これからの「働く」を考える Vol.25
2024年1月と5月、LINEヤフーコミュニケーションズの呼びかけにより、福岡に本社を置く企業が共働して就活支援イベント「九州ジョブフェス」を開催しました。若者の地方離れを食い止めるだけでなく、学生が就職活動に対して抱く悩みを解決するための手助けをする狙いは、どのような効果を生んだのでしょうか。LINEヤフーコミュニケーションズ採用推進部新卒採用パートの頴川将貴さんにお話をうかがいました。
LINEヤフーコミュニケーションズ株式会社
採用推進部新卒採用パート
頴川 将貴(えがわまさたか)さん
【Profile】
鹿児島県出身。2013年に福岡県内の大学を卒業。前職では小売業界で熊本・佐賀・宮崎で店長およびスーパーバイザーを経験。2018年に東京本社へ異動し、人事部門にて採用・労務業務を担当後、マーケティング部門に配属。2022年に福岡県に本社を置くLINEヤフーコミュニケーションズへUターン入社。現在は新卒採用、新入社員研修、採用広報イベント企画を担当。
【九州ジョブフェス】
2024年1月20日(土)、2025年卒の学生を対象として、本社を福岡に置く6社が共同で開催した就職活動支援イベント。参画企業は、LINEヤフーコミュニケーションズ株式会社、株式会社麻生、西日本鉄道株式会社、福岡ソフトバンクホークス株式会社、九州朝日放送株式会社、株式会社西日本新聞社。プログラムは、(1)会社別説明会、(2)面接に役立つ!アナウンサー直伝「伝え方講座」、(3)自分の強みを見つけ、エントリーシート作成に役立つ!現役採用担当者と元記者による「自己分析ワークショップ&ライティング講座」、(4)各社新入社員や活躍する現場社員との座談会、(5)パネルディスカッション。LINEヤフーコミュニケーションズのオフィスを会場として、九州を中心に、大阪、東京、さらには韓国など国内外から約200人の学生が参加した。2024年5月18日には7社共働による第二弾を実施した(記事中の写真はすべて1月開催時のもの)。
【Company Profile】
LINEヤフーコミュニケーションズ株式会社
LINEヤフーが展開するサービスの運営・テスト・カスタマーサポート・クリエイティブ・事業企画などを中心に事業を展開。福岡県福岡市に本社を置いている。
―――「九州ジョブフェス」を企画された経緯をお聞かせください。
九州で採用活動を行うなかで、企業や大学関係者の方から「学生が九州から離れていってしまう」という悩みが寄せられていました。一方、学生側も、就職活動が早期化することによって、十分に準備できないタイミングで膨大な情報や自分のキャリアと向き合い、“就職活動”という波に乗っていかなければならない状況にありました。企業と学生、双方の悩みを解決に導くことができればと考えたのが、この企画を立案したきっかけでした。
企画のヒントとなったのは、大学関係者から寄せられた「面接講座やエントリーシート作成講座を開いてはいるものの、今一つ学生に刺さっていない」という声でした。その原因を掘り下げていくと、そもそも学生が自分の「軸」を作れていないことに行きつきました。そこで、「自分の軸を作ろう」というところに特化して学生をサポートすることが、効果的なのではないかという仮説を立てました。今回、協働いただいた企業の新卒採用担当者に相談したところ、皆さんこぞってその方向性に共感を示してくださいました。
実は協業いただいた企業の中には、私と同年代の方が多く、同じ年度に就職活動を経験した「同期」もいました。そのため、「我々の時代の就活と、どこが違うんだろう?」という視点から議論することができたのです。その結果、今の就活は、格段に情報量が多くなっているうえ、多様性と自由度が広がっているという背景を共有できました。我々の頃は、良くも悪くも目指す方向が一致していたので、その先に「自分の幸せ」がイメージできる感覚がありました。しかし、今は各自が「自分の幸せって何だろう?」と、自分の望む方向性を自問するところからスタートしなければならない。あらためて「やはり重要なのは自分のキャリアが目指す方向性=『軸』なのだ」という共通認識を確認したうえで、イベントを企画することとなりました。
―――具体的にどのような狙いをもとに、イベントを構成されたのでしょうか?
