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2020.03.12

なり方、やりがい…レアなおシゴト図鑑 | Vol.6 テレビカメラマン

世の中にはさまざまなシゴトがあるけど、なかには就職情報サイトではなかなか見つけられないものも…。そんなちょっと意外なシゴトについている社会人を紹介します。

伝えたいものをカメラで捉える
テレビカメラマン

嶌村泰人さん
プロフィール●1969年、栃木県生まれ。1992年文教大学情報学部卒業。92年4月、株式会社インフ入社。アシスタントを経て、テレビカメラマンに。現在はNHK総合の『ダーウィンが来た!生きもの新伝説』やBS プレミアム『ワイルドライフ』など自然系の番組の撮影を担当することが多い。NHKのほか、民放の情報番組やドキュメンタリーなど撮影のジャンルは多岐にわたる。入社10年で国内全県制覇、これまでに仕事で訪れた国はおよそ40カ国にのぼる。
株式会社インフ  https://sites.google.com/site/inf1981index

 

仕事で訪れた国はおよそ40カ国。この仕事をしていなかったら見られなかった景色を見られる

 

――どのようなお仕事をされているんですか?

テレビ局や番組制作会社の依頼を受けてロケーション撮影(機材などをスタジオの外に持ち出して行う撮影のこと)を手がける会社に所属し、映像を撮る仕事をしています。情報番組やドキュメンタリーなどさまざまな番組の撮影をしますが、NHK総合『ダーウィンが来た!生きもの新伝説』、BSプレミアム『ワイルドライフ』など野生動物を撮ることが多いですね。

 

――海外にもロケに?

年に2、3回ぐらいでしょうか。動物の生態や大自然のありようというのは人間がコントロールして撮影するわけにはいかないので、撮りたい画を撮るまでに時間がかかります。1回のロケにつき1カ月くらい家を留守にすることが多いですね。前回はマヌルネコを撮りにモンゴルに行きました。

 

――マヌルネコですか。

モンゴルの大平原に暮らす、毛がモフモフしているネコ科の動物です。マヌルネコの生態はあまり知られていなかったのですが、今回は現地の研究者の協力を得て撮れるということで、冬と夏と秋の3回、モンゴルに行きました。

マヌルネコは無事撮影できましたが、これまでにはいくら待っても目的の動物が現れなかったり、なかなか撮影できなかったことも。例えば、南アフリカにワニを撮りに行ったときのこと。その場所のワニは警戒心が強く、何百メートルも先の川から目だけ出していて、存在は確認できたのですが、カメラを向けると、水中に潜ってしまうんです。近づいて撮影することがまったくできず、かなり苦戦しました。相手が野生動物なので、そういうこともよくあります。

 

――これまでに何カ国くらいで撮影を?

この間数えたら、40カ国ほどでした。

 

――うらやましいです!

よくそう言っていただくのですが、観光はあまりしたことがないんですよ。鳥を撮るために巣の近くにカモフラージュテントを張って、朝から晩まで待っているというような生活なので…。ただ、この仕事をやっていなかったら入れない場所に入れたり、見られなかった景色を見られるのが楽しいですね。

 

――動物はやはりお好きなんですか?

好きというか、撮影中はよく「人間みたいだな」と思って撮っていますね。動物って本当に人間みたいですよ。オスはメスを見たらアピールするし、縄張り争いもするし、子どものためのエサを命がけで捕りに行ったりと人間とやっていることは変わらない。「人間ウォッチング」ではないですが、観察が嫌いだとできない仕事でしょうね。

 

スキルゼロから、4年間の助手時代を経てテレビカメラマンに

 

――テレビカメラマンになったきっかけは?

就職活動の時期に何をやろうかなと考えて、テレビが好きだったので、テレビ関係の仕事をしたいなと思ったんです。で、テレビの仕事をするなら、カメラマンかなと。中学から大学まで写真部でずっとスチール写真(動きのない静止画)を撮っていたので、動くものを撮りたいなあという思いがありました。

志望していたのはテレビの撮影技術会社だけでした。テレビカメラマンになるには、採用は少数ながらテレビ局に入る道もありますが、思いつきませんでした。当時はテレビ業界のこともテレビカメラマンの仕事のことも何も知らなかったので。

「スタジオでドラマやバラエティー番組を撮るというよりは外で撮りたい」と何となく考えていたときに就職情報誌をめくっていたら、金融や商社といった会社に混じって、なぜか撮影技術の会社が掲載されていて。それが今の会社なのですが、「助手時代に先輩に同行してアマゾンに行き、撮影のためにワニのいる川に入りました」という社員の経験談を読んで、「面白いな」と思って面接に行ったんです。筆記試験もなく、2回の面接で就職が決まりました。

 

――学生時代に映像の撮影をした経験は?

