コロナ禍によって多くの企業がオンラインで採用選考を進めるようになるなど、2021年卒学生の就職活動は大きく様変わりしました。採用活動の一時中断や中止の事例も相次ぎ、学生の皆さんの多くが、就職活動をどのように進めればいいのか悩んだり、企業がコロナ禍の影響で採用してくれないのではないかと不安になったりしたと思います。
このような時勢下でも、ユーグレナ社は時期に関係なく採用の門戸を開いています。365日いつでもエントリーを受け付けている同社に、通年採用実施の背景と現状を伺いました。
【いま、新卒採用に注力する理由】
Vol.5 株式会社ユーグレナ
管理部人事課採用チーム チームリーダー
金田謙祐さん
【Company Profile】
2005年に世界で初めて石垣島で微細藻類ユーグレナ(和名:ミドリムシ)の食用屋外大量培養技術の確立に成功。石垣島で生産したユーグレナ・クロレラなどを活用した機能性食品、化粧品等の開発・販売を行うほか、バイオ燃料の生産に向けた研究を行っている。2012年12月東証マザーズに上場し、2014年12月に東証一部市場変更を果たすなど、急成長を遂げている研究開発型ベンチャー企業。「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」をユーグレナ・フィロソフィーと定義し、食料問題や環境問題など、社会課題の解決を目指した事業を展開。社員数205人(2020年10月現在)。
学生・自社・社会、すべての機会損失をなくし、学生の多様なチャレンジを応援
当社では、昨年から新卒採用を大きく変え、「Challenge driven(チャレンジドリブン)」というコンセプトのもと、365日いつでもエントリーができる通年採用を導入しています。また、既卒や第二新卒の方も広く応募できるように、30歳以下であれば誰でもエントリーできるようにしました。この取り組みの発端は、従来の新卒一括採用の仕組みに大きな疑問を感じたからです。
まず、特定時期だけ採用選考を実施するのは、学生にとって大きな機会損失が生じているのではないかという問題意識がありました。春の一定期間しか選考のチャンスがないと、学生が企業の採用選考時期を考慮した動きをとらざるを得なくなる。その時期と重なるような留学や国内外での長期インターンシップ、特別に力を入れている活動や起業など、学生のさまざまなチャレンジを制限し、学生の成長機会を奪うことにつながっているのではないかと思いました。いろいろな形でチャレンジしている人が応募のチャンスを逃すというのは、機会損失でしかない。この課題を何とかしたいという想いが強くありました。
一方、当社にとっても、せっかくユーグレナ社の仲間になりたいと思ってくれている学生さんがいるのに、門戸を開いていないのは採用機会の損失でしかありません。また、当社は研究開発型ベンチャー企業であるからこそ、学士だけでなく修士や博士を取得した研究者にも期待を寄せており、新卒・第二新卒で応募可能な年齢上限を30歳にまで引き上げました。実際に、365日いつでもエントリー可能にしたことで、エントリー数は2.7倍になりました。また、従来であればエントリーを締め切っていた時期以降にもエントリーを受け付けることで、実際に今まで出会えなかった人に出会えるようになっていると感じています。
365日採用の導入を検討していた当初は、当社以外にも日本の多くの企業が通年採用を始めるのではないかと思っていました。自社の機会損失の改善が期待できるなら、多くの企業が選択肢として考えると思っていたからです。なので、いまでもそこまで通年採用が浸透していないのは、実はちょっと予想外ではありました。社会全体で見たとき、本来は活躍できる人材が社会で活躍できないというのは、大きな損失だと思います。いま以上に通年採用が広がることで、日本全体の活性化につながれば、という想いもあります。
採用数の上限は決めず。あくまでも、目指す世界観や価値観のフィットを重視する
当社の新卒採用が、いわゆる一般的な新卒一括採用と大きく異なるところは、採用人数目標を持っていない点ではないでしょうか。企業として今後成長するために最低限採用しなければならない人数は設定していますが、何人採用したら採用活動を終了するという上限は置いていません。
