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2020.05.07

なり方、やりがい…レアなおシゴト図鑑 | Vol.14 キャリアカウンセラー

世の中にはさまざまなシゴトがあるけど、なかには就職情報サイトではなかなか見つけられないものも…。そんなちょっと意外なシゴトについている社会人を紹介します。

個人のキャリア形成を支援する
キャリアカウンセラー

鈴木徳子さん
プロフィール●1989年大学卒業後、大手人材紹介会社に入社。リクルーティングアドバイザーとして企業の採用支援、企画開発業務に携わる。その後、13年間キャリアアドバイザーとして事務系・技術系双方、あらゆる業界の幅広い年代層への転職サポート業務を担当。また、管理職としてメンバーマネジメントも経験。2010年、キャリアカウンセラーとして独立。 再就職支援、若者の就業支援業務、幅広い年代の企業内個人のキャリア開発支援に携わる一方、研修講師として、おもに女性のキャリア、ダイバーシティ、ワークライフバランス、若手キャリア研修の分野で活動している。米国CCE, Inc.認定 GCDF-Japan キャリアカウンセラー。

 

不本意な異動をきっかけに、より自分に向いている仕事に出合った

 

――キャリアカウンセラーになった経緯を教えていただけますか?

大学卒業後、人材紹介会社に就職し経理部を経て営業を7年間担当しました。仕事を探している個人側のキャリア支援を担当するキャリアアドバイザーと連携しつつ、企業の採用活動を支援する仕事です。営業時代の前半はあらゆる業界・業種を担当し、後半は食品・日用品・アパレルなどを中心としたコンシューマ(消費財)業界を担当。営業は入社前から希望していた職種でしたから、とても満足していました。ところが、入社8年目に異動でキャリアアドバイザーに。ショックを受け、実は、退職すら考えました。でも、やってみると、意外に自分に向いていたんです。

 

――どんなところが向いていたのでしょう?

営業も企業の担当者の方といろいろな話をしながら仕事を進めていきますが、基本は会社対会社のおつきあいになります。一方、キャリアアドバイザーの場合は個人のキャリアだったり、人生について一緒に考えていく仕事なので、相手に対して一歩踏み込むことになる。私は営業時代も一社一社に思い入れがあって、じっくり付き合っていきたいタイプだったので、相手との関わり方の度合いが強いキャリアカウンセラーの方がよりしっくりときたんです。

13年間キャリアアドバイザー部門に所属し、管理職も経験した後、新たなチャレンジをと退職。自分がやってきたことを体系的に学び直したいという思いからキャリアカウンセラーの資格を取得し、2010年に独立しました。独立後はおもに再就職支援に携わる一方、「女性のキャリア」「ダイバーシティ」などをテーマにした研修の講師としても活動。19年4月からはスポーツ振興関連団体と業務委託契約を結んでアスリートの就職支援に携わっています。

 

――アスリートの就職支援とは珍しいお仕事ですね。

アマチュアのアスリートの場合、メジャーな競技ですと実業団に所属したり、スポンサー契約の話があったりするのですが、そうでない場合、生活が成り立たず、競技をやめざるを得ないこともあります。この状況を改善するために立ち上げられたアスリートの就職支援事業をお手伝いさせていただいていて、私は選手が採用後に企業と円滑な関係を築いていくためのフォローを担当しています。選手に対してコミュニケーションスキルなどの研修を実施したり、アスリートを採用した企業の情報交換会などの企画がおもな仕事です。

私は中学時代からサッカーファンで、今も地元の少年サッカーチームのコーチをやっているほど。アスリートの就職支援には会社員時代からずっと関心があり、ことあるごとにいろいろな人にその話をしていたら、なんと独立10年目にして夢がかないました。やりたいことを周囲に話すって大事だなと思います。
 

就職活動や他職種での経験…。あらゆる人生経験を生かせる仕事

 

