当研究所の調査概要
就職みらい研究所とは
2013.12.20

『試職(シショク)』を導入した事例 ~株式会社 ビービーメディア~

定着率アップと、仕事理解を狙った職務体験型の『試職(シショク)』。採用・育成に対する社内の意識を高めるキッカケにも。

 新たなトレンドである『試職(シショク)』を通じた就職/採用活動。この取り組みは、学生と企業のマッチングの進化へのブレークスルーとして機能し始めている。今回は事例研究として、ビービーメディア株式会社のTVCM事業部 第2制作部 部長 プロデューサーの吉川 雅人さんと、人事担当の猪野 鐘久さん(写真)へのインタビューを行った。

人事担当
猪野 鐘久さん

 

 

社名(所在地) ビービーメディア株式会社(東京都港区)
会社情報 TVCMをはじめ様々な映像制作とインタラクティブなコンテンツを制作
※ 試職の導入は、TVCM部門のみ。
主な募集職種 ① TVCMプロダクションマネージャー
② 映像プランナー
※ 以下の取材内容は①の職種を対象としたもの。
従業員規模 従業員95名
採用人数
(試職参加)
①の職種は3名程度(8~10名程度)

『試職(シショク)』導入の背景

イメージ先行ではなくリアルを伝えて、離職率の低下を。

 同社(TVCM事業部)では、入社3~7年くらいで戦力になりつつある社員の退職は大きな損失との認識から、離職率を下げてしっかり育てていくための策を模索していた。

離職の原因は一つではないものの、「過去の採用面接時に『どんなことをやる仕事か分かる?』と聞くと学生はほぼ分かっていない」(吉川さん)という経験もあり、イメージ先行ではなくリアルを知ってから入社してほしいという思いで採用フローのテコ入れに着手。打ち手を模索している中で同業で『試職(シショク)』を導入している企業をヒントにオリジナルのコンテンツを企画し、本年度(2014卒)の採用選考から試職を導入した。

同社では、この『試職(シショク)』を通じて、入社後の仕事や職場の雰囲気、同社の仕事の時間感覚などをしっかり伝えることを狙っているが、同時に、「採用時に面接だけでは学生のことが分からないという課題観や、採用や入社後の育成に対する社内の意識を高めていきたい」 (吉川さん)という狙いもあった。

『試職(シショク)』の内容

入社後に行う業務の一部を体験する、1日のプログラム

 同社では、最終選考の手前の段階で実施する、「業務体験(1日)」が『試職(シショク)』に当たる。このプログラムは、下記のような内容となっている。

<概要>

10:00~18:30で実施。1回の実施で2~3名の学生が参加し、1人の学生を2名の社員が担当する。プログラム終了後にその社員から人事へフィードバックを行う。

≪午前≫

社内案内の後、業界理解のため、あるCM制作を題材に若手からプレゼン&質問の場を設ける。

≪ランチ≫

現場のプロデューサーや若手のプロダクションマネージャーとの食事。社員は「忙しくて大変な仕事」「深夜に及ぶ作業もある」などの話をしていたとのこと。学生からのいろいろな質問や、プライベートの話なども盛り上がる場となっている。

≪午後≫

入社後にアシスタント業務として実際に発生する「資料探し」を課題として行う。最後の1時間で集めた内容について、プロダクションマネージャーに対してプレゼンを行い、質問などをうける。

※ 資料探しとは、企画プレゼンに用いる素材を探す業務で、例えば「テクノロジーを仕事の中に取り入れることを表現するための手法を調べる」といったもの。その資料を自分なりのやり方で収集することが課題となっている。

≪備考≫
当初、『試職(シショク)』の企画段階は、アルバイト的な形で1週間くらい受け入れることなどを検討していたが、受け入れの負担や守秘義務の問題をクリアするために議論を重ね、今年は1日で実施できるプログラムでスタートをしている。

『試職(シショク)』導入の成果

『試職(シショク)』の導入成果(メリット)は学生側・企業側ともにあり、
以下のような内容が挙げられる。

学生側

「学生のいいところが見えてくる」(吉川さん)

 同社から見た学生にとってのメリットを聞くと以下のような回答があり、特に「学生のいいところが見えてくる」という言葉は印象的であった。

  • 「学生もこちらも面接の際は冷静だが、一日一緒にいると情が生まれるし、その学生のいいところが見つけられる(見えてくる)こともある。一方、試職後に2人の学生から辞退があったが試職をふまえた結果であればそれはそれで良かったと考えている。」(猪野さん)
  • 「業界的に派手に思われることも多いが、実際は地道な裏方の仕事。それを知ってもらったうえで現実的にとらえてもらえる場になっている。知らなかったことが見えたという学生がいた。」(吉川さん)
企業側

通常の面接では見えない面が見える。
受け入れた職場からの多面的な評価も可能に。

 面接では見えないことが見えてくるということが成果の一つとして挙げられ、以下のようなコメントを聞くことができた。

  • 「一日職場で時間を共にすると面接とは違っていろんな面が見える。」
  • 「タイプや、学生の向き不向きも見えてくる。」
  • 「作業の中で、日頃の素養や学習が見えるし、個々の差は大きく出る。」
  • 「試職に参加した学生のうち、1-2名は面接の際の印象そのままだったが、他は面接時とは(評価できる面も、そうでない面も含めて)イメージが変わった。」
    (以上、吉川さん、猪野さん)

また、『試職(シショク)』によって人事以外が採用にかかわることで、学生の事を幅広く(複数の人の目で)見ることができるようになり、社内の採用に対する関心も高まったと印象があるとのこと。 直接的ではないが、「業務体験でかかわったメンバーが新入社員の育成に責任感を持つようになる。そのような感覚をもっと社内に増やしていくきっかけになる。」(吉川さん)という波及効果も期待しているとのことだ。

事例収集・研究担当の着目点

 このケースから言えることは、『試職(シショク)』を通して「学生の良さ、本来持っている力」がみえるということです。企画提案をするうえで必要となる「資料探し」の業務をやってもらうということは、自分なりの観点で、何が必要かを考え、アウトプットに繋げる行為です。一見地味に見えますがこのプロセスから、「与えられたテーマ」への取り組み姿勢、思考展開力、行動力、コミュニケーション能力などを.見ることができることでしょう。学生が持つ力を「素」の状態で見ることができ、面接以上に活躍可能性を見極めることにつながると思われます。

関連記事