大学のゼミで映像を扱っていたので、カメラを触ったことがないわけではありませんでしたが、会社のカメラとはまったく違いましたし、スキルはほぼゼロ。ただ、入社後に助手の期間が4年ほどあったので、カメラの操作方法や撮影の段取りといった基礎的なことはその間に先輩を見ながら覚えました。

 

――助手時代はどんなお仕事を?

その日に使う機材を準備して現場でセッティングしたり、照明を当てたり、三脚をかついだり、出演者のかわりにテストでカメラの前に立ったり、いわゆる雑用です。カメラマンがスムーズに撮影できるよう立ち回らなければいけないのですが、僕は気が利く助手ではなかったので、段取りをわかっていなくてよく叱られました。助手時代は本番に自分で何かを撮ることはありませんでしたが、先輩からよく「ファインダーをのぞいて勉強しなさい」と言われていたので、撮影の邪魔にならないときを見計らってファインダーをのぞかせてもらったりしていましたね。

 

――カメラマンとしての初仕事は?

アトランタオリンピックの体操日本代表チームを密着取材するドキュメンタリーでした。無我夢中でカメラを回している感じでしたね。カメラマンは目の前で起きていることをどう撮るかを瞬間に判断しなければいけませんが、判断に迷うことも多くて、助手時代にもっと先輩の仕事をきちんと見ておくべきだったなと反省しました。

一方で、好きなようにファインダーをのぞき、構図や撮り方を自分で決められるというのは面白いし、カメラマンはやっぱり楽しいんだなと思いました。助手時代は大変なことも多く、「向いてないのかな」と考えたこともありましたが、続けて良かったですね。

 

撮るべき画を撮るだけでなく、その画を生かすための流れを考える

 

――スキルアップのために何か勉強はされていますか?

勉強というほどのことではありませんが、テレビは自分が撮影した番組に限らず、いろいろと見るようにしています。でも、撮影の仕方に意識がいってしまって、実のところ、内容自体はあんまり頭に入ってないんです。かみさんからは「知り合ったころに社会派ドキュメンタリー番組を真剣な表情で見ているから真面目な人なんだなと思ったら、まったく違った」とよくからかわれます(笑)。

自分が撮影した番組については、ほとんど見てますね。「あのカットは使われなかったな」とか「このカットは編集でこういう使い方をするのか」とチェックしておいて、次に反映するようにしています。

 

――テレビカメラマンのお仕事で大切なことは?

撮らなければいけない画をきちんと撮ることでしょうか。カメラマンがどんなに撮りたいと思う画を撮っても、それがディレクターの意図に合わなければ、番組にはなりません。ディレクターの意図を理解したうえで、見る人に伝えたいものをカメラで捉えるのがテレビカメラマンの仕事だと思います。また、映像には流れがあるので、ディレクターに指示された画を撮りつつ、その画をうまく生かすにはどういう流れでどういう画を撮ればいいのかをきちんと考えて撮ることが大切です。

 

――テレビカメラマンに向いているのはどんな人だと思われますか?

「柔軟な人」かもしれないですね。撮影現場ではハプニングもしょっちゅう起きますし、計画通りには行かないこともたくさんあります。そういうときに臨機応変に対応できる人、「何とかなるだろう」と前向きに考えてやるべきことをやれる人が向いているんじゃないかな。あとはやはり、映像が好きな人ですね。

 

――最後に、学生にメッセージをお願いします。

僕はテレビがすごく好きでしたが、特に動物好きというわけでも、アウトドア派というわけではありませんでした。でも、たまたま出合った会社で、任された仕事を一つひとつしていたら、民放のある動物番組で撮らせてもらうようになって。その経験があって今も自然番組を担当することが多くなり、気がついたら、普通はなかなか見られない動物や景色を撮影する機会に恵まれるようになっていました。野望があって自分から仕掛けていくというよりは、「来るもの拒まず」で仕事をしていくうちに縁をつないで、今があるという感じです。だから、えらそうなことは何も言えないですけど、積み重ねは大事かもしれないなって思いますね。

※本文は2018年取材時の内容で掲載しております
 

取材・文/泉 彩子

 

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