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2020.04.16

なり方、やりがい…レアなおシゴト図鑑 | Vol.11 料理研究家

世の中にはさまざまなシゴトがあるけど、なかには就職情報サイトではなかなか見つけられないものも…。そんなちょっと意外なシゴトについている社会人を紹介します。

 

食や料理の楽しさを伝える 料理研究家

栗山真由美さん
プロフィール●料理家、栄養士。短期大学の栄養学科を卒業後、会社員を経て、料理研究家・枝元なほみさんのアシスタントを4年間務め独立。旬の素材のおいしさを引き出した、シンプルかつ健康的な料理に定評があり、書籍や雑誌、テレビなどで活躍。イベントやケータリング、食品メーカーや輸入・販売会社とコラボレートしたメニュー企画も手がける。料理とともに旅も好きで、特にポルトガル愛好歴は15年以上にわたり、ポルトガル料理を中心とした料理教室「Amigos Deliciosos」を2008年より主宰。日本ポルトガル協会主催の料理教室など各種教室の講師も務めた。現在はベルギーに住居を移し、新たな展開を楽しみに暮らしている。近著に「ポルトガル流驚きの素材組み合わせ術!魔法のごはん」がある。

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事務職から料理研究家のアシスタントを経て独立

 

――料理研究家を志した経緯を教えていただけますか?

子どものころから料理が好きで、短大の栄養学科で学んだのですが、いざ就職となると学校や病院といった栄養士として安定して働ける就職先は狭き門で。「私には無理だな」とあきらめて、事務職として事務機器メーカーに就職したんです。当時は料理研究家という仕事があることも知りませんでした。

 

――そうだったんですね。転機は?

20代後半に転職したベンチャー企業の同僚たちに起業を目指す人が多く、刺激を受けました。私自身は事務職で経営の知識はないし、事業を興すほどの自信は持てなかったけれど、「自分も何かをしたいな。細々とでもいいから一生続けられる仕事がしてみたい」と思ったんですね。でも、私には特別なスキルも経験もなくて。かろうじてあったのが、栄養士の資格と「料理が好き」ということでした。

それで、「料理関係の仕事なら辛さを感じず、楽しく続けられるんじゃないかな」と考えたのですが、料理人として飲食店で働いたり、自分のお店を持ちたいかと考えるとどこか自分にはしっくりこないなあと。模索しているうちに料理研究家の仕事に出合い、「コレかも」と思いました。ちょうど栗原はるみさんや有元葉子さんといった方々の料理が彼女たちのライフスタイルとともによくマスコミに取り上げられ、料理研究家の仕事の存在が広く知られるようになった時期。料理を作るだけでなく、心豊かに日々を暮らすための提案ができる仕事っていいなあと憧れたんです。

 

――料理研究家への足がかりはどうやって?

最初は会社帰りに週1、2回ほどフードコーディネータースクールに行くつもりでした。コネクションもできるかもしれないと思って。でも、ちょうどひとり暮らしを始めたばかりでお金もなく、どうしようかなあと思っていたんですね。そのことを仲良しだった会社の先輩に相談したところ、「幼なじみが料理研究家だから、会ってみる?」と紹介してくれることに…。その料理研究家さんが親身に話を聞いてくれて「学校に行くのもいいけれど、本気なら誰かのアシスタントとして現場経験を積んだ方が近道だよ。気になる料理研究家にアタックしてみたら?」とアドバイスをしてくれたんです。

「アタックって!?」とオロオロしていたら、「レシピ本の出版社や出演番組のテレビ局に連絡先を聞いて、コンタクトを取るのよ」と教えてくださって。今なら個人情報の管理が厳しく、連絡先を知るのも難しいかもしれませんが、当時はのどかな時代だったんでしょうね。その通りにしてみたら、枝元なほみさんの元で働けることになり、4年間アシスタントを務めた後に独立しました。常時複数のアシスタントを雇える料理研究家はひと握りで、アシスタントの採用枠の空きもなかなか出ないので、私はかなりラッキーだったと思います。

 

未経験でも活躍できているのは、料理の基礎がしっかりしている人

 

――アシスタント時代は大変でしたか?

正直、大変でしたよ。アシスタントの仕事は食材の調達や下準備、取材・撮影にいらっしゃる編集者やカメラマンさんへの対応など師匠の仕事がスムーズに運ぶようお手伝いをすること。最初は先輩の指示通り動いていればなんとかなりますが、先輩が独立して自分がメインアシスタントになるとそうはいきません。ちょうど師匠への仕事の依頼が増えていった時期で朝から晩まで忙しく、体が疲れ切っているのに、翌日の撮影の段取りがきちんとできているのか気になって熟睡できなくて。朝起きたらクラクラして、ガードレールを伝い歩きしながら師匠のアトリエにたどり着くなんて日もありました(笑)。

でも、大変だった分、得たことは大きかったです。料理の知識やスキルもそうですけど、現場での師匠の立ち居振る舞いや周囲とのコミュニケーションの取り方からも多くを学びました。編集者やカメラマンさんにも可愛がっていただいて、独立後にお仕事をいただけたのもアシスタント時代の人脈のおかげです。

 