――個人のキャリア支援を行う専門家の名称は「キャリアコンサルタント」「キャリアカウンセラー」「キャリアアドバイザー」など複数見られます。どう違うのでしょうか。

2016年4月に「キャリアコンサルタント」の国家資格が誕生し、「キャリアコンサルタント」を名乗れるのはこの資格を持った人のみです。一方、国家資格ができる前から日本にはキャリアカウンセリングに関する民間資格がたくさん存在しており、資格を認定する団体によって呼び方が違うので、いろいろな名称があります。

厚生労働省では「キャリアコンサルティング」を「労働者の職業の選択、職業生活設計又は職業能力の開発および向上に関する相談に応じ、助言および指導を行う」と定義していて、「キャリアカウンセラー」や「キャリアアドバイザー」と呼ばれている仕事と根本的な内容に違いはありません。

ただし、もともと呼称が明確でなかったゆえに、企業によってそれぞれ仕事の名称を作ってしまった経緯があり、具体的な仕事内容は勤務先によって異なります。人材派遣会社や人材紹介会社で働く場合は求職中の相談者への対応が業務の中心になりますし、一般企業の企業内カウンセラーとして働く場合は従業員のキャリア相談、大学や専門学校など教育機関のキャリアセンターなどで働く場合は学生の進路相談がメインになります。就職したり、契約を結ぶときには、名称ではなく仕事内容をきちんと確認することが大事だと思います。

 

――キャリアカウンセラーになるために資格は必須ですか?

必須ではありませんが、資格取得レベルの知識を身につけておいた方が仕事をしやすいですし、「キャリアコンサルタント」の国家資格が誕生したこともあって、資格を採用の条件とする募集が増えつつあります。これから勉強するなら、国家資格を取得した方が良いかもしれませんね。国家資格を取るには国が認定する養成講座を修了して(※)、国家試験に合格した後、登録をします。厚生労働省が認定している養成講座は複数あり、グローバル資格の「GDCF-Japanキャリアカウンセラー」や「CDA(キャリア・デベロップメント・アドバイザー)」を同時に目指せる講座もあります。また、大学のキャリアセンターなど相談者のメンタルに寄り添う役割をより期待される仕事の場合は、心理学的手法を用いてキャリア支援を行なう「産業カウンセラー」の資格が評価されやすいです。
※「労働者の職業の選択、職業生活設計又は職業能力開発および向上のいずれかに関する相談に関し3年以上の経験を有する」人は、養成講座を修了しなくても国家試験を受けられる。

 

――鈴木さんの場合は独立前に人材系の会社でキャリア支援業務を経験されていますが、他業種や他職種からキャリアカウンセラーに転職した人もいますか?

いきなり独立するのは難しいですが、他業種から転職して人材系企業で活躍されている方はたくさんいます。キャリア支援を必要としている相談者のバックグラウンドはさまざまですから、前職の経験も専門性として生かせます。私自身も、キャリア支援業務だけでなく営業職や、管理職を経験したことがとても役立っています。例えば、教育機関のキャリアセンターで働くなら、自分自身の就職活動の経験も生きるでしょうし、あらゆる人生経験が生かせる仕事ですよ。自身の結婚や子育てと仕事の両立の経験も、です。

そういう意味で言うと、社会人経験がある程度ある方が相談者の悩みを理解しやすいですし、信頼も得やすいので、人材系の会社に就職した場合もいったん営業などで広く社会人としての知識や経験を積んだのちにキャリア支援業務を担当することが多いように思います。

 

キャリアの課題や悩みを抱えた相談者が笑顔になっていく姿を見る喜び

 

――キャリアカウンセリングをするにあたって心がけていることは?