学生が自分の軸を定めることができるようにサポートしようという観点に立ち、各社がそれぞれの強みを活かせるプログラムを考えました。「自己分析&ライティング講座」では、まず、当社が自己分析のワークショップを担当し、参加者に自分の「軸」探しを体験してもらいました。
次に、西日本新聞の元記者がよくある自己PRの例文を公開添削しました。九州朝日放送の現役アナウンサーによる「伝え方講座」なども同様で、複数の企業が得意分野のリソースを出し合うコラボ企画の良さを活かしました。
また、今の就活では、企業の採用ページや多くの就活サイトで言語による情報は非常に多く得られますが、身体で触れる機会、体験する場は意外と少ない。そのような機会を提供したいという思いもありました。そこで、受け身の姿勢で講義を受けるだけのセミナー形式ではなく、学生自身が能動的に取り組める仕掛けを考えました。先述した「自己分析&ライティング講座」では、フレークワークを使って実際に自己分析をしてもらったり、学生同士でお互いの自己PR文をレビューするワークショップ形式を取り入れました。「伝え方講座」でも、隣に座る学生同士で面接の練習を行ったり、各社の社員による模擬面接を受けるなど、実際に「体験」できることに重きを置きました。
運営もイベント会社には任せずに、参画企業の社員がスタッフとなって行いました。イベント当日は、全員「スーツ禁止」。法被やTシャツなど、各社のカラーを打ち出した服装としたのも、従来の合同企業説明会とは違う手作り感を大事にしたかったという思いからでした。
LINEヤフーコミュニケーションズの採用担当者によるフレームワークを使った自分の「軸」探しや、西日本新聞の元記者による自己PR文添削で得た学びを活かして、学生同士がお互いの自己PRをレビューし合った「自己分析&ライティング講座」。
九州朝日放送による「アナウンサー直伝!伝え方講座」では、スポーツ実況担当の田上和延アナウンサーが面接のコツを伝授した。
オレンジ色のストラップとネームプレートがジョブフェス参画企業の社員である目印。さらに、各社のカラーを打ち出した服装によって、一目でどの企業の社員か分かるよう工夫した。
―――参加した学生からは、どのような反応がありましたか?
1月の第一回ジョブフェスは、大変な盛況となりました。参加した約200名の学生のうち、100名以上の学生が、朝から来場して、最後の各社採用担当者によるパネルディスカッションまで会場に残っていたほどです。第二回目のジョブフェスで特に人気があったのが、「自己分析講座」で、参加希望者がブースに入りきれなくなったため、急遽ブースを増やして対応しました。
また、今回、学生から寄せられた声に、「企業の人に気軽に声をかけられた」というものが多くありました。合同企業説明会だと、各社のブースに行かないとその企業の社員に会えませんが、このジョブフェスでは、休憩所にふらっと寄った社員に気軽に声がかけられる。非常にカジュアルな形で企業の社員と出会える機会となったことが好評でした。
また、「ブースが足りないから、増やしましょう!」と、その場の状況に応じて我々がバタバタと対応している様子を間近で見せることで、学生に「仕事のリアル」を体感してもらうこともできました。若手社員だけでなく、各社のベテラン社員、それこそ部長クラスの方が、汗をかいて走り回りながら、一スタッフとしてイベントを成功させようとしている。そういった姿から、おのずと伝わるものがあったのだと思います。
学生からは、「就活迷子になっていたのですが、これからどう歩いていけばいいのか分かりました」という声も多く寄せられ、学生が、自分の軸や方向性を見つけられるように働きかけるという当初の狙いは達成できたのではないかと思います。
カフェスペースで行われた各社社員と学生との座談会では、各社社員と参加者たちが、車座となってざっくばらんなやりとりを繰り広げた。
会場のそこかしこで、学生が各社の社員と気軽に立ち話をする光景が見られた。
最後に行われたパネルディスカッション。スタート時からパネルディスカッションまで会場に居続けた学生が100名以上にのぼった。
―――開催側として、どのような気づきや収穫がありましたか?
参画した企業からは、「採用という目の前の目標に忙殺されてしまっていたけれど、学生と直に触れ合うことで、学生に学ぶ機会を提供することや、同時に自分たち企業側もともに学ぶことの重要性をあらためて認識した」という声が聞かれました。
また、「企画職に就きたい」という目的意識で当社(LINEヤフーコミュニケーションズ)に興味を持って参加した学生が、麻生の社員と対話したことで、「コンサルティング会社での企画職も面白そうだな」と思ったり、逆にコンサルティング業界志望で参加した学生が、九州朝日放送の社員と接したことで、「テレビ業界にもコンサルティングの要素があるな」と気づくなど、コラボ企画ならではの「偶然の出会い」によって、視野や機会が広がったことも、企業と学生、双方にとって好ましい効果だったといえるでしょう。
加えて、必ずしも成績が良いと思われている学生が明確なキャリア観を醸成できているわけではない、という気づきも得られました。学力とキャリアの軸が定まっているかは別の問題であり、多くの学生さんがジョブフェスのようなイベントを必要としているという現実が見えてきました。このような働きかけが、すべての学生に有益なことを実感する結果となりました。
―――今後は、どのような展開をお考えでしょうか?
