新型コロナウイルス感染症の影響で、企業と学生のコミュニケーションの在り方が大きく変化している。対面で行われていた説明会や面接などがオンライン化し、時間的・金銭的な学生の負荷は軽減。一方、「話が伝わっていないのでは?」「面接の評価が低くなるのでは?」といった学生の不安の声も大きい。そこで、すでに学生とのコミュニケーション手法の改革を実践している企業に利点や課題、学生へのメッセージを伺った。
オンライン化によって伝えづらくなった
社員の「生の声」を学生に届けることに注力
リクルート&キャリアクリエイトセンター
採用部 採用課
小幡寛斉さん(左)
リクルート&キャリアクリエイトセンター
企画部 採用ブランディング・ピープルアナリティクス課
杉山秀樹さん(右)
※記事は、2020年5月19日にオンライン取材した内容で掲載しております。
状況に応じて、内容に変更の可能性がございますので、最新状況は こちら でご確認ください。
新型コロナウイルス感染症の拡大に対応するため、採用活動において取り組まれていることは?
小幡さん:説明会およびほとんどの選考プロセスのオンライン化を2月下旬に決定し、3月から実施。その時点では、適性検査(SPI)はテストセンター受検を予定していましたが、政府の緊急事態宣言発令を受け、6月度採用はオンライン受検への切り替えを決定、7月度採用以降もオンライン受験の実施を検討しています。
従来から海外の学生さんの採用や、遠隔地に住む学生さんを対象にインターンシップ選考の一部をWeb会議ツールで実施しており、選考のオンライン化のための環境整備はスムーズでした。また、説明会のオンライン化についても、学生さんに提供できる企業情報の量には大きな影響を与えないと考えていました。当社ではここ数年、人事部内にブランディングの専門チームを設けて採用に関する発信の充実を図ってきた経緯があり、企業理念や事業内容、職種ごとの社員紹介といった、学生さんに知ってもらいたい基本的な企業情報を盛り込んだ記事や動画をひと通り当社サイトの採用情報ページ上に揃えていたからです。
杉山さん:ただ、学生さんが知りたいのは、そうした「きれいな情報」だけではない、というのが私たちの共通認識でした。実際の職場の雰囲気はどんな感じで、具体的にどういう仕事をして、働き方はどうなのか、本当のところを知りたいはずです。ですから、オンライン説明会で私たちがやるべきことは、対面のコミュニケーションが失われたことによって伝えづらくなった、社員の「生の声」を届けることだと考えました。
小幡さん:そこで、基本的な情報は当社サイトのコンテンツを見ていただくことを前提に、説明会はビデオ通話システムを使ったライブ配信のみで開催しています。事務系・技術系ともに約1時間の説明会で、事務系は社員2名、学生さん30〜50名が参加。約15分の事業説明をした後、チャットを使って質問を募り、全件に回答しています。技術系は選考コースごとに実施し、社員複数名で、30名前後の学生さんが参加。より「ジョブマッチング」を重視した内容で、現場の事業担当者らが説明や質疑応答を行います。また、一部で社員や、人事スタッフによる1対1のオンライン懇談会も実施し、説明会で聞けなかったことを社員に聞く機会も設けています。
杉山さん:新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、学生さんは選考のオンライン化を含め就職活動のさまざまな変化に対して不安が大きかったと思います。今年度入社したばかりの新入社員からの発案もあり、不安解消のために当社サイトの採用情報ページで説明会や選考会のオンライン化に関する方針をお伝えするとともに、新型コロナウイルス感染症の拡大に関連したよくある質問とその回答を4月から掲載しました。
説明会や懇談会をオンラインで実施して感じた、学生との相互理解への影響は?
小幡さん:オンライン説明会では、質疑応答を社員同士が会話をしながら答えるようにしており、そのやりとりから、当社ならではの自由闊達な雰囲気や、社員同士のフラットな関係性を学生さんに感じてもらっているようです。オンラインは社風や社員同士の関係性を伝えるのは難しいと考えていましたが、工夫によってある程度は可能だとわかったのは大きな発見でした。また、質問をチャットで受け付けることで、対面の説明会よりもたくさんの質問に答えることができ、質問内容もバラエティに富んでいました。情報提供の密度は対面の説明会よりも高かったように思います。
ただ、今回のようにオンライン説明会のみの開催の場合、合同企業説明会などでよく見られる「ついでに隣のブースの企業ものぞいてみる」といった「セレンディピティ(思いがけないものの発見)」のチャンスは生まれにくくなります。当社は採用活動において、この「セレンディピティ」も大切にしており、新型コロナウイルス感染症の第二波の到来などで来期以降の新卒採用も合同企業説明会やイベントの開催が難しい場合、そこをどのように補完していくかを思案しているところです。
1対1のオンライン懇談会では、接続状況がコミュニケーションに影響しないよう、社員と学生さんの双方に事前に詳細なマニュアルを用意するなど工夫はしています。しかし、ネットワーク環境によっては接続エラーが起きることもあります。接続エラーが改善されない場合は、電話に切り替えるなどの対応も臨機応変に行っています。これから始まる選考においては、採用担当者がトラブルに適切に対応できるよう準備をするとともに、評価に影響しないよう配慮もしていますが、リアルとの違いによる負担が学生さんに生じがちなので、申し訳なく思っています。
ですから、懇談会や面接でのコミュニケーションについては、オンライン化の大きなメリットは感じておらず、「リアルと変わらないように努めている」というのが正直なところです。ただ、弊社から離れた大学、また海外の学生さんに参加いただけているなど、距離の制約がなくなったというメリットもあります。また、オンラインでの面談はリアルでの面談よりもリラックスしている学生さんが多いとも感じています。自宅など慣れている環境で話ができることのほかに、「入室から着席」などで必要になる細かいマナーが求められず、堅苦しさを感じにくいからかもしれません。学生さん、採用担当者ともに必要以上の緊張感なく話せるのはいいことだと思います。
グループ面接をオンライン化することへの懸念点は?