キャリアカウンセラーの役割は、相談者がキャリアの課題や悩みを解決する道筋を見つけられるようサポートすること。意思決定をするのはあくまでも相談者ご本人であり、「自分自身で道を選んだ」という思いを持っていただくことが大切だと思っています。だから最初から「転職した方がいいですよ」と言うような「誘導」はしないようにしています。

もうひとつ、相手のお話を否定せずに聞くようすごく気をつけています。私は再就職支援にも長く携わってきたのですが、再就職支援の場合は、比較的大きな企業のミドル・シニア層の方々が、会社の組織改革に伴って、自身のキャリアについての見直しをいきなり突き付けられるケースが多いんです。「年功序列の組織で文句も言わず働いてきたのに、ある日突然、自分でこの先のキャリアを考えろと言われても…」とやり切れない思いを抱えています。

そういう方々に対していきなり「時代が変わったのだから、意識を切り替えないと」などと意見を押しつければ、相手は心を閉ざしてしまいます。信頼をしてご相談いただくためには、まずは相手のお話をしっかり聞いて、例え自分と価値観が異なっても、まずは「この方はこう思っているんだな」というのを受け入れる。そのうえで、転機を前向きに生かすために何ができるか、一緒に考えさせていただくようにしています。人の価値観というのは本当にさまざまなので、同じ言葉を伝えても受け取られ方が異なり、難しさを感じることも…。自分自身の胆力みたいなものが試され、鍛えられる仕事だなと思います。

 

――お仕事のどんなところにやりがいを感じますか?

「ありがとうございました」と直接言っていただける仕事なのが、やはりうれしいですよね。相談に来てくださった方が悩みや課題を乗り越えて、笑顔になっていく姿を見ることができ、反応もダイレクトに返ってくるので、張り合いがあります。

思い出深いのが、人材紹介会社の社員時代に担当した20代の男性。転職の相談を受けたのですが、当時、彼はアパレルの営業職で、成績は悪くないのにとても疲れた様子でした。深くお話をうかがってみると、営業の仕事はご本人も好きだし、自信も持っているけれど、「目標数字ありき」の会社の風土がどうにも合わないとのことでした。そこで、商品力のある、少しおっとりした落ち着いた社風のドイツ系医療機器メーカーの営業職を「ここなら、彼の営業力や目標達成意欲は生かしつつ、よりのびのびと活躍していただけるはず」と確信してご紹介したところ、関心を持っていただき、転職が決まりました。

すごく喜んでくださってご入社され、その後はお会いしていなかったのですが、8年ほど経って、会社員時代の後輩が同窓会か何かで地元に帰省した際にたまたまその方と会い、会社名を言ったところ、「鈴木徳子さんって知ってる?」と尋ねられたらしいんですね。「知ってるよ」と答えたら、なんとお財布から私の名刺を取り出して、「すごくお世話になって感謝していて、名刺もまだ持っているんだ」と。それを聞いたときは、うれしくて涙が出そうでした。

ただ、通常は「便りのないのが良い便り」と思っていて、カウンセリング終了時には「もう悩みを抱えてここに来ることがありませんように」と相談者の後ろ姿を見送ります。もっとも、「さらに高いポジションに挑戦してみたい」「新たにこういう仕事をやってみたい」というような次の転機にもう一度相談に来てくださるケースもあるので、それはすごく素敵なことですが。

 

――キャリアカウンセラーとして仕事をするうえで、学生時代にやっておくと役立つことがありましたら、教えていただけますか?

キャリアカウンセラーの仕事では、さまざまな業界や職種を志望する方とお話をすることになりますが、社会人になると、自分が所属する会社や業界以外について知る機会がどうしても限定されてしまいます。その点、就職活動はさまざまな業界や職種をこの目で見るチャンスなので、あまり絞り込まず、できるだけたくさんの企業の話を聞いておくといいのではないでしょうか。

それから、新聞を読むことも大事だと思います。インターネットで情報を得るのもいいのですが、目に入るものが、自分の関心のあるテーマに偏りがちなところがあります。新聞は多様性のある情報をざっと眺められるのがいいところ。広く浅くでもいいので、社会や経済の動向を俯瞰してとらえておくことは、キャリアについて考えるうえでとても大事です。そのために新聞はとても便利なので、学生時代から読む習慣をつけておくといいと思いますよ。

 
※本文は2019年取材時の内容で掲載しております

取材・文/泉 彩子 撮影/鈴木慶子

 
 

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