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2020.05.28

なり方、やりがい…レアなおシゴト図鑑 | Vol.17 ファイナンシャルプランナー

世の中にはさまざまなシゴトがあるけど、なかには就職情報サイトではなかなか見つけられないものも…。そんなちょっと意外なシゴトについている社会人を紹介します。

 

お金にまつわるモヤモヤを解決する
ファイナンシャルプランナー

溝渕麻理さん

プロフィール●ファイナンシャルプランナー〔CFP(R)〕、1級ファイナンシャル・プランニング技能士 、キャリアカウンセラー、総務・経理技能士。1991年、成蹊大学経済学部卒業。三菱信託銀行、人材派遣会社などを経て、2003年より保険・年金・お金の専門家集団「100ten.school」に参画。マネーセミナーの講師、資産運用・年金・保険相談について、修業しながら実務を学び、同時にファイナンシャルプランナーの資格を取得。2004年より、「100ten.school」にてファイナンシャルプランナー、キャリアカウンセラー講師として活動中。

 

お金の感覚は人それぞれ。否定はせず、伝えるべきことはきちんと伝える

 

――ファイナンシャルプランナーって、どのようなお仕事なんでしょう?

貯金や税金、投資、住宅ローン、相続といったお金にまつわるありとあらゆる分野のエキスパートとして、おもに個人のお客さまに対してコンサルティングをする仕事です。コンサルティングでは、家族構成や収入・支出、資産といったお客さまの情報を一緒に整理しながら、問題点を洗い出したり、解決方法をご提案します。
 

ファイナンシャルプランナーの仕事のスタイルは、大まかに2種類。銀行や証券会社、保険会社、不動産会社などで働く通称「企業系」と、特定の金融機関や不動産会社などに属さない「独立系」があります。私は「独立系」で、お金の専門家集団「100ten.school」の社員として活動しています。「企業系」の場合は、営業職など自社商品を提案する仕事がメインになります。

 

――お客さまからはどんなご相談が?

「マンションを買いたいけれど、この額で住宅ローンを組んで大丈夫?」「老後の資金はどう考えればいいの?」「保険を見直したい」など本当にさまざまです。「100ten.school」では株式投資のセミナーなど投資教育に力を入れていることから、積極的な資産運用のご相談も多いですね。「上がる株を教えてください」といった単刀直入なご相談もありますよ。

 

――上がる株! 教えてもらえるんですか?

資産運用には誰にでも当てはまる正解はありませんから、銘柄だけを挙げて、「コレとコレを買いましょう」というようなお話はしません。お客さまの家計の現状や将来設計に合わせた運用の方法を一緒に考えていきます。その上で、おすすめの銘柄を具体的にお教えすることはありますよ。

 

――コンサルティングにあたって大切にされていることは?

お客さまの状況、解決したいこと、リスク許容度をきちんと理解することです。いくら十分な投資資産があっても、元本割れのリスクが気になって不安になってしまう人に株式投資を強くおすすめはできません。一方、「リスクは高めでもいいから、ハイリターンを狙って運用したい」と積極的でも、資産が十分でない人にハイリスク・ハイリターンの商品をご紹介するのは危険ですよね。リスク許容度は資産額や将来設計によって変わってきますし、お客さまの性格や投資や資産運用に対する理解度も重要な要素です。コンサルティングではそれらの要素を複合的に捉えた上で、「押しつけ」にならない提案をするよう心がけています。
 

お金の感覚は本当に人それぞれで、不安感なく生活していけるかどうかは必ずしも年収や貯金の額に比例しません。共働きで世帯年収1500万円・貯金2000万円の20代後半のご夫婦がご相談にお見えになったことがあります。お話をうかがうと質素倹約な生活をされており、投資はしないと方針もはっきりしています。家計の問題点は特に見当たりませんでした。それでも、「子どもが生まれたら、生活は大丈夫だろうか」「老後の資金は?」と将来が心配のご様子でした。そこで、「出産からお子さんが小学生になるまでにかかる費用はこのくらいですよ」「小学校から大学までの教育費はこのくらい」「老後は年金ももらえますから、不足分はこのくらい」と細かく試算してご提示したところ、「少し安心しました」と言っていただけました。
 

逆に、何も考えずにお金を使ってしまって、夫の年収1000万円で妻は専業主婦、貯金はほとんどなしという方もいます。そういう場合もいきなりこちらから提案をするのではなく、将来必要なお金の額を試算し、「いつまでに」「どれだけ」準備しなければいけないかを知っていただくと、「これはマズイ。まず、どうすればいいんですか?」と真剣に話を聞いていただけます。自分を否定されるのは誰しも抵抗を感じるもの。否定はせず、知っていただくべきことはきちんと伝えてお金に関するモヤモヤを解決し、お客さまが安心して暮らすためのお手伝いができればと思っています。

 

 

紆余曲折のキャリアを歩んだ経験も仕事に活きている

 

――ファイナンシャルプランナーのお仕事に就いた経緯は?