小幡さん:例年、パナソニックでは事務系採用の一次面接をグループで実施しており、ここは変えたくないと考えました。もちろん、個人面接よりもグループ面接の方が接続トラブルも起こりやすくなりますし、ファシリテーションも複雑になります。新卒採用では初めての取り組みでもあり、チャレンジです。それでも実施を決めたのは、当社で働くにはチームワークが不可欠であり、「他者との関係性の中で、その人がいかに力を発揮するか」は、個人面接では判断できないポイントだからです。ただし、事前にシミュレーションをして、できるだけスムーズに実施できる方法を検討し、1回に参加する学生さんの人数を例年より減らすことにしました。
「ほかの学生がいると、緊張する」とグループ面接に苦手意識を持つ学生さんは多いですし、オンラインとなるとなおさら不安も感じるかもしれません。しかし、社風の影響もあって、当社の面接は全体的にやわらかく、フラットな雰囲気です。もちろん、面接を担当する社員によって「少し堅め」「カジュアル」など個性はありますが、事前の面接員向け研修でも会話のキャッチボールを大切にするように意識を合わせており、学生さんが話しやすい雰囲気を作っています。これは当社の選考の大きな特徴のひとつであり、オンラインのグループ面接であっても、コミュニケーションのしやすさに大きな影響はないと考えています。
今後に向けて検討していることは?
小幡さん:説明会、懇談会などこれまで実施してきた採用プロセスにおいて、オンライン化によって社員と学生さんのコミュニケーションの量は変わっておらず、むしろ密度は高くなっているかもしれません。ただ、学生さんと話をしていると、仕事内容や職場環境といった個々の仕事、働き方についてはおおむね伝えられているものの、企業の全体感をより理解してもらうためのフォローが必要だと感じる場面がありました。経営理念や事業内容の紹介といったコンテンツはあり、情報そのものは提供できていますが、学生さんが入社後の自分のキャリアをリアルにイメージするには、当社の現状を伝えるだけではなく、非公開の情報を含めた会社の動き、方向性も必要に応じて伝えていくことが必要です。そうした情報提供のあり方を、杉山たち専門チームと相談しながら見直しているところです。
また、「オンライン化によって、企業選択の最終的な決断がしにくいと感じる」という声を学生さんから聞くことがあります。当社を含め、各社情報発信の工夫はしており、基本的に提供している「目に見える情報」の量は例年とさほど変わらないはずです。それでも、対面のコミュニケーションが欠けると不安なのはなぜなのか。もしかしたら、「面談中に一緒にコーヒーを飲む」「会社見学の際に社員と話しながら歩く」といった、同じ空間で、五感で感じる「共体験(きょうたいけん)」のようなものが意外に重要なポイントなのかもしれません。今年度のオンライン化をきっかけに、学生さんの企業選択に必要な、「目に見えない情報」とは何かを見極め、来期以降の採用活動に生かしていけたらと考えています。
なお、具体的な取り組みとしては、22年卒採用では選考期間の見直しを検討しています。学業への負担をできるだけ少なく、余裕をもって就職活動をしていただくことを目的に、スケジュールを少し後ろ倒しにするかもしれません。さらなる取り組みの必要性も感じており、21年卒の内定者の皆さんの声も反映しながら、検討を進めていくつもりです。
就職活動を行っている学生の皆さんへ
小幡さん:選考のオンライン化によりコミュニケーションに不安を感じる学生さんも多いと思いますが、オンライン、オフラインといった参加方法の違いが評価に影響を与えることはありません。また、当社では採用選考を「マッチング」の場ととらえ、学生さんとのコミュニケーションを非常に重視していますから、オンライン化により皆さんのお話がしっかり聞けなかったというようなことがないよう力を尽くしていくつもりです。ですから、学生の皆さんにはぜひ安心して選考に参加していただき、ご自身の夢や志をしっかりと当社にぶつけていただければと思います。
2021年卒学生の採用スケジュール ※6月度選考のエントリー受付は終了しています
●事務系(6月度・7月度)
エントリーシート/適性検査→書類選考→1次選考→2次選考→最終選考→内々定●事務系・職種確約コース(6月度選考のみ)
コーポレート戦略部門、経理部門、人事部門あるいは、法務・知財部門の仕事にチャレンジしたいという強い希望を持つ学生を対象としたコース。内々定となった場合、コーポレート戦略部門、経理部門、人事部門あるいは、法務・知財部門へ初期配属される。
エントリーシート/自己PR書/適性検査→書類選考→1次選考→2次選考→最終選考→内々定●技術系(6月度・7月度)
エントリーシート/適性検査→書類選考→最終選考→内々定
企業サイトの採用情報ページに掲載されている、「新型コロナウイルス感染症の拡大に関連したよくある質問」には、「オンラインでの面接の場合、インターネットの接続状況が心配です。」「面接などの選考において、オンラインでのみ参加の場合は履歴書上の情報だけで評価されてしまいますか?」など応募者目線での質問が並ぶ。「学生の皆さんの不安を一番わかっている新入社員の声を反映しました」(杉山さん)。
取材・文/泉 彩子