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就職みらい研究所とは
2025.12.12

採用をゴールにしない、社員教育も兼ねた産学連携プログラム DAY TO LIFEが考えるインターンシップの社会的価値

【個人と組織の新たなつながり方】Vol.19 株式会社 DAY TO LIFE

 
シュークリーム専門店「ビアードパパ」を中心に、スイーツブランドを展開している株式会社DAY TO LIFE。キャリア教育の一環として実施している産学連携インターンシップでは、2023年に「第6回 学生が選ぶキャリアデザインプログラムアワード」大賞、2025年にも同アワードで優秀賞を受賞しています。
「学生の仕事理解・自己理解を深めるとともに、若手社員の成長機会としても成果を上げている」という10日間に及ぶ職業体験プログラム。その企画・運営を手掛け、DAY TO LIFE人事部部長を務めた上田勝幸さん(2025年10月より株式会社永谷園グループ戦略人事担当部長)に、プログラム設計に込めた思いを聞きました。

 

株式会社永谷園 人事部長
株式会社永谷園ホールディングス
経営戦略本部 グループ戦略人事担当部長
上田 勝幸 さん

※2025年9月まで下記所属
株式会社 DAY TO LIFEホールディングス/株式会社 DAY TO LIFE
執行役員 経営管理本部 本部長
経営企画室 室長
人事部 部長

 

※記事は、2025年9月に取材した内容で掲載しております。
 

【Company Profile】

1997年創業。主力ブランドであるシュークリーム専門店「ビアードパパ」をはじめとしたスイーツブランドを、国内288店舗、海外221店舗(10カ国2地域)で展開している。2023年に人材教育の強化などの観点から、株式会社麦の穂をDAY TO LIFEへと社名変更。新ビジョンに『スイーツから、「よりよく生きる」を世界へ。』を掲げている。

 

参加学生の本気を引き出す、産学連携インターンシップの意義

 
―人事制度改革の一環として2021年より椙山女学園大学との産学連携インターンシップをスタートし、年々、他大学とも連携を広げています。どのようなプログラムを実施されていますか

10日間かけて、シュークリーム専門店「ビアードパパ」にかかわる職種を体験できるプログラムを設計しています。プログラムタイトルは「クリエイティブな職業を目指そう! スイーツ業界の最前線で活躍するクリエイターから学ぶ10日間の超実践的職業体験プログラム~この夏、あなたに“小さな革命”を!~」。当社に入って最初に経験するのは店舗での接客業務なので、インターンシップでも同じように、店舗運営の体験プログラムからスタートします。続いて、商品企画、マーケティング、海外マーケティング、店舗開発・空間デザイン、DX戦略、新業態開発と、各部署の業務に取り組みながら経営課題に向き合い、最終日には新業態プレゼンテーション大会を実施しています。

さらに、業務体験だけではなく、合間にキャリアデザインスキルを学ぶ時間を設け、仕事理解と自己理解が同時に深まっていくようなプログラムを提供しています。


2024年度のインターンシップは22名の学生が参加した

 
参加学生は毎年約20名で、参加学生のほとんどは、弊社と一緒にキャリア教育を実施する大学の学生です。学生はキャリア教育授業の一環として参加するため、大学での学びと実践的な職業体験を結び付けて考えやすくなります。

学生にとって、夏季休暇のうち10日間というのは、非常に長い期間です。しかし、大学でキャリア教育を受講してきた学生たちは、自分のキャリアデザインについて事前にしっかりと考えた上で、目的意識を持って参加してくれます。難しい課題があっても10日間集中して取り組めますし、「この機会で何かを得よう」という本気度と緊張度が違う。その点でも、産学連携インターンシップには大きな価値があると感じています。


同社の専門家の伴走のもと、学生が考えた商品企画を具体化する

 
―産学連携インターンシップをスタートするにあたり、そもそも大学とどのように連携すればいいのか悩む企業担当者も多いと思います。上田さんは、椙山女学園大学とどのように出会い、インターンシップに取り組むようになったのでしょうか

私は人事経験がなく人事部門に自ら異動し、人事制度改革に取り組んできました。人事の知識を体系的に学ぼうと国家資格のキャリアコンサルタント試験を受け、さまざまな外部講義にも参加していたところ、ある講義にたまたま講師として来ていたのが、椙山女学園大学の先生でした。

椙山女学園大学は、女性のライフステージを意識した「トータルライフデザイン教育」に注力していらっしゃる女子総合大学です。女性社員のキャリア教育に課題を感じていた私が「ぜひお話をさせていただきたい」と挨拶したところ、「大学に遊びに来てください」と言ってくださった。お伺いして話をする中で、先生から「キャリア教育の課題感を、学生と共有して考えていくプログラムを作りましょう」とインターンシップの提案をいただき、話がどんどん具体化していきました。