――今はSNSやブログなどの発信の機会がたくさんありますから、アシスタント経験ゼロでデビューをする人も増えているとか。

若い料理研究家さんたちは料理の見せ方も上手で、私も勉強させてもらっています。ただし、未経験でも活躍できているのはやはり社会人としてのコミュニケーション力があって、料理の基礎がしっかりとしている人。私がこの世界に入ったころ以上に実力が問われるようになっていますから、これから料理研究家になりたいという人はスクールに通う、いろいろなレシピを実際に作ってみるなど研鑽の機会を積極的に見つけることが大切だと思います。

そう言えば、若い料理研究家さんたちから「フードコーディネーター」や「栄養士」と言った資格名がたくさん書かれた名刺をいただくことが増えたような気がします。以前は資格がなくてもアシスタントとして現場で学ぶことができましたが、今はアシスタントをしたくても以前にも増して募集が減っていますから、取れる資格は取っておくと心強いかもしれませんね。

 

 

料理を通して心豊かな暮らしのお手伝いをするのが、料理研究家の役割

 

――レシピの開発はどのようにされているんですか?

基本的には出版社やテレビ局から依頼されたテーマに合わせて食材を選び、試作を繰り返してレシピを固めていきます。食材選びはとても大切なので普段からいろいろなスーパーやお肉屋さん、お魚屋さん、酒屋さんなどをチェックしたり、お店のスタッフとコミュニケーションを取るようにしています。雑誌のお仕事だと依頼から発行まで2カ月ほど期間があるので、発行時の旬に合った食材が近くでは手に入らないこともあります。お店の品ぞろえの特徴や取り寄せの体制などを把握しておけば、そういう時も慌てずに済みます。

依頼以外にも気になる食材を見つけてはあれやこれやと調理法を考え、「自由研究」も常にしています。ハマると皆さんにも伝えたくなるので、編集者さんとの雑談から企画につながることもありますよ。赤パプリカを塩漬けにしてペースト状にしたポルトガルの調味料「マッサ」をテーマにした書籍を出版した時もそうでした。最初は一般的なポルトガル料理の本を作りたいと企画を出したのですが、「マッサ」の話をしたところ、「面白いから、それでいこう」と編集者さんが言ってくださったんです。

 

――雑誌や書籍、テレビ、料理教室などさまざまな場で活躍していらっしゃいますが、それぞれ求められることは違ったりしますか?

どの場でも基本は同じで、おいしくて体にいいレシピを開発し、料理の専門知識がない人にもわかりやすいよう伝えることが大事だと思っています。ただ、それぞれ伝え方の特徴はありますよね。雑誌や書籍は読者が手元に置いて何度も繰り返し見るので、レシピも細かいところまで丁寧に説明することが求められるのに対し、テレビは瞬発力が勝負。短い時間で視聴者に関心を持ってもらうために料理研究家のキャラクターが問われるところもあるかもしれません。料理教室の場合は情報を伝える相手との距離がぐっと近くなるので、相手に合わせた細やかなコミュニケーションが必要だなあと感じています。

 

――気になる収入は?

テレビ出演や書籍の印税で年間1000万円以上稼いでいる人もいれば、自宅で小規模な料理教室を開いて年間数十万円という人まで個人差があります。私の場合は東京都内でひとり暮らしをしながら自宅兼アトリエを構えて、友人たちと月に数回ほど外でおいしいものを食べ、1、2年ごとに旅に出られるくらいはなんとか稼げています。ただ、フリーランスなので年ごとの収入はジェットコースターのように不安定。堅実な生活を心がけています(笑)。

仕事の種類ごとの収入比率も変わってきています。私は時間をかけて編集者さんやカメラマンさんと一緒に記事を作り上げていく出版のお仕事が大好きで、これからも大切にしていきたいと思っているのですが、出版業界の低迷で料理雑誌の廃刊が相次いで仕事量が減り、「どうしよう!?」と悩んだこともあります。ピンチを救ってくれたのが10年前に口コミでこぢんまりとスタートしたポルトガル料理を中心とした教室。2016年10月から2019年の1月までは料理教室エージェントと契約し、お申し込み人数はのべ1000人を超えました。

 

――すごいですね。栗山さんはポルトガルが大好きで、ポルトガル料理の研究をライフワークとされているとうかがっています。

ポルトガル料理は米や魚介を使ったメニューが多かったり、ダシやうまみを大切にするなど日本食と共通する点も多く、日本の家庭でも取り入れやすいのが魅力。教室を始めたのもポルトガル料理を少しなりとも日本に広められたらという思いからでした。たくさんの方が参加してくださるというのは、自分のやってきたことが少しでもみなさんの役に立っているということなのかなと考えると本当にうれしいですね。

食べるというのは毎日のこと。食べること、料理をすることが楽しくなるような提案をして、心豊かな暮らしのお手伝いをするのが料理研究家の役割かなと思っています。料理の知識やスキルだけでなく、日々自分が感じていること、学んだこと、人生のすべての経験を生かせるのがこの仕事の魅力。40代、50代から活躍している人もたくさんいる世界なので、仕事、プライベートを超えて人生を丸ごと、長く楽しみたい人には向いている仕事だと思いますよ。

 
※本文は2018年取材時の内容で掲載しております

取材・文/泉 彩子 撮影/刑部友康

 

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