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2022.03.29

【愛媛Food Camp】改善を重ね、よりよいものを生み出す。研究・実験に通じる商品開発プロセスを学んだ

これからの「働く」を考える Vol.12

愛媛大学農学部と愛媛県内の食品関連企業との産学連携による新たなインターンシッププログラム「愛媛Food Camp」が2021年4月にスタートしました。「愛媛県の地方創生を食品業界がリードする」という実践型インターンシッププラットフォーム「愛媛Food Camp」は、学生のどんな学びにつながっているのでしょうか。

株式会社中温様でのインターンシップに参加した、愛媛大学農学部生命機能学科3年の辻岡芽依さんに、プログラムを通して得た学び、見えてきた今後の目標についてお話をうかがいました。

 

愛媛大学農学部生命機能学科3年
辻岡芽依(つじおか・めい)さん


※記事は、2022年3月11日にオンライン取材した内容で掲載しております。

【Profile】

愛媛県松山市出身。高校時代に食生活の改善で体調が良くなった経験があり、食と健康のかかわりに関心を持っていた。「食を通じて社会の役に立てたら」と機能性表示食品の研究開発に携われる愛媛大学農学部に進学。食品メーカーでの業務内容に興味を持ち、実態を知りたいと愛媛Food Campへの参加を決めた。

 

発信力と計画性の弱さを克服したいと考えた

 

――――愛媛Food Campではまず、自分のキャリアについての棚卸しを行います。辻岡さんは自分自身の強みや弱みをどのように分析し、愛媛Food Campでの目標設定に結びつけましたか
 
文具店でのアルバイト経験から、責任感の強さが一つの特性だと分析しました。お客様への電話対応や店頭での接客では、相手が何を求めているのかを会話の中で引き出す力を鍛えられ、社会人としての正しい言葉づかいも学びました。また、一度決めたことをやり遂げる力も、私の強みだと思っています。大学1年時には愛媛マラソン(42.195㎞)に初挑戦し、途中、何度も歩きたくなりながらも、最後まで走り続けて完走。自分の中にあった粘り強さに気付かされました。
 
一方の弱みとしては、人前で発言することや、臨機応変に対応することが苦手だと感じています。大学では写真部に所属し、オンラインでの部会進行などをリードする立場でしたが、参加メンバーによって発信内容を変えるなど、状況に応じて動くことがなかなかできませんでした。「ちゃんと伝わっているのかな」と自信がなくなり、さらに発言力が弱くなってしまう…と悪循環に陥っていました。また、スケジュール管理が苦手で、行き当たりばったりで行動してしまう面もあると感じていました。愛媛Food Campでは、「自分が伝えたいことを相手にきちんと伝え切る」「スケジュールを立て計画的に実行する」ことを目標に定め活動をスタートさせました。
 

辻岡さんの自己分析シート



 

レシピ考案から試作品づくりまで、自ら調べ進めていった

 

――――愛媛Food Campでの具体的な活動内容を教えてください
 
プロジェクトに参加させていただいた中温さんからは、「自社商材を使った、いままでにない新しい商品を開発してほしい」という課題をいただきました。
 
中温さんは、農産物加工品をシャトレーゼやラポールなどの食品メーカーに提供しているBtoB企業です。商品開発案を考えるにあたり工場見学・取引先のラポール持田店やシャトレーゼ松山西店への市場調査を進め、モンブランなどに使われる「栗ペースト」に着目しました。中温さんの栗ペーストは、取引先ニーズに合わせて栗の種類や硬さなどを調整し、素材の味を活かした自然な甘さになっています。ほかにも、栗の甘露煮や栗のダイスカットなどを活用したいと考え、「栗ときな粉のガトーショコラ」を提案。レシピ考案から試作品づくり、社員の方や取引先のラポール持田店さんを対象とした試食会まで実施し、具体的なフィードバックをいただくことができました。
 
――――実際に、商品を開発するというプロセスの中でどんな気づきがありましたか
 
レシピをゼロから考えるという初めての経験では、自分で調べ自分なりの考えを持って提案する大切さを学びました。オンラインコミュニケーションで直接相談できない不安もありましたが、提案した内容に対して社員の方がすぐに返信してくださり、「もっとこうしては?」と具体的なフィードバックをいただけました。
 
試作品づくりでは、コロナ禍の影響で「食べてもらう」ことが気軽にできず、正解が分からない手探り状態が続きました。思っていたような食感や甘さが出なければ、その都度、状況を説明して社員の方に相談。意見をいただき改善を繰り返しました。
 