熱い思いを持っている先生とどう組むかは、産学連携インターンシップを成功させる上でもっとも重要なポイントだと思っています。キャリア教育に本気で向き合う先生は、同じ熱量の先生とのつながりも強い。当社の産学連携が広がっていったのは、最初に椙山女学園大学と動くことができたからだと確信しています。

 

インターンシップが若手社員のキャリア教育と、強みを発揮できる機会につながっている

 
―10日間に及ぶ全7職種の体験プログラムとなれば、かかわる社員の数も多くなるのでは。どのように、現場を巻き込んでいますか

当社のインターンシップの大きな特徴が、「社員教育」一体型のプログラムになっている点です。10日間を通じて、さまざまなキャリアを持つ52人の社員が参加し、会社の経営課題を一緒に考えていきます。

社員には、学生に”講義“をするのではなく、学生の意見に課題解決のヒントを見いだし、事業成長につなげていってほしいと考えています。インターンシップに込めた、そうした思いや意図を伝え、マインドセットを共有するために、協力社員全員への事前研修も徹底しています。

また、参加社員のうち10人は、入社1~2年目の若手社員です。彼ら自身が、これからの自分のキャリアパスを考えていくために、学生と同じ立場で7つの職業体験に取り組み、それぞれのキャリアデザインに向き合える設計になっています。

 
―インターンシップの効果を、採用面ではどう感じていますか

外部アワードの受賞などもあり会社の認知度自体が上がったことで、選考エントリー数は実施前と比較して大幅に増えています。ただ、インターンシップ参加者の採用人数で見れば、2021年度は4人でしたが、22年度は2人、23年度と24年度では0人。採用を目的に置いてしまえば、こんなに非効率的な活動はないでしょう。

そもそも、当社のインターンシップは、「学生のため」や「採用のため」だけに行っていません。内定者や入社した新入社員の中には、「うちの会社のインターンシップは面白いらしい」「一度は体験したほうがいいらしい」と言っているメンバーも多く、働き始めた若手社員にとって、自身のキャリアに向き合う貴重な機会となっています。

 
―「採用のため」だけではない、と言い切れるのは、社員教育の観点で効果が出ているからこそですね

採用に直結はしなくても、参加した学生から、後になって「あの10日間が人生を変えてくれた」とフィードバックをもらうこともあります。スイーツカンパニーというコンシューマー向けの事業を行っているうえでは、学生一人ひとりが将来の大事なお客様です。巡り巡って、当社のブランディングにつながっているという意味合いもあります。

社員教育の観点では、まさに、即効性があるなと実感しています。
当社ではインターンシップでの取り組み姿勢や成果を、人事評価にも組み入れています。例えば「新業態を考えていく」といったクリエイティビティは、今の担当職務では発揮しにくい、と言う社員もいます。でも、インターンシップでは、どんな職種の人も自身が持つ多様な力を発揮できる場がある。「この社員は、こんなに教えるのがうまかったんだ!」「こんなに発想力があるのなら、企画部門に向いているかもしれない」など、次のジョブローテーションを考えるヒントにもつながっています。会社にとって、社員の成長や強みを再発見できる場になっているんです。

 
―改めて、DAY TO LIFEさんにとってインターンシップには、どんな意義があるとお考えですか

自分たちはどのような社会を作っていきたいのか。どのような社会的課題の解決をテーマとするのか、企業理念を実践するための重要なツールが「インターンシップ」だと捉えています。「採用のため」という考え方を超えて、CSR(企業の社会的責任)という視点でインターンシップに理念を持ち、それを大学と共有していく。その姿勢が、クオリティが担保された持続可能なプログラムの開発につながっていくと考えています。

そのために、あればいいなと思っているのが、インターンシップの認定制度です。アワードのような表彰制度もとても意義あるものだと思いますが、どうしても目新しいプログラムや取り組みにフォーカスされがちです。インターンシップは、コツコツと品質を高めていきながら継続していくことに意味があるもの。健康経営に似た取り組みなのではないかと考えています。認定制度でお墨付きをもらい、毎年更新していくような仕組みがあれば、多くの企業が、長期的な視野でインターンシップに取り組んでいけるのではないでしょうか。

DAY TO LIFEでも、これからも変わらずに大事にしていくもの、柔軟に変えていくものを見極めながら、キャリア教育の軸をブレさせることなく、より良いプログラムへと進化を続けていきたいです。

 

取材・文/田中 瑠子

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