コロナ禍で就活のあり方が変化する中、企業から学生に向けた情報提供、コミュニケーションはますます重要になっています。2022年卒学生に向けて、「動画施策」による面接内容の情報開示を行っているDAIWA CYCLEに、施策実施に至った思いを伺いました。
面接での質問項目やその意図を動画で開示することで会社説明会から選考への参加率が15%UP
DAIWA CYCLE株式会社
総務部 人事課
木村 仁さん
※記事は、2021年12月8日にオンライン取材した内容で掲載しております。
【Company Profile】
1980年創業。地域密着型の大型店舗「DAIWA CYCLE」およびショッピングモールを中心に展開する「DAIWA CYCLE STYLE」を全国に97店舗運営。自転車の販売・修理のほか、独自の出張修理を行う。また、プライベートブランド製品の開発・販売を手掛け、「着替えたくなる自転車を」をコンセプトに、他にはないカラーやデザインの自転車を提供。また、販売だけでなく過去にはスポーツバイク走行会や、子供向けの自転車イベントの開催など、様々な取り組みを通じて自転車に乗る“楽しさ”を広く各地に伝えている。
選考参加率の改善と、コロナ禍でのリアル接点減少で動画を導入
−−−2022年卒学生に向けた動画コンテンツを作成されています。どのような内容を伝えているのでしょうか
面接官を務める採用担当者が登場する、動画を2本作成しました。1本が、面接での質問内容とその意図を伝えるもので、説明会に来てくれた学生に対して送るのですが、少しでも選考参加のハードルを下げたいと思って作りました。
もう1本が、採用担当者の自己紹介や面接にどんな気持ちで来てほしいかアドバイスする内容です。こちらは、その担当者による面接の前に送ります。どちらの動画も、学生がより安心して面接に臨み、自分のパフォーマンスを最大限発揮する為に、企業側も自己開示することが大切だと思い作りました。
−−−動画で、そのような情報提供を行おうと思った理由は何ですか
説明会参加者の選考への応募率が悪くなってきた事がきっかけでした。説明会や面接のオンライン化など、コロナ禍での就活スタイルが変容したことで、当社の情報を十分に得られず、結果として面接へ参加しづらくなっているのではと考えました。私たちとしても、実際にお店で働く社員を見て頂くことが、当社を理解する一番の近道だと考えていましたが、(感染対策の観点から)気軽に「お店を見に行ってみて」はと言えず、情報提供の手法には悩んでいる矢先でした。
そんな中、動画という形で当社の情報を開示し少しでも学生の不安を取り除くことができれば、面接へ参加して頂きやすくなるのではと考え、今回の施策に取り組んだのです。
−−−動画で伝えている面接での質問内容とその意図とは、具体的に何でしょうか
質問内容は、「志望動機」「就職活動について」「 在学中に力を入れたこと」「アルバイトでの経験」とオーソドックスな4つで、それら回答内容を深堀りしていくと学生には伝えています。それらの回答内容から、「当社の職務特性や社風にフィットする方なのかを見ています」とその意図も併せて説明しています。
私たちが「なぜ?」と繰り返し深掘りしていくのは「詰めている」訳ではなく、あなたの考えの背景や、そこに根差した想い、気持ちが動いた瞬間を知りたいと思っているからです。一言一句用意してきた綺麗な回答ではなく、「あなたなりの言葉で伝えてほしい」という思いを説明しています。
問いや課題に自分なりの言葉で答えるのは、面接も仕事も同じ
−−−「面接で質問する内容」をあらかじめ開示することで、「学生に準備、対策をされて本音が見えてこないのでは」と懸念される企業もいます。そうした考えはありませんでしたか
動画で何を伝えるのかは、採用チーム内で議論しました。その際に懸念の一つとしてそういった声が出たこともありました 。しかし、今回の面接を仕事に置き換えて考えた際に、「少しのヒントできちんと結果を出せる人であればむしろ採用すべきでは」という考えに至りました。また、学生の本質が見えづらいと感じた場合には沢山深掘りするので、完璧に回答を準備できる方は少ないと思います。
