらいました。スタッフは2時間の放送のために遅くとも早朝、コーナーによっては何週間も前から準備をします。100人を超えるスタッフがどれだけの労力を割いてどんな取材をしているのかを間近で見たかったからです。朝出勤してからオンエアまでその席にいて、みんなの動きを感じながら自分の準備をしていると、番組の構成に急な変更があった時も状況が把握できますし、スタッフも早い段階で声をかけてくれたりして放送直前に慌てるということがなくなりましたし、みんなとの距離も縮まったように思います。
フリーになってからはすでに準備が整ったところに入って、自分の役割を果たすことが求められるお仕事が多いので、より一層コミュニケーションの大切さを感じています。会社員時代のように一緒に仕事をする方たちと長く時間を共有するのは難しいですが、さまざまな考え方や仕事ぶりに触れる楽しさを感じています。
取材・文/泉 彩子 撮影/鈴木 慶子 ヘアメイク/井生香菜子