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2018.11.01

INTERVIEW こんな人と働きたい!  Vol.7 浅利 陽介 / 俳優

各界の著名人に、これまでに出会った、プロとしてすごいと思った人、影響を受けた人など「こんな人と一緒に働きたい!」と思う人物像をインタビュー。

社交的になろうと無理しなくていい。
でも、「仲間と働いている」という意識は大切

 
あさり・ようすけ●1987年、東京都生まれ。2011年3月、大正大学表現学部卒業。1991年、CMでデビュー。NHK連続テレビ小説『あすか』、大河ドラマ『秀吉』、日本テレビ系ドラマ『永遠の仔』など数々の作品に出演。01年、『キッズ・ウォー3』で不良少年役の風間一平役を演じて注目される。近年の出演作にフジテレビ系ドラマ『コード・ブルー –ドクターヘリ緊急救命-』、『劇場版コード・ブルー –ドクターヘリ緊急救命–』、TBS系ドラマ『義母と娘のブルース』など。18年10月期のドラマ『相棒 season17』では主人公・杉下右京(水谷豊)のふたり目の「相棒」・青木年男を演じている。『おのれナポレオン』(13年)、『クレシダ』(16年)、『メタルマクベス disc2』(18年)など舞台にも精力的に出演。最近はNHK「ドキュメント72時間」18年10月5日放送回『渋谷“アムラーの聖地”へ』でナレーションを務めるなど活躍の場をさらに広げている。
 

 

『コード・ブルー』に出演しはじめたころの自分とは働きたくない

 

――子役としても活躍され、31歳にして芸歴27年のキャリアをお持ちですが、俳優として壁にぶつかった時期もあったそうですね。

子どものころは何も考えずに芝居をしていたんですけど、10代後半になり、仕事としての意識が芽生えるにつれて肩に力が入ってしまって。特に『コード・ブルー –ドクターヘリ緊急救命-』のファースト・シーズンが始まったころは「どん底」でした。共演者は人気のある方たちばかり。「この中に自分がいる意味は何だろう」と考えさせられ、「演技力だけは負けられない」という思いが強かったのに、撮影では監督からの演出プランにうまく応えられず、いつも「早く帰りたい」と思っていました。

 

――当時のご自分を振り返って、どう思われますか?

あんな「だんまり」で、台本とモニターしか見ていないヤツとは一緒に働きたくないです(笑)。でも、そんな自分にトモ(山下智久さん)や結衣ちゃん(新垣結衣さん)たちがさりげなく近づいてきてくれて、ちょっとずつ仲間になれた。すると、「今の話、次のシーンで使えそうだから、アドリブで入れてみよう」というように普段の会話の中から、みんなで演技のアイデアを出し合うというようなことも多くなって…。それまでの僕はビジョンを固めて撮影に臨むタイプで、自分のやろうとしていたこととみんなの考えが違うとフラストレーションを感じたりしていたんですね。でも、お芝居というのは人と人との関係性から生まれるひらめきみたいなものを大事にした方がずっと面白い。そう気づけたのも、『コード・ブルー』のみんなのおかげです。

 

――仕事でコミュニケーションは大事と頭ではわかっていても、実際に周囲と関係性を作っていくのは簡単ではないですよね。

性格もありますから、無理はしなくていいと思うんです。コミュニケーションが取れないなら、取れなくていい。相手が話しかけてくれたら、話せば大丈夫です。僕はもともとは話すのが得意なタイプではないので、20代前半くらいまでは食事会に呼ばれても、しゃべりませんでした。先輩に「お前、なんで黙ってるんだよ」といじられても、「あ、はい。何を話していいかわからなくて…」と答えたりして。そんな感じでも、ただその場にいるということが仲間になっていくために大事なことなんじゃないかなと今は思います。大切なのは社交的になることではなくて、自分は仲間と働いているんだという意識があるかどうか。その意識があれば、自然と自分からコミュニケーションを取れるようになります。今では僕も、にぎやかにしていい現場ではかなりうるさいです(笑)。

 

子役から活躍し、10代後半から20代にかけては大人の俳優への脱皮に苦しんだ。「当時は確固たる芯がなかったために、“俺は俳優なんだ”と虚勢を張っていました」と浅利さん。

 

 

目の前のことに集中して突き進む。そんな後輩の姿を見ると、応援したくなる

 

――ドラマ『相棒season17』の水谷豊さん、反町隆史さんなどベテランの俳優さんと共演される機会も多いですね。

『相棒』は特に共演者の方々が先輩ばかりなんですよ。30代になって、最近は企業で言うと中間管理職の役割をチームの中で求められることが多かったので、新鮮です。いろいろなことを教えていただけたり、甘えるところは甘えてのびのびとやれるので、すごく楽しくて。

 

――「先輩だから」と緊張されたりは?