第二回目はインターンシップを目前としたタイミングだったためか、「エントリーシートどうする?」「面接どうする?」という学生側のニーズが高く、ともすれば「スキルセット」を提供しているかのような伝わり方となっていた側面が否めません。今後は、原点に立ち返って、あくまでも「マインドセット」としての自己分析ができるようにサポートしていきたいです。方向性を考えるのは学生本人であって、我々は「自分の幸せや自分のキャリアを考えることの楽しさ」を伝えていくことが大切だと考えています。
また、大学関係者の方々との対話から、「企業が学生に何を求めているのかが分からない」という声も多く聞かれます。大学での学びが、企業でどう活きるのかが、うまく接続できないという悩みです。そうした相談を受けて、大学関係者とさらに対話を進める中で、大学が学生に向けて就活のためのワークショップなどを開いても、学生の中で、映画を一本観終わったような満足感を得るだけにとどまっているのではないかという気づきがありました。「今一つ、学生にしみ込んでいない」と言うのです。
その気づきから、敢えて「消化不良」の状態を目的にしようという試みを、すでにはじめています。学生たちのアウトプットに対して、こちらからは抽象的な指摘をするにとどめ、あくまでも学生たちに、とことん自分の頭で考えることを求めるのです。学生たちを安易に「満足」させないために、敢えて5段階評価で「満足度3以下」という目標を立てたところ、実際に学生たちから得られた評価も2.5と、目標を達成。その一方で、「このワークを人に薦めたいですか?」という「推奨度」は4.0になりました。このように、形だけの満足感では終わらせない、真の意味での学びのある体験の機会を提供するために、大学との連携にも力を入れていきたいと考えています。
―――九州で働く楽しさ、地方で働く意義をお聞かせください。
一言で言うと、「余白の多さ」でしょうか。私自身、もともとは福岡県、宮崎県、佐賀県と、九州全域で働いた後に、首都圏に異動した経験があるのですが、首都圏だと、事業規模も大きくて、動かす金額も桁違いに大きい一方で、どうしても企業の看板を背負って仕事しているというところがありました。自分自身が仕事を通じて世の中に影響を与えているという実感は、正直減ってしまったのです。その点、九州での仕事には、自分が動くことで影響を与えられる「余白」がたくさんありました。今も、企業ではなく自分が個人として関わり、街、ひいては世の中を動かしている実感もあります。規模が小さい分、リーダーシップを発揮しやすい環境になり、ダイレクトに反応が返ってきたり、効果が目に見えたりするのも、地方ならではの強みだと感じました。加えて、ごくごくシンプルなところで、働いた成果を地元に還元できるという点も挙げられます。
また、地方の魅力というと、どうしても「自然が豊か」「物価が安い」といった、東京や大阪といった大都会との比較に落ち着きがちなのですが、そういうことをアピールしても、実はあまり学生には刺さっていない。ジョブフェスで我々と接した学生から、「『働く場所は東京しかない。どうせ九州では大したことはできないだろう』と思っていたけれど、ジョブフェスで社員さんたちと話してみると、皆さんとても仕事が面白そうだった。九州で働くことも魅力的に思えてきた」という声を引き出せました。地方の会社で働く魅力は、言葉ではなく九州ジョブフェスなどのイベントを通して実際に体感してもらうことが学生さんに一番伝わるのかな?と感じています。
―――学生や企業へのメッセージをお願いします。
学生の皆さんは、就職活動の早期化によって、準備が整わない状態で臨まなければならないという厳しい現実を認識することからスタートしなければなりません。これは、これまで頑張ってきた学業や部活・サークル活動などとは比較にならないほどに難しい取り組みです。だからこそ、我々は、後悔のないように自分のキャリアを選んでほしいと考えています。そこで、就職活動の準備段階として、やはり自己分析、つまり自分と向き合うことを、まず最初に行うことが大事だと捉えていただきたいですね。九州での就職に興味ある方は、ぜひジョブフェスに遊びに来ていただきたいです。
また、同じように九州の企業で新卒採用を担当する方々に対しては、ぜひとも協働を呼び掛けたいと思います。昨今の新卒採用の状況は、学生の多様化や、企業の人事セクションの人的リソース不足など、なかなか厳しいというのが現状です。だからこそ、同じ志を持った企業がお互いのリソースを掛け合わせ、強みを出し合うことで、一社単独では実現できなかった効果的な採用活動が可能になると思います。そうして、地元企業が一丸となって九州で働く面白さや魅力を学生に伝えることで、若い人たちが九州で、新たな価値を地域に創出してくれるはずです。
その根本にあるのが新卒採用であることを共通認識として共感いただき、一企業としての採用成功にとどまらず、一緒に地域全体の盛り上げへとつなげていけたら嬉しいです。
九州だけでなく、ほかの地方でも、我々と同じような課題を抱えている企業は少なくないことでしょう。いずれも、地域を盛り上げたいという思いは同じだと思います。企業同士のコラボレーションや、大学との連携など、当社事例の中に役立てていただけるものがあれば幸いです。
取材・文/日笠由紀