各界の著名人に、これまでに出会った、プロとしてすごいと思った人、影響を受けた人など「こんな人と一緒に働きたい!」と思う人物像をインタビュー。
仕事をすることを楽しんでいる人と働きたい
わだ・まさと●1979年、高知県生まれ。日本大学文理学部体育学科卒業。大学時代は陸上部に所属し、箱根駅伝第76回(2000年)、第78回(02年)に出場。02年、NEC(日本電気株式会社)に入社し、陸上部に所属。03年にNECを退職後、05年俳優デビュー。13年、NHK連続テレビ小説『ごちそうさん』で泉源太役を熱演し、注目される。日本テレビ系ドラマ『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』、TBS系ドラマ『陸王』、映画『関ヶ原』、NHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』など出演作多数。18年4月スタートの日本テレビ系ドラマ『Missデビル 人事の悪魔・椿魔子』では人事部社員・沖津周平役を好演している。
「素敵だな」と感じる先輩には「子育て上手」が多い
――今日はドラマ『Missデビル 人事の悪魔・椿魔子(以下『Miss デビル』)』((日本テレビ系)の撮影スタジオにお邪魔させていただき、ありがとうございます。
いえいえ、こちらこそ。
――『Miss デビル』では主人公の冷酷非情な人事コンサルタント「椿魔子(菜々緒)」の部下・「沖津周平」を演じていらっしゃいますが、もし、和田さんが会社員なら、どんな上司のもとで働いてみたいですか?
うーん。憧れるのは「椿魔子」と対立する人事部長「伊東千紘(木村佳乃)」みたいな上司かなあ。最年少女性取締役に抜擢されるほどの切れ者でありながら高圧的なところがなく、部下や後輩を笑顔で見守っていいところを引き出す。その笑顔に多少の演技もあるかもしれないですけど、そもそも組織の中で役割を果たすというのは、与えられた役割を演じることに似ているんじゃないかなと思うんですよね。そう考えると、素晴らしい上司だなあと。
あと、最近ちょっと発見したことが…。僕に上司はいませんが、一緒に仕事をさせていただいて「素敵だな」「ついていきたいな」と感じる「人生の先輩」には「子育て上手」が多い気がするんです。
――男性なら、「イクメン」ということですか?
育児をしているかどうかという意味ではなく、子どもを育てることに対して思いや信念があるかどうかということです。僕が子どものころは「親の言うことは黙って聞け」とよく言われていましたが、今はそういう考えが受け入れられる時代ではないですよね。だからと言って、子どもの言いなりになってもいけない。感情的にならずに自分の考えを子どもに伝え、対話を通して子どもの魅力や意欲を引き出していくのが大事だと思いますが、現実には簡単にできることではないですよね。それをきちんとできていたり、やろうとしている人というのは、仕事でもしっかりとリーダーシップを発揮しているように思います。就職をして子どものいる上司や先輩が周りにいたら、雑談の時に子育ての話を聞いてみるのもいいかもしれないですね。その人の部下や後輩とのかかわり方を垣間見られますよ。
怖いな、厳しいなと思っている人からの言葉が道しるべになることもある
かつては陸上選手だった和田さん。当時厳しく指導を受けた恩師との絆は今も深い
――「椿魔子」のような怖い上司と働くのは?
震えあがっちゃいますね。ただ、怖くても、確固たる信念があったり、「すごいな」と思わせる何かがある人なら、ついて行くかも。僕、割と怖い人や厳しい人に逆に近づいていくところがあるんですよ。役者の性(さが)かもしれないんですけど、どうしてこの人は怖かったり、厳しいんだろうと人間観察をしてしまうんです。そうすると、思いがけず深い付き合いになったりするんですよ。ほら、怖い人って友だちが少ないから、意外と大事にされたりして(笑)。
それに、怖いな、厳しいなと思っている人からの言葉が仕事をしていく上でのヒントになったり、道しるべになることもあります。仕事で出会った人ではありませんが、陸上部時代の恩師がいて、当時はとにかく怒られて、つい最近までまともに口もきけないくらい怖かったんですね。
その先生に学生時代からずっと言われ続けてきたのが、「初心を絶対に忘れるな」と。「金言集」には必ず掲載されているようなよくあるフレーズかもしれないんですけど、愛情を持って厳しく指導をしてくれた恩師の言葉だからこそ、重みがあって。初心ってすぐ忘れてしまうもの。折に触れて恩師にこの言葉をかけられ、ハッとさせられたことが何度もありました。
楽しそうに仕事に向かい合っている人と一緒だと気持ち良く働ける
――さまざまな共演者やスタッフの方々とお仕事をされてきたと思うのですが、「一緒に仕事をしやすい」と感じる人に何か共通点はありますか?
チームでいい作品を作りあげていけるよう、空気作りを大切にしている人にはものすごく助けられます。今回の『Miss デビル』でも、「椿魔子」役の菜々緒さんはさすがだなと思います。周りのことをよく見ていて、視野の広さは、下手したら背中に目があるんじゃないかと思うくらい(笑)。初主演で大変なこともあるはずなんですけど、それを周囲にまったく感じさせず、みんなに声をかけて現場を盛り上げてくれています。僕ももっと広い視野を持たなければなと刺激を受けました。
「椿魔子」にビシバシと鍛えられる新入社員「斉藤博史」役の佐藤勝利さんも空気作りが上手で、とにかく可愛いんですよ。僕が衣装部屋にいるとなぜか後ろからくっついて来て、撮影前の控え室でも気がつくと横に座っている。もしかしたら根は人見知りなのかもしれませんが、殻に閉じこもらず、みんなとかかわっていこうとする姿勢が伝わってくるんです。ほかの役者さんもそれぞれ自分のやるべきことを頑張っていて、すごくいい空気ができあがっています。
――先ほど控え室の様子をチラリと拝見したのですが、皆さん和やかな雰囲気でした。
スタッフの方たちの力も大きいと思うんです。僕たちは作品ごとに新しい現場に行くので、初めて会う人同士が集まって仕事をすることが多いんですけど、初めての現場ってやはりドキドキするじゃないですか。その時に、スタッフの方たちが笑顔で迎えてくれると、すごくホッとします。役者って一人でできる仕事ではないなとあらためて感じたりしますね。
いい作品の生まれる現場って、仕事をすることを楽しんでいる人が多いように思うんですよ。「やらされ感」があったり、辛そうな顔をしている人があまりいない。仕事にはもちろん大変なこともあります。だからこそ、楽しそうに仕事に向かい合っている人と一緒だと気持ち良く働けるし、自分も周りにいい影響を与えられる仕事をしなければと思います。
取材・文/泉 彩子 撮影/鈴木慶子