京都に、世界に通じるものづくりと社員の働き方改革が高く評価されている中小企業があります。多くの大手企業、大学等の研究機関から信頼を獲得しながら事業を拡大し、約5年で従業員数を2倍に増やした百年企業に、躍進(ひやく)の理由を伺いました。
【いま、新卒採用に注力する理由】
Vol.12 二九精密機械工業株式会社(精密機械部品製造)
代表取締役社長 二九良三さん(写真)
専務執行役員 大川智司さん
※記事は、2021年1月19日にオンライン取材した内容で掲載しております。
【Company Profile】
1917年創業。世界で初めて商品化に成功したβチタンパイプの加工をはじめ、加工難易度の高い素材の精密機械加工部品を、医療機器や半導体製造装置など、さまざまな分野に提供している。 2020年に経済産業省「グローバルニッチトップ企業100選」選定。専門性の高い技術者が、大学研究室、大手メーカーの依頼による技術開発から製造・販売まで行っている。従業員数206名 (2021年3月時点)。京都市周辺で開発・設計・製造を行うほか、東京とフランクフルト(ドイツ)に営業拠点を構えている。2021年に「健康経営優良法人2021 ブライト500」に認定されるなど、従業員の働き方改革への評価も高い。
研究開発・設計に注力し、新しい価値を創っていく
大川さん:二九(ふたく)精密機械工業は、2021年で設立105年目を迎えるものづくり企業です。ステンレス、βチタン、Niチタン、コバルト合金など、加工が難しい金属材料の精密加工技術を保有しています。当社の事業は過去、受託加工(取引先が決めた設計や仕様に沿って行う加工)が中心だったのですが、現社長の二九が就任した2009年から、シフトチェンジし始めました。いま、私たちが提供している精密加工部品は、技術開発や設計の段階から手がけたものが多くなっています。医療向けをはじめ、さまざまな精密機械に使用されています。国内外で高いシェアを持つものもあります。
二九さん:受託加工の仕事は、顧客から「いいものを、短い納期で、安く」納入することが期待されます。会社経営の観点からすれば、いい製品を「安く」提供していては、社員を安心して雇用できませんし、会社の成長にもつながりません。そこで、顧客の技術相談に応じながら、微細加⼯技術の開発から設計、製造まで担うことで、新しい価値をつくり出していくことにしました。
当社は、技術開発・設計段階から顧客と対話を重ね、顧客の想いを形にしていくものづくりに注力していくことで、唯一無二の精密機械部品メーカーになろうとしています。技術開発に注力し始めた当初は、売上の95%が受託加工による売上、5%が技術開発・設計から手がけた案件による売上という状況でしたが、年々、技術開発・設計の売上比率が伸びてきています。
ものづくりの姿勢に共感した社員が集まる
二九さん:βチタン極細パイプ加工技術をはじめとする、当社の精密金属加工の技術は、これがなくては機械の性能が発揮できないといった、重要部品の製造に用いられます。人の身体に例えれば、心臓などの重要な器官にあたりますから、高い品質・耐久性・安全性が求められます。当社はこうした難易度の高い部品の開発・設計・製造のための技術にこだわりがあり、顧客と同じ概念を共有できる人材を必要としています。
大川さん:二九精密機械工業の技術に共感してくれた社員に入社してもらい、2015~2020年の間に、当社の従業員数はほぼ2倍になりました。この間、新卒社員55人、中途社員45人を採用しています。
新卒採用では、工学系の研究室で当社を紹介していただくなど、精密機械加工技術に関わる教育機関の紹介で接点を持つことが多いのですが、大学の求人や当社のWebサイトを見て応募してくれる人もいますね。新卒入社社員には、7月中旬の正式配属まで、座学の集合研修や工場見学にじっくり取り組んでから、現場実習に入ってもらいます。京都市周辺の工場で複数のグループに分かれて実習を続けながら、毎週金曜日の終業前2時間に、同期で集まって集合研修を実施。社内の熟練技術者の指導を通して、品質管理や品質分析の方法などを学ぶ集合研修は、正式配属までに14回ほどあります。社長はじめ経営陣との懇親会や、同期入社同士の対話の場を通して、社内の縦横の人間関係作りの機会にもなっています。新卒入社社員の3年定着率は、この5年の平均で91%です。多くの新卒入社者が、仕事にやりがいを感じてくれている結果だと捉えています。