自然と力は入りますよ。だからこそ、できるだけ先輩に任せるようにしています。「このシーン、こんな感じでどうですか?」と相談して、「いいんじゃない?」と言われたら、「じゃあ、後はよろしくお願いします」なんて。舞台の稽古でもそんな感じで、稽古の途中でちょっとうまくいかなかったりすると、「僕のせいじゃないですから。先輩が間違えたんです」と言って、「お前な〜」とツッコミを入れられたりしています。

 

――信頼関係を築いてこそ言えることですね。

日ごろからお互いが考えていることを伝え合えていて、その積み重ねで「浅利が相手なら安心」と思ってもらえることが大事なのかなと考えているんですけど、これも20代半ばくらいまではできなかったです。「こうしてほしい」とか「このシーンはこうした方がいいと思う」ということを相手にうまく伝えられなくて。「あいつのセリフの間が悪いから、俺のリアクションがうまくいかないんじゃないか」と、自分の演技がうまくいかないのを人のせいにしてトイレで泣いたりしました。でも、それではダメだと思って「先輩、こうしてください」とズケズケ言うようになりました。当時はものの言い方もわかっていなかったので、相当生意気だったと思いますよ。見守ってくださった先輩方には感謝しかないです。

振り返ると、20代は周りが見えてなかったですね。力の加減がわからなくて、すべてのことに100パーセントの力でぶつかって、うまくいかないと、全部人のせいにするという(笑)。だけど、今思うのは、周りが見えないくらい目の前のことに集中して突き進む時期って絶対に必要だと思うんです。舞台『メタルマクベス disc2』で原嘉孝(ジャニーズJr.)さんと初めて共演させていただいたのですが、彼は今23歳で、いい意味で周りをまったく見ていないですからね。全力で自分の役柄に向き合って、試行錯誤している。その一生懸命な姿を見ていると応援したくなって、イジッたり、ときどき「あ、そっちじゃないよ」と軌道修正したり、「添え木」のようなことをしたりしています。

 

 

いろいろなタイプの人と仕事をすることで、表現の幅が広がる

 

――浅利さんは以前から演出にも関心をお持ちだそうですね。一緒に仕事をしてみたい演出家がいれば教えていただけますか?

鶴橋康夫さんとまた一緒にやれたら、うれしいですね。ドラマ『永遠の仔』の演出をしていただいたんですけど、当時はまだ小学6年生だったので、監督の言葉の真意を理解できていないところもあったと思うんですよね。今、鶴橋監督の演出を受けたら、自分がどう受け止め、どんな表現が生まれるのか興味があります。ほかにも、大河ドラマ『真田丸』の脚本を担当された三谷幸喜さんをはじめたくさんいますよ。演出家によってそれまでの自分にはない新たな一面を引き出され、表現の幅が広がると感じているので、いろいろなタイプの方と仕事をしたいです。

 
演出への関心が高く、大学では映像制作を学んだ。「映画を観ていても、自分なら次のシーンをどう演出するかなと考えるのが好きなんです。純粋に作品を楽しめないのがたまに傷ですが」。

 

舞台『メタルマクベス disc2』でご一緒した、「劇団☆新感線」のいのうえひでのりさんの演出も、経験したことのないものでした。これまで僕が出演した舞台の演出は、最初に俳優が自分で考えた演技をした上で、演出家が「じゃあ、ここはこうしよう」と指示して見せ方を際立たせていくスタイルが多かったんですね。でも、いのうえさんの場合は「まずはこっちに行ってください。次に、三歩で階段を上がって振り向く。で、振り向いたら、このセリフを言う。言ったら、泣き崩れる」と動作やセリフを言うタイミングをすべて細かく最初に決めるんです。

 

――細かいところまで指示をする演出というのは、俳優さんの自由度が低い気がしますが、どうお感じになりましたか?

正直に言うと、苦手なタイプの演出ではあります。でも、いのうえさんは舞台の広さや、円形で中央に配置された客席が360度回転する特殊な構造、稽古時間などの諸条件を計算した上であえてその演出をしているんですね。だから、僕もやるしかないと。で、やってみたら、ものすごく合理的でやりやすかったんですよ。指示された一挙手一投足を体になじませるまでは大変なんですけど、なじんだら、後は俳優が感情を乗せていけばいい。動作やセリフのタイミングにしても後で話し合って変えることはできるので、不自由さは感じませんでした。むしろ、動線を守った上でどう自分らしく表現するかという面白さがありましたね。本番ではアドリブもガンガン入れていましたし(笑)。

 

――「勝手なことをするな」と言われたりしないんですか?

言われなかったですけど、言われたとしても、次はやめればいいだけ。やってみたいことがあるのに挑戦できない人も多いですけど、それは失敗するのが怖かったり、やり方がわからないからだと思うんです。「ダメ元でやってみよう」というくらいの身軽な感覚でいた方が仕事を楽しくできるし、そういう人と仕事をすると刺激を受けますね。

 

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取材・文/泉 彩子 撮影/刑部友康

 

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