最終的に試食いただいた際は、味や食感に関する感想をたくさんいただいたほか、販売に適したサイズ感や価格設定、原価とのバランスなど、“商品”として考えるべきポイントの指摘も受けました。私は味を整えることに必死で、ビジネスとして成り立つかという視点まで広げて考えていませんでした。「店頭に並ぶとしたら」という観点が足りなかったなと、商品化の難しさを痛感しました。
 

中温の社内での試食会に向けて作業する様子。「それまでは自宅で、中温さんに送っていただいた商材を使って試行錯誤していました。社員の方々に初めて食べていただくので緊張しましたが、自宅での製作で気づいた改善点を直しつつ、社内でもスムーズに試作品づくりをすることができました」(辻岡さん)


 

辻岡さんの作った「栗ときな粉のガトーショコラ」。実際の商品開発と同様、香り、味、色調、食感の4つの項目を5段階で評価する官能評価が行われた。「トッピングにも、栗のペーストを混ぜたのですが、なかなか思い通りの柔らかさにならず配合に苦労しました」(辻岡さん)

 

メール対応やスケジュール管理の基本も教えていただいた

 
――――参加前に目標にされていた「自信を持って意見を伝える」「計画的に行動する」点について、どれくらい達成できたと思いますか
 
中温さんとのやり取りでは、「メールをすぐに返信しよう」「相手に伝わりやすい、丁寧な言葉を心がけよう」など、社会人として基本となるコミュニケーション方法についても、多くの指摘をいただきました。とくに、オンラインでのやりとりが多かったので、知りたいこと・聞きたいことをしっかりと言語化することは、とても鍛えられたと思っています。
 
社員の方からは、スケジュール帳を見せていただく機会もあり、ぱっと見て予定ややるべきことが目に入る分かりやすさに驚きました。色分けして自分なりに重要な点を書き分けていて、「こんな風にマルチタスクを管理するんだな」と具体的に知ることができました。皆さんとてもフランクに接してくれ、ビジネスマナーの基本の“き”まで教えてくださり、本当に感謝しています。
 
――――今後どのようなことを目指していきたいと考えていますか
 
愛媛Food Campの試作品づくりでは、分量や配合、焼く温度など条件を変えながら試作を繰り返し、味を整えていきました。成果が出るとは限らない中で改善を重ねていくのは、研究開発と共通しています。愛媛Food Campを通じて得た忍耐強さを、大学での研究や実験にもぜひ活かしていきたいです。
 
今回の取り組みでは商品化まではいけませんでしたが、商品開発の導入部分を経験でき、楽しさや魅力を改めて感じることができました。自分が手掛けた商品がお店に並び、お客様においしく食べていただけたら、すごくうれしいだろうな…とイメージしやすくなり、将来は商品づくりに携わりたいという思いが強まりました。
 
夢に近づけるように、これからは、研究をする上で必要な論文を読み解く力、課題は何かを見抜き解決していく力を身につけ、磨きをかけていきたいです。
 
 

【指導教員の視点から】

愛媛大学大学院農学研究科生命機能学専攻教授
菅原卓也さん


 
期限を守って開発を進める―。社員から学んだ働く上での基本のマナーを、研究にも活かしてほしい
 
コロナ禍で対面でのやりとりが難しい中、レシピ考案から試作品づくりまで進めるのはとても大変だったと思います。しかし、責任感の強い辻岡さんは、中温さんからの厳しい要求や指摘を、しっかりと自分の学びにつなげていました。
 
中温さんは、商品開発の進め方以外にも、「メールには素早く返信をしましょう」「期限までに提出しましょう」「スケジュール管理をきちんと進めましょう」といった、社会人としての基本のマナーもきちんと教えてくれる企業でした。当研究室でも、企業との共同研究が多いことから、「このデータは〇日までに出さなければいけない」などシビアなリミットが設けられています。自分たちだけの都合ではなく、約束通りに研究を進め、求められたレベルのものを提出する。働く上で、また社会人として基本となるとても大事なことを、愛媛Food Campで身に染みて学べたのではないかと思っています。
 
これから、研究活動は本格化していきます。研究もグループで進めるものですので、愛媛Food Campで学んだ、周りと連携する姿勢を、ぜひ発揮してほしいと期待しています。
 

 

取材・文/田中瑠子

 

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