中途採用では、大手企業で開発者として活躍していた方を中心に採用し、自社の技術開発レベルを底上げしています。大学などの研究者とも対等なコミュニケーションができる知識を持っていたり、開発スキルだけでなく豊富なマネジメント経験を持っていたりする人が多く、新卒入社社員の人材育成にも貢献してもらっています。中途入社者との対話が、新卒入社社員の入社後の成長につながっています。ちなみに、2015~2020年の間に中途入社した人の中で、離職者はいまのところいません。
二九さん:二九精密機械工業の技術に共感してくれる人が集まり、開発に力を入れてくれると、大手企業や大学等の研究者の難易度の高い技術相談にも、試行錯誤を重ね続けて対応できるようになります。その結果、社外から開発力が認められ、より付加価値の高い仕事が増え、自社の成長につながってきました。当社のより一層の成長のために、新卒採用と中途採用の両輪を、力を入れて継続していきます。
「家族が一番! 仕事はその次!」を徹底する社風
二九さん:私たちの技術力は、独創性な視点で、何事もできるまでこだわり続ける社員が支えています。だからこそ、「家族が一番! 仕事はその次!」と伝えています。例えば、自分や家族の身体に何かあったときに、仕事があるから病院に行けません、という状態では、没頭できる仕事ができていたとしても、長く続けていくことは難しいでしょう。二九精密機械工業の社員には、自分自身の仕事も家族も、どちらも大事にして欲しいのです。
だからこそ、自分の仕事をほかの人も対応できるようにし、何かあれば家族を優先できるような環境づくりを心がけてもらっています。1分単位で残業時間をつけられるようにし、仕事の効率化を意識してもらう取り組みも、長時間労働でワーク・ライフ・バランスを崩さないよう考えた仕組みのひとつです。特に新卒入社社員をはじめとした若手社員には、社員のご家族にも安心してもらえるように、3ヶ月に1回、社内報を実家のご両親宛に送っています。当社は「健康経営優良法人」の認定を、2017年から2021年の5年連続で受けています。2021年には、「健康経営優良法人2021 ブライト500」に認定されています。健康優良法人に認定された中小規模法人7934法人のうち、上位500法人として認定されたものです。
また、子育ての期間はフルタイム勤務が難しく、キャリアの継続が難しくなります。それは働く人たちにとっても、企業にとっても、大きな機会損失です。二九精密機械工業では、子どもが小学校を卒業するまで、時短勤務が可能です。子育てのために退職を考える必要はなく、役職に就いていたとしても、その役職のままで時短勤務を続けてもらえるようにしています。初めての産休・育休取得時にはわかりにくい手続きや支援について、当社独自のパンフレットにまとめて、誰もが制度を利用できるようにしています。
さらに、職場復帰しやすいように、産休・育休中の社員に社内報を定期的に送ったり、上司や人事担当者から連絡を取ったりしています。若手社員には「(会社の就労支援制度の活用は)育休取得からが本番」、と冗談で言われるほど、喜ばれている制度となっています。
誰でも自由に提案できる環境で、楽しく働く
二九さん:一人ひとりの存在が当社の礎だと考えており、社員一人ひとりが着実に力をつけて実力を発揮していくことが、当社の成長につながると思っています。私たちは、付加価値の高い仕事をさらに増やしていき、年間売上100億円規模の企業になり、人類の持続的な成長・発展に貢献できるものをもっと作ろうとしています。
大川さん:当社では新卒社員でも中途入社社員でも、提案をすると、社長から「やればいい」と言われます。挑戦できることの自由度が高いのです。照れ屋もおとなしい人も、自分はこういうタイプだからと枠を決めず、提案したら実行できる。それが嬉しくて、皆さんのやりがいにつながっているのではないでしょうか。
二九さん:仕事は楽しくやってこそで、やらされ感があるとうまくいきません。かといって、仕事が楽しくても、家庭がうまくいかなかったら苦労します。楽しく仕事できる環境で仕事をして、家庭で「仕事が楽しい」と話せれば最高です。
そのためには当社では、皆さんが楽しんで仕事をし、成長していける環境を提供しようと努めています。社内には、相談できる先輩がたくさんいます。「自分の仕事を通して、誰かの希望を創っていきたい」という情熱を持っている方と、共に成長していきたいと思っています。
二九精密機械工業は、世界で初めてβチタンの極細パイプ加工を実現。医療分析機器向けに200か国以上で使われている。
出典:首相官邸YouTube “Moving Forword Japan: Innovating Future”
(日本の技術力を海外にPRする目的で作成された動画)
取材・文/衣笠可奈子