それは、採用にかかる費用や人件費をコストではなく、投資だと考えているからです。採用費や人件費をコストと捉えてしまうと、「これ以上費用をかける訳にはいかない」という考え方になると思います。しかし当社では、「この人が当社の仲間になったら、やりがいを感じて働くことができそうか」「仲間になってもらうことで、当社が目指す世界により早く到達できそうか」など、目指す世界観や価値観のフィットを重視しています。採用は、自社の成長を支える投資なのです。
採用が投資であるということは、特にこのコロナ禍で明確になりました。当社のヘルスケア事業では、ダイレクトマーケティング(企業が顧客に直接的にコミュニケーションを図る手法)経由の販売は伸びているものの、実店舗などでの販売はコロナ禍での影響もありました。企業の中には、事業の影響を受けて採用を白紙に戻したり、一時中断したりしたところもあったようですが、当社は「採用活動を止めない」という経営判断をしています。むしろコロナ禍で新しい業態を作りあげ、さらに成長していくための投資が必要であるとの判断をして、採用を続行しています。採用が自社にとって必要な投資であるという経営判断をできるようにするのは、採用に関わる私たちの仕事であり、責任だと思っています。2022年卒採用についても、引き続き365日採用を続けます。
ただし、とにかく数多く応募してもらうことを目標にしているのではないので、何万人もの人が見るような就職情報サイトには掲載していません。目指す世界観や価値観のフィットを重視し、社会課題の解決を目指す学生団体や留学支援制度の運営団体など、当社のユーグレナ・フィロソフィーや事業内容、世界観に共感してもらえる人が多そうなところにピンポイントで情報提供しているというのが現実です。最近では、当社の事を調べて直接エントリーしてくださる学生さんも増えました。理想としては、「10人採用したいから10人に会って、皆採用する」という採用です。
このようにピンポイントで接点を持った学生さんの多くが、SDGsやサステナビリティといった視点に興味を示して当社にエントリーしてくれています。他、食品やエネルギーという業界からの興味、ベンチャー企業としての興味、当社ならでは、で言うと「ミドリムシ」という素材が好きだという人など、さまざまな視点から当社に興味を持っていただいています。いずれにしても、当社がバイオ燃料のプラントなども手がけ、環境問題や社会課題を、社会貢献活動としてではなく、ど真ん中のビジネスとして本気で取り組んでいるという点に共感してもらえているという手応えがあります。
求めるのは、答えのない課題に対して、自分で考え行動し、自分なりの答を導き出せる人
当社はベンチャー企業なので、変化が激しく、昨年やっていたことと今年やっていることが違うというのはよくあることです。また、食品だけでなく、化粧品や燃料事業なども手がけていて、同じような業態の企業はどこにもありません。つまり、他社がやっていることを参考にするとか、どこかと同じということがほとんどない。そのような当社で活躍できる人は、答えのない課題を、いかに自分で考え、アクションを起こし、自分の仮説を答えにできるまで行動できる人であるかどうか。しかも、それを大いに楽しめる人です。
当社の内定者には、学生時代に起業しようとしていた人や、シンガポールで長期インターンシップに取り組んでいた人など、自分なりに課題を見出し、考えて、行動を起こしている人が多いです。
採用する際に一番大事にしているのは、選考は私たちが一方的に評価する場ではなく、学生の皆さんが当社を見極める場でもあるということ。皆さんが何を実現したいのか、どのような価値観を持っているのかを聞くのと同時に、私たちが考えていること、目指す世界観などをしっかりお伝えして、お互いの価値観に共感できるかをすり合わせます。ときには学生さんに、「やっぱり自分のイメージとは違うようなので、やめます」と言われることもあります。でも、それは学生さんにとって大きな一歩でもありますし、本当によかったと思える瞬間です。入社して「こんなはずじゃなかった」というのが、一番悲しいことなので。ですから、ぜひ、ご自分の思いをたくさんぶつけてください。そして、疑問に感じていること、知りたいことを遠慮なく聞いてください。個別の情報提供をしっかり行い、柔軟な対応をしていく。それが当社のできる、未来の日本を支える社会づくりの一歩でもあると考えています。
取材・文/清水 由佳