さまざまな分野で活躍する有名人の方々を直撃インタビュー。
もしも今の仕事をしていなかったら、どんな職業を選んでいたかを想像していただきました。
どんなお話が飛び出すでしょうか。
Vol.7 俳優 瀬戸康史さん
NHK連続テレビ小説『まんぷく』、フジテレビ系『ルパンの娘』など数々のドラマや映画に出演。舞台などでも活躍する瀬戸康史さん。
そんな瀬戸さんが、もしも俳優になっていなかったら、就いていたかもしれない職業とは?
せと・こうじ●1988年、福岡県生まれ。2005年、デビュー。以来、舞台やドラマ、映画と幅広く活躍している。近年の出演作に舞台『ドクター・ホフマンのサナトリウム~カフカ第4の長編~』『関数ドミノ』、映画『寝ても覚めても』など。ドラマ出演も数多く、NHK連続テレビ小説『まんぷく』、『ルパンの娘』などがある。2020年放送予定のTBS系火曜ドラマ『私の家政夫ナギサさん』では、主人公・相原メイの仕事上のライバル「田所優太」を演じる。
――俳優になっていなかったら、どのようなお仕事をされていたと思われますか?
獣医ですかね。ほかに思い当たりません。動物が大好きで、芸能界に入るまでは獣医になりたかったんです。ただ、小学生のころは獣医という言葉を知らなくて。テレビの動物番組の影響で、「ムツゴロウさん(動物研究家の畑正憲さん)のところに行きたい」と思っていました。
職業として獣医を意識するようになったのは、中学時代にある獣医さんのドキュメンタリー番組を観て、「こんな人がいるんだ。すごいな」と思ったのがきっかけです。
――なぜ心を動かされたのでしょう?
事故で足をなくしたワンちゃんが車椅子を使って再び歩けるようになるまでを追った番組で、目を背けたくなるようなグロテスクな場面もあったのですが、食い入るように画面を見つめたのを覚えています。献身的に治療にあたる獣医さんの姿を見て、感銘を受けたというか、なんか、自分も「助けたい」と思ったんです。それで、獣医を目指すようになりました。
――実際には17歳で俳優としてデビューされました。
現在所属している事務所のオーディションに、母が応募したのがきっかけでした。どうせ受からないだろうと思っていたのに、合格し、東京へ行くしかなくなってしまって…。芸能界に入ったのは、僕自身の意思というよりは、親の勧めがあってのことでした。
――獣医になりたいという思いは?
今もなりたいくらい憧れていたのですが、デビューしてからは、自分でも不思議なくらい気持ちを切り替えられました。それほど、親の思いが大きかったのかもしれません。僕は長男で、九州育ちの影響か、「長男は家を守るもの」という意識がどこかにあったんですね。それなのに、17歳の長男をひとりで東京に行かせた親の覚悟をすごいなと思ったんです。
芸能界の仕事はうまくいくかどうか、博打(ばくち)みたいな要素も大きいじゃないですか。今でこそ、たくさんお仕事をいただけているからいいものの、当時は先が見えなかった。もし、自分の息子が芸能界に合わなくて、知り合いもいない街で路頭に迷ったらと考えたら、ぞっとするはずです。そんな場所に息子を送り出した親の覚悟を、福岡空港の保安検査所で見送りに来てくれた家族と別れるときに感じて、「もう振り返るわけにはいかないな」と。
僕が芸能界に入ったもともとの理由は、家族の思いに応えたかった。もう、それだけでした。意地のようなものです。でも、続けてたら、演じることが楽しくなって、今は俳優が自分の一生の仕事だと思っています。
<就活生の「つぶやき」コーナー>
就職プロセス調査の回答者から寄せられた「つぶやき」にゲストが何か言ってくれるコーナー。
<瀬戸さんチョイスの「つぶやき」>
もう一度やり直したい気持ちが強い。
(就職プロセス調査 大学生・文系・男性)
「もう一度やり直したい」…。
よくわかります。とても自然な気持ちだと思いますよ。
――そう思われますか?
この一行だけでは背景がよくわかりませんが、きっと第一志望の会社には行けなくて、悔しいと感じているということですよね? だとすれば、やり直したいと思うのが普通だと思います。それが次の頑張りにつながりますから。
「あの時、こうすればよかった」という思いは絶対に出てくるものじゃないですか。そういう感情が出てくるのは、どうしようもないと思います。過去は変えられませんから、言っても仕方のないことかもしれませんが、「やり直したい」と感じているのは、過去を次に生かそうとしているということなので、悪い方向性ではないんじゃないかな。
うまくいかなくて悔しい思いをしたなら、その反省を生かして、次に行けばいい。あとは、運命として受け入れるのもひとつの手かもしれません。縁のなかった会社は、自分に合わない会社だったのかもしれない。行くべきではない会社だったんだな、と考えて前に進んでいくのも大事だと思いますよ。
※本文は2019年取材時の内容で掲載しております
取材・文/泉 彩子 撮影/刑部友康