社員ファースト経営を掲げ、Great Place to Work® Institute Japanによる「働きがいのある会社」ランキングで、4年連続で上位入賞しているiYell株式会社。“人”を経営戦略の中心に置く組織づくりにどのように取り組んできたのか、これからの個人と組織のつながり方について話を伺いました。
「何をするか」ではなく「誰とするか」を中心に据えた組織づくり
iYell Branding office
伊藤早乙里さん
#iYell×バリュー共感型採用
不動産事業者・金融機関・エンドユーザーの三者をつなぎ、「家を買いたい全ての人に、最高の住宅ローンを」提供する住宅ローンプラットフォーム事業を行う。「価値観の⼀致する仲間と働くことで社員は喜びを覚える」という考えのもと、社員が作った18個のバリューに共感する人のみを採用。離職率1%台を保っている。Great Place to Work® Institute Japan(GPTWジャパン)、21年版における「働きがいのある会社」中規模部門24位選出。
働く環境は自分たちで作る。18個のバリューに込めた目指す組織像
----創業以来、社員ファースト経営を一貫して掲げています。人を大切にする経営方針はどのように生まれたのでしょうか
起業時から代表・窪田が最も重視していたのが、「何をするかではなく、誰とするか」でした。
窪田は、新卒で住宅ローンを専門に扱う金融機関に入り、住宅ローンに関するあらゆる業務を経験。商品組成から営業、審査、債権管理まで一気通貫で担当したことが、iYellの住宅ローンプラットフォーム事業につながっています。
ただ、起業を決めたときは何をやるかは決めておらず、「この仲間と働きたい」の一心だったといいます。前職では、顧客ファーストを大事に、何よりもお客様のために働いていましたが、そのために残業に追われ社員が離れていった。「まずは働く社員が幸せになってから、お客様を幸せにするのが本質では…」と疑問を感じるようになったと話しています。大きなきっかけは、新規事業を担当した際、会社の経営方針の変更により事業部が解散してしまったこと。プロジェクト自体の頓挫より、「大好きな仲間と一緒に仕事ができない」ことが何よりもつらかった。同じ思いはもうしたくないという気持ちが、iYellの起業につながりました。
----伊藤さんはどんな経緯でご入社されたのでしょうか
私の幼い頃からの大親友から誘われました。当初はアルバイトでお手伝い程度。親友と同じ職場で働くことに抵抗があったので、「社員にはならないからね」と言っていました(笑)。
もともと服飾系の仕事をしており、住宅ローンビジネスは未知の領域でした。事業内容に興味があったわけでもなく、とにかく親友のために、という気持ちでした。でもだんだんと、好きな人と働くのが心地よく、一緒に会社を作っている仲間を大切に思うように。周りからも「長く働いてほしい」と言われ、2カ月後に社員になりました。
私のように、仲間の紹介で入る社員はとても多いです。夫婦やきょうだいで働いているメンバーもいて、みんなが友達のよう。リファラル採用率は50%です。
----まさに「何をするかではなく、誰とするか」ですね。「社員ファースト」の組織づくりに向け、起業後は何に取り組んでこられたのでしょうか
創業1年目から2年目にかけて、全社員約50人(当時)で「どんな会社にしていきたいのか」の議論を重ねました。
iYellの根本にあるのは、「同じ価値観の人と働くことが人生で一番楽しい」という思いです。では、その“価値観”とは何か。平日の終業後や泊まり込みの合宿を行い、iYellらしさを体現する「18個のバリュー」をつくりました。
18個のバリュー
18個のバリューを表すキーワード。上段が仕事の仕方にかかわるバリュー、下段が働く際のマインドにかかわるバリュー。
バリューにはそれぞれ行動規範が明記され、日々実践できるような具体的な行動例が示されています。バリューには、「love(愛する心)」「sense(美しさの心)」など普遍的なものが多くあります。新しく入ったメンバーなどは、何をすればよいのか迷うことも。あくまでも一つの例として、「髪の毛を切ったことに気付こう」「使い終わったら元の位置に戻そう」など日常のシーンをイメージできるフレーズを作成しました。
----全社員で決めるプロセスはパワーがかかったかと思いますが、反発はなかったのでしょうか
最初は「土曜日なのに大変だよね・・」と軽口を叩き合っていましたが、取り組み始めると、みんなどんどん白熱していきました。
これから続く“自分の働く環境”を作ることになるので、納得できるまで議論しなければ、後々になって自分が苦しむことになります。中途半端なものは作れないという思いが、みんなにとって思い入れのある、納得感のあるバリューにつながったと思います。
----新しく入るメンバーへの価値観の浸透はどう進めていますか
採用の段階で、18個のバリューに共感していただけるか、がスクリーニングポイントになっています。どんなに優秀な方でも、共感が難しければiYellでは幸せに働けないので、採用を見送ります。そのため、入社いただいた段階で、「iYellの皆さんと働きたかった」と熱意を持っている方が多いです。
バリューは評価にも直接関わっています。月間MVPではバリューを体現している人が投票で表彰されますし、人事評価制度の6割を「バリュー体現」が占めています。(営業成績などの事業KPIよりもシェアが大きい)全社員でお互いのことを評価し合うので、常にバリューを意識して周りの仲間を見ていなければ判断できません。「あの人の行動は “team”を体現しているね」などと自然と会話が生まれ、考えるようになるのです。
徹底した情報開示で「応援し合う」カルチャーを生み出す
----iYellでは、仲間意識の高さが、サービスや事業にどう影響していますか
iYellは社内の情報開示が非常にオープンで、誰が今どんな仕事をしているかがすぐに分かります。全社員がお互いの日報を読めますし、チャットワーク(コミュニケーションツール)で誰がどんな悩みを抱えているかも把握できる。「お客様への提案で悩んでいるみたいだけど、この資料が参考になるよ」と他部署のメンバーからアドバイスが来ることも日常的です。
また毎月1回全社会があり、月間MVPの表彰や、経営会議の内容や事業方針と目標の共有、各メンバーの取り組みの発表などが行われます。社内の情報格差がほとんどないので、心理的安全性も高い。誰もが発信し合えるカルチャーが醸成されています。すると、「お客様からこんな声が寄せられた。こんなサービスを提案したい」「こんな新規事業で困りごとを解決できないか」といったアイデアがフラットに出てきて、結果としてサービスの改善につながっています。
----情報開示を徹底し、透明性を高めている理由とは?