大学の経済学部を卒業して信託銀行に就職し、窓口業務を担当しましたが、3年で退職しました。銀行の業務はきちんとマニュアル化されていて、今はその素晴らしさがよくわかるのですが、当時はもっと自分なりの考えや工夫を活かせる仕事をしたいなと考えたんですね。ところが、いざ退職したら、何をやればいいのかわからなくて。知り合いの会社で事務のアルバイトをしつつ、「自分探し」。スキルも資格もないし、収入もひとり暮らしできるような額ではなくて、20代後半は結構つらかったです。
 

そんな時に、当時増えはじめていた人材派遣会社に登録してみたら、大手食品会社で働けることになり、私のように若いうちに会社を辞めてしまった人にもチャンスを与えてくれる人材派遣会社の仕事ってなんて素晴らしいんだと。それで、派遣会社の正社員として働きはじめたのですが、3年目に取引先の会社から「事業拡張をするから手伝ってほしい」と言っていただいて人事・経理の担当として転職したんです。小規模だけど、成長中の企業だから面白いかなと。ところが、仕事を頑張り過ぎてしまって体調を崩し、30代半ばで退職。気力もなくし、リハビリ程度に働こうかなと考えていた時に信託銀行時代の先輩から「100ten.school」のセミナーで受付のアルバイトをやらないかと声をかけていただいたのが縁で、気がついたらファイナンシャルプランナーになっていました。

 

――気がついたら(笑)。CFP(R)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士 などの資格もお持ちですが、いつ取得されたんですか?

私の場合、すべて後付けなんです。マネーセミナーの受付をするうちに司会もお願いされ、与えられたことを「できません」と言えない性分で一生懸命やっていたら、「結構話せるから、セミナーの講師もできるんじゃない?」「コンサルティングもできそうだね」と。それで、1年間上司のアシスタントとして見よう見まねで実務を覚え、その段階になって「資格もあった方がいいよね」ということで集中して勉強して合格しました。ほとんど独学でしたが国家資格のCFP(R)に必要な6課目のうち、「不動産」のみ業務ではあまり扱っていなかったので、講座を受けました。

 

――ファイナンシャルプランナーになるために資格は必須ですか?

資格がないとできないわけではありませんが、合格に必要なレベルの専門知識が実務で求められますし、資格があればお客さまの信頼感にもつながるので、取得している人がほとんどだと思います。ただ、ファイナンシャルプランナーの仕事は知識だけではやっていけません。周囲を見渡すと、活躍している人の3大条件は「人が好き」、「世の中に関心がある」、「数字に強い」。このうちのどれかが欠けても、長く続けるのは難しいように思います。
 

予期しなかったことですが、私の場合は、紆余曲折のキャリアを歩んできたこともファイナンシャルプランナーの仕事に活きていると感じています。雇用形態が安定していなかったり、収入が少なくて不安を感じていたりする方たちの気持ちを理解した上でアドバイスできるからです。「ファイナンシャルプランナーの資格だけでは生きていけないから、何かプラスアルファの強みがあった方がいい。キャリアコンサルタントの資格を取ってみたら?」と上司に言われ、取得したことも役立っており、キャリアとお金のかかわりについてセミナーや取材でお話しさせていただくこともよくあります。

 

 

リーマン・ショックで株価が大暴落。プロとして今こそ力の見せどころだと思った

 

――「独立系」のファイナンシャルプランナーの収入についても教えていただけますか?

ファイナンシャルプランナーというとコンサルティング業務を思い浮かべる方が多いかもしれませんが、それだけでは十分な収入にはなりません。執筆、セミナーの講師、保険代店業務&マネー相談といった業務を兼ねていることがほとんどで、収入は月10万円ほどという人もいれば、セミナーの講師として人気で月50万円〜100万円という人もいます。まれに企業と顧問契約を結んでいる人もいますが、かなり少数だと思います。

 

――ファイナンシャルプランナーのお仕事にやりがいを感じるのはどんな時ですか?

不安そうな顔でご相談にいらしたお客さまが、コンサルティングをするうちにスッキリした表情になり、帰り際に「ちょっと安心しました」「これから何をすればいいのかわかりました」と言ってくださる瞬間がうれしいです。

 

――大変だなと感じたことは?

2008年のリーマン・ショックで株価が大暴落した時は、投資のご相談にいらしていたお客さまの資産が大きく目減りし、プロとして今こそ自分たちの力の見せどころ、お客さまの不安を軽減するためにできる限りのことをしなければと責任を感じました。上司からの提案でお客さまにメールを送り、緊急セミナーを開催。市場の状況や今後の対策について事細かにご説明し、「焦って売らないでください」とお話をしました。その後、株価が上昇。最近では「あの時に売らなくて良かった。ありがとう」と言ってくださるお客さまが多く、「この仕事をやっていて良かったな」と思いました。長く続けてこそわかる喜びもあるんだなと感じています。
 

ただ、私の場合、あの時期を乗り越えられたのは、周りにブレインがたくさんいたからです。「独立系」のファイナンシャルプランナーは個人事業主が多く、「100ten.school」のようにファイナンシャルプランナーや税理士、社会保険労務士といったお金の専門家が集まって仕事をする組織はあまりないのですが、ひとりでできることには限りがあります。ファイナンシャルプランナーの世界でも、チームで仕事をするスタイルがさらに定着していけばいいなと思っています。

 
※本文は2018年取材時の内容で掲載しております

取材・文/泉 彩子 撮影/鈴木慶子

 

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