例えば、当社の”接客”は、お客様から様々いただく質問に対して、研修などで学んだ知識をヒントに自分なりの言葉で自転車を提案しご購入いただきます。それは面接において、あらかじめ開示された情報(ヒント)をもとに、自身の事をきちんと伝え、合格を得るというプロセスと似ているように感じます。
ヒントがある中での明らかな準備不足や、具体例などが全くない回答が続いてしまうと、考えて自分の言葉にすることが苦手なのかなとも感じてしまいますので、その意味でも仕事で発揮できる力をしっかり見極められるのではないかと考えています。
−−−動画施策を行って、どんな効果を感じていますか
まず、この施策を始めたきっかけとなった説明会参加者の面接応募率は15%アップしました。「どんな人が面接してくれるのか」「どのような事が聞かれるのか」を事前にイメージできることで、学生の不安を軽減できたのではないかと考えています。
また、嬉しかったのは内定辞退された複数の学生から「選考を受けてよかった」と連絡を頂けた事です。動画施策もそうですし、実は、最終面接前にも「意識してほしいポイント」をまとめた資料を個別に渡していました。内定後も基本的には承諾期限も設けずに「納得するまで就活をしてから決めてください」と伝えていました。
人事担当者の自己紹介動画は、数値としての変化は出ていませんが、「どんな人が面接してくれるのか」を事前にイメージできることで、学生の不安を軽減できたのではないかと考えています。
「思いやり」を求める以上、学生への思いやりを持った情報提供は欠かせない
−−−入社後のギャップという課題はありますか。防ぐためにどんなことに取り組んでいますか
接客業務においては、入社後のギャップを感じる方が少なからずいます。「自転車屋さんって暇だろうな」「とりあえず修理が出来ればいいか」という気持ちで入社いただくと間違いなくギャップを感じます。
ありがたいことに、当社ではどの店舗も沢山のお客様に利用頂いており、同時に複数組のお客様が来店されることも多いです。来店されたお客様に満足いただく為には、詳細な商品説明や丁寧な接客は必要不可欠であり、スタッフ一人ひとりに求めている接客のレベルも高いです。
そのような接客こそが当社が地域のお客様に選ばれている理由でもあるのですが、前述した気持ちでご入社頂いた方は「こんなに大変だったんだ」と入社後に初めて気づくことになります。
そこで新卒採用活動ではまず、学生が気軽に相談しやすい環境づくりを大事にしています。私たちとのやりとりは従来のメールや電話ではなく、全てLINEで行っています。また、zoomを用いて面談や座談会を頻繁に行うなど、学生とのリアルに会う機会が減りつつある今、いかにして学生との接点を作り、学生から相談頂きやすい環境を作れるかを意識しています。
その甲斐あってか以前よりも学生との距離が近くなり、入社前の不安や質問などをよく頂けるようになったと感じます。
そこに対して私たちはネガティブな情報であったとしても隠すことなく伝えるようにしています。当たり前ですが、座談会に参加する現場スタッフへ「これを話して」といった台本などもありません。また、今回の動画施策もその一つですが、可能な限りの情報は開示する事も大事にしています。
より学生が仕事内容や職場、そこで働く人をイメージできるように、今年からは採用のInstagramなども始めました。職場見学などで実際に自分の目で見る事が難しくなった今、視覚的に情報を発信できるSNSは入社後のギャップ防止には有用だと感じています。
−−−求める人材要件については、どんな議論を経て決めているのでしょうか
社内で言語化されている、社員の行動指針をベースに人材要件を定めています。この行動指針は当社のカルチャーであり、やはりそこにフィットする方に入社いただきたいと考えております。採用チーム内でもこれは共通認識であり、人材要件は割とスムーズに決まりました。
その一つに「思いやり」マインドというものがあります。当社は、駅前の小さな駐輪場を創業するところからスタートしました。創業者はただ自転車を預かるだけでなく、パンク修理に対応したり、頼まれるでもなく自転車の点検や注油も行っていました。そこにあったのは「何をすればお客様に喜んでいただけるか」という「思いやりの心」ではないかと感じます。このように他人の気持ちに心を配り行動できるかどうかは、DAIWA CYCLEの仕事に最も大切な事であると考えています。
