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2025.12.12

離職率年間30%超の経営課題に向き合う!スイーツメーカー・DAY TO LIFEの「キャリア教育」を中心に置いた人事制度改革

【個人と組織の新たなつながり方】Vol.18 株式会社 DAY TO LIFE

 
シュークリーム専門店「ビアードパパ」を中心に、スイーツブランドを展開している株式会社DAY TO LIFE。「日本でいちばん“ひと”が育つ会社」をコーポレートビジョンに掲げ、2020年より人事制度改革を進めてきました。キャリア教育の一環として実施している産学連携インターンシップでは、2023年に「第6回 学生が選ぶキャリアデザインプログラムアワード」大賞を受賞。2025年にも同アワードで優秀賞を受賞しています。
人事制度設計からインターンシップの企画・運営まで、DAY TO LIFEが抜本的な改革に取り組んだ背景は何だったのか。どのような課題に向き合い、どんな仕組みを整えていったのか、DAY TO LIFE人事部部長を務めた上田勝幸さん(2025年10月より株式会社永谷園グループ戦略人事担当部長)に話をうかがいました。

 

株式会社永谷園 人事部長
株式会社永谷園ホールディングス
経営戦略本部 グループ戦略人事担当部長
上田 勝幸 さん

※2025年9月まで下記所属
株式会社 DAY TO LIFEホールディングス/株式会社 DAY TO LIFE
執行役員 経営管理本部 本部長
経営企画室 室長
人事部 部長

 

※記事は、2025年9月に取材した内容で掲載しております。
 

【Company Profile】

1997年創業。主力ブランドであるシュークリーム専門店「ビアードパパ」をはじめとしたスイーツブランドを、国内288店舗、海外221店舗(10カ国2地域)で展開している。2023年に人材教育の強化などの観点から、株式会社麦の穂をDAY TO LIFEへと社名変更。新ビジョンに『スイーツから、「よりよく生きる」を世界へ。』を掲げている。

 

「この会社では未来が見えない」。厳しい声から見えたのは、キャリア教育への課題感

 
―2021年から椙山女学園大学との産学連携インターンシップを進め、その取り組みが注目されています。そもそもキャリア教育に注力するようになった背景には、どのような組織課題があったのでしょうか

DAY TO LIFEでは、2017年から抜本的な人事制度改革に取り組んできました。「日本でいちばん“ひと”が育つ会社」を目指そうと、従業員のキャリア教育を中心に置いた人事評価制度や、産学連携インターンシップの実施、社内研修制度の整備などを進めています。

改革以前の2019年当時、組織課題は挙げればきりがないほどでした。離職率は年間で30%超、店頭販売を担う営業部に至っては約40%でした。スイーツカンパニーという事業特性上、当社では女性の従業員が多く働いていますが、結婚や出産のタイミングで次々と退職してしまう。つまり、「この会社では、仕事と家庭の両立は無理」と思われていたのです。

2013年度以降行っていた従業員満足度調査では、2019年度に過去最低を記録してしまいました。「会社は社員教育に力を入れていると思うか」「将来仕事と家庭と両立しながら働くことを想像できるか」の質問項目では、100ポイント中30ポイント台と特に低かった。労働力人口が激減していく中、このままでは大変なことになるという危機感がありました。

 
―課題が山積していた状況から、人事制度改革を進めるにあたり何から取り組んでいったのでしょうか

当社がまず行ったことは、退職希望者から徹底的に話を聞くことでした。
厳しい言葉はたくさんありました。「上司からのフィードバックがない」「教育されている実感がない」などのマネジメントへの不満、「どうしたらキャリアアップできるのかがわからない」「上のポストは中途入社者で埋まってしまって頑張りようがない」など人事制度に対する不満…。すべての意見に共通する、もっとも多い声は「この会社では、未来が見えない」というものでした。

「将来のキャリアが見えない」「やりたいことができない」という声に対して、では個々人はどんなキャリアを描いているのか、どんな仕事や経験を積むことができれば、当社で働き続けたいと思えるのか。さらにヒアリングを重ねてわかったことは、会社の評価制度や教育体制にも責任がある一方で、一人ひとりが自身のキャリアについてどれくらい考えてきたかという点にも課題があるのではないか、ということでした。

当社に入ってくるときには、「大好きなスイーツを扱いたい」「接客がしたい」と希望してくる方が多いのですが、実際に店頭で立ち仕事を続けていくと、どんな仕事もそうであるように、大変なことやしんどいことが出てきます。この経験を通じていずれはこんな業務に挑戦したい、と中長期でキャリアデザインを描けていればいいのですが、その先のイメージが曖昧なままでは、「接客は思ったより大変だったな。もっと楽そうな仕事がいいな」などと、隣の芝生が青く見えてきてしまいます。