ビジョンの実現に、情報の透明性が不可欠だからです。
iYellの中心には、18個のバリューに基づく「バリュー経営」、経営者は社員の幸せを考え社員は社員同士の幸せを考えるという「社員ファースト経営」、そして1000年続く組織を目指す「1000年経営」の考え方があります。
その先のビジョンとして掲げているのが、「応援し合う地球へ 〜chain of Yell〜」です。“応援”は、仲間が何をしているのか、会社がどこに向かおうとしているのかが分からなければできません。
----「応援」の考え方が、お客様へのサービス向上にもつながっていくんですね
働く仲間を応援し、住宅ローンに関わる不動産会社、エンドユーザー、金融機関全てが幸せになるように応援する。自分に関わる人を幸せにしたい、と思うメンバーが多いので、サービスも高いレベルで提供できているのだと思います。
バリュー浸透など企業文化にばかり力を入れていてもうかるのか?という指摘は、よくいただきます。ただ、おかげさまで、社員数もサービスの契約社数も順調に推移しています。
経営判断に迷ったときに立ち戻るバリューが、結果としてお客様への還元につながる内容になっている。私たちのビジネスモデルは、不動産会社、エンドユーザー、金融機関の「三方よし」を目指すものであり、市場自体の成長のためには、競合の存在も歓迎です。自分たちが作った価値を信じた結果、事業成長がついてきているという実感があります。
同じ価値観の人と働くのが一番幸せ。その成功例を示したい
----採用において、バリューへの共感のために具体的にどのような施策、基準を設けていますか
選考前、選考中、採用前それぞれの段階で、バリューに基づくメッセージを伝えています。
例えば、中途採用サイトのエントリーページでは、9つの質問を表示しており、全てがバリューに関する質問になっています。全てに共感いただけないとエントリーボタンを押せない仕組みになっていて、それも一つのメッセージングです。
面接は計3回以上で、最終面接は代表の窪田が担当します。志望動機は聞かずに、これまでの出来事でうれしかったことや楽しかったことなど、感情が揺さぶられた体験を具体的に聞いていき、iYellのバリューとのマッチ度を測ります。
最終面接の前には、iYellのビジョンや経営理念、行動指針まで全て書かれた冊子をお渡しします。「自分には合わなそうだな」と思ったのなら残念ですが、それもお互いにとって一つの結論です。
最終面接では、窪田が全員に“夢”を聞いています。夢と言われても…と戸惑う方もいるかもしれませんが、日常のささいな願いでもいい。その夢をもとに「この人を採用して、守り抜けるか」「その夢を応援できるか」という観点で見ています。
会社が大切にしていること、どういう組織なのかという情報が凝縮された冊子。カルチャーフィットを判断するための基準となるものだ。
----新卒採用において、とくに見ているポイントはありますか
バリューの一つ「integrity(素直な心)」は重視しています。新しいことを「そうなんだ!」とまずは受け入れる姿勢を見せられるか。素直さは、本人の成長にとっても大事だと考えています。
----バリューに共感して入社されたあと、組織も働く個人も、価値観が変化することはあると思います。価値観にズレが生じたり、共感できなくなったりするケースにはどう対応していますか
作った時点で、バリューは時代やニーズに応じて変化していくもの、という前提がありました。変える際は社員の3分の2の賛同を得るというルールも定めています。
ただ、18個のバリューは、抽象度の高い、普遍的に大切とされるものが多いので、今のところ創業時のまま運用しています。
マネジメント層、経営陣と組織を見るフェーズが変われば、バリューの捉え方やメンバーへの伝え方も変わります。月1回のマネジメント研修や経営会議では、話す相手によって、どう伝えるべきかコミュニケーションの方法を含めて、ディスカッションをしています。
組織内の齟齬(そご)などネガティブな状況が生まれるときは、基本的に、コミュニケーションミスによる誤解が生じていると考えています。1オン1でのコミュニケーションで、どうしてそう考えたのか、個人の意向を確認するプロセスを大切にしています。
----異なる価値観を持った人同士、意見に反論し対立することによって組織を強くしていく、という考えもあると思いますが
もちろん、そうです。iYellの考え方が唯一の正解ではないし、あくまでも一つのやり方だと思います。
ただ、こんな組織の作り方もある、と成功例として広めたい、成功させようという気概はあります。バリューを土台にしながらも、一人ひとりの個性を発揮していったらどんな組織ができるのか。壮大な実験に取り組んでいると言えるかもしれません。
----企業選びにはさまざまな観点があると思います。これから社会に出る学生に向けて、企業の見方についてアドバイスはありますか
私自身は、「誰と働くか」を重視して、今幸せに働けています。
この仲間と働くのが好きだから、一緒にやっている事業を広げていきたい。仲間ありきのモチベーションで、こんなに仕事に好きになれるんだなという発見があります。
「何をやるかより、誰とやるか」という観点で、先輩社員とコミュニケーションをとってみるのもいいと思います。
取材・文/田中 瑠子