また、もう一つに「チームワーク」があります。行動指針には「1人の100歩より100人の1歩」という形で定められており、小さな駐輪場から今に至るまで、社員一丸となって取り組んできた当社をよく表しています。面接で在学中に力を入れたことやアルバイト経験をどんどん深掘りし、行動ベースで回答を引き出していくことで、応募者にこのような要素があるかどうかを見させて頂いています。
−−−採用を通じた学生への情報開示という点で、これからも大切にしていきたことは何ですか
学生の「思いやり」マインドを見ているとお伝えしましたが、大前提として、私たちも学生への「思いやり」を忘れてはいけません。
学生に送るメッセージ一つとっても、上から目線になっていないか、伝わる内容になっているかなど、これを読んだ時に相手がどう感じるかを様々な観点からチームで会話するようにしています。情報開示の面では、単に何でも開示すればOKではなく、学生の立場に立ち、学生が求めている情報をきちんと開示する事が大切だと思っています。その為に、今後も学生に寄り添い対話を重ね、”今”の学生が欲している情報を常に把握できるよう努めていきたいと思います。
【内定者インタビュー】
学生も将来のお客様候補。小売業としてどう接しているのかを見ていた
就職活動では、「説明会の段階から、その企業が学生にどう接しているか」を見ていました。小売業界を中心に見ており、学生への対応が、接客のあり方にそのまま出るのではないかと考えていたからです。大学では、音大の舞台芸術を専攻し、裏方で公演を作り上げる経験をしてきました。一人では決してできないものを、周りとコミュニケーションを取りながら作り上げていく。人とのつながりの大切さを学んできたので、企業選びでもコミュニケーションを大切にするところで働きたいと思っていました。
学生も、いつかお客様になるかもしれません。「この先もつながるかもしれない」と思って学生と接している企業なのか、という点は重視していました。
DAIWA CYCLEは、一次面接の前に担当面接官の紹介動画を送ってくれたり、最終面接前に、質問内容やその意図について書かれたPDF資料を送ってくれたりと、ほかの企業にはないフォローが印象的でした。
PDFには、「仕事で何を実現したいのかを明確にしておくといいですよ」といったアドバイスや、オンライン面接での表情や目線、声のトーンのポイントなども書かれていました。自分の就活について何が正しいのか分からず不安だった中で、ヒントをいただけたのがとても心強かったですね。
実際の面接でも、「質問されている」というよりも「会話をしている」と思えるようなやりとりで、その場で抱いた感情を言葉に上乗せして話すことができました。一問一答のような面接だと、用意していた答えをミスなく話そう…と気構えてしまうのですが、会話調だと、そのとき伝えたいリアルな気持ちを出せます。
そうした面接でのやりとりに、お客様への接し方に通じるものを感じられたのが、入社の一つの決め手になりました。
課題を素直に伝える姿勢に「一緒に向き合いたい」と思えた
また、DAIWA CYCLEは説明会の時点で、自社の課題をオープンに話していました。「店舗間のコミュニケーションが足りていないので改善していきたい」と話しており、弱点に向き合っていこうとする意欲が伝わってきました。課題をあえて学生に伝えることは、「一緒に意識していってほしい」というメッセージなのだと感じましたし、私もその解決に貢献していきたい、という気持ちになりました。
質問内容やその意図、課題点の開示を通じて、私が感じたのは「学生を信じてくれている」ということでした。事前情報を伝えて、準備に時間をかけてきてくださいと言ってくれるのは、DAIWA CYCLEが学生一人ひとりの本質をきちんと見ようとしているから。
動画の配信は、あくまでもその一つの手段だと思いますが、「学生に伝えよう」というスタンス自体に、その企業の“人に対する姿勢”が表れるものだと思っています。
取材・文/田中瑠子