一人ひとりが“自分のキャリアを自分で描く力”を身につけなければ、制度をどんなに充実させても同じことが繰り返されるのではないか。そこで、当社が進めるべき人事制度改革は「キャリア教育」をベースにしたものでなければいけない、と考えたのです。改革の中心にキャリア教育を据え、評価制度や福利厚生などの整備、研修などを紐づけていくよう、設計を進めていきました。

 

DAY TO LIFE社の人事制度体系

 
―人事制度改革を進めるうえで、どのような問題意識があったのでしょうか

人がどんどん辞めていく会社は果たして生き残っていけるのか、という疑問です。私は新卒で銀行に入行後、ベンチャーの経営企画や上場企業の財務に関わってきました。これまでの仕事を通して、「いい会社」とはどういう会社なんだろう…と考えてきました。当社にも2015年に経営企画室長としてDAY TO LIFEに入社し、入社当初はキャッシュフローの高いビジネスモデルを考える役割を担っていました。ですが、当社は人事にこそ課題があると考え、手を挙げて人事制度改革プロジェクトを立ち上げました。

 
―人事のバックグラウンドがないなかで、どのように人事制度改革に取り組んだのでしょうか。

体系的な知識をベースにすることに努めました。私自身も、国家資格であるキャリアコンサルタントと、2級キャリアコンサルティング技能士の資格を取得しました。多様性が広がる今、自分の経験や考え方だけで人事政策やキャリア教育を考えるのは無理があります。現在も1級キャリアコンサルティング技能士の試験に向けて勉強を続けています。

 

キャリアパス制度の構築から社名変更まで、一貫したメッセージ発信にこだわった

 
―キャリア教育の一環として、産学連携インターンシップを進めてきたのには、どんな理由や意図がありましたか

従業員の“キャリアを描く力”を高めるために、学生から社会人まで地続きの、共通した考え方をベースにすることが大切だと考えました。社会人になって仕事の理解が深まれば自己理解も深まり、自分が目指したいキャリアが見えてくるものです。この理解のプロセスを大学生の段階でいかに深められるかで、初職の選択が変わり、自分で選んだ仕事への取り組み方も変わってくるでしょう。
 
大学のキャリア教育が重要であるからこそ、その延長線上に、DAY TO LIFEのキャリア教育があるような形を作りたかった。そこで2021年のインターンシップから、女性のキャリア支援に力を入れている椙山女学園大学との連携を進め、以降、京都産業大学、福山大学、同志社女子大学など複数の大学との連携が広がっています。産学連携にすることで、私がいなくなっても、たとえ経営者が変わったとしても、揺るぎない教育基盤ができるだろう、という思いもありました。

 
―キャリア教育を中心に据えた人事制度改革の具体的な内容についても教えてください

独自のキャリアパス制度「DAY TO LIFE Global Career Path」とキャリア面談を2020年度よりスタートさせたほか、タレントマネジメントシステムの導入や、それまで社内イベントなどに使っていた福利厚生資金を社員の“成長”に集中させる自己啓発支援制度を構築しました。

「DAY TO LIFE Global Career Path」では、従業員一人ひとりが、「自己のキャリアプラン」を自己申請し、その実現に向けた努力や行動をデータベース化。人事評価に反映され、ジョブローテーション制度により希望部署への異動につながっていく、という仕組みを作りました。選べるキャリアコースも多様になり、店長からマネージャー、部長へと昇進していくマネジメントコースのほかに、一職種に特化したスペシャリストコース、フランチャイズ店のオーナーを目指す独立支援コースも設けています。

2023年に、麦の穂からDAY TO LIFEへと社名変更したのも、人事制度から企業理念、新たなビジョンである「日本でいちばん“ひと”が育つ会社」との一貫性が欠かせないと考えたからです。どこを切り取っても同じ思いが伝わるように、一日一日の積み重ねがより良い人生になっていく、ということを社名で表現しています。

 
―これらの取り組みの成果は、どう表れていますか。また、これからの挑戦についてもお聞かせください

産学連携インターンシップの影響も大きく、課題だった離職率は2024年度には15.9%に減少しました。同年度の従業員満足度調査は、調査開始から12年間で過去最高の数値を更新。改革前との比較で見ると、「会社は社員教育に力を入れていると思うか」の質問項目では33.2ポイント向上しています。「昇給や昇格の機会は適切に設けられていると思うか」では27.6ポイント、「上司から充分なフィードバック面談があったか」では24.7ポイント向上するなど、やってきたことが着実に数字に表れているな、と感じています。

ただ、“人”に向き合う取り組みや仕組みは、「作って終わり」では決してありません。継続し、より良く変えながら動いていくことが大事です。産学連携共同研究や新たなキャリアアワードへの挑戦など、これからも変わらず続けていきたいと思っています。

 

後編では、DAY TO LIFEのキャリア教育の軸となる産学連携インターンシップ「10日間の超実践的職業体験プログラム」の具体的な内容や、その狙いについてうかがいました。

 

取材・文/田中 瑠子

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